49.計画と即興
シクロに帰還した次の朝、おれは久しぶりのニホニウムにやってきた。
セレンで一番多くつかった火炎弾の補充からやった。
地下二階、モンスターはゾンビ。
最初の一体目、久しぶり過ぎて一瞬どうしたらいいのか忘れかけて体が硬直しかけた。
苦笑いしつつ、銃を構えてヘッドショットする。
ゾンビが崩れて、力の種になって、集荷箱に吸い込まれていく。
そうだ、ヘッドショットを決めればいいんだ。
落ち着いてヘッドショットを決めて、ゾンビを倒して行く。
そうして歩き続けて、ふと、なにか思い出しそうになった。
頭が完全に思い出すよりも早く体が動いた。
「はあああ!」
壁がひび割れた一瞬、そこにパンチを叩き込んだ。
力Sの全力パンチ、拳は壁に突き刺さって、硬い岩の向こうに生身の体の感触がした。
ニホニウム名物、アンデッドの奇襲。
ここに通いすぎて、奇襲をかけられる瞬間の気配はもう覚えてしまってる。
兆候が出た一瞬で逆に先制攻撃をかけて、まだ壁の中に埋もれているゾンビの頭を拳でぶち抜いた。
ってまずい、壁の中で倒したら種も壁の中じゃん。
種は触ると消えるんだよな、力はもうSまで上がってるから力の種は弾にしたいから触れない。
と思ったけど杞憂だった、集荷箱はしっかり効果を発揮して、ドロップ品の力の種を壁の中から吸い出してくれた。
地下二階でゾンビを倒し続けて、火炎弾を200発補充した。
☆
ニホニウム地下三階、モンスターはマミー。
包帯でぐるぐる巻きにされたマッチョなアンデッドモンスター。
その見た目通りこいつらはタフで、通常弾一発じゃ倒せない事がおおい。
そのため時間がかかる事が多い。
午後はテルルでエミリーとセレストと合流して、地下六階に潜る約束だ。
時間的に、もう一時間もない。
地下三階の入り口でおれは迷った。
時間はあまりない、切り上げるべきか、続けるべきか。
「……やろう」
セレンでの事を思い出して、おれは続ける事を選択した。
まずは目を閉じて、ニホニウム地下三階の構造を頭に思い浮かべる。
そしてマミーがよくいるポイント、普通に出てくるポイント、奇襲してくるポイント。
それらに再発生の時間を加えて、頭の中でルートを構築する。
もっとも「効率的に周回する」ルートを。
「……よし!」
決まった後、おれは走り出した。
早速マミーと出会った。二丁拳銃で融合の貫通弾で頭をぶち抜く。
そいつが倒れるのを待たずに抱き留めてそのまま先に進む。
途中でマミーが消えて、速さの種をドロップした。
――速さが1あがりました。
A止まりの速さが1あがった。
バイコーン戦の反省で、速さをSまであげようと思ったのだ。
おれの特性でもあり、この世界の理でもある。
ステータスのSはあらゆる面で特殊扱いだ。
だからそれをあげていこうとした。
待ち合わせギリギリだが、あげようと思った。
またマミーが現われた。
今度は首を掴んで持ち上げて、次のポイントに進みながら頭をぶち抜く。
速さの種をとって、能力を上げる。
ちょっとした広間にやってきた。
マミーが二体いた。片方に火炎の融合弾をぶち込んで放置して、もう片方がいるところに走った。
こいつは銃じゃなく、肉弾戦で倒した。
見た目通りの力をもってるマミーだが、力Sのおれにはかなわない。
蹴り上げてハンマーパンチで叩き落として、頭を踏みつぶして倒す。
ドロップした速さの種を拾ってから、反対側に戻る。
さっきのマミーはドロップして速さの種になっていた、それに近づくと壁の中から別のマミーが出てきて奇襲をかけてきた。
「ドンピシャ!」
奇襲・再生のタイミングは頭の中で練り上げたルート通り。
こいつは貫通弾で瞬殺して、合計二つになった速さの種を取って、次のポイントに向かう。
こうして様々な手を使って。
速さがSになって、二人との待ち合わせもギリギリだけど間に合った。
☆
テルル地下六階。
まるで野外のような洞窟の中、集中してスライムを探す。
ふと、離れたところにそれを見つけた。
木々と草むらが点在する区域から抜けて、岩とか土しか見えない荒野の様なところにやってきた。
地面の一点にちょっとしたくぼみがあって、そこに水がたまって、地面がぬかるんでいる。
そこに子スライムが何体かいて、まるで泥遊びをしているかの様にしていた。
「子供だけです。こうしてみるとすごく可愛いです」
「子ぶたみたいだな。にしても親スライムはいないのか?」
「親子スライムはそれで一体のモンスター、必ずどこかにいるはずよ」
「なるほど。おれが前衛に出るから――」
言いかけた瞬間、目の前の岩がのそりと動いた。
岩じゃない、泥をかぶった親子スライムだ!
偽装――地面に同化した親子スライムに不用意に接近したせいで奇襲を受けた!
子が一斉に飛びかかってくる、腕をクロスして体当たりをガードしつつ、後ろに飛んでダメージを逃がす。
「やああああ!」
「エミリー!?」
下がるおれの代わりにエミリーが前に飛び出た。
ハンマーで地面を思いっきり叩く、泥がパジャ、と濡れた音と共に飛び散った。
「はああああ!」
それだけでは終わらず、エミリーはハンマーを真横にスイングした。
風圧を伴って泥と岩と親子スライムが同時にすっ飛んでいく。
それをみて、おれは空中にいたまま銃を構えた。
冷凍弾を撃って、泥と岩を凍らせる。
泥混じりの氷の壁になった。
壁がスライムを押し返し、そのスライムが反撃して次々と壁にタックルしてきた。
すこしだけひび割れてきたのをみて、もう一発撃ち込んで氷の壁を補強する。
同時に突進、壁を押した。
目測十センチはある氷の壁を使って、親子スライムをブルドーザーのように押していき、最初にみた泥遊びしてるスライムのところにおしこんだ。
これでひとまとめになった――と思ったら、真横にすり抜けた子スライムが一匹飛んで来た。
全力で押してる、避けられない――。
と思ったら普通に避けられた。
上体をのけぞってスライムをつかんで、氷の壁に押し込む。
結構余裕だった。
一瞬戸惑って、すぐに理由が分かった。
速さSになったが、体の感覚はまだAの時のままだからだ。
それで避けられないと思ったが、実際は避けられた。
「ヨーダさん!」
「おう!」
氷の壁を蹴って後ろに飛んだ。
「インフェルノ!」
おれが離脱した瞬間、親子スライムを炎が包み込んだ。
炎は壁を溶かし、子スライムを焼いていく。
その炎の中で、強化した親スライムはまるで不死鳥の如くじわじわと向かってきた。
ちょっとだけかっこいいと思いつつ、二丁拳銃を構えて、きっちり消滅弾を四発たたき込む。
弾が親スライムをえぐって、ほぼ、瞬殺した。
昨日と同じように、親子スライムから大量のジャガイモがドロップした。
ちなみに子スライムを全部倒してから親スライムを倒した場合、ドロップの総額はおよそ12万5000ピロ。
力を合わせての12万ピロだった。
エミリーとセレストがやってきた。
三人、互いをみつめた。
昨日は打ち合わせした結果の勝利。
今日のは、ほぼ即興でみんなが力を発揮しての勝利。
無言のまま微笑み合って。
おれ達は、肘でハイタッチしたのだった。