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鋼鉄のアイ 作者:パブロン

スローター

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撃たれたくないなら当たらないところにいればいいじゃない

「<リモート>」
 タクムは<通信兵シグナル>固有のスキルを発動させた。

 機械を介さず電波での送受信を可能とするそれは、通信機さえあれば代用可能ないわゆる死にスキルであった。利点を強いて上げるとすれば、電波による01信号を脳が感覚的に理解出来るくらいなものであった。

「<コントロール>」
 続いてタクムは<情報屋ハッカー>スキルを発動させる。これもまた機械を介さず、電子機器のコントロール出来るだけの死にスキルである。当然、他の電子端末と専用アプリケーションがあれば代用可能だ。

 どちらもこの世界では、通信機や端末が壊れた時の代用品という認識でしかない。そのため、この二つをスキルを併用した時に得られる効果を知る者はほとんどいない。

 これらのスキルはSP消費量が非常に高く(1つにつきSPを200ほど消費する)、通信兵も情報屋も基本的に後方支援職であるため、両スキルを併用できる者など皆無といって良かったためだ。

 ――これが……アイの見ていた世界か……。

 トーチカ型マイクロ戦車<クラーケン>に搭載された車外カメラの映像を眺めながら、タクムはそんなことを思った。前後左右に付けられたそれが360度の全視界をタクムに提供する。


 タクムの網膜に映る映像と、カメラの網膜が重なって現在位置が分からなくなりそうだった。

 タクムは目を瞑り、本体タクムのほうを覗き見る。180センチ近い長身と目蓋まで掛かった長い前髪、伸ばしっぱなしの髭、お世辞にも奇麗とはいえない格好だった。しばらく鏡など見ていなかったためか、まるで別人のように感じられる。

 首を動かすイメージで砲塔が回る。きりきりという鉄の摩擦音を車輌の集音機とタクムの耳が拾う。

 まるで体が二つに分裂したかのようだった。<リモート>と<コントロール>を同時併用により、電子機器との親和性が上がりすぎたのだった。ともすれば自分自身を見失いそうになるほど、タクムはマイクロ戦車の中に溶け込んでしまう。

 タクムは遠隔操作で車輌を外に出すと、射撃場に改装した裏庭で訓練を行った。四つ脚で塹壕を飛び越えながら、ワイヤーアームで20ミリチェーンガンを操作する。

 砲身を射撃的にぴたりと合わせて射撃。そのまま巡航モードに入る。坂道を上り、射撃。障害物の後ろに隠れ、その場でジャンプ。そして射撃。タクムは計2回、延べ2時間にも渡ってスキルを使い続けた。





 そうして気がつけばガレージに倒れこんでいた。SP枯渇による副作用である。ズキズキと痛む頭を抑えながら、這いずったまま冷蔵庫に向かい、冷やしておいたD等級の栄養ドリンクを飲み干す。

 SP回復効果のあるこのアイテムは、D等級であるにも関わらず1本1000ドルもする。日本円に換算すれば10万円という高価な薬だが、効果も高い。ほどなくして頭痛は治まった。

 それでも本調子にまで回復することはない。タクムはそのまま自室に篭り、残りを寝て過ごした。そして翌日からは様々な電子機器で遠隔操作スキルを試していく。

 ようやく物にしてきたなとタクムが確信を抱いた頃には、1週間が経過していた。




「出来たぞ、タクム」
 野太い声がインターフォンから響いた。
 タクムはガレージのシャッターを開け、戦車整備工ワンダーを招き入れた。

「待ってたぞ、早く見せてくれ」
「まあ、そう急かすな」

 ワンダーは楽しげに髭を揺らし、ソフトスキンのハーフトラックの荷台を開いた。そこからキャスター付きの鉄の箱を取り出す。

 全長2メートル、幅70センチほどの長方形は、見るものに棺桶を連想させた。

「見て、驚け! これが俺の作った新兵器だ!!」
「話盛るなよ、俺が設計したんじゃないか」
 タクムは慌てて口を挟んだ。半眼で睨みつけると、ワンダーはダハハ、と乾いた笑い声を上げた。

 一週間ほど前、<肉屋>アインビーキーに襲われたタクムは、改めて銃社会の恐ろしさを認識させられた。銃の恐ろしさは、それを所持しただけで誰しもが一定の戦闘能力を得られることであろう。剣や槍のような前時代の武器は、訓練を積み、ある程度肉体を鍛えた戦士でなければあまり大きな意味を持たなかった。ひ弱な女子供では人を殺すにたる兵器には成り得なかったのだ。

