表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/611

94.二種類の弾幕

 アウルムダンジョン、地下二階。

 細くて長い一本道、その向こうから弾幕が飛んで来た。


 光り魔弾が雨あられの如く飛んでくる。

 その細い道の入り口の横、俺とアリスが壁を掩体にしていた。

 当たらなかった光の玉はダンジョンの壁に当たって小さい爆発を連続で起こしている。


「この先にあるのか、地下三階に続く道」

「うん、まちがいないよ。ここを抜けたらすぐ」


 肩に仲間のモンスターを乗せたアリスがはっきりと頷く。

 その顔はさえない、俺達の姿を確認した途端始まった、モンスターの弾幕に眉をひそめている。


「これ避けていくの無理だね」

「無理って程じゃないけど、だいぶ骨が折れるな。それよりも突っ切った方が早い」

「突っ切るの?」

「ああ、見てろ」


 俺はスライムの涙を装備して、細道に入って、弾幕の前に姿をさらした。


 光の魔弾が体に降り注ぐ、魔弾の連射で放水を喰らっているかのような圧力がかかり、なかなか前に進めない。


 俺はむりやり進もうとしなかった。

 定期的に回復弾で回復しつつ、立ち止まったままその時を待った。


 一分くらい魔弾に打たれていたら、ポーチになにかが入る感触がした。

 ドロップしたアイテムを自動で回収するポーチ、中に砂金が入ったのだ。


 最初はまばらだったが、頻度が徐々に上がった。

 それに伴い、弾幕が徐々に薄くなっていく。


 まともに歩けない様なのが普通に歩けるようになり、次第に走る事も出来るほど弾幕が減った。


 細道を抜けた頃になると弾幕が完全に途絶えて、モンスターの姿も見えなくなった。

 代わりに、ポーチが最初の頃より若干ずっしりした。


 手に持って重量を確認、50メートルほどの細道を進んだだけ(、、、、、)で約15万ピロ程度の稼ぎか。


 ちなみに使った回復弾は二発。

 回復しながら前進、そうしただけで15万も儲かった。

 アウルム地下二階、俺と相性がいいのかもな。


「すごーい、こんな風にすればいいんだここは」

「HPと体力が両方ともS、かつスライムの涙を装備してたらな」

「……なんだリョータしかできないじゃん?」

「アリスも可能性あると思うぞ。ガッツスライムを仲間にすればさ」

「一発で死なないあの子でしょ。あの子は仲間になってくれそうじゃないんだよね」

「なりそうとならなさそうなのって分かるのか」

「なんとなくだけどさ」


 そう言いながらもはっきりと頷いたアリス。

 ダンジョンの中に限って言えば、アリスの「何となく」はバカに出来ない。

 「何となく」で道を判明する確率は百パーセントだし、モンスターがいるかいないかも9割以上の精度だ。

 多分、仲間になるかどうかも同じ事がいえるのだろう。


 そんなアリスの「なんとなく」の道案内で進んでいくと、地下三階に続く道が見えた。


「先に行く」

「ねえ、リョータが下の階に行った時って、残ったこっちの構造は変わらなかったんだよね」

「へえ、そうなのか」


 あごを摘まんで考える、つまりダンジョンに入るたびに構造が変わるというより、もっと正しく言えば新しい階層に誰かが入るたびに、その階の構造が変わるって事か。

 ダンジョンに入るたびって思ってたのが、外から地下一階に入るたびに、ということでもあった。


「だからさ、ホネホネとプルプルに働いてもらおうよ」

「……ああ」


 手をポンとうった。


「村人を最初に助けた時のあれか」

「うん!」

「おまえ頭いいな」

「えへへ……じゃあそういうことで」

「ああ」


 俺は先に地下三階にはいった。

 踏みいれた瞬間まわりの景色が変化して、降りてきた道がもう見えなくなった。


 その場で待った、しばらくするとまわりの景色が変わった。

 初めての階層だからポーチを外しつつ待った、景色はつぎつぎと変わっていく。


 上でアリスが仲間のモンスターを三階に下ろした。

 下ろしてダンジョンの構造を変えた後、すぐに仲間モンスターをSDサイズにして呼び戻す。

 そうして更に三階に送ってダンジョンの構造を変える


 それが十数回繰り返されて、俺は上に続く道、アリスが見えるところに戻ってきた。


「お待たせ」

「お疲れ」


 アリスは得意げな顔で二階から降りてきた。

 瞬間、地下三階の構造がまた変わって、二人まとめて飛ばされた。


 モンスターが現われた。


「うわっ! なんかいっぱいだ!」

「またモンスターハウスか」


 飛ばされた先は体育館の様な広い空間だった。そして中には上の二つの階と同じフォルムをした小悪魔がうじゃうじゃしている。

 小悪魔の一体が手を振り下ろして弾を撃ってきた。

 地下二階の光る弾とは違って、今度はびっくりするくらい黒い玉。

