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68.信頼

 戻ってきたセレストは普通に戻って(、、、)いた。

 綺麗な髪のモデル体型の美女、おすましなのもいつも通りで思わず見とれた。


「待たせたわね、テルルで眠りスライムの異常発生に出会ったから、ついつい手間取ったの」

「異常発生?」

「ごくたまにある、おなじモンスターが大量にダンジョンから生まれることよ? 知らないの?」

「しょうがないのです、異常発生は普段じゃあまり気づかないです。みんながお祭りでダンジョンに人が少ない時くらいじゃないと気づかないです」


 エミリーの説明に納得する。

 たしかに普段は冒険者がダンジョンの中にうじゃうじゃいる、異常発生とやらが実際どれくらいなのか知らないが、多少大量に出たところで、この世界のダンジョンのザコは周回慣れした冒険者に瞬殺されるのが運命だ。


「それでああなったのか」

「うさぎ、天国をみた」


 相変わらずニンジンの山に埋もれているイヴ。もはやイヴってよりニンジンだ。


「すごいいっぱいあるです」

「ニンジンざんまい」

「わー、なんかお料理つくりたくなったですー」


 ふと、エミリーが変に棒読みで言い出した。


「エミリー?」

「ニンジン料理がすごくつくりたくなったですー」

「ニンジン食べる!」


 めっちゃ食いつくイヴの方は普通だった。


「すぐにつくるですー。ピーマンのニンジン詰めとかつくるですー」

「ふおおおおお。はっ、うさぎ提案。ニンジンのニンジン詰めを」

「いやそれただのニンジン」

「見た目どうなるのかしら」


 微苦笑して見つめあうおれとセレスト。


「はいですー、じゃあ作るためにもどるですー」

「うん!」

「セレストさんはヨーダさんと一緒にいるですー。ニンジンづくしだからイヴちゃん以外しばらく帰宅厳禁なのです」

「いや厳禁って」

「……はっ」


 おれが苦笑いしてる横で、セレストがなにかに気づいてハッとした。

 エミリーはそんな彼女にウインクをして、イヴと共に去っていった。


「なんなんだいったい」

「もうエミリー……そんな事しなくても」

「まあ大丈夫だろ、エミリーの料理の腕なら。なんだったらおれらも後でニンジンのニンジン詰めをたべて『ふぉおおお』ってなるかもしれないぜ。エミリーの腕、わかってるだろ」

「わかるけど……分かるけどそうじゃなくて」

「???」


 何故かもじもじし出すセレストだった。

 どうしたんだろうか、一体。

 やっぱりニンジンのニンジン詰めが不安なのだろうか。


 ふむ、ならここは不安を取り除いてやらないとな。


「大丈夫だ、おれはエミリーを信じる」


 と、言い切った。

 そんなおれを驚いた顔でみて、今度はショボーンとしてしまうセレスト。


「羨ましい」

「ん?」

「エミリーが羨ましいわ、そこまで信じてもらえるなんて。わたしも――」

「なに言ってるんだ、セレストの事も信じてるぞ」

「――えっ?」


 また驚くセレスト。さっきから驚きと落ち込みをジェットコースター並みの起伏で繰り返している。


「わたしを……信じてる?」

「ああ……例えばインクリースゴブリン。知ってるだろ」

「え、ええ。ゲルマニウム地下8階のモンスター。とても貧弱なモンスターである一方で、一撃で倒さなければHP全回復の上強化するから色々やっかいなモンスターよ。まあ冒険者レベルだと実質無害だけど、『育つ』からハグレモノにしていろんな事に利用されてるわ。ちなみにドロップはピーマン、あまりいい稼ぎとは言えないわね」


 セレストはいつもの調子に戻って、さっきおれが街中で倒したモンスター、インクリースゴブリンの詳細を説明してくれた。

 名前を出しただけで、こっちが知っているものよりも遥かに深度の深い情報を言ってきた。

 エミリーに聞いたら何も知らなかったのと対照的だ。


「それだよ」

「え? インクリースゴブリンがどうしたの?」

「ちがう、セレストの事だよ」

「ふぇ?」

「もちろんセレストの大魔法の広範囲での殲滅力はうち(一家)の中じゃピカイチだけど、それ以上にその知識力が半端ない。おれの勘違いじゃなかったら、セレストはもうシクロの全ダンジョンの全モンスターを頭に入れてるだろ?」

「え、ええ。この街に来てだいぶ経つし、覚えてしまったわ」


 事もなさげに、しかも「それがどうかした?」って顔でいうセレスト。

 彼女はきっと、自分がどれだけすごい事をしてるのかまったく理解してないんだろうな。

 そのことでますます好感を強めたおれ。


「それがすごいんだ。もう、セレストがいないのは考えられない」

「そ、それって……わたしが、必要……ってこと?」


 おそるおそるたずねるセレスト。


「もちろんだ。おれたち、ずっと仲間だ」

「……リョータさん」


 セレストはしばらくおれをじっと見つめた後、クスッと微笑んできた。


「それってかなりひどいって分かってるのかしら?」

「ひ、ひどい!? なにが?」

「ずっと仲間だ、っていうセリフ」


 何がひどいんだろうか。


「ふふ……でもいいわ、今は気にしないことにする。わたしが諦めなければいいのだから」

「お、おう。あきらめんな?」

「それに、もっともっと頑張るわ」


 そう話したときのセレストの穏やかな微笑みに、おれは思わず目を奪われて、


「……お、おお。がんばれ」


 としか言えなかった。


 それで話が終わって、おれ達はしばらく祭りをみてから家に戻った。

 余談だが、ニンジンのニンジン詰めという料理をだされて、


「「ふおおおおお」」


 と、おれもセレストも目をハートにして唸ったのだった。


     ☆


 次の日、シクロ南端、収穫祭闘技場。


 たくさんの観客が集まる中、おれとセレストの二人でハイガッツスライムと対峙していた。


 セレストが魔法陣を広げて詠唱したあと、手をまっすぐ突き出して「インフェルノ」を放った。


 炎がハイガッツスライムを焼いていく――ふと、セレストが突き出した拳を握って、「グイッ」とした。

 それで炎が一瞬にして消えて、スライムがボロボロの瀕死になってる姿が見えた。


 おれが通常弾をうって、トドメを刺す。


 歓声が上がった。

 冒険者や普通の街人、そして観光客など、様々な人がいる闘技場が沸いた。


「すごいなあのねえちゃん、あのハイガッツスライムって確か超過ダメージは反射するんだろ。無傷だぜ」

「大技も出来て、細かい調整も出来る。あれはモンスターの事を知り尽くしてる上にテクニックがないと出来ない芸当だ」

「リョータ一家のセレスト……あんなハイレベルな魔法使いが無名だったとはな……」

「完全に信頼して任せたあいつが一家のリーダーか」

「要チェックや」


 かつてはゴミの山と悪戦苦闘していた彼女が、今や様々な褒詞をバックにおれに振り向き、微笑みかけてきた。

 おれはそれに、こっそりドキドキしたのだった。

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