56.能力ブースト
色々試したいから、もう一枚一万ピロのお札を置いて、離れようとした。
そういえばこれからは鳥になるんだっけ、あれって結構早いから、逃すと面倒くさいしもったいないな。
万に一つも逃さないようにきっちり倒すには……さてどうするか?
少し考えて、ある事を思い出した。
「よし、それでいってみよう」
決まった後、今度こそお札から離れて距離をとった。
ハグレモノになる距離ギリギリで銃を構えて、しばらく待った後。
「5、4、3、2、1――」
口に出してカウントダウンした。
カウントがゼロになった瞬間撃った通常弾は、一万ピロ紙幣がハグレモノに孵った瞬間それを撃ち抜いた。
「よしっ」
狙い通り上手くいったことに、おれは小さくガッツポーズした。
ものを置いて離れたあと、どれくらい経ったらハグレモノになるのかはほとんど一緒で、そのタイミングをおれは体感でわかるようになった。
それに合わせて撃ったらハグレモノが出現した瞬間撃ち抜いた。
効率を追求していくと、モンスターの湧きに合わせて攻撃を溜めておく手法がとられるようになる。
それと同じ事だ。
ハグレモノはまた鍵をドロップしたから、それを拾って何もない空中で差し込んで、ひねる動作をした。
遺跡の様なダンジョンに飛ばされた、そこにさっきと同じレイスがいる。
ゆらゆら向かってくるレイスに拘束弾を撃って、拘束されて実体化してるところに飛び込んで手で引き裂いた。
拘束してるから安全ってのもあるが、相手がどれくらい硬いのか知りたかった。
「ゾンビ以上マミー未満か」
大体の硬さを体感でつかめたから満足した。
レイスは消えて、赤い液体のガラス瓶がドロップされて、また野外に戻った。
すぐさまそれを飲んだ。
――鉱物ドロップが10分間3ランクアップします。
今度は鉱物ドロップが3ランクアップするって聞こえた。
さっきは植物、今度は鉱物か。
もうちょっと検証確認したいな。
☆
レイスを倒したあと、青い液体の瓶がドロップされた。
それをためらわず飲む。
――植物ドロップが10分間1ランクアップします。
と聞こえてきた。
くり返し検証で、大体分かってきた。
まず、ドロップは大きく分けて二種類ある。
紙幣でゲットした鍵は、ランダムで一種類のドロップが+3ランク上昇する効果がある。
硬貨でゲットした鍵は、同じくランダムで一種類のドロップが+1ランク上昇する。
額面は関係なく、紙幣が+3、硬貨が+1だ。
でもって同じ色でも、例えば植物のを一回飲めば次からは植物があがるものだと判別出来る。
ドロップは分かった、あとは実際に効果の検証だ。
それには……彼女達の協力が必要になる。
☆
次の日の朝、テルルダンジョンの入り口。
エミリーとセレストとの二人でやってきた。
エミリーは早速提供してもらった新しいハンマーをもってて、セレストは魔力嵐が過ぎたからか、すっきりした顔をしている。
「なにをするつもりなの?」
「エミリー、あの指輪をつけてる?」
「はいです」
「ステータスは?」
エミリーは近くのナウボードに向かって行った。慣れた手つきで操作して、ステータスの二枚目をだした。
―――2/2―――
植物 D(+1)
動物 E(+1)
鉱物 E(+1)
魔法 E(+1)
特質 E(+1)
―――――――――
「ちゃんと上がってるな」
「はいです」
「話は聞いてたけど……本当にそういう効果があるのね」
「次はピンクのサファイヤの腕輪、これを一緒につけてみて、どうなるのかやってみてくれ」
「はいです」
指輪と腕輪を同時に装備したエミリーはナウボードを一から操作した。
―――2/2―――
植物 D(+1)
動物 E(+1)
鉱物 E(+1)
魔法 E(+1)
特質 E(+1)
―――――――――
「おなじです……」
「装備での重複はなしか」
「指輪をいっぱいつけてドロップAにとは行かないのね」
「そうだったらいいんだけど。じゃあ次、これを飲んでみてくれ」
赤いポーションを彼女に差し出した。
おれが一回同じものを飲んで、何が上がるのか分かっている薬。
「同じステータスをみるです?」
「ああ」
エミリーは躊躇なくごくごく飲んだ、直後にびっくりした表情をした。
「聞こえたのか?」
「はい、聞こえたです。でもこれ……本当に?」
「今日はそれを検証するつもりだ」
「なるほどです!」
ここに来て合点がいったエミリー、一方で飲んでないから状況を飲み込めないできょとんとしているセレスト。
そんな彼女をよそに、エミリーはおそるおそる――明かな期待を込めてナウボードを操作した。
―――2/2―――
植物 A(+4)
動物 E(+1)
鉱物 E(+1)
魔法 E(+1)
特質 E(+1)
―――――――――
「す、すごい……」
「わたしが……ドロップAになってるです……」
装備と薬の効果が重複した事に、エミリーもセレストも絶句したあと、おれに尊敬の眼差しを向けてくるのだった。
☆
テルルダンジョン、地下一階。
エミリーはハンマーを振るってスライムに飛びついていった。
出会った頃は待ち構えて、一発受けた後の隙を狙う戦術をしていたエミリーだが、すっかりレベルも上がって、スライムの速度を上回って、先手をとれるようになった。
