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鋼鉄のアイ 作者:パブロン

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残念な銃職人(ガンスミス)

 整備工場から歩くこと10分。タクムとアイの一人一台ふたりは、ワンダーから聞いた住所へとたどり着く。

「…………で、ここか?」
『うん、ここだよ……?』
「なんていうか……」
『うん……』

 ――<ドリーム・ガン>。

『「さすが兄弟だな(ね)……」』
 でかでかと掲げられた紫色の看板を見上げ、口を揃えた。

 ワンダーにドリーム。彼らの親は子供の名前をつける時、一体、何を考えたのだろう。あまりにも壮大すぎる彼らの名前に戦慄するタクム。

「おう、なんだ、小僧! 俺の工房に何のようだ!?」
 呆然と立ち竦む彼に、声をかける人物がいた。振り返ればダンボール――もとい、大量のダンボール箱を抱えた銃職人ドリーム氏が立っていた。

 退いた退いたとタクムを押しのけ、工房へと入っていくドリーム。十五畳ほどの空間。部屋の真ん中に大きな作業台、用途別、三台の作業機械が右壁を塞ぎ、数え切れないほどの銃部品を抱えた棚が左壁を覆っている。

「なにやってんだ、小僧! さっさと入れ!」
 狭い。かなりの狭さ。この場でちょっと小粋なステップでも刻もうものなら崩落する危険すらあった。もちろん刻むつもりはないが。

 ダンボール箱を部屋の隅に置き、声を張り上げる銃職人。鋭い瞳に鷲のような鼻、深い皺の刻まれた強面フェイス。

「えっと、これ……」
「なに、兄貴ワンダーの紹介!? いらっしゃい! 歓迎するぞ!!」
 タクムが紹介状を渡すと、小さなメモ用紙を引っ手繰ってからドリームが言う。

「で、なんだ小僧! まあ、座れ!!」
 強面ではあるが、兄同様、悪い人ではないのだろう。が、いかんせん声が大き過ぎる。そして甲高い。こんな狭い部屋で怒鳴り散らさなくても聞こえている。まるで脅されているかのようだ。

『今日は銃の整備を頼みに来たんです』
「はっ!? てめぇはてめぇの鉄砲も管理できねえのか!?」
 全く嘆かわしい、兄と同じリアクションを返す弟。実に兄弟である。

「中古なので状態も悪くなってきていたので、一度、専門家に診てもらおうと思いまして」
「いい心がけじゃねえか! おら、寄越しな、どの銃だ!?」
 タクムは肩掛けにしていたブローニングM1918を渡した。

「BARか。弾が少ねえし、重いし、銃身が加熱しても交換できねえ。俺は好きじゃねえ! お前さんはこれを狙撃銃にしたんだな」
 高精度のスコープを見たからか、ドリームが尋ねてくる。
「はい」
「ばっきゃろう! こんなんなるまで放っておきやがって! 銃身がいかれちまってんじゃねえか! こんなんじゃ当たるもんも当たんねぇじゃねえか!」
 ドリーム曰く、銃身が少し曲がっているそうで、かなり危ない状態のようだ。

 つい先日まで状態が『良好』であったこと、たった一度の戦闘使用――わずか50発程度の実射でこのような結果になったことを告げる。

 するとドリームははっとなり、銃身を指で叩いた。

「確かに、これじゃあな……銃身に使われてる金属だが、こりゃ粗悪品だな。交換しなけりゃ使いもんにならん。とりあえず、これは分解し(ひらい)て診るしかねえな! ちょっと待ってな」
 ドリームは言いながら、ブローニングM1918を解体し、銃身はもとより、その他の部品をひとつひとつ、確認する。

「こりゃひでえ。どこのメーカーが作ったのか分からんが、パーツの半分は粗悪品だ」
 苦虫を噛み潰したようにドリームが言う。

 恐らくは盗賊の持っていた品だからであろう。街に入れない彼らは、普通のガンショップから銃器を購入することは出来ない。個別に商人と契約するか、何らかの伝手を使って手に入れていたのであろう。その際、不良品を掴まされたというわけだ。

「ほらよ、これで大分マトモになった。多少手を加えておいたから、ちったぁ、マシになるはずだ」

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名称:ブローニングM1918+4
種別:バトルライフル
弾薬:.30-06スプリングフィールド弾(20/20)
状態:最高
性能
殺傷力:D+
貫通:D↑1
打撃:C+
熱量:-
精度:C+↑4
連射:600/min↑250
整備:C
射程:550m↑250
製作:ドリーム・ランド
-------------------

