30.無限の可能性
次の日、ニホニウムダンジョン。
今日は手に入れたもう一丁の銃、二丁拳銃を同時に使うテストをする。
そのために弾切れを起こしてもすぐに補充できるように、集荷箱を持ってニホニウムに来た。
まずは地下一階、いつも通りスケルトンが現われた。
距離があるので、両手でじっくり構えて、ちゃんと狙いをつけて撃った。
物理的に銃がもう一丁増えた事で連射力があがり、骨だけのモンスターはあっちこっちに銃弾を受けてばらばらに砕け散った。
次は地下二階に来て、ゾンビを探した。
体感的に出るポイントを大体覚えてるから一直線にそこに向かうとすぐに遭遇した。
ちゃんと距離をとって連射する、あえてヘッドショットは狙わなかった。
骨だけのスケルトンとは違って、腐りかけといえど肉体をもってるゾンビは連射を受けて、体が乱舞した。
映画とかでみた様な光景で、スカッとした爽快感があった。
次は地下三階――と進んでいたらゾンビの奇襲を受けた!
いきなり現われたゾンビが「うー……あー」とうめき声を上げながら腕を振ってくる。
とっさに左手の銃で払い、右の銃でヘッドショットを決める。
左の銃で払ったのは偶然だが。
「ガン=カタみたいでスカッとするな」
昔みた映画で、二丁拳銃と日本武術が融合したバトルスタイルがあったけど、図らずもあれみたいなのを実体験しておれはテンションが上がった。
気を取り直して地下三階、今度はミイラ男――体がタフなマミーだ。
マミーは通常弾の効きが悪いから、それぞれ火炎弾と冷凍弾を装填した。
そして探す――見つかる。
銃を構えて同時にトリガーを引く、二種類の銃弾がほぼ同時に命中する。
包帯だらけのマミーは凍りながら燃え上がるという、とても愉快な状況になった。
更にマミーが現われる、同じように同時に撃つ――が。
なんと偶然にも、銃弾が途中でぶつかった!
マミーの体にあたる直前、冷凍弾と火炎弾が先にぶつかった。
きーーーーん。
奇妙なモスキートノイズに似た音が耳をつんざく。
次の瞬間、おれは目を疑った。
マミーの体がえぐれていた。
えぐれている、というたとえがあってるのかは分からない。
マミーの胸もと――つまり二つの弾丸がかち合ったあたりがなにもない。
まるでマミーという絵を描いて、そこだけ綺麗に消しゴムで消したような、そんな感じで何もない。
空間ごとえぐり取られたような、そんな感じがした。
「どういうことだ……」
体が消えて、速さの種をドロップするマミーを呆然と眺めて、起きた事を思い起こす。
二つの弾丸が当たったから?
☆
アルセニックダンジョン、地下一階。
ドッコーンドッコーン! というリズミカルな音を聞きながら、そこに足を踏み入れた。
「エミリー」
「ヨーダさん、どうしたですかここに」
「ちょっと試したいことがあってな。ここの硬いモンスターが最適だと思ったんだ」
そう言ってまわりをみる。
アルセニックのモンスターは岩石系。
力Sでも、かち割るのが面倒なくらい硬い岩石系のモンスターだらけがダンジョンの中にうようよいる。
「試したいことです?」
「悪いけどモンスターを何体かもらうぞ」
一緒に暮らしているパートナーだが、ダンジョンが全てを生産するこの世界ではモンスターは準財産の様なものだ。
おれは一言断りを入れた。
「どうぞなのです」
「ありがとう。すぅ……」
深呼吸して集中して、二丁の銃を構えた。
モンスター……ダンテロックに向かって同時にトリガーを引いた。
打ち出された二つの弾丸がモンスターに当たる前に交錯した。
冷凍弾と火炎弾、二つがぶつかって、バスケットボール大の空間が消滅した。
ダンテロックがまるでタコ先生にえぐられた月のような形になって、直後に消滅してタンポポをドロップした。
「すごいです!」
それを見たエミリーが大興奮した。
「何をしたです? 新しいドロップですか?」
「いや、使ったのは冷凍弾と火炎弾、ニホニウムの地下一階と二階産だ。それを同時に撃って弾丸と弾丸をぶつけたらこうなった」
「こうなるのですか……」
「冷凍弾と火炎弾で……みた感じ消滅弾、ってところか」
「消滅弾……それはすごいです、かっこいいです」
興奮するエミリーをよそに、更に試した。
二丁拳銃を同時に撃つ。
一回失敗してダンテロックが凍りながら燃えた後、また当たって消滅を起こした。
ぶつかった場所を中心に数十センチの空間をエグリとるコンビ技。
まだまだ慣れる必要があるが、かなりの威力だと思った。
もう一丁の拳銃、150万ピロの価値は――。
「組み合わせは冷凍弾と火炎弾だけなのです?」
「――え?」
「えっと、他に二種類の弾丸があったですよね? 他の組み合わせってのはないですか?」
「……」
唖然。
なんでその発想はなかったのかと自分の思考停止があほらしくなった。
銃弾を込めなおす。
今度は――あえて同じ銃弾。
両方とも通常弾を込めて、撃った。
撃って撃って撃ち続けた。
ほとんどが当たらなくて、ダンテロックの硬い岩の体に火花を散ってはじかれるだけ。
撃ってるうちに一発だけ当たった。
通常弾と通常弾がぶつかって――なんと一発の弾になって、ダンテロックを貫通した。
それまではじかれただけなのが、細い穴をあけてドリルでやったかのように綺麗に貫通した。
「すごいです、貫通したのです」
「ああ、すごいな……」
消えて行くモンスターを眺めながら、銃を見つめる。
まだまだ慣れてないし、使いこなすまで時間がかかるが。
弾を融合させる、無限に等しいその可能性をもたらしてくれたもう一丁の銃。
150万ピロよりも遥かに高い価値があると、おれは確信していたのだった。
ここで第一章おしまいです
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