 しかし、銃は引金を弾くだけで敵が殺せる。無論、取り扱いに多少の習熟が必要であるが、剣や槍を使いこなすために消費する労力を考えれば、その簡単さは比較するまでもない。


 いかな<スローター>とて索敵の範囲外から音速を超える弾丸でバックアタックされれば避けることは出来ない。全方向から無数の弾丸を浴びせられれば倒れざるを得ない。

 複数兵種による高ステータスは、タクムを人間の領域から一段引き上げてくれたが、しかし生物としての枠から解き放たれたわけではないのだ。

 強力な銃火器や戦闘車両を手に入れたタクムが次に欲したのは、攻撃力や防御力、移動能力とは全く別次元の強さ――安全性であった。

 無人機。

 危険な前線にその身を晒さずとも、一定の戦果を上げる方法が必要だった。既に銃火器を積んだ遠隔操作可能な兵器はこの世界でも存在していたが、タクムが考えたのは単純な戦闘能力ではなく、敵を欺き、嵌め殺すための戦術ロジスティックであった。

 襲撃を受け、眠れなかったタクムは必死に新たな戦術を考え続け、無人機の存在に気が付いた。そして何故か脳裏に浮かぶ科学理論をA4紙に書き上げていった。

「あんなもんのどこが設計だ。あんなもの発想だけで、実際動くもんを作るのにどれだけ大変か、お前さんには分からんだろうが」
 タクムの描いたそれは設計書というにはおこがましい机上の空論であったが、技師にして機械職人であるワンダーの天才的な生産技術と合わさることで見事、完成と相成ったわけである。

「あんな細かい部品、どうやって手に入れろっつーんだ。ドリームが協力してくれなかったら、サイズが三倍くらいになってたぞ」
 ワンダーの目元には深いクマが刻まれている。曰くドリームはミクロ単位の繊細な作業を続けさせられたせいで、精神に異常を来たしてベッドで眠り込んでいるという。

 タクムは二人の友人に深く感謝した。ガンマを代表する一流職人であるランド兄弟が総力を結集して製作した新兵器がこの棺桶上の箱の中に入っている。

「分かった、感謝してる……それよりも、早く見せてくれよ!」
「じゃあ、改めて……」
 ワンダーが満面の笑みで息を吸う。


「遠き者は耳に聞け、近き者は目にも見よっ!」
 野太い声で朗々と言う。工場生活で鍛えられた大声がガレージに響き渡る。


「これが俺達・・の作った新兵器だ!!
 工場長が目をきらきらと輝かせながら棺桶のロックを外す。蓋を開ける。まるで子供みたいだ――タクムは呆れ半分の苦笑を浮かべる。


 中には人型の何かが入っていた。

「う、わぁ……」
「ははは、どうだ驚いて言葉も出ねえか。ほらよ、これがスペック表だ」

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ドッペルゲンガー
シーサペントを開発したあの(・・)ワンダー・タンク社と悪名高いスローターが共同開発した人型無人偵察機ロボットスカウト

二足歩行可能な小型無人偵察機。武装や装甲などは特にないが、指の先まで繊細に駆動させることが可能なため歩兵が使用する武装をそのまま装備させることが可能となっている。

一見すると人間のようにしか見えないが、<ジャイアントスローター>の外殻より鋳造した合金を骨格を用い、同生体兵器から培養した筋組織を動力に使用しているため、高い耐久性と機動性を両立している。

ただし、重量はそれなりにあるため脚部への重量負荷が高く、人工筋肉や関節部品は6時間の戦闘駆動を目安に脚部パーツを点検・修理をする必要がある。

耐久性:500/500
積載:D
装甲:E
加速:A
速度:C
命中:B
静穏:A
整備:E-
視界:最高
乗員:0名

参考価格:1,000,000$
-------------------

「どうだ、驚いただろう……」
 ワンダーがニタリと笑う。そんな彼をタクムは冷たい視線で見つめた。

「……なんだ、このブサイクな面」
「なッ!? ば、馬鹿野郎! てめえの目は節穴か!? 注文通り、どっからどう見たってお前さんだろうが!!」
 タクムが思わず漏らしてしまった本音の一言にワンダーが過剰反応する。