『すごい……」
「ああ、元の状態より良くなってるな」
『いや、そうじゃなくて名前……」
「……ブッ!!」
『……兄はワンダー・ランド』
「ブヒュ……ッ!?」
『……弟はディズエー・ランド』
「いや、さすがにそれはないだろ」
『ノッてよ!?』
 アイが嘆いた。

「で、お前さん達、何を笑ってる!」
「いや、何でもありません」
『うん、名前がテーマパークだなんて思ってないよ!?』
「ちょ、おまwwww」
「テーマパーク? なんだそれは……」
『そこは知っててよ!?』
 アイが再び呻く。生存競争の厳しいこの世界には遊戯に力を割いている余力はないようだ。

「まあ、いい。ところでお前さんも苦労しただろう、あんな粗悪品じゃまともに当てることも出来んな」
「いや、そこそこは当たりましたけど……」
『うん、300メートル級のスコアだけど見る?』
 観測手として先日の狩りのスコアを携帯の画面に表示する。

「お前さん、天才か!?」
『そうだよ、タクムは既に狙撃の天才』
「おいおい、ちょっと褒めすぎ」
 狙撃手、拳銃使いであるタクムのDEXは技能レベルによるボーナスを合わせると6.00以上あった。これは旅団(2000~5000名の部隊単位)の中でもトップの実力を持つという意味である。

 2000人あるいは5000人に1人の実力者ともなれば十分に天才エースの領域であろう。狙撃の腕を買われて特殊部隊にスカウトされるような専門家スペシャリストといえば分かり易いかもしれない。

 弘法筆を選ばずではないが、タクムはその高いステータス値にものを言わせて、狙撃を成功させていたというわけである。

「このスコアは本当か!?」
『うん。しかも実戦データだよ』
「……ついて来い」
 ドリームは立ち上がり、工房の裏手から地下にあるという試射場へと二人を招いた。

「おぉ……」
『凄いね、これは』

 試射場はかなり本格的なものだった。全面をコンクリート造りで、試射台から奥の壁までの距離は500メートルはあるだろう。

「これを使ってみてくれ」

-------------------
名称:デイドリーム
種別:対生体兵器ライフル
弾薬:.338 ラプアマグナム弾(20/20)
状態:最高
性能
殺傷力:C-
貫通:D+
打撃:C
熱量:-
精度:A-
連射:240/min
整備:E
射程:1500m
製作:ドリーム・ランド

前線都市<ガンマ>の甲種銃職人ドリーム ランドが設計・開発したライフル銃。
コンセプトは<対生体兵器専用ライフル>で、硬い装甲を持ち、強い生命力を持つ生体兵器を確実に戦闘不能にするため、対物ライフルなどに使用される.338 ラプアマグナム弾が採用されている。
そのため一般的なライフル弾である5.56mm×45の約3倍、7.62ミリ×51の約2倍という高火力を実現している。

また近接戦闘時の取り回しに考慮し、銃床はスライド式で調節可能であり、生体兵器の部品の利用によって5.2キログラムという携行性と耐久性を両立している。

命中精度に優れた.338 ラプアマグナム弾を使用しているため、命中精度は高く、有効射程は1500メートルにも及ぶ。また専用の消音器も開発されているため、スナイパーライフルとしての性能も確保されている。

いいこと尽くめのように聞こえるが、.338 ラプアマグナム弾を使用する関係で、反動はとても強烈で、よほどの優れた使い手でもない限り、使いこなすことはまず不可能という気難しい銃器である。

発射方式はセミオート/3バースト/フルオートの3タイプ。
また予備マガジンも20発/50発/120発の3タイプがそれぞれ存在する。

販売価格:25,000
-------------------

『すごい……』
「なんだ、この高性能っぷりは……」
『いや、名前……白昼夢デイドリームだって』
「ブッ!!」
「うるせえ! いいんだよ、こりゃ俺の妄想みてぇな銃だからな! いいから黙って使ってみろ!!」
 真っ赤になったドリームが試射場の隅にある端末を操作する。

 真正面、100メートルほど先にある人型の的が立ち上がった。

「いいか、セミオートで撃て。一発だけ、一発だけだ。間違ってもフルオートなんかで撃つんじゃねえぞ! こいつぁ、相当なじゃじゃ馬だ!!」「あれか、押すなよ的なあれか!?」
「マジだ、本当に危ねんだ!」
 タクムはスライド式の銃床を合わせると肩に当てる。セレクトレバーをひとつ上げ、<SEMI>に設定する。

 この距離ならスコープを使うまでもない。弾道予測線を的のど真ん中に合わせて引き金を弾いた。

 ブローニングM1918とは比べ物にならないほどのマズルフラッシュが目の前を覆った。火薬の爆ぜる爆発音も比較にならない。

 それよりも、

「――……ぐッ!!」
『マスター!!』

 タクムが気がついた時には地面に倒れていた。銃口は天井に向けたまま、視線の端で顔を真っ赤にしたドリームが「引き金から指外せ!」と怒鳴った。
 タクムはすぐさま引き金から指を離し、セーフティロックをかける。

