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鋼鉄のアイ 作者:パブロン

スチール

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壊滅

 蟻の巣殲滅作戦は成功を迎えた、と思った。

 誰もが。

 上空からスコールのような、局所的なものなのか、まるで上空から神様が大瓶おおかめをひっくり返したかのような水滴が各車両を塗らした。

 瞬間、

『よしゃー、アッ、アァァァァ――』
『呑むぞャァァ、イギャァァァアアァァ!!』
『なんだ、うわ、痛てぇ! 溶けるぅッ! カラダギャ、ドゲブルゥゥゥ』

 街に帰り、街を救った英雄の一人として賞賛を受ける。ギルドの金で酒を飲み、ハメを外して馬鹿騒ぎ。くだらない日常にある、数少ない特異点。大型狩り。開拓者という仕事において一生に一度あるかないかという栄えある一日を過ごすはずであった討伐隊の隊員達。

 その約半数が、この瞬間に消え失せた。

「はぁ……」
『マスター! 上!!』
 タクムはゆっくりと視界を上げた。

 地球では有り得ないほど巨大な太陽。その中に小さな黒点が見えた。黒点は徐々にその大きさを増し、日の光を食いつぶしていく。

 黒点が雲を突き破って堕ちてくる。

 その眼に映ったのは、巨大な――体長20メートルはあろうかという、金色の蟲であった。

-------------------------------------
ジャイアントスローター
体長20メートルほどの巨体を誇る、蟻型生体兵器の最上位種。
金色の外殻は軽量ながら戦車級の強度を誇り、その巨躯に見合った高い生命力を持ち、飛行能力をも兼ね備えている。

何より脅威なのが50リットル近い蟻酸砲弾を秒間30発もの速度で撒き散らすことである。この生体兵器の迫撃を受けると辺り一面が酸の海となり、直撃しなくとも付近にいるだけで足元を壊され、移動能力を著しく削られることになる。

数ある最上位種の中でも最も多くの街を壊滅させてきた最悪の生体兵器であり、対空火力に乏しかった半世紀ほど前まではほとんど打つ手がなく、彼の生体兵器を確認した場合、拠点を放棄して逃げ去るより他になかった。

滞空火力の整った現在であってもその強固なボディと滞空能力、広域戦闘能力は脅威の一言であり、甲種開拓者団が5組はいなければ対処出来ないと言われている。

また最上位種でもあるため下位種にあたるアントゴーレムの生産プラント能力を持つため、一度討伐に失敗すると、捜索の間に戦力を整えられてしまうという厄介な性質も併せ持つ。

その生命力と範囲攻撃、生産能力から<空中要塞>や<爆撃機>、<殲滅女王>と呼ばれて恐れられている存在。

脅威度:A
生命力:A+
近/中/遠攻撃力:D/A+/A+
装甲:A
俊敏性:B-
生産力:20体/day
-------------------------------------

 それはまるで女王。六つの羽を瞬かせながら滞空し、地べたに這いずる人間を六つの真っ赤な複眼で睥睨し、六つの節足を目一杯に広げる。

『マスター! 中へ!!』
 ハッチを閉じるよりも早く、シーサペントが発進する。生き残った車両も一斉に走り出す。

 ドンドンドン、とその背後を巨大な蟻酸砲弾が襲う。全車辛うじて直撃は避けたものの、この生体砲弾の恐ろしさはこの先にある。
 蟻酸砲弾は荒野に着弾すると、大量の飛沫を飛ばしてくるのだ。一発50リットルともなればその量たるや半端なものではない。着弾地点を中心に半径30メートル圏内に酸性の霧が生まれるのだ。

 薄い霧は空気と混じり、吸気という形でエンジン内部に取り込まれるのだ。内部にまで耐酸処理を施している車両は少ない。それこそ金に飽かせたフルチューンを行える上位開拓者だけである。

 たちまち三輌が煙を上げ、その場で各坐する。

 また地面に出来た蟻酸の水溜りに突っ込んでしまい、履帯キャタピラを溶かされてしまう車両も続出した。

 タクムはたまたま蟻を専門として狩っていたおかげで、素材だけは豊富に持っていた。通常の鋼鉄よりも強度が高く、僅かに軽量な蟻合金を、戦車の全面改修時に使用したので助かっていた。

 しかし、四つ足の先についたローラタイヤは溶かされてしまい、用を為さない。登攀時などに使う、脚部での直接歩行を余儀なくされる。移動能力は半減。時速40キロも出せないであろう。

『助けてくれ、セリエ・アール!』
『撤退指示を!!』
 無事であった車両から救援要請と戦闘指示の依頼が飛ぶ。

 しかし、オープン回線から返答はない。

 誰もが油断していた。こんな人里近くで最上位種の巣が見つかるなど、あの優秀なアイでさえ想像の埒外にあった。

『まさか……』
『死んでる……のか……?』

 隊長機、副長機共にジャイアントスローターの襲撃時、多くの者がそうしていたように、砲塔のハッチを開いて快哉を上げていたらしい。一瞬の油断。それにより<セリエ・アール>、そして副長機である<ヴァレンチノ>が同時に倒れた。今後、戦闘指揮が飛ぶことはない。

『……ひぃッ、こ、殺される!!』
『逃げろ! ば、ばばけもんに殺されるぞ!!』

 それがトリガーとなった。

 甲種開拓者にしてかつては最前線の策源地で活動していたこともあるという<セリエ・アール>、デル・ピエロッペンの死――信頼していた隊長の死に、開拓者達は恐慌を来たした。

『に、逃げるぞ!』
『全員でバラバラの方向に動くんだ!!』

 動ける車両は全て回頭し、女王蟻に背を向けて逃走を始めた。

『誰か、助けてくれ! 動かないんだ、下は水溜りで身動きが取れない!』
『うるせえ! 動けない野郎は足止めしてろ!』
『待ってくれよ、死にたくねえ! 死にたくねえよぉぉぉぉ!!』

 タクムとアイはオープン回線を閉じた。これ以上の通信は無意味だった。この混沌とした状況で連携など望むべくもないし、彼らは恐怖と混乱を意味もなく周囲にばら撒くだけで何の益もない。士気が下がるだけだった。

「アイ、どうする……」
『うん、ボク達も逃げよう。……足止めされた人達には悪いけど、犠牲になってもらうしかない』
 シーサペントは折りたたまれた脚部を広げ、歩行機動に入った。歩行機動とは4つある足の前後脚部を片方ずつ動かして進む機動方式だ。赤ちゃんのハイハイというよりは軍隊における匍匐前進に近い動き方である。あるいはクモやゴキブリがシャカシャカと足を動かして走るようなイメージ。

 動力を使ってローラを回すだけの通常走行とは鈍重ではあるが、その分、傾斜のある場所や、沼地など通常車両では入り込めない不整地での移動に適している。

 タクム達はこれまで狙撃ポイントに決めた高台に上る時くらいにしか使ったことがないが、その場に留まって無駄な抵抗を続けるよりはずっとマシである。脚部のローラタイヤがすべて溶かされてしまったのだから文句なんて言いようもない。

 蟻酸砲弾から逃れた車両軍が退却するのに混じってシーサペントも動き出した。

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