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27.目玉商品のオーダー

 朝、ニホニウム地下三階に潜っていた。

 モンスターは包帯まみれのマミー、この手のモンスターの弱点は多分炎だ。

 おれは火炎弾を銃に込めて、マミーを探した。


 すぐにマミーが現われた。

 両手を突き出して近づいてくるマッチョなミイラに向かって、火炎弾を打ち込む。

 命中、魔法陣が展開されて、マミーが燃え上がった。


 火だるまになっても前に進むが、一歩、二歩と踏み出しただけで、体が崩れて地面に倒れた。

 やがて完全に動かなくなって、死体が消えて種がドロップされる。

 拾って速さを+1する。


 うん、これはいい。

 通常弾はかなり撃ち込まないと倒せなかった、かといって接近して殴るのは危険が伴うし効率が悪い。

 その分火炎弾なら一発一殺、しかも安全だ。


 ニホニウム地下三階、マミー。

 ここは火炎弾さえあれば、安定して通う事ができるみたいだ。


 おれはあらかじめ大量に用意した火炎弾を使って、無人のダンジョンを徘徊した。

 マミーを倒して、種をゲットして、速さを上げる。


 午前中の半分だけで、速さをDからCまであげられた。

 ちなみに確認は後付けだが、どれくらいあげればDからCになるのかはHPと力で知ってるから、誤差なくちゃんとあげられた。


 午前中の残った半分の時間は用意してきた集荷箱に種を詰めた。


 箱を持って、マミーを探して、火炎弾で倒す。

 箱を持って、マミーを探して、火炎弾で倒す。


 それを繰り返して、回復弾を50発確保した。


     ☆


 午後、日課の40000ピロ分のもやしを魔法カートごと燕の恩返しに持ってきた。

 手続きをしてくれたイーナからぴったり40000ピロをもらって、さて次はニンジン狩りだと店を出ようとしたその時。


「サトウさん……ちょっといい?」


 イーナがおれを呼び止め、なにやら言いにくそうな表情をしていた。

 普段はエルザと仲がよくて、明るい表情で友人をからかっているイメージの強いイーナ。

 彼女のこんな表情ははじめてみる、ちょっと珍しくて――気になった。


「ちょっと相談があるの。ここじゃアレだから」


 そう言われて、店の外に連れ出された。

 店の裏、人気のいない所に二人でやってきた。


「実は……うちの実家、八百屋をやってるの」

「そうなのか」

「でもそんなに儲かってなくて。なんというかシクロって農業都市じゃない? 八百屋も多いし、他の店と売ってるものほとんど同じだから、引きが弱いんだ」

「ふむふむ」

「それで……ね、サトウさんになにかこう目玉になるようなものを、実家の店に定期的に納入してもらえないかなあ、って――」


 上目遣いでおれをうかがうようにして。


「だめ、かな?」

「いいよ」


 おれは即答した。

 そういう人助けなら別に構わないと思った。


     ☆


 テルルダンジョン、地下五階にやってきた。

 店の目玉商品として納入するからには、おれの中でも今までにないものを持っていった方がいい。


 そう思って、地下五階に来た。


 少し歩いて、モンスターと出会った。

 スライムだった、ただし普通のスライムじゃなかった。


 そこに数匹のスライムがいて、あるスライムがいきなり他のスライムを呑み込んだ。

 スライムを呑み込んだスライムは姿を変えた、丸いスライムが二つ繋がっているような、そんな姿になった。


 そいつがまた別のスライムを呑み込んで、今度は三つひとつながりのスライムになった。

 呑み込んで成長して、数珠つなぎのスライム。

 こんなゲームあったなあ、と思いつつ銃を構えた。


 まずは通常弾。

 しっかり狙って、ヘッドショット。


 スライムの頭が吹っ飛ぶ――が、胴体になってるところが新しい頭になった。

 金太郎飴――いやだるま落としか?