突進して、スライムが体当たりするのをひょいとかわして、真横からハンマーを振り下ろす。
スライムにジャストミートして、一撃で倒した。
ポン、とスライムからもやしがドロップされた。
「出たです!」
「つぎ行ってみよう」
「はいです!」
エミリーが次々とスライムを見つけては倒して行った。
おれとセレストは魔法カートを押して、ドロップしたもやしを拾っていく。
「すごいわ、九割方ドロップしてる」
「この確率なら……本当にドロップAだな」
「あの薬は消耗品だけど、どれくらいするものなの?」
「一本でジャスト一万ピロ――ああ、倒すのにも弾が必要だからちょっと違うか。原価一万ピロ、うん、これだな」
「そうなの!?」
「一万ピロで十分間ドロップアップか、すごい効果だけど、狩りがせわしなくなるな」
エミリーの狩りを眺めながらそう思った。
「それよりも」
「ん?」
セレストは真顔でエミリーをみていた。
「ドロップAに出来るのなら、むしろレアモンスターが出た時にこそ効果を発揮するわ」
「そうか! レアとかボス前にドロップ率あげとくのは定石だな」
「Aに出来るのなら、そして相手がレアなら――」
「一万ピロはむしろ安い」
おれとセレストは頷きあった。
図らずも、使い道を気づかされた形だ。
「しかしリョータさんは本当にすごい、こんなことが出来るなんて」
まわりに他の冒険者がいるから、セレストはぼかしながら言った。
おれのドロップSはリョータ一家に入る時に一通り説明した。
ポカーンとなって聞いてたセレストだったが、直後に「そんな大事な事をオシエテよかったの?」とかえって慌てた。
一応「秘密にね」と言ったが、セレストが漏らすとは思えないのでそこは大丈夫だろう。
「知り合ってからずっとリョータさんには驚かされっぱなしだ」
「おれ自身も驚きの毎日だ」
「でも楽しい」
「それはおれも一緒だ」
微笑み合うおれとセレスト。
「セレストもやってみるか?」
「わたしも?」
おれは頷き、赤いポーションをセレストに渡して、近くにあるナウボードをさした。
セレストは小首を傾げつつ薬を飲んで、ナウボードを操作する。
―――2/2―――
植物 C(+3)
動物 F
鉱物 F
魔法 F
特質 F
―――――――――
「こ、これはわたし……?」
セレストは絶句した。
ドロップが全部Fの、「Fファイナル」。
そんな彼女はふとした時に自分のドロップの低さを漏らすことがある。
それが一気にCになったんだから、絶句して当然だろう。
例えエミリーがそうなったのをみていて、頭でわかったとしても、自分がそうなるのと驚かずにはいられなかったようだ。
「スライムを倒してみろ、多分普通にドロップする様になるはずだ」
「ドロップ……? わたしが……モンスターからドロップ?」
戸惑うセレスト、そんな事考えてもみなかった、って顔だ。
「さあ」
「え、ええ……やってみるわ」
「だったらこれをつけるのです」
「エミリー!?」
いつの間にか戻ってきたエミリーは、自分がつけている指輪を外してセレストに差し出した。
「そ、それはエミリーがリョータさんからもらったものよ」
「リョータさんからもらったものは一家の共有財産なのです。それよりもすごく気持ちいいです。セレストさんも試すのです」
エミリーは更に指輪を差し出した。
セレストは困った顔でおれを見た。
エミリーの申し出におれも一瞬戸惑ったが――。
「さすがエミリーだな」
「え? どういうことです?」
「そういうところがだ。セレスト、エミリーもそう言ってるし、ためしてみろよ」
「じゃ、じゃあ……」
セレストは指輪をつけて、ナウボードでステータスをチェック。
―――2/2―――
植物 B(+4)
動物 E(+1)
鉱物 E(+1)
魔法 E(+1)
特質 E(+1)
―――――――――
Bまであがった自分のドロップ率に一瞬戸惑いながらも、生唾を飲んで、決意の目をした。
スライムが同時に湧いた。
地面から、壁から、天井から。
まるで洞窟そのものから生まれ出たかのように、5体のスライムがまとめて現われた。
「すぅ――インフェルノ!」
ここぞとばかりにセレストはレベル3の大魔法でスライムをまとめて焼いた。
範囲魔法がスライムを呑み込み、焼いていく。
そして――ポポポポポン!
ドロップBにしてはちょっと運がいいレベルの、5体全部からもやしがドロップされた。
「……」
「ドロップしたです」
「さすがに量はエミリーのAよりも少ないみたいだな」
「はいです。でもよかったのです」
「ああ、よかったなセレスト……セレスト?」
「……」
セレストは呆けていた、まっすぐ前を見つめて、ポカーンとしていた。
やがて徐々にわれにかえって、ぎぎぎ、と音をたてるかのようなぎこちない動きでおれ達に振り向いた。
「リョータさん! エミリー!」
いきなり飛びついてきた。
「ありがとうリョータさん! ありがとうエミリー」
「おめでとうなのです」
「ありがとう……ぐすっ、本当にありがとぉ……」
セレストはわんわん泣きじゃくって、おれ達に抱きついたまま、何度も何度もくり返しお礼を言ったのだった。