34.追尾の弾と頑張りすぎる人
新しい弾丸、黄金色の弾丸を銃に込める。
離れたところに食材として持ってきて、まだゴミになってないニンジンを地面に置く。
離れて、じっと待つ。
隣でエミリーが固唾をのんで見守っている、下手すればおれ以上に緊張して、そして期待している顔。
しばらくして、ニンジンがハグレモノ化して、眠りスライムになった。
狙いを定めて、よく知っている眠りスライムの動きパターンを含めて予測して、撃つ。
銃弾が飛んでいく。
飛んで来たスライムは放物線の軌道を描いてる、そのまま降りてきて、ちょうど弾丸と交錯する形であたるはずだ。
と思ったら弾丸が途中で曲がった!
眠りスライムの軌道にあわせて上に曲がって、放物線にあわせて弾丸も放物線の軌道で下降した。
そして、命中。
予想したポイントで眠りスライムを撃ち抜いたが、途中経過は予想外だった。
「ヨーダさん、今のって……曲がりました……です?」
「ああ、曲がった。というか追いかけたな、弾丸の方が」
「やっぱりそうだったですね」
「……追尾弾、ってところか」
今の光景をもう一度思い浮かべた。
眠りスライムの軌道にあわせて動いた弾丸の軌道を。
「試したいな。ゴミはまだあるかな」
「作るです!」
エミリーはバタバタ荷物のところに走って行って、慣れた手つきで湯を沸かしてお茶をいれた。
その茶葉――ゴミになったそれを今度は離れたところにおいて、おれにはお茶だけ持ってきた。
「ありがとう、エミリーも飲みなよ」
「準備したら飲むです」
エミリーはそう言って、先回りで次の準備をした。
ゴミの真逆の方向にニンジンをおいてから、おれのところに戻ってきた。
二人で一緒にお茶を飲んで、待つ。
ゴミのハグレモノ、フランケンシュタインが出て、融合火炎弾で瞬殺。
ドロップした黄金の弾丸を拾ってると、エミリーが設置した時間差通りに眠りスライムがでた。
「ありがとう」
「えへへ……」
嬉しそうなエミリー、そんな彼女に感謝の念をさらに送ってから、黄金の弾丸を込めてあさっての方向に向かって撃った。
弾は撃ち出された瞬間急カーブした。
通常じゃあり得ない様な曲がり方をして、眠りスライムをピンポイントで撃ち抜いた。
「すごい……すごいですヨーダさん」
「うん、やっぱり追尾弾ってところだなこれは」
ゴミから再生した銃弾はかなり便利な代物だった。
☆
徹夜して、色々試して見た結果、追尾弾の性能が大体分かった。
まず、おれが当てようとした相手には絶対に当たる。
バッドスライム、コクロスライム、ヘビスライムと。
ものすごく動き回るスライム達を出して見た結果、相手がどう動こうが追尾弾はそれを捕らえてくれる。
命中率は100%だ。
威力はちなみに通常弾と同レベルだった。
つまり必ず当たる通常弾と言うこと。
100%当たるというのはすごく効果的な事で。
数を揃えていこうと、おれは思ったのだった。
☆
次の日、テストのしすぎて若干寝不足だったが、朝から出発した。
昼頃になると、遠くにそれが見えてきた。
大量のテントがダンジョンの入り口に集まっている。
「あれが目的地なのです?」
「そうみたいだ。ちなみにダンジョンの名前はセレン」
「女の人っぽい名前です。どういうモンスターがいるですか?」
「聞いた話によると――」
ダンジョン長から前もって聞かされた情報を思い出そうとすると、おれは、ダンジョンとテントから離れた場所に違う集まりを見つけた。
遠目からでも分かる、ゴミの山。
……宝に見えるものが、そこに文字通り山積みになっていた。
☆
ゴミの山に近づいていくと、黒髪で長身の美女がいるのが見えた。
すらっとした、モデル体型の美女だ。
彼女は一つ深呼吸してから、足元に魔法陣を広げて魔法を使った。
かざした手から炎の玉を打ち出して、ゴミ山の一角に当てた。
ゴミはゆっくりと燃えていった。
炎の勢いの割には燃えるペースが遅い。
昨日おれも体感したけど、この世界のゴミはもやし辛い特性を持ってる。
それはいいんだけど。
「あの人は何をしてるんだ?」
「多分ですけど、ゴミを処理する人だと思うです」
「ゴミを処理?」
