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鋼鉄のアイ 作者:パブロン

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人気と信頼は別物です

 クリス・ハートと名乗った男は小柄ながら引き締まった体躯を持っていた。軍でも正式配備されていない最新式主力戦車<M1エイブラムス>の砲塔の上で丸太のような太い腕を組んで立っている。赤茶色の髪が乾いた風に揺れている。後ろに撫で付けた髪型はまるで鬣のようである。

 その堂々たる風貌と髪型が獅子に似ていることから<獅子心王ライオンハート>の由来となっているそうだ。

「ベジー、戦闘準備だ」
 タクムはクローゼットから取り出した強化服、<デゥラハン>を着込んだ。そのまま銃剣<ドリームリッパー>を腰に差し、対物小銃<ドリームガン>を肩に掛け、爆撃盾<ハーベスト>を装備する。ベジーも都市迷彩柄の戦闘服に身を包むと重機関銃ブローニングM2を片手に屋上へと走っている。

 その間に拠点内の戦闘員に指示を出し、戦闘配備を進めていく。一階の駐車スペースでは既に戦車にエンジンが掛かっているはずだ。

『おうおう、大歓迎じゃねえか。どうしたスローター! 戦車の影に隠れてなきゃ、まともに話も出来ねえのか!?』
 安い挑発である。完全武装で拠点を取り囲まれて対話を試みるなど正気の沙汰ではない。普段であれば相手にせず、せっせと戦車でぶちのめすところだが、不幸なことに今は衆目がある。下手な対応をすればタクムの名声は地に落ちる。それは今後の部隊運営に大きな影を落とすだろう。

「ベジー」
『既に配置に付いた。いつでも殺せる』
 配下の準備が整ったのを通信機越しに聞き、タクムは小さく息を吐く。

「了解。突撃する」
 助走を付ける。<ダッシュ>スキルを使用することで10メートルほどの屋内でもトップスピードに至ることが可能だ。窓際でジャンプし、三階の窓をぶち破って外に飛び出す。

 その速度はまるで弾丸であった。圧倒的な速度でもって敵の照準を逃れ、敵将へと接近する。

『なッ――』
 拡声器を取り落とすクリス。タクムはニタァと笑みを浮かべた。中空にて<ダブルジャンプ>を実行。空気の壁を蹴るように真下へと跳ぶ。更なる加速。勢いをそのままに銃剣を引き抜き、突き刺した。

「うおっと危ねえ!!」
 銃剣の刀身は戦車の砲塔に深々と突き刺さる。しかも上空から剣撃を仕掛けられるとは思わなかったクリスだったが、鍛えられた反射神経で持ってタクムの一撃を辛うじて躱していた。

 だが、一瞬の困惑が勝敗を分けた。

「動くな」
 タクムは鋭く言い放つ。タクムの武器は何も剣だけではない。<ドリームガン>の銃口を<獅子心王>の首領に向けた。

 手にしていたM4カービンはタクムの小銃によって撃ち落とされる。

 .338ラプア弾は標準的なライフル弾である5.56ミリの実に四倍――7.62ミリであれば二倍――近い威力を持つ対物銃弾である。そんな凶悪な弾丸を0.25秒間に一発の割合で叩き込まれればいかな防護服であろうと無事では済まない。例え、弾丸の侵入を防げたとしても衝撃だけで内部破壊ミンチにできる。

「首領さんのお出ましかい……俺も大概だが、アンタも無謀なことすんな……」
 タクムはクリスの足元を撃つ。

「死にたくなければ黙れ」
 全身から匂い立つほどの濃密な殺気を放たれると、鬣の男もさすがに口を噤んだ。

「俺がこのまま引金を弾けば首領は死に、戦車の中身は即席ハンバーグだ。後ろの連中も下手な真似はするなよ――<八百屋>が屋上で狙っている」
 タクムが言うと同時、ベジーの<隠蔽>スキルが解除される。途端に苛烈なまでの殺気――大型生体兵器と伍するような存在感――が感じ取れるようになる。

「ああ、そうだ。戦車砲も六門ほどあったな」
 駐車場から突き出された100/105ミリ戦車砲。六両の戦車から発せられるエンジン音が駐車スペースで重なり合い、敵部隊に緊張を強いる。

