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鋼鉄のアイ 作者:パブロン

スローター

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おかしな軍隊

 ガンマ軍総司令カール・ドラ・ガンマ大佐は作戦室のテーブルを強く叩いた。

「<スローター>はまだ始末出来んのか!?」
「も、申し訳ありません……何分、奴は相当な強者つわもののようでして。差し向けた四強は全て殺害、あるいは捕縛されておるようでして……先ほども<越後屋サービス>ライム率いる親衛隊が全滅したという報告まであるようでして……」
 額から噴出す汗をハンカチで押さえながら、ガンマ軍中央司令部付きの参謀長カラム・チョッパー中佐が答える。
「あ”っ!?」
「ヒィー!」
 口端から泡が立ちそうな巻き舌でカール大佐が声を荒げると、カラム中佐は悲鳴を上げる。その様を周りの参謀官や事務官が心配そうに見つめているといった状態であった。

 大佐――カール・ドラ・ガンマは、その名が示す通り、この都市を統べる貴族ガンマ伯爵家の人間であった。生まれた時から高い地位を約束され、両親が敷いたレールの上を順調に歩んできた生粋のお坊ちゃまである。

 自由都市国家軍士官学校に入学し、優秀な成績を得て卒業。そのまま少尉として都市国家軍中央部に入隊する。その後、僅か半年で中尉となり、さらに半年後には大尉にまで昇進する。その間彼は机の上で踏ん反り返っていただけで、特に実績などは積んでいない。

 当然、全て家の人脈や権力のおかげであった。

 流石に佐官となるにはそれなりの実績がなければならないのだが、それも一族が保有する特殊部隊を部下に就けることで戦功を獲得。大尉就任から1年経つころには少佐となり、さらに2年後には中佐となった。

 そして5年振りに生まれ故郷の都市を守る司令官としてガンマへ舞い戻って来たのである。当年とって25歳。苦労を知らぬドラ息子。そんなのが1000名からなる戦闘集団の長となろうものなら増長するのも致し方ないことではある。

 そしてそんなドラ司令官付きとなってしまった参謀官の苦労は計り知れないものであった。商人からの送られる賄賂を見てみぬ振りをしつつ牽制、軍用品の横流しをしようとする上司をそれとなく止める。現場を知り尽くした優秀なスタッフ達でなければ都市の防衛力は今頃半分くらいにまで落ち込んでいたかも知れない。

 そんな司令官の次なるワガママは、とある事件で名前を上げた開拓者の排除であった。

 <スローター事件>――排除対象である開拓者が引き起こした事件により、街の高位開拓者は半減した。生体兵器を狩ってその素材を街に還元してくれる開拓者達は、安価な治安維持装置であると同時に大事な生産者でもある。

 その大型生体兵器の討伐に参加するような優秀な開拓者を大量に『殲滅』した開拓者――<スローター>に対し、都市の領主であり市長でもあるガンマ伯は当初怒り狂ったものだが、今は沈静化している。

 今、ガンマの街は開拓者が全く足りていない。<スローター>は単独兵団ワンマンアーミーでありながら、月産2000体以上の小型生体兵器、100体以上の中型生体兵器を狩り出すような化け物であり、彼を失えばこの街の経済は一気に傾く。

 肉親ゆえの気の緩みから、ガンマ伯は苦しい都市経営事情を実弟であるカール大佐に漏らしてしまったらしい。

 今、<スローター>が倒れれば――大佐のどうでもいい時だけ無駄に活性化する脳細胞がひとつの妙案を導き出した。

『スローターを排除する』
 開拓者達による治安の維持が難しくなれば軍の出番である――今でも一部の戦車部隊は訓練と称して街道沿いなどの重要拠点を巡回し、生体兵器を討伐している――軍が都市政府からの依頼で出動したとなれば翌年以降の予算獲得が有利になることは間違いない。

 ガンマ軍の資金源は大きく分けて2種類ある。まずは自由都市国家軍から割り当てられる国家予算である。この額は必要な防衛力を整えることはまず不可能である。明らかに足りない。年間予算の60パーセント程度にしかならない。

