15.ドロップが倍になる指輪
午前中にニホニウム地下二階で力をAまであげて、午後はいつも通りにテルルにきて、入り口でニコニコしてるエミリーと合流した。
そして一緒にダンジョンに入る。
いきなりモンスターと遭遇して、反射的に銃を抜いて構えた、が。
「あれ? このスライムちょっと違うぞ」
「あっ、スライムブロスです」
「スライムブロス……」
銃口を下ろして、記憶を探る。
その名前は聞いたことがある、しかもだいぶ早い段階で。
「……おれをドロップしたって言うやつか?」
「はいです」
エミリーははっきりと頷いた。
目の前でのんびりあっちこっち動いてるスライムは、いつも遭遇してる、もやしをドロップするスライムと微妙に色が違っていて、縦にもちょっと長い感じだ。
なるほど、これがおれをドロップして、あの世界からこっちの世界におれをつれて来たというレアモンスターか。
「うおっレアだ――あー……先越されたか」
入り口でスライムを眺めていたら、外から別の冒険者がやってきて、ちょっと残念そうな顔で通り過ぎて、ダンジョンの奥に向かって行った。
「今のは?」
「レアモンスターは早い者勝ちなのです、倒せなかったときだけ他の人が倒してもいいのですけど、スライムブロスはわたしでも倒せるのです」
「まっても仕方ないからさっさと諦めたってことか」
レアモンスターは早い者勝ち、また一つこの世界のルールを覚えた。
「さて、こいつを倒すか」
銃を構えなおして、照準をつけた。
ふと思う、このスライムブロス、ダンジョンの外で倒すべきか中で倒すべきか。
おれはこの世界にもとから住んでる他の人間と違って、ドロップSで普通とは違うアイテムをドロップさせる。
ダンジョンの中でも、ダンジョンの外でもだ。
そして、ダンジョンの中と外だとドロップするアイテムが違う。
だから一瞬だけ迷ったのだが、すぐにコクロスライムの例を思い出した。
普通のアイテムならドロップして外でハグレモノ化することが出来るから、順番的にまずはダンジョンの中で倒してからだな。
「ヨーダさん?」
「何でもない、倒すぞ」
「ハイです」
何がドロップされるのかを楽しみにしつつ、スライムブロスを撃ち抜いた。
レアモンスターとは言え地下一階の弱いヤツ、一発で倒せた。
スライムブロスが消えて、ポン、とアイテムがドロップされた。
腰をかがめて指輪を拾った。
その瞬間。
「ああ、ドロップアイテム二倍か」
「はいです……分かるのですか?」
「なんか今頭の中に流れ込んできた」
そう、頭の中に流れ込んできた。
指輪を拾った途端、まるで昔からあった記憶の様にその事を思い出した。
この指輪は装備品だ、装備してダンジョン内のモンスターを倒すと、ドロップするアイテムが普段の倍になる。
「そう言うものがあるのですか」
「聞いたことないのか?」
「ハイです」
「そうか」
なら、つけて試すか。
そう思って指を通そうとするが、滑って落としてしまった。
指輪はエミリーの足元に転がって、エミリーがそれを拾い上げて、おれに差し出した。
「ハイです」
「……持てるのか」
「え?」
「種と違って持てる……エミリー、それをつけてみてくれ」
「わたしがですか」
「ああ」
「分かったです」
エミリーは頷き、指輪を自分でつけた。
☆
アルセニック地下一階。
日課のニンジン狩りを中断して、エミリーと一緒にここにやってきた。
指輪はエミリーがつけてる、そのドロップ効果を検証するのなら、ここが一番適している。
そう思ってやってきた。
「はじめるです」
「がんばれ」
応援されたエミリーはニコニコして、ハンマーを担いでモンスターに向かって行った。
ダンテロック、タンポポをドロップする岩の形をしたモンスター。
今朝の種狩りで力がAになったので、足元に転がってる小さいサイズのダンテロックを蹴ってみたが、固かった。
力Aだけど、それなりの武器がないと岩系は難しい――難しいとまで行かなくても効率が死ぬほど悪そうだった。
おれはこのダンジョンに籠もることを軽く諦めつつ、エミリーを見守る。
ハンマーを振りかぶって、ドッコーン!
ハンマーを振りかぶって、ドッコーン。
ドッコーン、ドッコーン、どっこーん!
エミリーは生き生きと岩を割って回った。
とにかく止まらないで割って回れとおれはいった、割った後のドロップをおれが後から回収する。
ドッコーンドッコーンと、一時間くらい地下一階を回って、200体近くのダンテロックを割った。
ある程度の母数が出たので、おれは結論をだした。
あの指輪をつけてもドロップする確率は変わらない。
代わりに一回ごとの、ドロップしたときの数が二倍になる。
割と早い段階から、ドロップする割合は昨日と変わらないけど、数はあきらかに倍になってた。回数が増えて確信した訳だ。
エミリーを呼び止めて、結論を伝える。
「この指輪すごいです!」
「そうだな、つけてれば純粋に生産性が倍になるんだからな」
「はいです」
エミリーはニコニコして、指輪を外しておれに差し出した。
おれはしばらく指輪を見つめてから、彼女にいう。
「そのままつけててよ」
「え? でも……」
「エミリーがつけてる方が似合う気がした、今のみてると」
「そ、そうですか?」
「ああ」
ドロップ倍増の指輪をつけてドッコーンドッコーン岩をわって回るエミリー。
実はというと、おれはちょっとだけその姿に見とれていた。
多分おれがつけた方がもっと効果的だろう、ぱっと考えてもニホニウムの種のドロップが倍になりそうだしな。
それでも、エミリーがつけてる方がいいし、似合ってると思った。
「わかったです、これでいっぱいモンスターを倒すです」
「頑張れ! 応援してる!」
エミリーははにかんだ。
その後メチャクチャ岩を割って回って、タンポポを集めた。
この日の稼ぎは12000ピロ、昨日の倍よりもちょっと増えたのは、多分テンション分が上乗せされたんだろうな、とおれは思ったのだった。