64.二つの魔法
「ウインドウカッター!」
頭の中に浮かび上がってきたやり方をそのままに魔法を使った。
緑色の風が巻き起こって、何もない空間を風の刃が切り裂く。
「それが一つ目の魔法なのね」
「そうみたいだ。ウインドウカッターっていう」
「風属性レベル1の魔法だわ」
「レベル1か、まあ威力的にもそんなもんだけど……たしかにこれはデメリットも大きいな。レベルマックスまであげて、何百万って大金を払ってこんな魔法だったらちょっと切ない」
「エミリーみたいな子が回復魔法を覚えるケースもあるから、一個までならデメリットというより運だね」
「たしかに」
頷いて、セレストに同意した。
そして運がよければセレストが言うように、エミリーの様な純戦士タイプに回復魔法を覚えられたらダンジョンの、冒険の幅が広がる。
そういう意味では、おれは引きはよくなかった。
「もう一つはどんな魔法なの?」
「こっちも微妙なんだよ」
☆
テルルダンジョン、地下六階。
合流したエミリーと一緒におりてきた。
早速この階層のモンスター、親子スライムと出くわした。
大きいスライムが一体に、小さいスライムが多数。
一見スライムの集団だが、実はこれで一体のスライムなのだ。
「じゃあ、打ち合わせ通りに」
「はいです!」
「任せて――インフェルノ!」
セレストが魔法を唱えた。
レベル3の広範囲火炎魔法、インフェルノは拡散しつつあるスライムをまとめてやいた。
子スライムが次々と焼かれ、ドロップせずに消えていく。
「リザヴィレーション」
子が全部消えて、親スライムだけになったところで魔法を唱えた。
魔法の光がパワーアップした親スライムを包む。
魔法の光がスライムの体内に吸い込まれていき、消えてなくなった。
次の瞬間、ハンマーをぐるぐる回してエミリーが飛びついた。
スピードと重さが乗ったハンマーの一撃がスライムにクリーンヒットする。スライムの体がひしゃげて、一部が飛び散った。
子スライムを倒されて上限いっぱいまで強化された親スライムは一撃では倒れなかった。まるで粘土のように形を取り戻して即座にエミリーに反撃。
「させるかよ!」
拘束弾を撃ってスライムの動きを止めた。
反撃の心配がなくなったエミリーは更にスライムに襲いかかる。
餅をつくかのようにスライムを叩き続ける。
おれはある程度距離を詰めた。
拘束弾が確実にあたり、かつエミリーの邪魔にならない距離で銃を構えてフォローに徹する。
エミリーのハンマー乱舞、そして拘束弾を二発使ったあと。
親スライムはエミリーに叩き潰された。
直後、ジャガイモが山ほどドロップされた。
子スライムがかつていた場所から大量にドロップされた。
それはエミリーのドロップEじゃない、おれのドロップSに倒された時のドロップだ。
「すごいです、まるでヨーダさんなのです」
「ということは、今の魔法って……」
「ああ、あらかじめ魔法をかけておいた相手だけ、誰が倒してもおれのドロップが適用される魔法だ」
「つまりドロップS相当に?」
「ああ。しかしこれも相当微妙だぞ。おれ以外がドロップSになるのはいいけど、人間じゃなくて対象モンスターにかけるから、結局おれがいないとだめで、意味はないんだよな」
「そうね。モンスターじゃなくて人間の方にかけられたらリョータさんにかけてもらって手分けして……というのが出来るのだけれど」
「モンスターにかける手間を考えるとおれが倒しちゃった方が早いもんな」
苦笑いして頷きあうおれとセレスト。
意味がないわけじゃないが、微妙に外れっぽい。
「そんな事ないです! ありがとうなのです」
エミリーがいきなりお礼を言ってきた。
「ありがとうって何が?」
「こっちです」
エミリーがおれの手を引いて歩き出した。
野外のようなダンジョンの中をしばらく歩いて行くと冒険者用に設置されたナウボードを見つけた。
エミリーはそれを操作して、ステータスを出す。
―――1/2―――
レベル:25/40
HP A
MP F
力 A
体力 C
知性 F
精神 F
速さ E
器用 F
運 C
―――――――――
「レベル25……レベルアップしたのか今ので」
「はいです! バイコーンの時24であれから上がってなかったですけど、またまたレベルアップしたのです!」
エミリーは満面の笑みを浮かべて言った。
よく見ればレベルだけじゃなくてHPもあがってAになってる。
「そうか、その魔法を使えばトドメをリョータさん以外にさせられるから」
「レベルをあげる事ができるです!」
「……おお」
ポン、と手を叩くおれ。
魔法の実を食べた理由、それはおれのレベルが最大1で固定されてあがらないから。
ドロップがSだから仲間でダンジョンに潜ってるときもおれがトドメを刺すことがほとんどだが、その分の経験値はまったくの無駄だ。
この魔法でそれが解消出来るのだ。
「でも、リョータさんには手間よね」
「そんな事はないっ」
「ひゃう!」
即座に反論するおれに、セレストが小さい悲鳴を上げた。
つい大声を出してしまった。
おれは、気づかないうちに彼女達から経験値を取り上げていたのだ。
その事に気づくと、経験値を返してやらなきゃって気持ちになった。
「これからはトドメを――経験値をみんなで分け合って」
エミリーとセレストを見つめて。
「レベル上げきったら、みんなで魔法の実を食べよう」
「……うん」
「ありがとうです!」