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44.オールラウンダー

 朝、目が醒めた後、実家の様な安心感のあるテントから出て、伸びをした。

 請け負った仕事は達成したから、今日はちょっとだけ遅くまで寝た。


 エミリーのテントの効果も相まって、すっきり爽快、疲れが完全にとれていた。


「むっ?」


 ふと、ゴミの山でセレストがきりきり舞いしてるのが見えた。

 昨日一掃したのにゴミが山の様になっていた。

 いや、普段よりもむしろ多い。


 倍近くはある感じだ。

 セレストに近づき、後ろから話しかけた。


「おはよう」

「おはよう、ようやく起きたのね」

「エミリーのテントが快適すぎてね」

「わかるわ。わたしも朝テントを出るのが大変だった。あと5分、あと1分、あと30秒……大変だったわ」

「言っとくけど普通の家はこんなもんじゃないぜ。テントでさえあんなに優しくて温かいんだ、わかるだろ?」


 セレストがゴクリ、と喉を鳴らした。


「テントより……ごくり」


 ぶつぶつつぶやいてる、想像してるな。

 ちょっとだけ誘ってみたい。

 なんというか、エミリーを自慢したい。

 シクロに戻るときにちょっと誘ってみよう。


 さて、


 そう思いつつ、ゴミの山を見あげる。


「そういえばどうしたんだこれは、今日のゴミはいつもよりだいぶ多くない?」

「そうなの。どうやらダンジョンマスターが出たらしくて、冒険者達はダンジョンに入れないから、ほぼ全員がヤケで飲み食いしてたらこうなった」

「ダンジョンマスター?」


 首をかしげる。

 はじめて聞いた言葉だな。


「名前の通りダンジョンのぬしよ。数ヶ月に一度しか現われないから、セレンでははじめてだとおもう」

「へえ、そんなのがあるんだ。つよいのか?」

「つよいわ、それが問題よ」


 どういう意味なんだろう、と首をかしげる。


「いまセレンに集まってるのはほぼ周回型の冒険者なの。おなじモンスターを安定して狩り続けるのに特化した人達」

「格上のモンスターに対処出来ないってことか」

「そう。明日には対処するための冒険者が来るわ。ダンジョンマスターの相手が得意な人達が」


 なるほどね。

 冒険者にもいろいろあるんだ。


 まあ、空気を生産して姫様の空気箱にして売ってる人間がいるし、おれみたいに新しいダンジョンの調査に能力が適してる人間もいる。

 格上のモンスターに特化した冒険者がいてもおかしくはないな。


 餅は餅屋、そっちは向こうに任せておこう。


「あっ……」

「どうした」

「向こうでハグレモノ化しちゃってるわ。数が多すぎて反対側は人がいない判定になったのね」

「おれが倒してくる」

「え? でも」

「どうせ今日はダンジョンに潜れないんだ、手伝うよ」

「……ありがとう」


 セレストは何故か赤面してお礼を言った。


 おれは二丁拳銃を持って、ゴミの山をぐるっと回って反対側に向かう。

 小走りで約一分、結構な距離を走って反対側に回った。


 そこにフランケンシュタインがぞろぞろいた。

 まあ、そうだよな。

 人がいないところでハグレモノに孵るんだ、こんなにまとめて何かがあったら一体とか二体とかじゃないよな。


 セレストは困ったが、おれはにやっとした。

 ハグレモノはおれからすれば宝の山だから。


 赤いルビーの腕輪、ハグレモノのドロップがたまにアップする効果の腕輪をつける。

 二丁拳銃に火炎弾を装填して、フランケンシュタインを安全距離から狩っていく。

 立ち止まって、炎の融合弾で次々と倒す。


 燃え尽きたフランケンシュタインから黄金の追尾弾がドロップする。

 基本一発、たまに腕輪の効果で二発がドロップ。


 流れ作業でハグレモノを倒して行く。


 ふと思った、おれのスタイルも周回型に分類されるよな。

 安全な、効率のいいやり方にいつの間にか体が染みついてる。

 スライムを魔法カートの上に誘導して倒したりとか、効率をあげる工夫を自然としてる。

 それはそれでいいんだけど、


「たまにちょっと違う事したくなるな」


 つぶやいて、思わず苦笑いした。

 フランケンシュタインが最後の一体になったところで、銃をしまって、拳を握って踏み込んだ。

 ツギハギだらけの筋肉から風を切る音のパンチが繰り出される。


 両手でそれを受け止めた、パチーン、って音がして、衝撃波がまわりのものを吹き飛ばす。


「うおおお!」


 腕を掴んで引いて、バランスを崩してカウンターのパンチ。

 吹っ飛ぶフランケンシュタインに突進して追いついて、手を組んでハンマーパンチで叩く。

 巨体がフォークして、地面に突っ込む。

 地面がひび割れて、クレーターができた。そこからもがいて起き上がろうとするフランケンシュタインはやっぱりタフだ。


 手を休めず追撃をする。

 力Sと速さA、高い身体能力を駆使して、マンガとかアニメとかでみた様な格闘の技を実演する。

 世界一有名な対空技も、昔は友達にジャングルジムから飛んでもらってやったら手首をひねって大変なことになったけど、今は問題なくフランケンシュタインの巨体を吹っ飛ばせた。