 これでは部隊の規模は縮小するばかりであるが、足りない分は防衛対象である都市や周辺の街から防衛費で賄っている。いわゆる用心棒代である。これが部隊維持費の40パーセントを占める。
 ちなみに街防衛や拠点巡回時に倒した生体兵器の素材は、そのまま車両や武装の補修や糧食として消えるためほとんど残らない。

 大佐の狙いが分からない参謀達ではない。短期的な都市の繁栄を考えれば明らかにマイナスだが、予算獲得は司令部付きの軍人としての責務であるし、それにまったくの悪手というわけでもない。

 軍が増強されれば大規模な都市防衛が可能となり、上手くすれば治安向上し、商人達が集まるようになる。策源地に近いガンマは交易都市としての側面も持つため、人や物が集まることが経済に直結する。

 もしも都市からの防衛費が増えれば、人員も増やせるし、武装を整えることが出来る。都市軍一丸となって生体兵器を狩れば、その膨大な数となるだろう。兵士のレベルを底上げされ、素材を転用することで補修費や糧食のコストは半減。余った素材の売却費にも期待が持てる。ついでに増えた利権で大佐の懐も温まる。

 いいこと尽くめだ、と参謀達も一時は大佐を見直しかけた。しかし、大佐が考えた手段は最悪であった。大佐は当初、一族子飼いの特殊部隊<特選部隊スナックペナズ>による強襲作戦を実施するつもりだったのだ。

 そんなことをすれば領主から顰蹙を買うのは目に見えているし、開拓者が本格的・・・に居なくなれば軍だけで都市を守り切ることなど不可能である。

 司令部一丸で大佐を説得し、暗殺者ギルドを利用した排除案を飲み込ませたのだ。

「だから最初からワシの<特選部隊スナックペナズ>を使っておけばよかったんだ! そうだろうが、ああ゛!?」
 カール大佐は机を叩き、ドアに向かって声を張った。

「トンガ!」
「は、ここに」
 すると彼の真後ろから声が掛かる。

「ぬぉ!」
 カール大佐が仰け反る。

「ワシの後ろに立つなと言っておろうに! あ”?」
「失礼。それで、ぼっちゃん。ご用件は?」
 カール大佐の恫喝も<本物>には通じない。トンガは淡々とした口調で問うた。

 トンガ・リ・コゥン少佐。前線都市ガンマを収めるガンマ一族の子飼いの兵士だ。ただしその実力は本物で、<強襲兵>と<狩猟兵>、更に<操縦手>の兵種まで取得した超一流の戦士である。

 類稀なるその戦闘能力を買われ、強者揃いの特殊戦闘部隊<特選部隊スナックペナズ>の隊長を務めている。


 幾分か気分を害されながらも、大佐は言葉を続けた。

「今からちょっくら出かけてきて、<スローター>を殺してこい!」
「司令!?」
「ああ”? じゃあ、あれか? この街に<八百屋ミックス>以上の強者や、<越後屋サービス>レベルの統率力を持った殺し屋が他にいるのか!?行け、トンガ。貴様の牙をワシ等に見せ付けろ」
「……承知」
 トンガが頷き、戸口へ向かう。





「あはは、随分と面白おかしいこと話してるじゃない。来るの、もうちょっと待っておけばよかったかな」
 聞き慣れない声に彼等は振り返った。司令部の出入り口付近に立ち、にこやかな笑みを浮かべる少年が立っていた。

 黒髪、黒目。やや幼い感じのする顔立ち。全身には砂漠迷彩が施された強化服。長大な剣を肩掛けにし、腕には大口径の自動小銃を握っている。

 黒曜石のような瞳からはまるで飢えた獣が発するような鋭い光を放っていた。狂気、といって過言ではないほどおぞましい色合いであった。

 足元には何故かダンボール箱が転がっている。

「<スローター>か……」
「はい、正解です。そんな皆さんに心ばかしのプレゼント」
 両手からばら撒かれるパイナップル型の手榴弾。タクムは言ってコルトガバメントの銃口を向けるピンこそ抜いていないが、中には大量の爆薬が詰められている。銃で撃ち抜けば忽ち司令部は血の海と化す。

