71.守った笑顔
おれは今、ちょっとすごい光景を目撃しているのかもしれない。
テルルダンジョン、地下一階。
そこでスライムとスケルトンが戦っている。
スライムはこのダンジョンに元からいたモンスター。
一方のスケルトンは――おれが知ってるスケルトンとちょっと違う。
デフォルメされた姿でそのまま大きくなった、妙に愛嬌のあるフォルムだ。骨をカタカタならしてるのも本来はおどろおどろしい感じだけど、今の姿だとコミカルな感じだ。
そのスライムとスケルトンが戦っている。
「いけー、がんばれー」
アリスがちょっと離れたところから応援していた。
もちろん、スケルトンの方を。
テルルダンジョン、スライムしかいないはずの地下一階に、ニホニウムのモンスターがいる。
モンスターは階層が違うだけで消滅するはずなのだから、ましてやダンジョンそのものが違う。
スケルトンがここにいるのはかなりとんでもない事なんじゃないだろうか。
そんなスケルトンとスライムの戦いは、スケルトンの辛勝に終わった。
腕がとれて頭蓋骨が割れた、そんなぼろぼろな姿になっての勝利だ。
「すごーい、ホネホネすごーい。あっ、一回戻る?」
スケルトンが頷いた途端、ポン、と音を立てて消えて、またSDサイズのスケルトンに戻った。
腕はとれてなくて、頭蓋骨も割れてない、100%元のスケルトンに戻って、アリスのところに戻ってきた。
アリスはそれを手のひらに載せて持ち上げて、小動物にするかのように頬ずりした。
「お疲れ様ホネホネ」
カタカタカタ。
スケルトンはしゃべれないけど、動きもコミカルで、アリスになにか返事しているようだ。
おれは倒されたスライムがドロップしたもやしを拾い上げて、チェックした。
量、質共にかなりのもの。経験上ドロップCくらいのものだ。
それをしまって、アリスに話かけた。
「そのスケルトンをもう一回大きく出来るか?」
「できるよー。MPかかるみたいだけど。お願いホネホネ」
皿の形にした両手を突き出すアリス。
その上に乗ってるSDスケルトンまた大きくなった。
腕とかとれてない無傷の姿に。
「ダメージは治るのか」
「うん! 一回戻ったら治るって」
「すごいな……いやそもそもなんでこうなるんだ?」
「わかんない? あっでも」
「でも?」
「ホネホネ、あたしの事お姉ちゃんって呼んでる。なんか関係あるのかな」
「……ダンジョン生まれ同士だから?」
「そっか!」
自分では突拍子もない事だと思いつつも、会話の内容からそう推測した。
それをアリスはものすごく納得した、スケルトン――ホネホネは彼女に近づいてまた甘える様にした。
根拠はないけどそうかも知れないと思った。
「あっ」
「今度はどうした」
「プルプルが呼んでる」
「プルプル? スライムの事か」
「うん!」
大きく頷くアリス。
何となく彼女のネーミングセンスが分かってきた気がする。
スケルトンはホネホネ、スライムはプルプル。
他のモンスターがどうなるのか、ちょっとだけ気になってきた。
アリスとホネホネ、三人(?)でダンジョンを進む。
途中ですれ違った若い冒険者はホネホネを見てぎょっとした。
「モンスター!? いやモンスターはこんなに可愛くないか。それにここスライムだし」
と、驚きながらも一方的に納得した。
しばらくしてモンスターのところにたどりついた。
スライムが一匹、垂直にぴょんぴょん跳ねている。
「こいつか? 呼んでるの?」
「うん。ぼくを倒してみて、だって」
「やるか?」
そう言いながら銃に手をかける。
「あたしじゃないとダメみたい」
「そうか」
なんとなく予想はしていたから、おれはあっさり引き下がって彼女に任せた。
彼女はといえば、戦闘はホネホネに任せた。
「頑張れホネホネ、応援してるからね」
アリスの応援のおかげなのか、ホネホネはさっきよりもテンションたかめでスライムに向かって行った。
……スケルトン相手にテンション高めって分かる自分もどうなのかと思ったが、フォルムが変わって愛嬌が出てきた分、何となく分かってしまう。
スケルトンとスライムが戦った。
共に弱いモンスター同士、一進一退の攻防が続いた。
スライムの攻撃にホネホネの頭がとれた――と思ったら自分で自分の頭を蹴った。
「いいのかそれで!」
思わず突っ込んでしまった。
ホネホネの頭蓋骨は回転しながら飛んで行き、スライムに当たってゼリーの様な体を半分吹っ飛ばした。
スライムはたおれた――が消えなかった。
スケルトンの時と同じ、体が光を放って、その光が一気にまぶしくなった後凝縮して、手に乗るサイズのスライムになった。
フォルムはほとんど変わらないけど、可愛らしい目がついた。
「お疲れ様ホネホネ。うん、よろしくねプルプル」
SDに戻ったスケルトンのホネホネがアリスの手でカタカタ骨をゆらして、SDになったスライムは手の上でプルプルしながら垂直に跳ねた。
「また弟が出来たのか」
「ううん、違うよ」
「え? お姉ちゃんって呼んでたんじゃなかったのか?」
「ホネホネは女の子だから、また弟じゃないよ?」
「お前女だったのか!」
SDスケルトン、ホネホネの顔――というか頭蓋骨がちょっとだけ赤くなった。
マジかよ……。
☆
ホネホネとプルプルがスライムをたこ殴りにした。
二体とも大きくなってもデフォルメされた愛嬌のある姿だ。それが本来の姿、いかにもモンスターらしいモンスターのスライムと戦ってる。
「いけー、がんばれー」
応援するアリス、その甲斐もあってか、二体はスライムをあっさり倒した。
スライムはもやしをドロップして、そのまま消えた。
ホネホネとプルプルはまた手乗りサイズに戻って、アリスの手に乗った。
ホネホネもそうだが、プルプルはものすごく可愛い。
サイズがサイズなだけに、スマホのストラップかパソコンのそばに飾りたいくらいの可愛さだ。
その二体は戦闘が終わって、アリスにねぎらわれたあと彼女の肩に乗った。
更に可愛いくなった。
「ねえねえリョータ」
「うん?」
「ありがとう! リョータのおかげでホネホネとプルプルと出会えたよ」
「おれは大したことしてないけどな……」
「でもありがとう! ホネホネもプルプルもそう言ってるよ」
満面の笑顔を浮かべるアリスの肩の上で、ホネホネはカタカタ骨をならし、プルプルは垂直にぴょんぴょん跳ねた。
おれにはよく分からないけど、お礼を言われてるらしい。
ふと、アリス越しにある一団を見つけた。
「夢」とか「感動」とかで部下を縛り付ける例の初老の男と、その部下の若い男女。
男女は前見たときから更にやつれていて、悲壮感漂っていた。
あの姿を知ってる、前にいた会社でたくさん見てきた。
収穫祭でも休日出勤する一行はこっちに気づかないまま先に進んで、下の階に消えて行った。
「リョータ?」
「ごめんちょっと考え事してた。それよりもよかったな、こいつらと出会えて」
「うん! ありがとうリョータ!」
大きく頷き、更に嬉しそうに笑うアリス。
そんな彼女をみて、おれは、ブラックな男から未然に助けだせてよかった。
そう、思ったのだった。