『大丈夫、マスター……』
「ああ、大丈夫だ。けど、なんだ、今の……」
「あはは、あははは!! やっぱり、お前さんでもそうなるか!?」
 ドリームが腹を抱えて笑い出す。

『ドリーム、一体、どういうこと!? さっきの暴発でしょう!? そんな危険な銃を渡すなんて!!』
「馬鹿にすんな! 暴発なんざしちゃいねえ……ほら的のほうを見てみろ!」
 タクムは起き上がり、先ほど狙った的を見た。

 銃弾は人型の的の眉間部分を貫いていた。胸のど真ん中に照準は合わせていたはずだが、反動を抑え切れなかったのか、狙いがズレたようだ。

「ほかの……例えば並みのライフル弾なら弾丸自体の威力が低いからこんな反動はまず起きねえ! 逆に、対物ライフルや重機銃あたりなら銃身の長さや銃自体の重みで多少反動は抑えられる。けどな、こいつにはそれがねえ。弾丸は対物並み、重量や長さは小銃並み、こんなもんを扱えるなんて相当の使い手か、怪力の持ち主しかいねえんだよ!」
「なんだよ、この欠陥銃」
「言ったろ、じゃじゃ馬だってよ! そうか、やっぱりお前さんでも扱い切れんかったか、あははははッ!!」
 罵られて逆上するどころか、むしろ誇らしげな笑い声を上げるドリーム。

「……やってやるッ」
 タクムは起き上がると、立ち上がったままの的に銃口を向けた。

 セレクトレバーを<AUTO>に変更し、デイドリームを腰だめに構える。

「お、おい、ちょっと待て!! それは――」
「うるせえ!! なめんじゃねえ!!」

 ――|タクムが引き金を弾くと、瞬時に的は砕け散る(ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ)――

「どーだ、見たか!!」
 20発の弾装を使い果たし、タクムは快哉を上げた。

 100メートル先、ベニア製の的は僅かな下半身部分だけを残して無残に引き千切られていた。<デイドリーム>の命中精度はA-。反動さえ抑え付けることが出来れば集弾性能はその他の重機銃や自動小銃を上回る。

『さすがマスター! やるぅ!!』
「お前……何もんだ……おらぁ……白昼夢でも見てんのか……?」
 ドリームが両目を擦り、再び的を確認する。

 反動の大きな銃を押さえつける方法は二つ、銃自体に反動を押さえ込むシステムを組み込むか、圧倒的な力でもって黙らせるかだ。
 タクムのステータスはDEXのみならず、軒並み上昇している。STRは3.50を超えている。4.00が大隊(500名程度)のトップ、3.00が中隊(100名)のエースという評価であることを思えばタクムの力は300人に一人いるかいないかの怪力の持ち主だ。
 ついでに衝撃に対する耐性を現すVITも3.00と、これまた高い数値を示している。

 つまり今のタクムは、身長2メートル、体重100キロを超えるようなゴリマッチョな黒人兵士と同等かそれ以上と考えればその膂力を持ち、1000メートル級の狙撃を易々とこなす、いわば銃のプロフェッショナル。プロ中のプロである。

 彼に使いこなせない銃は、もはや人間には使えないと思ってもらって差支えない。

「コイツは確かにじゃじゃ馬だけど、むしろこれくらいの馬力がないと不安だよな。なあ、これ幾らだ? 欲しいんだが……」
「なんっ、だとぅ……ッ!」
 ドリームは膝を付き、悔しげに顔を歪ませる。

「持っていけ、金なんぞいらん! タダでいい! 代わりに俺以外に診せることは絶対に許さん……整備の時には必ず、俺のところに持って来い……」

「え、いいの?」
『軍トライアルに落ちた腹いせに、適当な新人捕まえて驚かせようって思ってたんでしょ? 大方、あっさりとそれを使いこなされちゃったから、バレる前に恩に着せちゃえって魂胆じゃない?』
「なぜそれを!? まさか、お前! 心を読んだな!?」
「……兄弟だな」
『……悲しいくらいにね』
「くッ……、そんな目で見るなぁぁぁ!!」
 タクムの残念なものを見る視線に耐えられず、ドリームは試射場から逃げ出す。

 さすがに追いかけるのは可哀想だと自重し、作業台に「面白い銃が出来たら教えてくれ」という書置きだけを残して、タクムは工房<ドリーム・ガン>を出るのだった。

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