「あ、あ”あ”、おま、おま……」
 銃口を向けられたカールは鯉のように口の開閉を繰り返す。

 悲鳴が上がらなかったのは流石、ガンマ軍の中枢といったところか。司令部に純戦闘員は少ないものの、彼等とて軍人。銃口を突きつけられるくらいの覚悟は持っていたようだ。

 タクムと司令部にとって幸いであったのは、ガンマ軍きっての実力者であるトンガ少佐が動けなかったことだろう。彼はガンマ一族子飼いの兵隊であった。カール大佐の護衛と実績を積ませるために用意された手駒なのである。

 純粋な軍人ではない彼にとっての最優先事項は、有力な敵の殲滅ではなく、己が主の命を守ることであった。もしも彼が根っからの兵隊であれば今頃司令部では二人の精兵による銃撃戦が行われていたはずだった。

「なあ、おっさん。その話、俺も混ぜてもらっていいか?」
「お前、誰に口を聞いてるんだ……ぁあ゛……?」
 普段とは違い大佐の声は尻すぼみだった。



「冷たいこと言うね。司令部の皆が俺に会いたいみたいだったから会いにきたんだぜ。感謝しろよな。おっと、お嬢さん、そこ失礼」
 引金に指を掛けたまま、扉付近にあった空席に座る。隣の事務官の女性が蒼ざめる。

「いいケツしてんな。今度、それ、使わせてくれよ」
「ひ、ひ……」
「冗談だよ、俺は二次元アイにしか興味ないし」
 タクムは言うと、椅子の上で足を組む。

「しかし……どうして貴様が……」
「ここは軍の中枢部だぞ……」
「……警備は最も厳重になっていたはずだ……」
「そりゃ、あんた、俺の二つ名思い出してみてよ」
 タクムが笑顔で言う。反対に司令部のメンバーは蒼ざめた。

 ――<殲滅者>。彼に害を及ぼそうとした者や組織は、必ずといっていいほど壊滅、あるいは殲滅させられていた。今のところ、ひとつの例外なく――。

「ま、まさか……殺したの……か」
 トンガが尋ねる。

「あれ、冗談のつもりだったんだけど?」

「大丈夫だよ、基本的に殺していない。気絶してロッカーとかに詰めてるから探せば見つかるんじゃないかな?」
 タクムとて事を荒立てるつもりはない。人死にが出れば軍だって黙っていないだろう。

 <偵察兵>と<狙撃兵>、<工作兵>を融合させた<狩猟兵>たるタクムにとって、ダンボールさえあれば軍の中枢へのスニーキングミッションなど造作もない。

 司令部要員達は息を呑む。これまで<スローター>の殲滅力にのみ目を向けていた。良くも悪くも大味というか、人を殺すのは得意でも人を騙すのは苦手な印象があった。このように気難しい潜入工作もやってのけるとは思ってもみなかったのである。

 こんなもの手の付けようがない。これだけの戦闘能力と工作能力が組み合わさった存在など完全に埒外だ。守りようがない。スローターがその気になれば、いつでも好きなときに好きなだけ軍を潰せる。軍の司令部は動けないのだから――。

 濃密な死の気配に飲み込まれ、口を利けない上官に代わり、トンガ少佐が口を開いた

「聞こう、スローター。貴様の狙いはなんだ」
 この場の人間を問答無用で殲滅しないからには、それなりの理由があるのだろう。奴がこの場所を訪問――そんな生易しい物ではなかったが――したことから、軍が暗殺者ギルドを介してスローター殺害を目論んでいたことは既に露見していると考えていい。先ほどの会話も一部始終を聞かれてしまったと思って行動すべきである。

 どうしてバレたのかは考えるまでもない。スローターは<走り屋>を捕らえたことがあった。その時に依頼人に繋がる情報なり、暗殺者ギルドの幹部なりの情報を得たのだろう。後は持ち前の工作能力を使って命令系統を下から上に昇っていくだけだ。

