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39.あなたのために

 セレンダンジョン、地下二階。

 そこにエミリーとやってきて、モンスターを探した。


 少し歩いてると、地面からにょきにょきと生えるように出てきた。


 セレン地下二階のモンスター、トレント。


 成長し終えたそれは傍から見て3メートルくらいの高さの老木だが、近づくとこっちに反応して、枝を触手のようにしならせて攻撃してきた。


 とっさにかわして、エミリーを見る。

 彼女は真顔でトレントを見つめている。自分の体よりも巨大なハンマーを持つ手にも力が入る。


「さて、やるか」

「はいです」


 エミリーは一つ深呼吸して、ハンマーを担いで飛び出した。

 その手には、おれがプレゼントした指輪がつけられている。


 地を蹴って飛び込むエミリー、トレントが鞭のような枝で迎え撃つ。


 おれは援護射撃した。

 通常弾を撃って触手をはじく。

 エミリーは突進を続け、最後にジャンプしてハンマーを真っ向から振り下ろす!


 ベキッ!

 木材が折れる音がして、トレントの触手枝が半分粉々になった。


「やったか?」

「ひゃ!」


 着地するなりのけぞるエミリー、トレントが反撃した。

 残った触手で攻撃してエミリーを押し返した後、砕かれた枝が再生をはじめた。


 ものすごい勢いで、ほんの五秒で元通りに再生した。


「上のレアスライムと同じだな。なるほど、セレンは自己再生持ちがおおいのか……エミリー」

「大丈夫です!」


 エミリーは再度飛びかかって、ハンマーを何度も何度もたたきつけた。

 まるで餅つき……そんな言葉がおれの脳裏をよぎる。

 全開で叩くエミリーによって、トレントは粉々になった。


 再生を上回るダメージで粉々になったトレントは、ポンと音を立てて消えた。


「念入りに叩けば大丈夫みたいだな」

「はいです」


 頷くエミリー、その横顔は頼もしかった。


 トレントは倒したが、ドロップはなかった、気にしないで次を探した。

 すぐにまた次のトレントが生えてきた。


 完全に成長しきる前に飛びかかるエミリー。彼女の先制攻撃だ。

 援護の必要がなく、今度は一撃でつぶした。


 アイテムがドロップした。

 老木がポンと音を立てて消えて、肉がドロップされた。

 ジューシーそうな鳥の胸肉だ。


 胸肉か、これは単価安いのかな。

 などと、おれがそんな事を思ってる一方で。


「ドロップしたです……」


 エミリーはドロップした胸肉を拾い上げて、まじまじと見つめながら声を震わせ感動した。


「そんなに大事なのか」

「わたしドロップFだったです。FってEのすぐ下ですけど、実際はすごく差が開いてるです。ドロップが全部Fの人は『Fファイナル』って呼ばれて、一階からはいるのを禁止するダンジョンもあるくらいです」

「そうなのか。だからFを差し向けてきたのか」


 エミリーが首をかしげる。

 彼女にヘテロ側が雇った実力者、ユージンの事を話した。

 戦闘力は強いが、植物ドロップFという男の事を。


「そういう戦略もあるですね」


 エミリーは妙に感心していた。

 しばらくして、彼女はドロップした胸肉を魔法カートに入れて、おれを上目遣いで見た。


「ヨーダさん、本当にありがとうです」

「喜んでもらえて嬉しいよ」

「こんな装備品きいたことないです。やっぱりヨーダさんだからです?」


 後半は声を押し殺すエミリー。

 ドロップS、今のところほぼおれたちの間の秘密で、エミリーだけが知っている秘密。

 だから彼女は押し殺した声で聞いてきた。


「正解。ハグレモノにして、もう一回倒した」

「やっぱり……さすがヨーダさんです」


 さて、指輪の効果もチェックしたし。

 あとはゆるゆるとモンスターを狩って金を稼ぐか。


「これで……動物でも鉱物でも……。ヨーダさんにどこまでもついていけるです……」


 エミリーはそっと指輪に触れて、穏やかな表情でつぶやいた。

 何をつぶやいたのかはよく聞き取れなかったが、嬉しそうだから贈った甲斐があったと改めて思った。


 そんなエミリーにモンスターが奇襲した!

