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鋼鉄のアイ 作者:パブロン

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残念な整備工(メカニック)

 若干、肩身の狭いタクムと、自らの有能さをまざまざと見せつけご機嫌なアイを乗せたマイクロ戦車は、その製造元である<ワンダー・タンク>を訪れていた。

 相変わらずのド派手な看板とは裏腹に、幾つもの鉄板や鉄骨が乱立し、オイル臭の漂う無骨な空間を訪れた二人を、そのワンダーが満面の笑みで出迎える。

『こんにちは~』
「お世話になります」
「待ちくたびれたぞ! さ、早く戦闘記録をくれ!」
 戦車の車外カメラに録画した記録媒体をワンダーに提出する。

 ワンダーはすぐさま媒体をPCへと接続し、ダウンロード。データの再生を行う。

『まず、昨日は戦車による戦闘はなかったよ』
「なにっ!?」
『戦車の出番なんてそうそうあってたまるもんですか。マスターに死ねって?』
「うむぅ……」
 戦車――正確には<シーサペント>は自走砲だが、主砲である106ミリ無反動砲の出番などほとんどないと考えていい。必要なのは大型か、特型と呼ばれる一部の強力な生体兵器だけである。
 街周辺のフィールドでは中型ぐらいしか接敵しないため、使われても12.7ミリのブローニングM2重機関銃ぐらいだろう。

 そもそも小型や中型ならばタクムの持つ自動小銃ブローニングM1918やRPG-7で十分に片が付く。

『けどね、なかなか面白い発見があったよ』

 画面には二本のワイヤーアームを巧みに操り、サクサクと穴を掘って、竪穴のなかへと入っていくマイクロ戦車の姿があった。

『重機としての性能はあまり高くないけど、車体が小さいからすぐに掘る穴も小さくて済むね。装甲は元々優秀だからそのまま簡易トーチカとしても使えると思う』
 装甲車と同等クラスの装甲を火力を誇る<シーサペント>。戦闘機動を捨て、擬装や拠点防御に徹するならば十分な威力を発揮する。

『そうそう、この時に使用した操作ログも残しておいたから再現させてみたらどうかな』
「なるほど自動操縦マクロか……それは気が付かなかったな」
 マクロというのはよく使う機能や動きを予め決めておき、ボタン一つで再現するというものだ。日本でも自動で縦列駐車を行ってくれる乗用車が販売されたことがあるが、それと似たようなものである。

『引数で深さや大きさを指定できるようにすればもっと便利かもね』
 一度でもスコップ片手に塹壕掘りをしたことがあるのなら、その苦労は身に沁みて分かるはずだ。しかも、それを日常的に行っている軍の末端兵士達は諸手を上げて喜ぶことだろう。

『で、次はこれ』
 続いてディスプレイには、連結したコンテナに次々と仕留めた生体兵器を投げ入れるマイクロ戦車の姿があった。ワイヤーアームが小型生体兵器を掴み、ゴミを投げ入れるように放り込む。回収を終えるとワイヤーアームは折りたたまれて機能停止。

 四本の足についた細いタイヤが大地を噛む。コンテナは明らかに戦車より重そうだったが、さしたる苦もなくコンテナは動き出す。

「今度は貨物運搬車両として使ってみたのか……」
『9体の小型生体兵器を回収して運んだ場合の最高時速は80キロ前後だったよ。もちろん整地だけどね。ちょっとパワー不足かなっと思ったけど、小型トラックとしてなら許容範囲じゃないかな』

 最後の映像は自宅ガレージだった。戦車や自走砲などを格納するための大型の箱庭に、すっぽりと入り込んだマイクロ戦車の姿がある。

『最後は省スペース性をアピールしてみた。大型戦車一台のスペースがあれば4台は収まるだろうね』
 戦車一台500万ドル、ロケット砲一門10万ドルと兵器と言うのはとかく金がかかるが、軍とて湯水のように税金を使っているかといえばそうではない。

 拳銃ひとつに識別番号を付け、空薬莢ひとつなくなれば部隊総出で捜索に乗り出す。これは日本の自衛隊の話で、安全面への考慮が最も大きな理由であるが、軍需品のコストはできるだけ切り詰めようと現場レベルでの努力は欠かさないのが軍隊という生き物である。

 最後の映像は、戦車を戦場へと運ぶための輸送費、戦車を格納するためのスペースなど運用コストの面で優秀さをまざまざと見せ付けるものであった。

『ボクは思うんだけどさ、別に軍用車両にする必要はないんじゃないかな。もうちょっと操作性を上げて、コマーシャルでも流せば注文が殺到すると思うんだけど』
 地球とは異なり、この世界では民間にも戦闘車両の需要が高い。民間警備会社という名の傭兵団クランは多いし、大企業だって自前の戦力を持っている。開拓者ギルドへ加入している開拓者の数は10万人を超えている。
 5億円の戦車や3億円の装甲車には手が届かないが、5千万の小型戦車なら……そう考える人間は多いはずだ。

