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93.風が吹いて桶屋が儲かる

 ダンジョンの前、集まってきた村人が見守る中。

 買い取り屋・燕の恩返しから急遽派遣されてきたイーナに魔法カートを預けた。

 イーナは魔法カートから砂金を取り出し重さを量る。


「はい、102万2134ピロですね」

「「「おおお!」」」


 集計が終わった後、別の店員から金庫をもらい、そこから金を数えて俺に渡した。

 ダンジョンのドロップ、そして買い取り。

 この世界の生産活動の一番オーソドックスな場面をみて、村人たちは歓声を上げた。


「こうやって稼ぐのか」

「すぐに金が手に入るのはいいな」

「俺も明日ダンジョンにもぐるぞ」


 村人は感心したり、テンション上げたりした。


「こ、これも頼む」


 俺の買い取りが終わると、村人のアランがイーナの前にやってきた。

 彼も何回かアウルムに潜ってて、小悪魔を倒してゲットした砂金を査定してもらった。


「全部で24932ピロですね」

「おおお……」


 手渡された現金に、アランは感動し身が震えた。

 他にも何人かダンジョンに入った人間が砂金を買い取ってもらった。


 ダンジョンからの生産活動。

 モンスターを倒してドロップ品を換金。

 俺には日常の光景だが、長らくダンジョンが産まれるのを待っていたこの村の人達は、買い取りが一人完了する度に歓声が上がった。


 これでインドールの村人たちもダンジョンからドロップしたものを換金するまでの流れが分かっただろう。

 なら、次は……。


「アリス、この村に酒とかあるか? 出来れば多く」


 俺は横に立っているアリスに聞いた。


「お酒? うーん、村長とカロンさんとミラウさんちにあると思うよ。年に一回の村の祭りのために備蓄してるの」

「お祭りのためか、なら量は足りるかな。これでそれ全部買えそうか?」


 今日の稼ぎ、約百万ピロをアリスに見せた。


「足りると思うけど……?」


 どういう事? って不思議そうな顔で見られた。


「せっかくだから宴会やろうぜ、このお金で」

「そんなとんでもない」


 背後から女の人が話かけてきた。

 杖をついている、70歳くらいのおばあさんだ。


「あなたは?」

「ミラウといいます」

「あっ、アリスがお酒を備蓄してるといった」

「そうです。恩人様が宴会を開くというのなら、うちのお酒を是非使ってください」

「ありがとうございます、では――」

「お金などとんでもない、恩人様から頂くなんて」

「「「そうだそうだ」」」


 ミラウおばあさんがいうと、何人かの村人がそれに付合した。

 気持ちは嬉しいが、それじゃ意味がない(、、、、、)


