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鋼鉄のアイ 作者:パブロン

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6/90

これまでの収益はべらぼうな額だった。

 ジリリリ、というアラーム音に目を覚ます。

 べし、とディスプレイを叩いて停止させる。しかし、残念なことにケータイの操作権はタクムにはない。

『マスター、朝ですよ。もう8時間34分も眠っているよ!』
「あと……5分……」
『何マンガの主人公みたいな言ってるの! さっさと起きるないともうフォローしたげないよ!』
「起きる、起きるから!」
 辛い過去を思い出し、タクムは体を跳ね上げる。

『おはよう、マスター。マスターはねぼすけさんだね』
「くそ、この声……夢じゃなかったのか」
 起きたら自宅のベッドで目を覚ましていました的な展開を期待していただけに、軽いショックを受ける。

『どれだけ目を擦っても無駄だよ、マスター』
「そう、だな。しかしまあ、今日はなにするか」
『それなら昨日、倒した犯罪者のカードを換金したら?』
「そうだな、その前にシャワー浴びてくる……」
『うん、ごゆっくり~』
 アイに見送られながら、タクムはバスルームに入った。小さなユニットバスだったが、掃除は行き届いているようでそこだけはなによりだった。

 朝の一番絞りを放出し、衣服を脱いで汗やら泥やらを洗い流した。今更ながら着替えがないことに気付き、今日のスケジュールに日用品の買出しを加える。

「とんでもないところに来ちまったな……」
 さっぱりとしたタクムはひとりごちた。

 この世界は完全な銃社会であり、生体兵器がいるために生きることがとても厳しい。犯罪者に人権を与えるだけの余裕がない。高い社会性は人間が持つ最大の武器であり、それを乱すものには容赦がないのだ。

 犯罪者は捕まえず、むしろその場で処理ころするほうがありがたい、と国が公言する社会。裁判不要、冤罪は承知の上、怪しい奴はとりあえず殺す。これくらい苛烈にやらなければ治安が保てない世界。本当に厳しい。

 これがゲームであればそれほど気にならなかっただろうが、タクムが精神安定のためにはった妄想メッキは徐々に剥がれ始めていた。

 いつか心が疲れ切って壊れてしまうかもしれない。一晩経って落ち着いてきた心に、不安というストレスが染み込んでくる。日本という世界有数の治安国家で育ち、水と安全はタダなんていう神話のような世界にどっぷりと浸かってきたつけなのだろう。

『おかえり、マスター。換金は開拓者ギルドで出来るよ。ナビる?』
 凶悪犯であればその者のカードをギルドに提出すれば罪の大きさに応じて一定報酬が貰え、一部の有名犯罪者には賞金が懸けられている者を殺せれば一財産となる。
 中には犯罪者を専門に狩る、賞金稼ぎを生業にする者もいるようで、治安の回復に一役買っているとかいないとか。

「そうだな、頼む」
 不安はあるが、今は生活基盤を築くことこそが最重要課題であろう。

『マスター、辛かったら言ってね』
「お前に言ってもしょうがないだろ……まあ、その時は頼む」
『デレたー!』
「うるせぇ!」
 タクムはどなり散らして、充電器からアイを引っこ抜いた。『まだ、足りないの! ぬいちゃらめぇ!』とか一々、リアクションをとってくるのがうざったかった。

 ポーチをきつめ締め、そのベルト部分にコルト・ガバメントを突っ込む。それだけで準備は終了。タクムは部屋のドアを開けた。


「これはタクムさん、おはようございます」
「おはようございます、ローランさん。今日も商会で?」
 廊下にはちょうどローランがおり、二人は簡単な挨拶を交わす。

「タクムさんの今後のご予定は……っと、言うまでもありませんね」
 タクムには一応、<丁種 開拓者>の肩書きがあった。恐らく開拓者ギルドに向かうものと思っているのだろう。

「そうだ、ギルドまでお送りしましょうか」
「あ、助かります」
 階段を降り、駐車場に出る。前払いだったため、受付ではルームキーを返しただけだ。宿代の支払いはローランが持つとのことで、タクムは奢られすぎてなんだか申し訳ない気持ちになった。

「代わりに車の中の荷物で不要なものがあればこちらで引き取らせては頂けませんか? もちろん、ガンショップに売るよりも色をつけますので」
 ローラン曰く、知り合いに開拓者がおり、ガンショップよりも安く、タクムから買うよりも高く売りつけようという魂胆だという。商売熱心なことで。