 前にネットで見た「あらゆる光を反射しない黒」みたいな黒い玉だ。


「また遠距離攻撃か、都合がいい。アリス、俺の後ろに隠れてろ」

「うん!」


 ちゃんとスライムの涙を装備している事を確認して、彼女をかばう態勢で黒い玉を受けた。


「――がはっ!」


 瞬間、脳天に衝撃が貫いていった。

 一瞬目の前が真っ白になるほどの衝撃、何が起きたのか分からない。


「リョータ!」

「――はっ!」

「大丈夫リョータ!」

「問題無い!」


 口角が濡れていることに気づく、手の甲で拭くと真っ赤な血がべっとりついていた。


「ダメージ? しかもでかい」

「そうなの?」

「ああ……今のダメージは久しぶりだぞ……ダンジョンマスター以上か? いやそんな馬鹿な」


 まわりを見る、モンスターハウスは小悪魔がうじゃうじゃしている。

 ざっと見て五十以上はある。

 モンスターの火力は多少の差はあるけどほとんど同じと言っていい。

 ってことはこいつら全員がダンジョンマスター以上の火力を?


「そんな馬鹿な」


 同じセリフがもう一度口をついて出た。


 黒い玉が更に飛んできた、今度は三つだ。

 アリスをかばうように二つをよけつつ、一つにわざと当ててやった。


 ――!


 またも衝撃が脳天を貫く、今度は歯を食いしばってたからすぐに元にもどった。


「リョータ!」

「大丈夫だ……」


 回復弾を自分にうって体力を回復した。


「間違いない、こいつらの火力はダンジョンマスター以上だ」

「そんな……え? 違う?」

「違うってどういう事だ」


 アリスに聞き返すと、彼女が肩に乗ってるモンスター、SDサイズのスケルトンとスライムと話している姿がみえた。


「魔法攻撃なの?」

「どういうことだ」

「えと、物理攻撃は体力だけど、魔法攻撃は精神、だって」

「……そういうことか!」


 一瞬で理解した。

 今までFのままだったから後回しにしてきたが、体力は物理防御で、精神の方が魔法防御って事か。

 そして俺の体力はSまであげたけど、精神はFのままだ。


 つまり……アウルム地下三階において、俺は元のレベル1同然紙装甲ってことだ。


 まずい、それはちょっとまずいぞ。


「まずいよね」

「ああ、ここを出よう――」


 といった途端、四方八方から黒い玉が飛んで来た。


 地下二階の時と同じ、全方位からの弾幕だ。

 これを全部受けたら――HPがSでも死ぬ!


「――っ!」

「ひゃん!」


 歯を食いしばって、アリスの腰に腕を回して抱き寄せる。

 そして――よけた。


 飛んで来た黒い玉を、魔法の玉の弾幕をよけた。


 よけた玉が壁に当たって小さい爆発を起こす。その爆発の規模は光の玉と同レベルだ。

 火力は同等、俺の体力()精神()の違いってだけだ。


 当たったらただじゃすまない、むしろ死にかねない。

 だが。


 精神はFでも、速さはSだ。


「リョータ」

「しっかりつかまってろ!」


 アリスを抱いて弾幕の中を泳いだ(、、、)

 うってくる弾幕を次々とよける、密集する雨の様な弾幕を全速力でよける。


「すごい……」


 アリスは唖然となった、弾幕を紙一重で避ける俺の動きに舌を巻く。


 もちろん避けるだけじゃない、隙を見つけてはもう片手の銃で反撃した。

 全力でよける最中で高まった集中力で、黒い玉をうってくる小悪魔をヘッドショット。


 頭が吹っ飛ばされて消えて、黄金色の砂金がドロップされる。

 次第に集中力が限界まで高まり、ゾーン(、、、)に入る。


 見えているもの、聞こえているもの、感じているもの全てが敵、モンスターになった。


 避けて、撃つ。

 避けて、撃つ。


 それをひたすら繰り返した。


「すごい……ダンスみたい」


 避けはじめた俺は弾幕の中をノーダメージでモンスターを全滅させたが、そのかわりかつてない程疲労がたまって――つまりはくたくたになる。


 そのせいでこの日の稼ぎは少なく、昨日の三分の一、日当三十万ピロで打ち止めだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] HP上げた後に何故か防御も上がったみたいになってて、体力を上げても違いが全く分からなかったし ウサギの攻撃は全然平気なのに、もっと弱いモンスから強い衝撃受けたりと最初からずっとブレブレ…
[一言] インクリースゴブリンを仲間にできて、スライムの涙があれば、アリスでもアウルムダンジョン攻略は可能そうだな。
[気になる点] アリスは加入時は立て続けにテイムできたのに、 その後音沙汰なさすぎ。最弱モンスターだけ加わってもなぁ テイムの技能が足りないのか?レベルはカンストしてるけど [一言] ↓あの頃はHPが…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