「ふざけんな、なんだこのマイケルみたいな鼻は! 今にももげそうじゃねえか! 俺はこんなたらこ唇じゃねえし! 髪はバッサバサで色艶ゼロ!! そもそも目玉がカメラアイってなんだよ!! これじゃあまるで小学生が図工の時間に作ったダッチワイフみたいじゃねえか!?」
「お前の学校どれだけ荒れてたんだよ!! 学級崩壊レベルの話じゃねえぞ!?」
 ここに来て、忙しい工場長様御自ら配達にやって来た理由が分かった。他の従業員達が拒否したのだ。悪名高い<スローター>相手に、こんなふざけた物を送り付ければどんな目に遭わされるか分かったものではない。

「くそ、そういう落ちか……」
 機械ならばミリマイクロの世界で調整できる超一流の車屋や銃職人だからといって、芸術が得意だとは限らない。製図にはむしろ数学的な素養のほうが必要となる。

「ったく、仕方ねえな。ちゃちゃっと直すか……」
 タクムはナイフを取り出し、人工皮膚をスパッと捲り取ると、表情筋代わりの人工筋肉を薄くスライス、鉄ヤスリでゴリゴリと顔骨格を削っていく。カメラアイの上に球体のスモークガラスを配置し、表面を削ることで虹彩を作り、髪の毛はマシンオイルで艶を出す。分厚い唇は肌色のフェイスペイントで薄く、しかしぷるんとした印象となるよう整える。

「まあ、こんなもんかな……」
 タクムがそう言って人工皮膚を縫い合わせた頃には精悍でありながら中性的な印象のある美少年が棺桶の中で眠りについていた。

「おい! なんだこれは!?」
 その出来栄えにワンダーが目を丸くする。タクムはふふんとドヤ顔。しかし、馴染みの兵器職人の言葉に憮然とした。

「ふざけんな、なんだこの小さく高い鼻は! お前はこんなアヒル口じゃねえし! 髪は元々お前もバッサバサで色艶ゼロだろうが!! そもそもこの少女マンガみたいな目玉はなんだ!! これじゃあまるで一流の人形師が腕によりを掛けて作ったダッチワイフみたいじゃねえか!?」
「だからダッチワイフから離れろよ!」

 結局、タクムは<ドッペルゲンガー>に再整形を施し、タクムに似せることに成功した。ただし、いじる前が良過ぎたのか、それでも二人並んでみると全く別人にしか見えない。修正後の人形と本物とでは、アイドルとそれを真似する芸人くらいに美形度が異なっていた。雰囲気は似ている、顔の系統一緒だよね、と周囲から慰められるくらいか。

 ヘルメットを被ったり、光源に乏しい場所であったり、あるいは、ぱっと一瞬見えた程度であればなんとなくタクムに見えない。近頃<スローター>の噂は尾びれ背びれが付いてとんでもないことになっており、特にガンマの街では黒髪は珍しいため、その髪色だけで<スローター>と判断する者も多いことから問題ないだろうと判断された。

「よし、こんなもんだな。でよ、これ、あと何体か貰えるか? あと予備パーツも。脚部は大量にな。ああ、顔はヘルメット被せるからブサイクのままで構わんぞ」
「ブサイク言うな! ……分かった、試作で整形に失敗したのが山ほどあるから今度、それを持ってくる。予備のパーツと合わせて後で持ってこさせよう」
「助かる。ありがとな、ワンダー」
 まっすぐな笑顔を向けられ、ワンダーの浅黒い肌が少し赤らむ。

「い、いいってことよ。それより、いいからさっさと金払えよな」
「はは、了解。じゃあとりあえず、これは当面の支払い分」
 タクムは小切手を取り出すと、さらさらと10,000,000ドル(約10億円)を書き込んで、ワンダーに握らせる。

「お、おい! なんだ、この額は!!」
「あはは、また頼んだ。ドリームにも宜しくな」
 言うが早いか、タクムはハーフトラックの荷台に四輪バギーに<ドッペルゲンガー>、機械馬の<ツヴァイホーン>を詰め込み走り出した。

「おい、お前さん、何処に行くんだよ」
「ああ、ちょっくら<走り屋ぶっこみ>を狩ってくる」
 タクムは精悍に言うと、ガレージから出て行った。
スローター編はこれでおしまいです。
皆さんが少しでもお楽しみ頂けたなら幸いです。

長いことお付き合い頂き、
本当にありがとうございました。

ストックが尽きている関係で、
今後は週2~3回の更新とさせてください。

月曜土曜の7:00の定期更新。
状況によっては水曜日もあるかもしれない……。
そんな形にさせていただければと存じます。

次の更新は3/2(土)です。

ではでは
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