「わかりました。俺も幾つか持っていく予定ですんで、その残りをお願いします」
「よかった。ではさっそく行きましょう」
 連れだって駐車場へと向かう。ついでに開拓者ギルドまで送ってもらえるとのことで、タクムとしては願ったり叶ったりである。

 手に入れた銃については、ブローニングM1918自動小銃を一丁残し、あとは全て売り払うことにした。他の武器に関しては生体兵器と戦っていくには少々頼りなく、かといって対人戦闘であればガバメントで十分とのことだ。
 また銃弾についてはコルト・ガバメントでもブローニングM1918でも使用しない.44AMP弾、7.63mm×25モーゼル弾、9mmパラベラム弾については売却する。

 ナイフや防具類に関しては殺した相手のものを使うのは気が引けたため――ついでに血糊が付きっぱなしで一晩放置されたためそれはもう芳しい香りである――全て売却する。残った手榴弾と回復薬のみ背嚢に突っ込んでおく。

「じゃあ、これ、買い取ってもらえますか?」
「ええ、しばらくお待ちください」
 買取価格は以下となった。

-------------------
500$ オートマグ×2
500$ モーゼルC96×4
2000$ ベルグマンMP18短機関銃×2
3000$ トンプソンM1短機関銃×3
8000$ ブローニングM1918自動小銃×4
8$ .44AMP弾×31
8$ 7.63mm×25モーゼル弾×51
60$ 9mmパラベラム弾×300
100$ サバイバルナイフ×5
700$ 防弾チョッキ(F)×7
500$ 防弾マント(F)×4
50$ 鉄帽(F)×5
-------------------

 アイ曰くガンショップでの買い取り価格にくらべ、二割ほど高いとのことだ。合計15426ドルのはずが、更におまけで15500ドルにしてもらえるとのことでタクムとアイはほくほくである。

 昨日に引き続き札束を手渡されたタクムは、周囲の目を盗みながらそれをポーチへと仕舞う。

-------------------
アイテム
コルト・ガバメント(M1911)
ジャージ(プーマ)
スーパースター(アディダス)
アッポー アイホン5
M1911用マガジン(装弾済)×2
.45ACP弾×422
ブローニングM1918自動小銃
ブローニングM1918マガジン(装填済)×5
.30-06スプリングフィールド弾×1400
マークⅡ手榴弾×3
回復薬(F)×5
回復薬(E)×2

所持金:55,414$24¢
-------------------

 開拓者ギルドまで運んでもらい、タクムは車を降りる。

「タクムさん、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、色々とお世話になりました。助かりました。道中、お気をつけて」
「はい、ご縁があればまた」
「はい、是非」
 ローランとにこやかに別れ、走り出した車が見えなくなるまで見送る。

 狡猾な人間が多いこの世界で初めて出会った人物がローランであったことは、本当に幸運なことだった。死んだわけでもないのに異世界に連れて来られるなんて散々な目に遭わされた神様ではあるのだが、今回ばかりは素直に感謝したい気持ちにさせられた。

「さてと、次はカードの換金だな」
『賞金首だといいね~』
 背嚢を背負いなおし、開拓者ギルドの建物に入る。

 開拓者ギルドは城壁から伸びる大通りに建っている。周囲に並ぶ淡い黄色のアパルトメントに溶け込むかのようにひっそりと存在している。長く伸びる石畳の前にあると、どこか洒落たカフェか何かと勘違いしてしまいそうになる。

 立ち寄った商会も宿泊したホテルも目に付く建物は全てモダンな感じである。まるでヨーロッパに旅行に来たかのような錯覚にかられる。かつて遺跡であったものをそのまま再利用しているためにこんなに風情があるのだとか。
 <アルファ>が前線都市であると同時、一大観光都市でもあるのだ。

 とはいえ、開拓者ギルドである。モダンな見た目とは裏腹に中身――というより、住民達はまさしく無頼漢といった連中ばかりであった。

 皆手に手に拳銃を持ち、近くの壁に小銃を立てかけてその隣に寄りかかる、屈強な男達。入店したタクムに鋭い視線を送る。

『マスター、気にする必要はないよ。多分、この中の誰よりも、マスターは強いから』
「チート能力のおかげだけどね」
『まあ、それはしょうがないよ』
 小声で会話を交わし、タクムはアイの誘導の下、受付へと向かう。