 ちょっと、キモチイイ。


 いろいろやって、だいぶ時間掛かった。

 今までの群れにかけた時間の倍を使って、たった一体のフランケンシュタインを倒した。

 ドロップしたのは、同じく黄金の追尾弾一発。

 腕輪が発動していないから、たったの一発。


 成果はまったく一緒、効率は最悪。

 それでもやりたかった、そして気持ちよかった。


 効率プレイしつつも、どこかではっちゃけてしまいたくなる。

 おれの悪い癖だ。


 でもスカッとした。

 同時に再確認した、効率プレイ以外の事も出来るって。


 追尾弾を拾って、ぐるっとゴミの山を回って元の場所に戻った。

 そこにはおれとは正反対の、効率最悪の人がいた。


 セレストはちょっと離れたところにあるちょみっとしたゴミにもインフェルノを放った。


 ゴミを燃やしていくうちに、どうしてもあっちこっちにちょっと残ってしまうんだ。

 普通ならちょっと残ったヤツには弱めの魔法でいいんだが、セレストは一種類の大魔法しか使えないから、こういうとき死ぬほど効率が悪い。


 そして、それで魔力をある意味無駄使いして、体力を消耗してしまう。

 今もふらふらしている。


「エミリー、いるか?」

「はいです」


 呼びかけにすぐに反応して、エミリーはテントから出てきた。


「セレストを休ませよう。テントの中に拘束して無理矢理休ませよう。ゴミはおれがやる」

「わかったです」


 エミリーはそう言って、セレストに向かって行った。

 手を掴んで、テントの中に引きずり込もうとする。

 ニコニコ顔のエミリー、困った顔のセレスト。


 彼女はエミリーを振りほどこうとするが、振りほどけない。

 170センチ近い長身のセレストが、130センチくらいのエミリーに力負けしている。

 ちょっと面白い。


 そうして、セレストはエミリーにテントの中に引きずり込まれる。

 入る前にエミリーがちょっとテントをずらした、ゴミから遠ざけた。

 さすがのエミリー、ハグレモノ――フランケンシュタイン化のフォローも忘れない。

 すごい(ひと)だ。


 もっとすごいのは、一瞬だけテントの開いたところから神々しい、神殿のごとき波動がみえたこと。

 さすがエミリー、すごい女だ。


「充分に癒されて来るが良い」


 セレストを祝福しつつ、おれはゴミから距離をとって。

 今度は火炎融合弾を使って、効率プレイに徹した。


「ん……きもち、いい……」


 テントの中で気の抜けたほんわかな声が聞こえてくる中、おれはゴミを一掃して、大量の追尾弾をゲットした。

 最後の一体はまた殴ろうとしたが、苦笑いと共にぐっとこらえて、やっぱり火炎弾で倒す。


「おっ?」


 ふと、シクロの方から四人の冒険者がやってきた。

 みた感じ戦士系が二人、魔法使い系が二人。

 四人とも雰囲気のある実力者に見える。

 それに組み合わせのバランスもいい。


「あれって」

「たぶんダンジョンマスター討伐の冒険者なのです」


 よこからエミリーが言ってきた。


「やっぱりそうか」

「はいです。実力者なのに魔法カートを持ってないです。討伐だけにきてる装備ですね」

「ああ、確かに」


 冒険者達は全部が戦闘用の装備だった。

 周回生産ならそれなりの装備、魔法カートとかいろいろ持ってくるのに、そういう系統のものはまったくない。


 討伐に特化した装備のようだ。


「明日からセレンも通常運転に戻るな」

「はいです」

「ところでセレストは?」

「お昼寝をしてるです。起きたら一緒におやつにするです」

「おれの分も頼む」

「はいです!」


 セレストを癒やすための、起きた時のエミリーのおやつ。

 何が出てくるのか分からないけど、想像するだけでよだれがでた。


 期待通り、おやつはセレストだけじゃなくて、おれまでもいやされてしまった。


 エミリーにいやされる夜。

 その裏で、討伐の専門家がダンジョンマスターによって全滅させられていた。

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