 地面からじゃなく、真横の壁から老木が生まれた。

 鋭い枝触手が空気を裂いて彼女を襲う。


「エミリー!」

「――っ!」


 おれの声に反応してとっさに横っ飛びするエミリー。

 モンスターの攻撃が彼女の立っていたところの地面をえぐった。


「大丈夫か?」

「はいです」

「よかった」

「それよりもこの木、さっきのとちょっと違うです」

「むっ?」


 無事だったエミリーに言われて、改めて襲ってきたヤツを見る。

 みた感じやはり老木だった、しかし木のくせに顔がついて、その顔も老人のようで、ヤギヒゲを蓄えているように見える。


 サイズは一回り大きくて、雰囲気もある。

 あきらかにさっきのとは違うヤツだ。


 まわりを見た、ちらほら見えている冒険者達が戦っているのは全員さっきのと同じトレント、こいつとはちがう。


「つまりこいつが地下二階のレアか」

「きっとそうです――ひゃ!」


 レアトレントが触手を振った、通常のヤツ以上の鋭さ、エミリーはとっさにハンマーでガードして、吹っ飛ばれてしまった。


「エミリー!」

「大丈夫です!」


 着地したエミリーがハンマーを構える、大したダメージはないようだ。


「この――」


 おれは銃を構えた――瞬間、躊躇した。

 セレン地下二階のモンスター、ドロップは肉。

 そのレアモンスター、ドロップもきっと肉。


 確認されてないけど、理論上は間違いなくて、あとは証拠だけを待っている状態。

 シクロと、ヘテロの両方がそれを待っている。


 こいつが、なんかの肉をドロップする事を。


「出たぜ、トレントビアード」

「あーちくしょう、おれがほしかった」

「ドロップするなドロップするなドロップするな」


 気づけばまわりに冒険者が集まってきていた。

 きっとこのレアモンスター――トレントビアードとやらからドロップを確認したらヘテロのダンジョン協会からたんまり報酬が出ることになってるんだろう。

 おれがシクロから地下一階のでもらったように。


 それをもらえるのは一番乗りの人間だけだ。

 そしてモンスターは最初に確保した冒険者以外による横殴りは禁止されている。

 だから他の冒険者はおれがドロップしないことを祈ってる。


 ドロップしなければ次に出た時自分達にチャンスが残る。


 が、おれはドロップSだ。

 こいつを倒したら間違いなくドロップさせてしまう。


 どうする?

 おれが倒してしまったら、おれの手でシクロとヘテロの勝負をイーブンに戻すことになる。

 それは――馬鹿げてる。


 ふと、冒険者の中に知った顔を見つけた。

 ヘテロのダンジョン協会の責任者、ハーバードという男だ。

 ハーバードはおれをみている、薄ら笑いを浮かべている。


 見抜いてる、のか?

 おれの迷い、その原因まで見抜いてるのか?

 可能性はある、実力のある冒険者ならドロップも高い、というのは何もおかしくないだれもすぐたどりつく想像だ。


 多分ハーバードは見抜いてる、

 よく見ると、彼の横に一人の男が立っている。

 ユージンとは違うが、やはり雰囲気のある男だ。


 ハーバードと同じように、おれにも分かる。

 多分そいつは動物ドロップA持ちだ。

 ヘテロ側もきっと情報に懸賞金をかけて、それでレアが出たからすぐに駆けつけたんだ。


 よく見たら反対側にデュークが――シクロ側の責任者であるデュークも来ていた。

 こっちは困った顔でおれを見ている。


 野次馬多数、両方の責任者ともにいる。

 ますますおれが倒す訳にはいかないな……なら!


「エミリー!」

「はいです!」


 呼んだ瞬間、横から風が通り過ぎていった。

 おれの横を駆け抜けていったのはエミリー、巨大なハンマーを担いだ130センチの女の子。

 彼女はチラッとおれをみて、ふわっと何かを投げてきた。

 とっさにキャッチする――彼女にプレゼントした指輪だ。


 おれが思った事をエミリーも気づいたようだ。

 いや、きっと彼女の方が先に気づいてる、長年動物ドロップFだった彼女の方が。


 そんな彼女はトレントビアードに挑んでいった。

 自分のドロップを――指輪を外してFに戻したドロップを活用するように。


「援護する」


 銃に冷凍弾を装填して、地面に向かって連射した。

 ヤギヒゲの老木の足――根っこごと凍らせて、枝触手も全部凍らせて。

 動きを完全に止めたそいつに、エミリーが飛びかかる。


「やあああああ!」


 ダッシュして飛び上がったエミリーはハンマーを真っ向から振り下ろす。

 気合一閃、ダンジョンが揺れる程の一撃。

 エミリーは、トレントビアードを一撃で砕いた。


 レアモンスターは消えて――ドロップはなかった。

 まわりの冒険者がドロップなしに喜んで、わいわいがやがやと散っていく。


 薄ら笑いを浮かべていたハーバードはエミリーが倒した(、、、、、、、、)事の意味も理解して、苦虫をかみつぶした様な顔で冒険者と一緒に立ち去った。


 ハーバードがいなくなった後、おれはエミリーに近づき、彼女に指輪を返した。


「ありがとうエミリー」

「どういたしましてです」

「にしてもすごいな、おれが頼む前にはもう飛び出してた」

「さっきの話を思い出したです」

「そうか」

「ヨーダさんのお役にたててよかったです。いつも何が出来るか考えてた甲斐があったです」


 エミリーは屈託なく、微笑みながら言った。

 胸が、ちょっと熱くなった。


「ありがとう、助かった」


 エミリーに微笑みかけて、手を握って、指輪を返す。

 彼女は嬉しそうに、大事そうにそれを受け取った。


 嬉しいと共に、わくわくする。

 多分、おれがハグレモノを倒せば他のアイテムもでる。

 アイテムは種と似てステータスをあげるが、外せば効果がなくなるから、効果を自由に変動させられる事ができる。


 それはいろんな可能性に繋がる、と、理解したおれはわくわくした。


「ありがとう! ありがとうサトウさん!」

「おっと!」

「本当にありがとう、サトウさんが自分で倒さなかったのはそういうことだよな。本当にありがとう」


 エミリーのドロップの低さを状況で理解したデュークに、おれは何度も何度も、お礼を言われたのだった。

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