「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件ですか?」
「犯罪者カードの換金をお願いします」
 二十歳そこそこと思しき受付の女性はにこやかに言う。

「はい、それではご自身の人物カードをご提示ください」
 タクムは胸に手を置き、『カード出ろ』と念じた。手のひらに浮かんだそれを、受付嬢へと見せる。

「少々お待ちください、はい、タクム・オオヤマ様ですね。ありがとうございます、それでは犯罪者のカードをお渡し願えますか?」
 タクムはポーチからカードを取り出し、テーブルに置く。

 その数14枚。その何枚かに目を通した受付嬢が目を見開く。

「これ、<血と弾丸の雨団>の構成員達では……」
「有名なんですか?」
「ええ、最近この辺を荒らし回っていた盗賊団です。構成員は十名ほどと小規模なのですが、ほとんどが自動小銃やサブマシンガンで武装しており、かなり危険だという先日、賞金首に指定されたのです」
「へぇ、そうなんですか。それはラッキーですね」
「えっと、あの、少々お待ち頂いてもよろしいでしょうか」
 受付嬢はそう言って、奥にいる管理職らしき男性の元へ向かっていった。

『……疑われてるね』
「ん? どういうこと?」
『タクムはソロの開拓者として登録されている。しかも階級は最下級の丁種。そんなのが14人もの凶悪犯を倒したんだ。何か不正があったんじゃないかってね。例えば顔が割れていない元構成員なんじゃないかとか、他の賞金稼ぎから盗んだんじゃないかとか』
「厄介なことになったな」
『まあ、正直に話せば大丈夫だと思うよ。カードを見せれば犯罪歴がないことは一目瞭然のはずだし』
「すまん、カードに窃盗が付いてる」
『え、なんで!?』
 恐らくは、小学生の頃におもちゃ屋で万引きしたのが記載されているのだろう。因果応報という言葉を思い出し、タクムはため息を付いた。

『ああ、軽犯罪の時効は5年以内だから大丈夫だよ。時効が過ぎた罪や立件や示談が済んでいるものについては灰色で書かれているから』
「あぶねぇ……マジ焦ったわ」
 その後、受付嬢が個別に話を聞きたいと言ってきたが、面倒ごとはごめんだときっぱり断る。代わりに自身のカードの犯罪履歴を見せる。

 アイからのアドバイスが功を奏し、追求を乗り切ることに成功するタクム。
 手には拳銃、肩に機銃を掻ける。衣服こそジャージで変わっているが、見ようによってはいっぱしの開拓者に見えないこともない。

「この世界に来て、俺も鍛えられたな。ノーといえる日本人になった」
 タクムはそう自認して、うんうんと頷いた。

『……』
 実際には、法令上の問題でしかなく、ギルドにはカードの取得元を追求する権利がないだけだったが、何故か満足そうにしているタクムを見て、アイは何も言わなかった。高度な演算技術で空気を読んだのだった。

「賞金のほうですが、ギルドカードへの振込みでよろしいでしょうか」
「あ、ギルドカード持ってないわ」
『あ、受け取るの忘れてたね』

「発行には100ドルほど頂く必要がありますが、いかがしますか」
「じゃあ、宜しくお願いします」
 ギルドカードは身分証となる他、通帳機能やクレジットカード機能を持っており、提携店舗での買い物でポイントも溜まる便利なカードである。

 預金はそのまま開発者ギルドが運営する金融機関<フロンティア銀行>(あまりにもそのまんまだったのでタクムは吹いた)の口座で管理され、ギルドカードと人物カードがなければ利用することはできない仕組みになっている。

 ギルドや銀行は公的組織であるため、安心である。タクムは手持ちの現金5万ドルも預金した。
 ちなみに賞金額は14人あわせて20万ドルであった。

『これでしばらくはお金に苦労しなくても済みそうですね』
 タクムの総資産はわずか2日で25万ドル――約2500万円――にまで跳ね上がっていた。

 大金だ。とんでもない大金である。
 どんな豪華な武器でも購入することが出来るだろう。

 タクムは安堵の息を吐く。

 その認識はどこまでも甘かった。
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