 軍はスローター排除を諦めていない。その認識を持たれていることから、非常に気難しい交渉になる。

「まず、俺からの要求。今すぐギルドへの依頼を取り下げること」
「……約束しよう。中佐」
「ハヒィー、すぐに対応します」
 参謀官がどこぞかに電話を掛け、小声で誰かと話始める。

 スローターの要求は至極真っ当なものであった。タクムとて四六時中、気を張っているわけにはいかない。四強を殺し、残る獲物は小物ばかりだ。経験値のうまみが少なくなってきたため、わざわざ狙われ続ける必要はなくなったのだ。


「まさか、これで終わりではあるまい」
「まあね、ここからが本番」

 スローターはビジネスバッグから書類を取り出し、司令室中央の大テーブルに広げた。A2サイズのパネルには折れ線グラフが記載してある。

「これは?」
「この街の開拓者の数と、ギルドにある未処理の依頼数、次に物価指数。あとは街の人口推移。テレビの取材を受けてな。それで急遽作ったんだ」
 ある時期を境に開拓者を現す黒線がガクンと減り、徐々に未処理の依頼数を現す赤線が増えていく。後を追うように物価指数の青線が上がっている。人口を現す緑線はほぼ横ばいだが、よく見ると下に傾きつつある。

「そして今日、新たに30名近い戦闘技能者が死んだ――」

 まあ、俺が殺したんだが、とタクムは笑って言いながら、パネルの裏に貼り付けてあった透明なビニールシートを被せた。

 黒線が更に落ち、赤線いらい青線ぶっかの上昇率が上がり、緑線じんこうの傾斜はより深くなっていく。

「今、ガンマの街には人口や産業に比して開拓者の数が足りていない。素材は不足しつつあり、物価は上昇傾向にある。人口はいずれ顕著に下がり出すだろうな。あんた等の狙い通り、軍にも出動命令が下るだろうな」
「その原因を作ったスローターに感謝しろと?」
「謝礼なしの感謝なんざ、どうでもいい。そうじゃなくて、問題はどの地点で政府が指令を下すかだ」
 タクムは新たなビニールシートを被せた減っていた開拓者の黒線がある時期を境に急激に上がり最盛期の頃を超える。軍の投入だ――依頼の数が一気に処理されていく。物価指数が徐々に下がり始める。しかし人口だけは一定のペースで減り続けた。

「政府が重い腰を上げるのは恐らくこの辺、多分、半年後くらいになる」
 軍に予算を毟り取られることを恐れる政府は、軍への出動命令には及び腰である。危険域を超えてようやく動き出す。政治とは得てしてそんなものだ。

「ふん、だからどうしたというのだ。半年後に出動命令が来るのならそれまで待てばいいだけだ」
 交渉事に入ったからか、カール大佐が口を挟んだ。

「それでは間に合わない。スタグフレーションってやつだな。そもそも一度狂っちまった経済はそう簡単に立ち直らないぞ。素材の供給量が増え、物価が戻ったとしても、人々の体力までは戻らない。職を失った者、破産した者は遅かれ早かれ、街を出て行く」

 製品を作るにはまずは材料を手に入れなければならない。その材料を手に入れるためには金が必要だ。長引けば長引くほど体力は失われていく。人も企業も。復活までは相当な時間が掛かるだろう。

「だから、なんだと言うのだ」
「経済が困窮すれば税収は下がる。恐らくは軍への予算も削られるだろうな。理由は一つ。不景気だ」
 タクムは人差し指を立て、出来の悪い生徒に教えるように言った。大佐の顔がぐぬぬと屈辱に歪んむ。

「いいか? 世の中、金が全てだ。税収がなければ金食い虫の軍隊なんぞ維持することなどは出来やしない。予算が削り、規模を縮小するよう迫ることは自明の理だろう」
「ああ”ッ!? 知ってるわ、そんなもん!」
 大佐が激する。馬鹿にされたことも理由のひとつであったが、理解してしまったのだ。このままでは贅沢し放題の生活から一変する。

