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77.エミリーとセレスト

 レベルが上がったマーガレットと一緒に、空気売りの男のところを訪ねた。

 彼女の案内でたどりついた建物には「アーカイブ・シーハー」という看板が掲げられていた。

 民家ではなく事務所か店舗に使われるイメージの建物だ。


 中に入ると男はおれとマーガレットが一緒に居るのをみて驚きながらも、とりあえずおれ達を奥にあげた。

 そして応接間に通され、男と向かい合った。


「表の看板は?」

「おれの名前、兼この事務所の名前だ」

「そうだったのか」


 男……アーカイブは微かに眉をしかめて、おれとマーガレットを交互に見比べた。


「どうしてあんたが姫と一緒にいるんだ?」

「さっきまで彼女と一緒にレベル上げをしてたんだ」


 おれはアーカイブに事情を説明した。

 偶然マーガレットのレベルアップに遭遇して、彼女のステータスでレベル99にはドロップオールAになるかもしれないと予測して、更なるレベルアップに付き合った。

 その結果、レベル96にして彼女のドロップはオールD。99になるとオールAになるだろうと確信した事も伝えた。


 最初は娘をとられそうな父親っぽい顔をしていたアーカイブだったが、話の途中から驚きにかわっていった。


「本当なのか姫!」


 マーガレットは静かにうなずいた。

 さっきに比べて落ち着いてきたのか、楚々とした仕草はまさしく姫だ、という空気を出している。


「マジか……いやしかし、だからといって99になったらオールAになるとは限らない」

「彼女はレベル94まで何も上がらなかった、オールFだった。そうだよな」

「ああ、そうだが?」

「95でドロップオールE、96でオールDに急上昇したんだ。こういう場合絶対最後にオールAになる」


 おれはこの世界の人間じゃないが、この世界の法則について色々分かるようになってきた。

 この世界で本来存在しないSがAの上であるのと同じように、最初は全然成長しないけど最終盤で急成長したら最終的に能力が最高になる。


 それは間違いない、戦争が終わったら結婚すると語ったら死ぬのと同じように、コーラを飲めばゲップが出るのと同じように。

 確実で、間違いない事だ。


「そ、そうか。いやあんたがそういうのならそうなんだろう。何しろあのリョータ・ファミリーのリーダーなんだからな」


 アーカイブの納得のしかたにこっちが逆に驚かされた。

 オヤクソク(、、、、、)の話をしていたつもりなのに、向こうは佐藤亮太だからと納得した。

 納得してくれたのはいいけど、ちょっと不思議な気分だ。


「しかし……そうか……レベル99でオールAか」

「それで色々出来るようになるな」

「え? ああそうだな」

「……違う事を考えてたのか?」

「ああ、姫のレベル上げをせっかくだから商売につかえないかって考えててな」


 おれは「なるほど」と苦笑いした。

 アーカイブ・シーハーはとことん商人だった。

 おれはオールAになったらドロップがよくなってそれでますます儲かるな、って思ってたけど、向こうはその過程も換金する方法を考えてた。

 その発想はなかった。


 なかったけど、発想をくれたら出るアイデアもある。

 空気箱を売るマーガレット姫。

 彼女がやってることはある職業と同じだった。


「アルキルって街を知ってるか?」

「アルキル? メッキの街の事か?」


 メッキの街という言い方は初めて聞いたけど、メッキマウスを知ってるからそれであってると思った。


「そこにマーガレットと一緒に行けるツアーを組むんだ」

「ツアー?」

「そうだな……姫のレベルあげを手伝う、って感じで。普段空気箱を作ってるあの手順をアルキルにいって、希望する冒険者にやらせるんだ」

「あんた天才だな!」


 アーカイブはパッと立ち上がるくらい、渋い顔に笑みを浮かべた。


「そうだな! 姫のファンにやらせればレベルあげは楽だしそいつらから金も取れるし一石二鳥だ!」


 ああ、やっぱりファンなんだな。

 おれは自分の想像が正しかったことに満足した。


「よーし、早速姫のファンクラブ十万人にそれを知らせるぞ!」

「十万人もいるのかよすげえな!」


「ありがとうサトウ! あんたのおかげで一儲け出来そうだ。なにかお礼をさせてくれ!」


 アーカイブはおれの手を掴んで上下に振った。

 かなり力がこもってる、よっぽど稼げる計算なんだろうな、というのがこの反応で分かった。

 お礼か……そうだな。


 おれは少し考えて、ニコニコしながらおれを見あげてくるマーガレットをみて。


「それなら……」


 希望する謝礼をアーカイブに伝えた。


     ☆


 翌日の朝、今日は日課のダンジョンに潜らないで、エミリーとセレスト、イヴにアリスと、一家フルメンバーでシクロ郊外にやってきた。


 場所は昨日と同じ、マーガレットとレベル上げをしていた場所だ。


「これは……すごいわね」

「ニンジンが山ほどあるです」


 感嘆する二人、そこにあったのは昨日のもやしと同じくらいの量、小山ほどもあるニンジンだった。


「あんたがサトウさんだな」


 ニンジンの番をしていたらしき若い男がこっちにやってきて、おれに話かけた。

 よく見たらマーガレットの空気作りのフォローをしていた四人の内の一人、ちょっとした顔見知りだ。


「ああ、おれが佐藤亮太だ」

