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鋼鉄のアイ 作者:パブロン

スローター

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収穫終了

「ハッ!」
 <八百屋>べジーは手にした鉈を振るった。円を描き、敵を叩き切るはずのそれは反りのある野太い刀――野太刀と呼ばれるそれに受け流される。
 しかし、複数の上級兵種を取得し、極限まで鍛え上げられたべジーの膂力は、完璧に受け流したはずの<剣銃兵ガンソード>の体勢を崩すことに成功していた。

「食らえッ!!」
 U.S.AS12――アサルトライフル型散弾銃――をフルオートマチックでぶっ放した。毎分360発――1秒間に6発もの散弾を撒き散らす。

 が、剣銃兵は背中に回していた長方形盾ヒーターシールドを前面に掲げることでそれを防いだ。暴徒鎮圧用のジェラルミンや強化プラスティックのそれと違う、戦車や装甲車にも使われる重厚な複合装甲板であった。

 盾を掲げ、突進する剣銃兵。

「チッ……」
 このまま接近されるのは面白くない。べジーは<ステップ>を用いて離れる。

 着地する寸前、装甲板に空いた小さな銃眼から何かが飛来するのに気付く。

「――ッ!!」
 スキルの勢いを自慢の脚力で無理矢理相殺し、体を丸めながら横っ飛び。爆音。背中を襲う爆風と無数の金属片。

 べジーは近くのドアを突き破り、屋外へと逃亡。

「ハァ、ハァ……何なんだ、あの、ハァ……兵器は……」
 恐らくは高位の生体兵器素材から作られた装甲板に、グレネードランチャーをくっつけたものだろう。発射の瞬間だけ、銃眼が開き、銃撃を受けた際の暴発を防いでいる。

 近接戦闘であんなものを出されたら終わりである。こちらの攻撃は一方的に受け止められ、あちらは範囲攻撃グレネードで確実に手傷を負わせてくる。自らも巻き込むはずの爆撃は掲げた盾で防ぎ切る。
 閉鎖空間における近接戦闘以外に活躍するシーンはないが、ことこの場では絶大な威力を発揮する。

 ――強くなってやがる……。

 確実に、猛烈な勢いで、<スローター>の手下は強くなっていた。俊敏性や反射神経の向上、判断力は著しく成長し、べジーが一度、新たな戦術を披露すれば次の演習ではそれを確実に押さえ込んでくる。

 加えて新兵器を次々に投入する資本力や開発力は圧巻の一言だ。新機軸ともいえる戦術がべジーに力を抜くことを許さない。

 最近では連戦の疲労もあって、兵士一人を倒すことさえ難しくなってきている。彼が信条とする多彩な武装や複数のスキルによる華麗な戦闘術など見る影もない。今やレベル差、ステータス差によるゴリ押しで戦いを有利に進め、スキル連発、同時併用による瞬間最大火力でもってようやく一人を倒し切っては、地下労に逃げ込むということを繰り返している。

 今日はまだ、その一人さえ倒せていない。


 複数兵種による高AGIと曲芸移動フットワークによる超速度で、べジーは<剣銃兵>の戦闘範囲から逃げ去った。

「ガンソードは、ダメだ……あれを使われたらもうどうしようもない……」
 民家を模したと思われる障害物の影に隠れ、散弾銃のマガジンを装填する。

 一回の演習で兵士を一人倒したところで、1000ドル相当の支給しか受けられない。様々な武器を買い揃え、弾薬を大量消費することで高火力を実現する彼にとってその程度の金額では消費した銃弾を補填することもままならない。完全な赤字であった。

 装甲服は被弾によって次々に破損し、残っているのはこれが最後だ。まともな防御力を有する装甲服は10000ドルはする。もしも今日の演習で3人以上の兵隊を倒せなければ、べジーは破滅する。

「くそ、つい先日までお得意様だったってのによ……」
 これまでべジーが戦えて来たのは、剣銃兵がとても御しやすい相手だったからだ。ステータスや個人の戦闘技量が戦況に反映されやすい近接戦闘は、これまで戦闘経験豊富なべジーの独壇場であった。

 どんな手品を使ったのかは分からないが、剣銃兵も恐るべき速度で成長していたが、毎回奴を見つけ出し、圧倒的なステータス差で押し切ることで何とか出来ていたのに、それがあの新兵器――盾型のグレネードランチャーによって覆されてしまった。

「あとまともに殺り合えるのといえば……」
 そこでべジーは絶句した。

 もう、いないのだ。

 <強襲兵コマンダー>では、強固な装甲を打ち破る前に重機銃と火炎放射器による莫大な火力で押し潰される。

 <猟騎兵キャバリー>の高機動性を捕らえ切るのは困難であり、こちらがもたついている間に迫撃砲とロケットランチャーによる榴弾の雨を食らうだろう。

 <機甲兵タンカー>など問題外だ。彼の駆るマイクロ戦車は<強襲兵>以上の装甲と耐久を持っており、加えて車両の周囲にゲージ装甲を張り巡らされており、ロケットランチャーなども通じない。そもそも20ミリ機関砲弾の嵐を前に人間など為す術などない。

 唯一装甲や火力に勝る<狩猟兵ハンター>だが、擬装の巧みさと張り巡らされた罠の周到さを前にべジーは演習中一度として彼を見つけられたことがない。

「そんな……馬鹿な……」
 べジーの心が折れかけたちょうどその時、彼の背中を銃弾が打ち抜いた。



 そして、

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最終演習について

今日より5日後、19:00より最終演習を行います。

演習には<スローター>のみが参戦し、あなたとの一騎打ちとなります。

<スローター>は12:00に1,2,3,4番ゲートのいずれかから入場します。
その間に罠を仕掛ける、擬装を施すなど迎撃準備を整えてください。

最終演習への支度金として1000000ドル相当の特別支給が受けられます。
これまで補充可能だった武器弾薬に加え、車両や回復薬なども支給されます。
別紙<追加装備交換レート表:最終演習用>をご参照ください。

またこの期間に限り、添付した食事メニューからお好きな料理を選択することが可能です。
別紙<特別メニュー>をご参照ください。

なお、最終演習に限っては地下室へ戻ることは叶いません。

演習当日、13:00を過ぎても地下室を出なかった場合、不参加と見なし、強制的に殺害いたします。
どうしても参加されたくない場合には鉄格子前に配置した拳銃で自殺なさっても問題ありません。

見事<スローター>を殺害した暁には、全ての武器弾薬、車両、資産を返却し、地下労から解放いたします。

あなたさまの積極的なご参加をお待ちしております。

以上
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 次に目覚めたとき、彼は真の絶望というものを味わった。

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