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31.米騒動

 午後、この日初めての稼ぎである4万ピロ分のもやしを魔法カートごと買い取り屋に運んできた。

 中にはいると、ちょっと様子がおかしい事に気づいた。


 買い取り業務はいつも通りやってるけど、店の人間はカウンターの向こうで深刻そうな顔をして何か話してるし、冒険者もいくつかのグループに分かれてこれまたみんな気難しそうな顔をしてる。


 なにかあったのかな、と思いながらカウンターに向かい、エルザに話しかけた。


「こんにちは」

「あっ! リョータさん」

「なにかあったのか?」

「実は……ストライキが起きたんです」

「スト?」


 この世界に来てはじめて耳にした単語だ。


「ストライキって分かりますか?」

「いや」


 即答で首をふった。

 正確には分かるけど、この世界だときっと微妙に意味が違ってるだろうと思う。

 今までの経験から、またダンジョンがらみなのだろうな、くらいは察しがつくけど。


「シリコンのダンジョンはご存じですよね」

「ああ」

「あそこの地下六階って、シクロで唯一米をドロップする階層なんです」


「唯一米をドロップするって相変わらずすごい字面だな」

「え?」

「ごめんこっちの話。で? その地下六階がどうしたって?」


「そこってアダルバード一味の縄張りなんです。たまにあるんです、徒党を組んで、ダンジョンの一階層を仲間内で独占する人達って」

「前にきいた気がするなその話」

「でですね、最近ニホニウムダンジョンが出来たじゃないですか。そのニホニウムがドロップなし確定になったので、アダルバード一味が動き出したんです。シクロ米はこの階だけ、売って欲しかったら値段上げろって」

「なるほど……」


「新しいダンジョンが出来た時はみんな期待するんです。ドロップがかぶると独占が崩れますから。残念です……」


 ものすごく残念そうにして、しょぼくれるエルザ。

 みれば、他の店員も冒険者も、アダルバードの話をしていた。


 ニホニウムがドロップなし――おれだけ特殊ドロップする事でラッキーだと思っていたが、こういう影響がでるんだな。

 つくづく面白い世界だ――って思うけどそれどころじゃないんだろうな。


 米を独占されて市場に出るのを止められるのでは困る人がおおいだろうな。


「街の偉い人がなんとか交渉してますけど、アダルバードの一味は数が多いしみんな腕もたつし、多分、値上げするしかないだろうなって」

「……」


 それは、よくないな。


     ☆


 シリコンにやってきた。

 騒ぎのまっただ中ってことで、ダンジョンの外に普段は見かけないような、いかにも役人とか商人っぽい連中がおおかった。

 その人達はさっきの買い取り屋以上の真顔で集まって、何かを相談しあっている。


 とりあえず責任者を見つけて、話しかけてみるか。


「あれれ、サトウくんじゃない」

「え? っていつかのホモ!」


 おれに話しかけたのはビール屋で出会った優男、ネプチューンだった。

 かれは前とまったく同じ笑顔のまま、おれに近づいてくる


「ホモじゃないよ、ぼくは女の子が大好きなんだからね」

「それよりここで何してるんだ?」

「そっちこそ。ここに来たって事はアダルバートがらみで?」

「……ああ」


「ぼくは要請を受けてきたんだ。アダルバードってさ、今までも同じ事を何回か繰り返してきたんだ。何事かにつけて米の値段あげろーって。で、さすがに街の人も堪忍袋の緒が切れかけてね」

「ネプチューン一家に要請して排除するかも知れないって事か」

「ううん、ちがうね」

「え? じゃあ?」


 首をかしげて聞き返す、今の話の流れからしてそういう事なんだよな。


「排除じゃなくて殲滅」

「予想以上だった」

「やっちゃった方がいいからね。問題なのは向こうも数がおおいから、ぼくと仲間達でもそれなりの被害が出るかも知れないってことなんだ」

「……相談がある」

「……なんだい?」

「おれにやらせてくれないか」

「やらせるって、殲滅を?」

排除を(、、、)


 ネプチューンと見つめ合った。

 おれは、穏便に事をおさめる方法があるから、ここに来たのだ。


     ☆


 シリコンダンジョン地下五階、下に続く階段の前。

 そこにやってきたおれとネプチューン。

 離れたところに前あったリルとラン、そして何人かネプチューンの仲間達がいた。


 全員かなりの雰囲気、相当の手練れっぽい空気を出している。

 そのリーダーであるネプチューンがおれに言った。


「確認、キミがダメだったらぼくたちが代わりに殲滅、それでいいよね」

「ああ」

「じゃあ、幸運を祈るよ」


 ネプチューンに見送られて、地下六階に降りた。

 降りたところに見張りがいた。


「止まれ、何もんだ」

「この階は立ち入り禁止だ、下の階にいく道はそっちにある」


 見張りの男は二人、そして工事現場のような誘導路が作られてる。

 この階は占拠してるけど、下の階への道は空けてるのか。


 おれは銃を構えた、手に入れたばかりのを含めた二丁拳銃。


「強硬手段か!」

「お前ら来い! 街の連中が力づくできたぞ!」


 男達は臨戦態勢に入った。

 おれは無言のまま銃を撃った。


 あらかじめ装填した回復弾を同時にうって、融合弾にする。

 融合した回復弾は光を放って、二人の男を包み込んだ。


 男達は糸が切れた人形のように崩れ落ちた。

 ものすごい幸せそうな、穏やかな顔で寝息を立てはじめた。


 ふう、なんとかなるっぽいな。


「ねえ、それなに」

「ホモが出た!」

「あはは、だからホモじゃないってば」

「後ろからいきなり肩に顔を乗せてくるやつはホモ確定だ!」


 大声をだして、話しかけた途端にあごをおれの肩に乗せてきたネプチューンを払いのける。

 身の危険を感じるので、説明して気をそらすことにした。


「睡眠弾だ、これ単発だとケガを治す効果しかないけど、二つを融合させたら眠らせる効果に変わるんだよ」

「へえ、癒やしの力倍増ってことだね」

「そういうことだ」


 ダンジョンの奥から足音がして、次々と冒険者が現われた。

 銃を構えた、込めた回復弾を撃って融合させて、次々と眠らせた。


 融合弾の効果は抜群で、撃たれた人間は例外なく眠らせることが出来た。

 一味のリーダーであるアダルバードも眠らせて、シリコン地下六階を占拠していた連中を全員、眠らせてダンジョンから運び出させたのだった。


     ☆


「ありがとう! キミのおかげで助かったよ」


 シリコンダンジョンを出ると、スキンヘッドにヒゲの男が話しかけてきた。


「あなたは?」

「これは申し遅れた。わたしはクリント・グレイ、シクロのダンジョン長だ」


 ダンジョン長?

 はじめて聞く役職だけど――このあらゆるものがダンジョンのモンスターからドロップする世界だ、多分かなりの偉い人なんだろうな。


「改めてありがとう、キミのおかげで犠牲をまったく出さずにすんだし、米は値上がりせずにすむ、本当にありがとう」

「いえいえ、おれはやれる事をやっただけだから」

「それでもみんなが助かったことに変わりはない。なにかお礼を考えなければな」

「いや、本当に……」

「検討して改めて連絡するよ。ありがとう、ほんとうにありがとう!」


 クリントはこっちの話を聞かないで、一方的に話して、力強く握手して、立ち去ってしまった。


 まあ、いっか。

 とりあえず米の一件は終わったから、おれはエルザに知らせに行って。

 そこでも、思いっきりありがとうって言われたのだった。

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