「これが約束した100万ピロ分の品物だ」

「ニンジンだったのか」

「もやしだと集まらなくてな」

「やっぱりか」


 昨日おれ達が使いきったからな。


「確かに渡したぞ、じゃあな」


 男はそう言って立ち去った。

 これが昨日、アーカイブに頼んだ謝礼だ。


「さて、やるか」

「ヨーダさん、今日はあの人がいないのです」

「そもそも既にこれがあるのならわたし達はいらないのでは?」


 エミリーとセレストが当然の疑問を呈した。


「今日はみんなのレベルあげをしようと思う」


 おれは仲間たちに説明した。


「せっかく経験値を結晶化できるんだし、昨日テルルのハグレモノを使った永久機関を編み出したから、みんなのレベルをあげてしまおうかって思ってな」

「わたし……」

「……たちの?」


 驚くエミリーとセレスト。


「そう、二人ともまだあがるんだろ。なんか問題でも」

「異議あり!」


 おずおずながらも頷きかけたエミリーとセレストを押しのけて、イヴが異論を唱えた。


「ニンジンを粗末にする事は許さない」

「粗末じゃなくて経験値にするんだけど」

「ニンジンは食べるもの」

「それはそうだけど」

「どうしてもというのならうさぎの屍をこえていけ」


 イヴはニンジンの山の前に両手を広げて立ち塞がった。

 相変わらずニンジンが絡むと人格変わるな。


「ここは我慢なのです」

「そうよ、ここを我慢すればリョータさんがきっともっと美味しいニンジンを代わりに用意してくれるはずだから」


 イヴを説得するエミリーとセレスト。

 その説得に、イヴは少し態度を軟化させておれをみた。

 やれやれ、仕方ないな。


「約束する、みんなのレベルがカンストしたらかわりのニンジンを用意してやるから」

「リョータニンジン?」

「リョータニンジンで」

「一年分希望」

「それはおおいなおい!」


 まったく、一年分なんてのは鏡餅だけで充分だってのに。

 まあいい、イヴがニンジンを喰ってる時の幸せそうな顔はきらいじゃないからな。


「分かった約束する」

「うさぎ、我慢する」


 イヴは頷いて引き下がった。

 身を翻して明後日の方に向かって行った。

 立ち去るのかと思えばそうじゃなくて、離れた場所――ハグレモノ化に影響の無い場所で地べたに座り込んだ。


「なんでそんなところに?」

「風下」

「え?」

「食べられないなら、せめて匂いだけでも」

「お、おう」

「アリーナ席の生ライブ」

「いや意味が分からない」

「……」


 突っ込んだがイヴは反応しなかった。

 本気で匂いだけでもって事か。


「さてはじめるか。アリスはカンストしてるから、エミリーとセレストとイヴか」

「うさぎもカンストしてる」

「そうなのか」


 まあ仲間になる前から有名な冒険者だったしな。

 ってことはエミリーとセレストの二人だけって事か。


「たしかエミリーの上限が40、セレストが54だっけ」

「はいです」

「覚えてたの……」


 まるで子供の様にはきはきと答えるエミリーと、何故か頬を赤らめるセレスト。

 そんな二人と一緒にニンジンから距離をとった。


 しばらく待つと、ニンジンが次々と眠りスライムに孵った。

 孵った眠りスライムを撃って倒す、倒してポーチにドロップしてきた通常弾を込めて次を倒す。


 昨日と同じ、倒した分と弾丸の補充分がほぼ同じの永久機関だった。


 孵ったのを片っ端から倒して経験値の結晶にする。


「やっぱりヨーダさんすごいです」

「周回……周回じゃないけど作業のパターンが完全に完成してる。超一流冒険者の姿だわ」

「あたしもしかして、ものすごい人に仲間に入れてもらっちゃってた?」


 仲間たちが雑談している横で、おれは一心不乱に経験値を生産した。

 ニンジンがどんどん減っていって、二人のレベルがどんどん上がる。


「わたしカンストしたです」

「後はわたしね」

「このペースだとちょっと足りないかも?」

「確かにちょっと足りないわね」

「アリスちゃん一緒にくるです、街にいって足りない分を買うです」

「エミリー? わたし達が買うと高くつくわ、そこはダンジョンで狩ってきた方が」

「ヨーダさんはわたし達にカンストしてほしいって思ってるです。ダンジョンで狩るとニンジンなくなるまで間に合わないです」

「た、たしかに」

「ちょっと高くなってもヨーダさんのためなら大丈夫なのです」


 後ろで仲間たちがなにかやっていた。

 多分エミリーがまた(、、)仲間のためになんか作ろうとしてるんだろう。

 実質一家のお母さんポジションにいる彼女はいろんな事によく気づき、色々してくれる。


 そのいろいろを彼女に任せた、おれは一心不乱にハグレモノを倒し続けて経験値にした。


 途中で何故か眠りスライムじゃなくてスライムが現われるようになったが、関係なく経験値にした。


 日が沈み、日付が変わる頃。


 エミリーとセレストを無事、二人ともカンストさせる事ができたのだった。

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[良い点] 77/611話でパーティ全員レベルカンストって・・・ どうなってんだよこの小説 何かがおかしい そもそもレベルカンストしてるのに中級っぽいモンスターに苦戦してるし、 さらなる強化システムが…
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