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鋼鉄のアイ 作者:パブロン

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悪巧む

 洗脳開始から一時間が経った。戦車兵の手によって少尉の死体を痛めつけるよう強要し、かつての仲間達の死体の山を崩しては首を跳ねさせるなどを行わせ、精神的なダメージを与えていった。

 ストレスが許容量を超え、ついに彼らが発狂し、笑いながら仲間の死体を犯し始めた時、スキルは完成した。自我を失い、<殲滅者>への信仰心だけを植えつけられた彼等の深度は護衛部隊を遥かに凌ぐ。<狂信者>と成り果てた彼等は今後、彼の意のままに動く戦闘人形となってくれるだろう。

 ちなみに狙っていたことではないが、護衛部隊達も彼等ソフィスト戦車兵を傘下に加えることを了承した。殺すなど生温いほどの残虐行為を目の当たりにした彼らも溜飲が下げたようだ。

 護衛部隊の生き残り六名、戦車兵九名を加え、一五名となった配下達は敵部隊が遺したカード集めと跳ねた首との照合作業を行わせている。遺族へと返却するためである。

 胴体だけとなった死体を穴に埋め、タクムがマッチの火を落とす。ベジーが撒いたガソリンに引火したそれは火柱を上げて遺体を黒く炭化させていく。

 タクムは我知らず目を閉じ、両手を合わせかけ――頭を振った。

「ベジー、後は任せた。生体兵器が寄り付かないよう、きっちりと燃やしておけ」
 未練を振り切るように踵を返す。

 ――馬鹿が! 何を甘えている!!

 ワンダーやドリームといった友人と再会し、ベジーやライムといった手下なかまを得ることで心に少しだけ余裕が出来た。出来てしまった。アイの居ない生活にも段々に慣れてきてしまっている。

 ――アイ……。

 逢いたい、ただひたすらに彼女の声が聞きたい。果たして今のタクムを見て、彼女は何と言うだろうか。酷い奴だと罵るだろうか、笑って許してくれるだろうか。

 タクムには分からない。頭の中で何度も何度も繰り返した、彼女のヴォーカロイドが何だか遠い。

 罪悪感。

 タクムは今の活動――スローターとしての行動を止める気がない。アイを復活させる手立ては見つかっていない。しかし、ゲーム世界なのだからどこかにあるはずである。
 そのためには大量の情報が必要であった。フラグを立てて、イベントをこなし、シナリオを進めていくことでアイをこの手に取り戻す。

 そのためには強力なコネクションと広く深い情報網の構築が必要不可欠であり、安全かつ迅速に作業を進めていくためには多数の優秀な配下が必要であった。それこそ一軍の長となるぐらいでなければならない。

 そのためには大量の軍資金が必要となる。マトモに働いていてそんな金が貯められるはずもない。大型生体兵器を倒したところで得られる金銭は数百万ドル程度。軍隊規模の戦力を維持するにはその百倍は必要となる。無論、年間ベースでだ。

 ――気持ちを引き締めろ。そんなんじゃ、いつまで経ってもアイに逢えない。

 忘れない。絶対に忘れたくない。百人程度の人間を殺したくらいで日和っていたのではお話にならない。強烈なまでの利己主義の名の下で行使する。

「ほっほっほっ、見とったぞ。さすがはスローターだの」
 ストライカー装甲車から姿を現す、ガンマ一族の源流。カフカ・ガンマは禿頭の魁偉は厳つい顔立ちからは想像も付かないほどの温和な口調でタクムを労った。

「アンタ、何も言わないんだな」
「ああ、洗脳のことか?」
 タクムの全身からぶわっと殺気が漏れ出した。歴戦の戦士であり、大量の資金と政界へのコネクションを持つカフカには一定の敬意を持って接する――言動はともかく――つもりであったが、弱みを握られたとあっては生かしておけるはずがない。洗脳などという醜聞が立てば、今後の人員確保や情報収集に支障をきたすことになる。

「ほっほっほっ、誰にも言わんよ。だいたいワシ等もやっておるしの」
 カカカと快活に笑う伝説。タクムはあっけに取られたが、彼の後ろに付き従う<特選部隊>を見て納得した。

 ――連中を洗脳してんのか……道理でスキルが通らないはずだ……。

 単純にガンマ一族への忠誠心からだと思っていたタクムは納得すると同時、少しだけほっとする。他の人間もやっているから、悪事を働いていい理由にはならない。ならないが、自分だけではないと知ったおかげで幾分か気持ちが楽になった。