「どうすればいいのでしょう……」
 困り果てたような参謀の声。タクムはニタリと嗤った。

「簡単だ、政府が軍に出動依頼をかける時期を俺達・・で早めてやればいい」
 タクムが最後のビニールシートをパネルに掛けた。

 違いは今日を境に未処理の依頼数が一気に跳ね上がっていることだった。物価も比例して跳ね上がる。どこまでも上がり続ける。


「緩やかな経済停滞では政府は中々決断を下せないだろうな。しかし、未処理の依頼が一時にこれだけ増えれば最悪でも三ヵ月――短い期間で各種経済指数を危険水域まで上げられる」
 市民や企業とて蓄えはある。3ヶ月程度の経済混乱なら何とか耐えられるはずである。この街は機械や車両類の一大生産拠点であり、各都市から送られる武器弾薬食料を策源地へと運ぶための交易都市でもあるのだ。元々商売に適した地盤があるのだから一時的な経済混乱程度ならばすぐに回復することが出来る。

「どう、どうすればいい! スローター!!」
「はは、乗ってきたな。簡単だよ、俺を軍が匿えばいい」
「匿う……ですか……?」
 カラム・チョッパー参謀長が口を挟んだ。気弱で慎重そうな彼とて軍人、加えて官僚ともなれば予算の獲得は至上命題である。軍の生き死に関わるとなれば職業軍人として黙っているわけにはいかない。

「そうだ。俺が死んだという噂を流し、軍が匿う。<獣の森>周辺にあんま使ってない演習場付きの基地があったろう? そこをタダで俺に譲れ。それで手を打ってやる。そしたら手に入れた素材はギルドに流さない。分かるか? 俺が協力すれば月産2000体分の素材がこうしてグラフに反映される」
 タクムはそう言って未処理の依頼を差す赤線を叩く。

「ゆ、有効性は分かります。し、しかし、軍が匿う意味は……そもそもあの拠点は使っていないわけではなく……そもそもあなたが素材を流さなければいいだけで……」
「じゃあ、この話は終わりだな。俺にメリットがないからな。俺は街がいい具合に煮詰まったら街から出ていくよ。お前等は街に残って緩やかに滅べばいい」
 タクムは立ち上がり、ダンボールを手に取った。さあ、スニーキングミッション再開だ。一流の戦闘技能者たるタクムの身は軽い。街が破産しようが関係ない。拠点を移せばいいだけの話である。

「ま、待て!! 今の発言は取り消す、だから待ってくれ!!」
 事実上の破産宣告にカール大佐が慌てて席を立つ。

「じゃあ、決定か?」
「金だ、200万ドル渡す。それで協力してくれないか」
「金はありがたく貰っておく。だが、基地も貰うぞ。第一、身を隠そうにも俺は何処に住めばいい? 隠れている間の生活インフラはどうする? 政府やギルドに勘付かれないか?」
 正規の手続きを踏んでタクムが拠点を動かせばどうなるか。ほぼ間違いなく都市政府に勘付かれる。あの手この手で妨害が入るだろう。今は開拓者が一人でも惜しい状態だ。街の命運を左右するような月産2000体を誇る高位開拓者を逃しはしないだろう。

 だからと言って人目を忍んで雲隠れすることも容易ではない。街外に拠点を設けなければまず不可能と考えていいだろう。街外に安全な拠点を設けるのは大事だ。生体兵器が怖いからこそ、人々は高い塀に囲まれた街の中にいるのだ。そんな不動産はあり得ない。生体兵器が跳梁跋扈するフィールドに拠点を構えるなんて気狂いは軍をおいて他にあるまい。よしんば運よく見つけたとして、そこにタクムの名義があれば身元は割れる。


「あんた等には武器弾薬や生活物資の購入代行と、狩りで得た獲物の運搬と解体を頼みたい。そうすれば俺は今までよりも多くの獲物が狩れる」
 タクムは答えると、トンガ少佐はなるほどと納得したように頷いた。高位の戦闘技能者にとって小型中型の生体兵器を狩ることはそう難しいことではない。問題はその後だ。物資の確保と獲物の運搬・解体・保管などの雑事は、活動規模が大きくなれば大きくなるほど煩雑となる。