「いや、ダメだ。まずは軍だ。軍隊だ。そこで採用されなきゃ戦車じゃねえ」
 ワンダーは首を横に振った。その表情には迷いがなかった。
『民間で人気になって有用性が証明されたら、軍でも採用すると思うんだけどなぁ』
「いや、その可能性は考慮した。でもよ、お前さんは、その有用性ってのが証明されちゃいないもんをお客に売りつけんのかい?
 軍の要求が厳しいのは当たり前のこった。連中は人の命を預かってる。だから選定には細心の注意を払う。絶対に使えるって確信がなけりゃ採用しない。だから採用された兵器を民間がこぞって買うんだ。
 あの口五月蝿ぇ軍隊様が証明したから、ってな」
 腕を組み、厳しい顔で言うワンダー。その芯の通った理論にアイも押し黙る。

「でも、アンタ、初対面の俺たちに売ろうとしたじゃん」
「あれはッ……ただ……」
『ただ?』
「こいつを見せて、驚かせようって思ってよぉ……」
 ワンダーは暴露した。あの時、タクム達に<シーサペント>を見せたのは『これが俺の作った戦車だ!』と見せ付けるためだったという。

 何も知らない若い開拓者に思わせぶりな台詞を吐いて、マイクロ戦車を見せる。そして返ってきた反応を楽しむ。それが目的だったのだという。トライアルに落選し、半ばやけっぱちになったワンダーが腹立ち紛れに仕組んだイタズラだったのだ。買うと言われても売る気はなかったらしい。

 だからこそ、戦車は店舗ではなく、工場の中にあったのだ。わざわざ工場の真ん中に目立つように台座まで作ってシートを被せて隠してあった。

「うわぁ、ヒクわぁ……」
『少なくとも、いい歳したおっさんがやることじゃないね』
「ほんとに、すいやせんしたー!!」
 おっさん土下座。このまま頭を踏んづけてやろうかとタクムは思い、どうにかして留まる。

「まあいいや、とにかく戦車の整備は頼んだぞ、おっさん」
『ふざけたこと言った分、仕事はしろよな、おっさん』
「うっせ! ほっとけ、ばっきゃろ! きっちり、かっちり、パーペキに新品同様にもどしてやら!!」
『「元々新品同様だっつーの」』
 二人は声を揃えて突っ込んだ。


 ジャッキアップした戦車の下に潜り込むワンダー。被弾こそないが、念には念を入れ、総点検を行うつもりのようだ。

「でさ、おっさん」
「んだよ」
 すーっとわざわざ車体の下から出てくるワンダー。なんだかんだ言って気のいいおっさんなのである。

「どっかに信頼できる銃職人ガンスミスいない?」
「おう、いるにゃいるが、何すんだ?」
『昨日使った小銃の整備をしてもらおうと思って』

-------------------
名称:ブローニングM1918
種別:バトルライフル
弾薬:.30-06スプリングフィールド弾(20/20)
状態:やや悪
性能
殺傷力:D+
貫通:D-
打撃:C+
熱量:-
精度:D-↓2
連射:350/min↓100
整備:C
射程:300m↓200
-------------------

「ハッ、整備ぐらい自分で出来んのか?」
 まったく嘆かわしい、と整備士一筋30年の男が言う。

『出来るけどね、中古だし、状態も悪くなってきているから、これを機にフルメンテしてもらおうと思って』
 消耗品の交換などは予備パーツがなければ出来ないため、銃の整備には技術だけあってもどうにもならないことがままあるのだ。

 蛇の道は蛇ではないが、専門家に任せてしまったほうがいい場合もある。命を預ける銃器である、慎重すぎるぐらいが丁度いい。

「いい心がけじゃねえか」
 ワンダーが感心したように言うが、その実、解体させるだけさせて部品がなくて出来ませんでした、ではタクムがあまりにも可哀想だ、とアイが勝手に思っただけである。甘々である。

「いいぜ、紹介状を書いてやる。俺の弟がちょうどガンスミスだ。身贔屓するつもりはないが腕はこの街でも五指には入るだろう。多少、気難しいところはあるが、俺の紹介だったら快く引き受けるだろ」
 メモ帳にさらさらと何やら記入したワンダーは、メモを四つ折りにしてまとめてタクムに渡した。

-------------------
若いが見込みはある。頼んだぞ!

ワンダー
-------------------

「アイ、俺はこれを紹介状と呼びたくないよ」
『お手紙だよね、むしろ』
「しかも無駄に偉そう」
『品性の欠片もないね』
『「あははは」』
 ばっかでぇー! と笑いあう主従。

「るっせ! さっさと行って来いや!!」
 扱き下ろされて涙目になったワンダーに追い立てられ、タクム達は件の銃職人の工房に向かった。

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