 スライムの姿にそんなイメージがした。

 これは通常弾じゃ効率悪いな。


 火炎弾に切り替えた。

 飛び込んでくる蛇スライムを避けて、すれ違いざまに火炎弾を打ち込む。

 スライムが燃え上がった。

 火だるまになったまま地面に落ちて、そのまま動かなくなった。


 ポン! と、大玉のスイカがドロップされた。


     ☆


 スイカを持ってダンジョンを出た。

 入り口で待ってるイーナがすぐ様駆けつけてきた。


「サトウさん!」

「これで」

「ありがとう! これが……サトウさんの……」


 イーナはジロジロスイカを見た。


「なんか、みた感じ普通ですね」

「むっ」

「あっ、ごめん。そういう意味じゃなくて、えっと多分味はすごくいいと思います。リョータ・タケノコも見た目は普通だったしその――」

「いや、よく言ってくれた。それは大事なことだ」

「え?」


 イーナはきょとんとした。


「ちょっと待っててくれ。あるものを用意してくる。あっ、その間に味をチェックしてみてくれ」

「はい……」


 キツネにつままれたような表情をするイーナを残して、おれはアレ(、、)をもらいに行くために一旦この場をさった。


     ☆


 夕方くらいになって、今度はイーナを連れてテルル地下五階に潜った。

 これからやる事を、説明するよりも実際に見せた方がわかりやすいからだ。


「スイカの味はどうだった?」

「すごく美味しかった! あんなに甘くて瑞々しいスイカはじめて食べた! やっぱりサトウさんはすごいと思った!」

「そうか、品質は問題ないってことだな」

「うん!」

「だったら――」


 そう言ってるうちにスライムが現われた。


「あっ、ヘビスライム」

「名前はそのままなのか」

「うん」

「よし、じゃあ見てて」


 まわりを念の為に確認、目の前にいる体が四連になってるヘビスライム以外モンスターが居ない事を確認してから、イーナを置いて前に出た。

 銃を構える、そしてアイテムを地面に置く。


 飛びついてきたヘビスライムに、狙い澄ました火炎弾。

 四連で体は少し長いが、さっきと同じように一瞬で火だるまになって、地面に落ちて動かなくなった。

 そして、スイカがドロップされて――一瞬で吸い込まれた。

 地面に置いた箱――パンドラボックスに。


「集荷箱?」

「いや、これはある人が改良したパンドラボックスっていうやつだ」

「パンドラボックス? あっ、サトウさんの顔がでた」

「こんな風にモンスターを倒してドロップさせた人の顔がでる仕組みだ。これなら見た目も特殊なものになるだろ?」

「……あっ」


 はっとするイーナ。


「サトウさんの……スイカ」


 彼女はおれの顔をうつしたパンドラボックス。

 生産者表示のあるスイカをみて、徐々に、瞳を輝かせるようになった。


     ☆


 次の日、朝、ダンジョンに行く前に街にやってきた。

 あらかじめ場所を聞いておいたイーナの実家にやってきた。


 朝から開いてる八百屋は人だかりが出来ていた。

 全員が、店の一番目立つところに置かれてるパンドラボックスをみて、あれこれ言い合っていた。


「なんだあの箱は」

「しらないのか? 最近マーガレット姫の空気箱に使われたパンドラボックスってヤツだ。あれを使えばモンスターを倒した人が分かる仕組みになってるんだ」

「へえ、じゃこのスイカはこの男が生産した物ってことか。リョータ・サトウ――ってあのタケノコのか」

「へえ、リョータはタケノコじゃなくてスイカも作ってるのか」

「ちょっと試してみようかな、おやっさん、そのスイカいくら?」

「まてまて、リョータのドロップならおれが先だ」

「いやおれが買う。タケノコはあり得ないくらいうまかった、スイカも気になる」


 店先でちょっとした争奪戦になった。

 スイカを買う人達で賑わって、それに釣られて他の人達も何事かとやってきて、大賑わいになった。

 やがてちょっとしたオークションになって、その騒ぎに釣られてますます人が多くなった。


「ありがとうサトウさん」

「イーナか」


 いつの間にか横にやってきたイーナ……まあ実家だしな。

 彼女は少し顔を伏せて、上目遣いでお礼を言ってきた。


「本当にありがとう」

「どういたしまして」


 請け負った仕事を果たせて、その上感謝もされて二重に嬉しかった。


 ちなみに。

 例のマーガレット姫の空気を売ってる人からも、パンドラボックスの宣伝になったと、こっちからも感謝されたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >スライムを呑み込んだスライムは姿を変えた、丸いスライムが二つ繋がっているような、そんな姿になった。 それ呑み込んだとは言わないような… 噛み付いて融合したとか、そんな感じ ↓コ…
[一言] 箱の値段をペイした上に利益はちゃんと取れるの? 個人に対しての卸値は高くなるはずだし定期的に仕入れないといけない。 商売として双方が成り立たないんじゃないすかね?
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