26.第三の弾丸
シリコンダンジョンの外でレイズとローザを見送った後、隣に立つエミリーにお礼を言った。
「ありがとう、よくここにいるのが分かったな」
「エルザさんから箱を渡されて話聞いたです。ヨーダさんならきっとここに来てるとおもったのです」
「そうなのか」
思わず苦笑いした。
力の種が入ったパンドラボックスは街中でハグレモノ化するのを防ぐために、エルザに頼んでエミリーに渡してもらった。
後でゆっくり火炎弾に変えようと思ったのだ。
それを彼女が持って来てくれた。
いろいろ見抜かれてるこそばゆさと、感謝の気持ちでいっぱいだった。
「ありがとうエミリー」
「どういたしましてなのです」
「今日はどこかでご飯食べていくか。エミリーに助けられたから、お礼におごるよ」
「それなら家に帰るです。実は新しいレシピを聞いてきたので、ヨーダさんに最初にたべてほしいです」
「いや、お礼だぞ。それだとエミリーが料理を作らないと行けないんじゃないのか?」
「だからなのです」
語尾にハートマークがつく程の、満面の笑顔のエミリー。
こいつは……本当にもう。
ますます胸が温かくなっていくのを感じながら、おれは彼女の望み通りにしようと思った。
「じゃあせめていいお酒だけでも買って帰るか。料理は楽しみに取っておくから聞かないけど、どういう酒があうんだ?」
「蒸留酒があうってきいたです」
「よし、じゃあそれを二人分買って帰ろう」
「はいです!」
こうして、一日の仕事プラスちょっとしたハプニングを終えて、おれはエミリーと一緒に家路についたのだった。
☆
次の日、朝からニホニウム入りしたおれだったが、能力上げはしなかった。
まず街で通常の集荷箱を買ってきた。
箱は特殊な趣味の人向けに使われるから、一個10000ピロと微妙に高かった。
とは言え買えない程じゃないので、6個くらい買ってきた。
まずは四個つかって、冷凍弾と火炎弾を100発ずつ補充した。
昨日ほぼ使いきったから、それの補充だ。
そしてもう二つは地下三階のマミーからゲットする速さの種で、新しい特殊弾を100発ゲットした。
マミーの特殊弾は効果が更に特殊で、色々試して、ようやく効果が分かる頃には昼になったので、エミリーと一旦合流するためにシクロに戻ったのだった。
☆
いつもの買い取り屋「燕の恩返し」、エミリーと一緒に魔法カート満載のタンポポを持ち込んだ。
エルザのカウンターがちょうど空いたから、彼女のところに行った。
「よっ」
「あっ、リョータさん……それにエミリーさんも」
「今日もお疲れ、これを買い取ってほしい」
「はい、ちょっと待ってくださいね」
エルザは魔法カートからタンポポを取り出して、量を数えた。
「そういえば噂になってますよ、リョータさん魔法嵐の中で、シリコンから人を助け出したの」
「もう噂になってるのか?」
「それだけすごい事なんですよ」
「そうか」
そうかも知れない。
今思いだしても、昨日のはヒヤヒヤもんだった。
魔法が使えないダンジョンの中で、物理の耐性が(多分)100%のモンスターに囲まれたこと、本当思い出すだけでヒヤヒヤする。
そこから人を助け出したんだから、そりゃあ噂にもなるな。
「ローザ、だっけ。その人は大丈夫なの?」
「実は……あまりよくないらしいんです」
「どういうこと?」
「今回の魔力嵐、街でも魔法が使えなくなるくらい強いものなの。ローザさんの怪我は結構重くて、治癒魔法をかけないとまずいんだけど」
「だったら別の街に連れて行けばいいだろ?」
「それが……下手に動かせないくらい重傷なんですよ……」
「そうなのか……」
「だから……ちょっとつらい話だけど、魔力嵐がすぎるまで体が持つかどうか、って話ですね」
「……」
「あっ、ごめんなさい重い話をしちゃって。えっと、集計終わりました、全部で――」
「ローザはどこにいるんだ?」
「え? な、なんですか?」
「教えてくれ、どこにいるんだ?」
おれはまっすぐエルザをみつめた。
彼女は赤面し、動揺しつつもおれに教えてくれた。
☆
エルザに教えてもらったシクロで一番大きい病院にやってきた。
受付でローザの病室を聞くとすぐに教えてもらえた。
病室に入ると、ベッドの上で苦しんでるローザと、目の下にクマができててすっかり憔悴してるレイズの姿があった。
「あっ……あなたは昨日の……」
「佐藤亮太だ……彼女の様子は?」
「……よくありません。医者が言うには今夜あたりが峠で、それまでに魔力嵐が過ぎなければ……」
「そうか」
「ヒーラーに待っててもらってますが、魔力嵐が過ぎないことには……くっ! なんでこんなことに」
レイズは壁を叩いた。たたきつけた拳から血がにじんだ。
みると拳だけじゃなくて口角からも血が出てる。唇をかみ切るほど悔しいんだ。
おれはローザをみた。
苦しんでる顔に血色がなくて、紙みたいに真っ白だ。
多分今夜が峠どころじゃない、すぐにでもなんとかしないとまずそうだ。
おれは銃を取り出して、構えた。
「ちょっと、なにをするんですか!」
「すぐに終わる」
「すぐに終わるって――」
説明する時間ももったいなくて、おれはローザを撃った。
弾は胴体の真ん中に命中した。
瞬間、白い光が彼女を包んだ。
最後に残った一発、100発もゲットしたが、特殊すぎて99発撃つまで効果が分からなかったマミーの特殊弾。
白い光、癒やしの光。
治癒弾、そう呼ぶべき効果を持つ弾丸だった。
苦しんでいたローザだったが、みるみるうちに顔が穏やかになっていき、血色も戻った。
やがて、普通に寝ているような、そんな見た目になった。
「こ、これは?」
「多分これでもう大丈夫だろう。後は医者の先生に見てもらうといい」
「か、彼女をたすけ……」
ハッとするレイズ。
ようやくこれが、シリコンの中から彼女を助け出したのと同じ原理の力だと悟ったようだ。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
レイズに何度も何度もお礼を言われながら、おれは病院を後にしたのだった。