 軍の拠点に身を潜めればまず人目には付かないだろう。買出しや街でしかできない作業さえ軍が肩代わりすれば生活に支障は出ない。むしろ街から狩場へ移動する距離が短くなり、雑事を軍に肩代わりさせることでスローターは更なる素材を確保出来る。

 またフィールドを闊歩する獲物の数はある程度、決まっており、<スローター>がより多くの獲物を狩れば、それだけ他の開拓者に流れる獲物を奪うことにもなる。

 身を隠した<スローター>の狩場と、知らずにかち合ってしまった開拓者は悲惨だ。


「……基地は無期限貸し出しという形ではどうだろうか。名義が代われば足が付く」
「いいだろう。俺もそう提案するつもりだった」
 トンガ少佐が言い、タクムは納得した顔で答える。

 文民統制シビリアンコントロールの名の下、軍は都市政府からの指示がない限り、軍事行動は起こせない。<スローター狩り>を外部に任せたのも、これが原因だ。政府の下にいる限り、表立って経済混乱を与えることは出来ない。しかし、<スローター>と手を組むだけで、確実かつ強烈なボディブローを叩き込むことが可能となる。

 乗らない手はない。軍の狙いはあくまで都市政府からの出動依頼であり、<スローター>の生死などどうでもよい。彼の面倒を見ることでそれが促進されるのであればそれに越したことはないのだ。

 トンガ少佐は、司令と参謀長に目で促す。これは受けたほうがいい、そういった視線である。

 この場にいる誰もが損をしない提案。何も知らない都市政府と街の人々だけに負担を押し付ける行為。

「いいだろう、実にワシ好みの作戦だ!」
「200万ドル忘れんなよ」
「分かっている、持って行け! これで我等は更なる資金を手に入れられるんだからな」
 気を良くしたカール大佐は、すぐさま拠点を明け渡しと口座への振込みを行った。



 基地と資金を手に入れたタクムは、狂気の光を宿らせた目を細める。

 ――ま、3ヵ月で政府が軍を動かさなかったら、そん時は立ち直りようもない破滅が待っているんだけどね。

「おかしいねえ……」
 <殲滅者>は、楽しげに嗤うのだった。


以下はどうでもいい設定です。

ガンマ都市軍編成

■ガンマ都市軍司令部
カール・ドラ・ガンマ大佐
カラム・チョッパー参謀長(中佐)
その他、参謀、事務官30名

特選部隊スナックペナズ
尉官以上で構成されたガンマ軍の特殊部隊。
名前はダサいが、上級兵種を取得した実力者ばかりを集めた精鋭中の精鋭。
その戦力は中隊規模と同等と見られている。
名前の由来は雑魚をサクサクと食い殺し、強敵の喉笛を噛み千切るまで止まらないことからきている。められない止まらない~♪

トンガ・リ・コゥン少佐(隊長):強襲兵、狩猟兵、操縦兵
ドリトス大尉(専任):二丁拳銃、強襲兵
ポテト・コンソーメル中尉:軍医、格闘兵
チップ・コンソーメル中尉:機甲兵、技師
キャベッタ・ロウ少尉:剣銃兵
チーザ少尉:強襲兵
ジャガー・リ・コゥン少尉:強襲兵
プリングルス少尉:狩猟兵

<中隊>
スコーン歩兵中隊
 隊長:スコーン少佐
 戦力:車両20輌、歩兵200名、迫撃兵50名、後方50名
 任務:ガンマの街の防衛、警察業務に従事
ヘビースター機甲中隊
 隊長:ヘビースター少佐
 戦力:戦車6輌、自走砲10輌、随伴兵100名、後方50名
 任務:街道や街外の重要地点の防衛
キャメルコン混成部隊
 隊長:キャメルコン大尉
 戦力:自走砲5輌、車両5輌、歩兵100名、迫撃兵50名、後方25名
 任務:小隊規模でガンマ近郊の村や街の防衛、警察業務に従事

※なお特選部隊や中隊が活躍する予定は今のところありません。
+注意+
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