 制圧完了クリア

「銃を下ろせ、戦車から降りろ。お前達に逆転の目はないぞ」
「アハハ、その通りだな。こりゃ化け物だわ。万一にも勝てる気がしねえ」
 タクムの奇襲とベジーによる支援、戦車部隊の火力によって敵部隊を瞬時に無力化する。クリスがもろ手を挙げて降参を示す。<獅子心王>の兵員達は首領の指示に従うより他になかった。




 クリス・ハートの二つ名、<獅子心王ライオン・ハート>と同名の兵団クランは主力戦車四輌、歩兵二〇名を有する大規模部隊である。デルタにおける知名度は高く、トップチームとして認知されている。

「で、その大兵団の首領様がのこのこやられに来た理由は?」
 クリスは現在、手足を針金で拘束され、司令室のソファーに転がされている。丁寧なんだか、乱暴なんだか分からない応対である。

「いやー、あんなにあっさり制圧されてやるつもりはなかったんだがよ~。さすが単騎で戦車部隊を制圧しただけのことはあるわな、ガハハ」
「何だか、このおっちゃん、アンタのお友達と同じ臭いがするわ」
 ライムがうんざりとした表情で言う。タクムに資金提供を依頼する前、交友関係のあった職人兄弟に接触していたらしい。盛り上がっていたライブに水を差された上で小難しい交渉事に付き合わされるのだから当然のことであった。

「ワンダーとドリームを、こんなアホな中年加齢臭と一緒にすんな。あいつ等、この国でもトップクラスの技術者だぞ」
「あ~はいはい、お友達自慢ごちそうさまです」
「あん? 死ねよ、牛乳うしちち
「ああ”ん!? 誰がおっぱいがメインウェポンの色物アイドルだって!?」
 ライムが般若の形相で二人を睨む。

「いや、そこまで言ってない……」
「……むしろ、自覚はあったのだな……」
 ベジーが驚愕の表情を浮かべた。

「こらー! ほんっっっつっっとに失礼な男達だにゃ! にゃーの可憐な歌声を誰よりも近くで聞いてるちゅーに!」
 ライムがその場で地団太を踏む。大変ご立腹の様子であった。ぷりぷりしていた。むしろぷりんぷりんしていた。どこがと言われればもちろん件のメインウェポンである。

「とりあえず、ジタバタ止めろよ。埃立つから。そもそもそうやってあざとく胸を揺らしてるから、そんなこと言われるんだぞ」
しかし残念なことにぶりっこに反応するような男はいなかった。タクムもベジーもクリスも相当に乾いている。

「うっ、狂人にまともに突っ込まれると常識人としての立つ瀬がにゃいにゃん……」
「悪かったから、少し静かにしててくれ。話が進まん。で、話を戻すが、アンタの目的は?」
「おう、そうだった。アンタ等の実力がどんなもんか、計りに来たんだ」
 芋虫状態から背筋の力だけで起き上がり、椅子に腰掛けたクリスは答えた。

「流石に単独で二個中隊規模の戦力を壊滅させるのは眉唾だろう。誇大広告だと思ったんだわな。義勇兵になろうが、傘下に付こうが、アンタ等の指揮下に置かれるんだろう? 実力を知っておきてえって思うのは当然だろうに?」
「お前等の規模なら直接従軍するくらい出来るはずだが」
 最新式の主力戦車が一個戦車となればどこの軍に仕官しても無下にはするまい。特に大規模兵団である<獅子心王>を率いてきたという実績があれば中隊長として採用されるはずだ。

「いやいや、俺ぁ、俺より弱ぇ男の下に付く気はねえよ。俺より強ぇ、指揮官なんてどこにいんだよ。どこ探したっていやしねえ」
 クリスは<撃墜王>の職種を持つ、国内有数の戦車兵である。彼以上の指揮官といえばガンマのご老公カフカくらいなものである。なるほど彼は完全な縦社会である軍に致命的に向いていない。指揮官を試す部下なんぞ、間違いなく持て余す。