「ありがとうございます。でも受け取ってください」

「いいえ恩人様からは……」

「じゃないと開きません」


 俺はぴしゃりと言い放ってやった。

 ミラウおばあさんは一瞬困った顔をしたが、俺が一歩も引き下がらないので、結局金を受け取ってくれた。


「分かりました、恩人様のお言葉に甘えます」


 カロンさんや村長さんにも話が伝わり、二人はやってきて同じように「金はもらえない」と言ったが、俺は無理矢理代金を押しつけた。


 村の酒はやすく、100万ピロは酒代払っても余ったから、他は料理に回してもらう様に村長に預けた。


 宴会に向かって村人たちが動き出す中。

 アリスが俺の隣に来て、不思議そうな顔で聞いてきた。


「ねえねえリョータ、なんでお金出す事にこだわったの?」

「俺、昔半年間だけ海外出張してた事があってな、その時の出張先がここと同じ様な村だったんだ」

「???」


 アリスは首を盛大にかしげて不思議がった。

 すぐには分からないだろうけど、多分、すぐに分かると俺は思った。


     ☆


 村の広場で行われた宴会が大いに盛り上がり、亮太が村人と飲んでいる中。

 ミラウはプレイという村人を呼び出して、広場の隅で話した。


「どうしたミラウ婆」

「プレイや、大工の腕はさびてないかね」

「もちろんだ、家の修繕か?」

「こんな婆の住む家なんかどうでもいいさね。それよりもうちの裏あたりに家を一軒建てたいのさ。ダンジョンが出来たと聞いた息子が街から帰ってくるって連絡があったのさ」

「おー、それはめでたい」

「恩人様がうちの酒をまとめて買い上げてくださったおかげでね、これくらいで足りるだろ?」


 ミラウはプレイに紙幣を渡した。


「いっとくがこれじゃ俺の働き分だけだぜ」

「わかってるさ、材料費はこっち、ちゃんととってある。明日になったら注文するさ」

「なら引き受けた。任せろ、息子さんのためにいい家を建ててやるぜ」


 プレイは金をポケットにしまい、ミラウは杖をついて人の輪に戻っていった。


「プーレーイ」

「どわっ! なんだリーシャか、脅かすなよ」

「はい」


 リーシャと呼ばれた中年女が手のひらを上にしてプレイの前に差し出した。


「な、なんだよ」

「とぼけない、今の見たからね。収入が入ったらとりあえずうちのつけ払いなさい」

「こ、これを持ってくのか? 全部持ってかれたら俺は――」

「ツケは払いなさい、明日からまたつけてもいいから」

「うっ、わ、わかったよ……とほほ……」


 プレイはしまったばかりのお金を取り出し、リーシャにわたした。


「ひのふのみ……はい、これおつり」

「おつりって500ピロもねえじゃねえか」

「またつけてもいいっていったでしょ。ツケでもいいから、でも金を持ってる時はちゃんと払う。間違ってる?」

「間違ってないです」

「よし」


 シュンとなったプレイを置いて、リーシャは人の輪の中に戻っていった。

 その中から一人の青年を見つけた。

 名前はギニス、リーシャの実の弟だ。


 リーシャはちびちびとお酒を飲んでいる物静かな弟の横にどかっと座った。


「ほら」

「姉さん……え? どうしたのこんな大金」

「プレイから徴収してきた、あいつがうちでたまりにたまったツケの分」

「へえ、よく払えたねあの人」

「これくらいあれば足りるだろ?」

「え?」

「あんたとキキの結婚のことさ、これくらいあれば足りるだろ」

「そ、それはそうだけど、でも……」

「女を待たせない、そして姉弟の間で遠慮しない。とっとと結婚してキキを幸せにさせてあげな」

「そ、そうだね……」

「わかったらとっととプロポーズしてきな! 金はあたしが一旦預かっとく。結婚式とかいろいろ先に動かすところにはらっとくよ」

「で、でもキキがうんっていうか……」

「村中やきもきさせてる二人がなにをいうのさ、早くいきな」

「わ、わかったよ!」


 ギニスはリーシャに追い出されて、働き者で、お酒注いで回ったり料理を取り分けたりしている幼なじみのキキのところに向かって行った。


 そして――。


     ☆


「サ、サトウ様!」


 村長たちとお酒を飲んで、ダンジョンを中心になり立つ経済活動を俺なりに説明してやってると、一組の男女がやってきた。

 片方は何回か酒を注ぎにきたキキという少女で、片方ははじめてみる線の細い少年。


「キミは?」

「ギ、ギニスっていいます。あの、サトウ様!?」

「うん」

「俺達の仲人になってください!」

「仲人? キミたち結婚するのか」


 ギニスは頷き、キキはさっきまでの働きっぷりとは裏腹に恥ずかしそううつむいた。

 だが嫌がってるそぶりはない、むしろ今が人生の絶頂期と言わんばかりに嬉しそうにしている。


「そうか、おめでとう」


 俺は酒の入ったグラスを掲げて祝福の言葉を継げた。

 そして思い出して、村長に聞く。


「俺が仲人になっていいのか? 村的になんかまずいってことはないのか?」

「何をおっしゃいますか、恩人様になって頂けるなんてこの上無い名誉。だからギニスもこうしてきたのです」

「そうか。ちなみに俺は独身だがそっちも大丈夫か」

「それも大丈夫です、このあたりでは既婚者じゃないとダメということはありません」

「そうか」


 頷き、誰も口をつけてないコップを二つとって、酒を注いでギニスとキキに渡す。


「仲人やらせてもらう。おめでとう」

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます」


 感謝する二人と乾杯した。

 二人は手をつなぎ合って、酒なのか幸せからなのかわからない、真っ赤な顔をしていた。


 俺はそれをみて、隣に座っているアリスにいった。


「ってことだ」

「???」


 アリスはやっぱり分かっていなかった。

 こういう半ば停滞している村の場合、一気に大量の金を放り込むと劇的に動くものだ。

 俺が前に海外出張したところがそうだった。日本企業が持ち込んだ数百万レベルの金が呼び水になって、街の止まっていた経済が一時的にものすごく回転した。


 そしてそういう回転が行き着く先はいくつかある、その一つが結婚だ。

 幸せいっぱいのギニスとキキ。

 流した百万ピロがどのように動いたのかはしらないが、巡り巡ってこうなったと俺は確信していて。


 なにより、100万ピロは使い回されて、100万ピロ以上の経済効果をうんでると確信していた。

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[気になる点] >俺が前に海外出張したところがそうだった。日本企業が持ち込んだ数百万レベルの金が呼び水になって、街の止まっていた経済が一時的にものすごく回転した。 経済循環の回――。前世の佐藤は会社…
[気になる点] よく考えるとこの世界、一次産業が全部ダンジョン探検なのに、ダンジョンない村の人って普段何してるのだろう?二次産業かサービス業?
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