「街とおなじダンジョンのまわりにいっぱい人がいるです、人が生活するとゴミがでるです、それを処理する人がいるのです」
「ああ、なるほど」
考えてみればその通りだな。
ちらっとセレンダンジョンの方をみた。
そこにたくさんのテントと、冒険者がいる。
ダンジョン長から聞いた話だ、今はシクロでもヘテロでもないダンジョンだから、セレンのドロップは税金がかけられることはない。
だから一部の冒険者がここまで来て稼いでるらしい。
そういう冒険者がいれば、たくさんでるゴミを処理する人間も当然いる。
うん、あたり前のサイクルだ。
「あっ」
「どうした」
「ダンジョンの方からゴミが運ばれてきたです」
「本当だ――って、今さっき彼女が燃やした分量よりも多くないか?」
「多いです」
エミリーとしばらくそこで見ていた。
ゴミを処理しているのは黒髪のモデル美女一人だけだ。
魔法使いらしき彼女は炎の魔法でゴミを燃やしているが、あきらかにゴミの出るペースに追いついていない。
だからこのゴミの山か。
「あっ! ふらふらしてるです」
「本当だ」
エミリー走り出した、おれも遅れて後を追いかけた。
「大丈夫です?」
「あなたたちは……?」
「えっと、ダンジョン調査にきたです」
「そう。この辺で寝泊まりするのなら、ゴミは全部ここに持ってきてね。分類はいらない、炎でもやしてるから」
「それはいいですけど……ちょっと休んだ方がいいですよ」
「ありがとう、でもそうもいってられない。ゴミは早く処分しないと皆の営みに影響を出してしまう」
「でも……」
「大丈夫だ」
女の人はそういって更に魔法を使おうとした、が。
魔法陣は足元に一瞬広がっただけで消えた、同時に彼女はふらついた。
「大丈夫です!?」
慌てて抱き留めるエミリー。
「だ、大丈夫だ」
彼女は強がったが、おれは見逃さなかった。
綺麗な顔は目の下にクマが出来てて、顔色も青ざめている。
よく見れば不健康的な痩せ方をしている。
会社時代によく見た、月100時間を超える残業をしてた人達の顔だ。
そんな彼女は立ち上がろうとした、ゴミ処理をしようとした。
責任感の強さが顔に出ている、が。
おれは無言で弾を装填して、撃った。
回復弾の融合弾、睡眠弾で彼女を眠らせた。
「エミリー、彼女の介護を頼む」
「わかったです、ここから離れるのです」
エミリーは一瞬で理解して、彼女を担いでこの場を離れた。
おれも、ゴミの山から距離をとった。
真上にカラスが飛んでいてもおかしくない、どこからどう見てもゴミの山だが、今のおれには宝の山に見えた。
距離をとって、銃弾を装填して、待つ。
しばらくすると、ゴミが次々とハグレモノのフランケンシュタインになって。
おれは、片っ端からそれを倒して行き。
大量の追尾弾を手に入れたのだった。
☆
「う……ん」
テントの中、目覚める美女。
目をあけてしばらくぼうっとしていたが、ハッとして目の焦点があって飛び上がった。
「無理はしないで、もう少し休んでた方がいい」
彼女はこたえずにテントから飛び出した。
あとを追って外にでるおれとエミリー。
すると、彼女が呆然と立ちつくしているのがみえた。
視線の先はゴミがあった場所、しかし今は何も無い場所。
「……どういうこと?」
「代わりに処理しといた」
「あ、あなたが?」
「ああ」
頷くと、彼女はおれをじっと見つめた。
呆けた顔でじっと見つめた――と思いきや。
へなへなと、その場にへたり込んだ。
「よかった……」
「え?」
「稼ぎにくる冒険者が日に日に増えて、わたしの処理能力を上回ってたからどうしようかと思ってたんだ……」
「そうだったのか」
大変だったんだな。
「ありがとう、本当にありがとう」
彼女はへたり込んだままおれを見あげて、何度も何度もお礼を言ってきた。
とおもったら、急に電池が切れたかのようにまた倒れた。
とっさに抱き留める、長身なのに体の軽さに驚く。
よっぽど頑張ってたんだろうな、と思った。
「エミリー」
「はいです! 元気がつくものを作るです!」
エミリーは笑顔で頷いて、バタバタ動きだした。
とりあえず、彼女をもう少し休ませてやろう。
おれ達はそう思ったのだった。