「で、俺はどうだった?」
「完璧だ。惚れたぜ。アンタなら命を預けられる……おっと、怖い顔すんなや<八百屋>よ。別に取りゃせんわ、ガハハ」
 睨みつけてくるベジーにおどけて返すクリス。戦車乗りとはいえ、<撃墜王>となるには上位の純戦闘職の兵種をマスターする必要がある。歩兵としての実力も国内トップクラスの自負があった。それがまるで赤子の手を捻るようにやりこまれてしまった。油断していたなどと言い訳する気にもなれないほど圧倒的に。

「なあ、アンタ。俺と手を組む気はねえか? 具体的に言えば対等・・な同盟関係を結ぼうってんだが」
「あん? 今、お前、どんな状況か分かってんのか?」
 その悪びれないその様子に自然と笑みが浮かぶ。タクムは基本的におおざっぱな人間が好きなのだ。ドリームやワンダーに似た雰囲気を持つクリスには好感が持てる。

「まあな。しかし俺達は使えるぜぇ。主力戦車は一個小隊。俺手ずから鍛えた歩兵が一個小隊だ。関係組織もあるし、他の大兵団にも顔が効く。ついでに事務屋や運送屋、整備屋連中も抱えてる。あんたらが今一番欲しいもんじゃないか?」
 <獅子心王>クラスの兵団ともなればギルドから直接依頼を受けることもある。当然、そこから生まれる利益は莫大なものとなり、自然と下部組織が生まれていく。また支援などは外部に任せるよりも自前で抱えたほうが安上がりなことが多い。

 つまり彼らには小規模ながらも戦闘組織における運営ノウハウがあるのだ。

 また荒くれものの開拓者の中で一目も二目も置かれる彼等と調印を結び、対等な同盟関係を得る。それはとんでもない宣伝効果だろう。長年トップチームとして支配域を攻略し続けた彼等が積み上げてきた信頼と実績は、一過性のスローターブームやアイドルの知名度などとは比べるべくもない。

「何が目的だ?」
 タクムが尋ねると、クリスはにやり、と海千山千の古参らしい笑みを浮かべる。

 ノウハウと風評を得られると理解した瞬間、目の前にニンジンをぶら下げられた気分になる。なるほどこれは洗脳されるな、タクムは先ほど面談した戦車乗り達のことを思い出す。

「ああ、大したもんじゃねえ。要するに俺ぁ誰にも文句を言われずに戦争に参加してえんだわな」
 クリスは最上位兵種特有の怪力で針金を断ち切る。ベジーが銃を抜き出し、彼の額をポイントするが鬣の男は微塵も動じない。鉄の意志。タクムはその姿を見て僅かな羨望を抱く。

「俺も故郷ガンマがソフィスト野郎に奪われたまんまなんざ、我慢ならねえ……許せねえ……連中は根絶やしだ!! だがッ!! 俺等だけじゃどうにもならねえ!!」
 クリスがテーブルを叩くと鉄製のそれが拳の形に歪む。獰猛な肉食獣めいた視線でタクムを睨みつけた。

「俺の部隊は少しばかりでっかくなりすぎた。参謀が言うにゃぁぽっと出の部隊に指揮権を奪われるなんざあってはならねえだとよ――。
 糞食らえ!
 ざけんじゃねえ!
 俺ぁ見栄や建前のために戦ってるわけじゃねえ!
 今は誰が頭張るかで争ってる場合じゃねえんだ!!
 だから、アンタを見極めに来た。実力があるんなら、今すぐにでもトップにしてさっさと攻略始めさせようって決めていた。
 スローターと同盟を組み、その上で俺が『アンタこそ指揮官に相応しい』って宣言すりゃ、そこ等の有象無象はなんも何も言えねえよ。
 ついでに名前の売れた連中だって、傘下じゃなく、同盟――あくまで対等って形にすんなら手を結ぶだろうさ。連中だってこの状況は憂いてるんだぜ」
「ついでに言えば戦争は儲かるしな。参加しないわけにはいかない」
「…………アハ」
 先ほどまでの厳しい表情が一転、破顔する。

「ガハハハハ、そうだ、その通りだわな。人間、実利が伴わなきゃ動かねえわな。で、どうする? 同盟結ぶか?」
「いいだろう。その代わり、コキ使ってやる。俺のためにせいぜい戦果を上げてくれよ」
 タクムがニタァと笑みを浮かべると、クリスもまた犬歯を剥き出しにした獰猛な笑みを浮かべるのだった。
また……おっさん、増えちゃった……
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