「修理は終わったのか」
「もちろんじゃ。ついでにサスの具合がおかしかったから、調整しておいたぞい」
 カカカと快活に笑う生ける伝説。元々、跳びぬけた技量を持った<撃墜王>であった彼からすれば修復キットを使った戦車の修理など造作もないことだろう。

 修復キットはバケツに入った粘土状のナノマシンの集合体である。車輌や銃火器、精密機器を本来のあるべき姿・・・・・に戻してくれるという非常に便利なアイテムだ。破壊された戦車全体に振り掛ければ勝手に壊れた箇所を判別して修復してくれるが、被弾部や破砕箇所に直接塗りたくることで効率や効果を高めることが出来る。その破損箇所を特定したり、そもそも不具合を起こしかねない部品や構造に手を加えるのが整備士たる者の腕の見せ所なわけである。

「感謝する。手間賃は報酬から減らしておいてくれ」
「ほっほっほっ、いらんいらん。こりゃ趣味じゃからな。久々に機械をいじれてワシャ満足じゃ。最近はどいつもこいつもワシに戦車を触らせようともせん。老人が無理するな、だと……ふざけるな! この小童共が!!」
「知らねえよ! 一人で勝手にキレるなよ、このボケ老人」
「ほっほっほっ、失敬失敬。ところで、お主はこれからどうするつもりだ?」
 つるりとした頭を叩きながら、カフカ老が尋ねてくる。

「どうする、とは?」
「戦争する気があるのかと聞いておる」
「あんた等が提示する条件次第だな」
 4000万ドル超、日本円換算では40億円以上もの資金を稼ぎ出すことに成功した。何より、大量の戦車や戦闘車両が鹵獲出来たのが大きい。鹵獲車輌は基本に討伐者の所有物となるのがルールであり、それは契約にも盛り込んである。

 タクムはフリーの開拓者である。スター都市国家群傘下のギルドに所属しているとはいえ、従軍の義務は発生しない。六輌の戦車、四輌の戦闘車両――<クラーケン>や<ツヴァイホーン>を含めれば六輌――もの戦力を保有する大部隊ともなればどこの国でも引く手数多だ。

 ただし傭兵として雇ってもらえるなら話は別だ。

「俺が従軍するのに相応しい地位と働きに見合うだけの報酬を寄越せ」
「ほっほっ、強欲じゃな。いいじゃろう。まずはお主をガンマ義勇軍の総司令に任命する。だいたい中佐クラスの地位を約束しよう。今後、傭兵や民間人をガンマ奪還に使う場合にはお主の下に付けるとしよう。契約金は1000万ドル。期限はガンマを取り戻すまで。報酬は出来高払いでどうじゃろう」
「出来高ならば作戦はこちらで決めてしまうぞ。あと単価は今回と同じでいいんだな?」
「うむ。それでいいじゃろう」
 数十億ドルという膨大な資金力と権力を持ったガンマ総帥ならではの即決であった。

 カフカは既に護衛部隊が自らの元を離れたことを直感的に理解しているだろう。とにかく今は手駒が足りない。ガンマ一族が手にする戦力は今や<特選部隊>だけである。襲撃時に狩りに出ていたガンマ軍部隊にも生き残りはいるだろうが、一体、どれだけ集められるか不明だ。

 多少、条件を不利にしてでも<殲滅者>を――<鉄屑兵団>を傘下に収める必要があった。

 ついでに言えばこの出来高払い制は、カフカとしても十分に儲けが見込める話であった。主力戦車は一輌500万ドル以上する。それを半額の250万ドルで倒してくれるなら儲け物だ。250万ドルのコストを支払う代わりにソフィスト連合に500万ドルもの経済的ダメージを与えられると考えると分かりやすいだろう。ついでに熟練の戦車兵を育て上げるために掛かった費用や歳月もパーに出来る。

 タクムにとっても当然、悪い話ではなかった。単体で戦車や戦闘車両を屠るほどの戦闘能力を持つ彼にとって、濡れ手に粟以外の何物でもなかった。殺せば殺しただけ、破壊すれば破壊しただけ資金が手に入ると合っては参加しないほうがおかしい。ついでに上手くやれば戦車や戦闘車両まで手に入る。例え車輌が大破したとて補修素材ぐらいにはなる。

「悪党だな、爺さん」
「ほっほっほっ、お主に言われたくはないな。スローター」
 二人は黒い笑みを浮かべながら、契約の詳細を詰めていった。


 それから二日後、物資補充や人員確保のために策源都市デルタに移動したタクム達を迎えたのは怒号にも似た歓声であった。

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