114.限界突破!
無事買い取った鏡を持って、俺はエミリーとアリスの二人と一緒にニホニウムに向かった。
「二人とも、本当にありがとう」
「どういたしましてなのです」
「あたし、初めてリョータの役に立っちゃったかも」
エミリーは穏やかに微笑んだ。
アリスはピョンピョン飛び跳ねて、肩にのっかっている三体のSDサイズのモンスターと一緒に大喜びした。
「ヨーダさんすごく嬉しそうです、本当にほしかったですね」
「ああ、こうして持ってるとよく分かる……」
歩きながら、俺は鏡を天に掲げて見せた。
理屈では説明出来ない感情が胸の底から沸き上がる。
これを手に入れることが出来てよかった、無茶をしても手に入れてよかった。
それは運命だ、これとすれ違ってしまったら運命が大分変わってしまうだろう。
理屈では説明出来ないが、その事を確信した。
「ねえ、それってなんなの?」
「俺にもよく分からない、ニホニウム関連だってのだけは分かる」
「どうしてそれが分かるの?」
「アリスになら分かると思うけど、アウルムは俺がダンジョン攻略してドロップを倍にしただろ?」
「うん、しちゃったね」
「あれはアウルムのダンジョンに住む精霊、アウルムというヤツと会ったからなんだ。それと同じで、この鏡をはじめてみたときニホニウムの姿が見えた」
アリスは目を見開かせた。
「それ本当?」
「ああ」
「そっか……それはゼッタイに手に入れないとダメだったね」
「だから……本当にありがとう」
鏡を持ったまま、もう一度二人にお礼を言った。
「それはさっきも聞いた。仲間なんだからそんなに何回も言わなくていいってば」
そう言いつつも、アリスは頬に手を当てて、微かに顔が赤らむ程度には嬉しそうにした。
「はいなのです、私たちもヨーダさんの力になれて嬉しかったのです」
エミリーもそう言うが、心なしか語尾がいつもより上ずっている。
ともかく二人のおかげだ。
その成果である鏡を持ったまま、ニホニウムにやってきた。
元から冒険者が近寄らないダンジョンだが、夜になるとより一層寂れて見える。
「な、なんかここ……やだね」
アリスが自分の二の腕に手を回して、ブルル、と軽く震えた。
「なんか出るんじゃないかな」
「でるって?」
「ほら、幽霊とか、そういうのとかさ」
「幽霊か、確かにそういう雰囲気だな」
「それなら大丈夫なのです」
「え?」
どういう事なの? ってアリスがエミリーを見たが、エミリーはしずしずと近づいて、130センチの身長でちょっと背伸びをして、アリスの肩からSDスケルトンを手に移し返して、アリスに見せた。
「アリスちゃんはホネホネちゃんがついてるのです」
「……おお」
「確かに、アンデッド系のモンスターがついてるな」
「そかそか、でるとしてもホネホネみたいなのか」
アリスがそういい、エミリーの手に乗ってるホネホネが小さい体でガッツポーズして、張り切ったりして見せた。
それはちょっと違う気がするのだが、アリスが納得しているようなのでそういうことにしとこうと思った。
しばらくそうして、ダンジョンの中を入った。
「ダンジョンの中はいつも通りだな」
「実家の様な安心感なのです」
エミリーのそばの方がよっぽど実家のような安心感だ、と思ったけど言わなかった。
「さて、この鏡を――」
どうするか、と思った次の瞬間鏡が光り出した。
ダンジョンの中をまばゆく照らし出すほど光りつつ、俺の手から浮かび上がった。
「リョータ?」
「……さて、鬼が出るか蛇が出るか」
二丁拳銃にそっと手をかける、アウルムと同じなら、一度何かと戦う必要が出てくるかも知れないからだ。
エミリーもアリスも準備した。
エミリーは体よりも巨大なハンマーを構えて、アリスはモンスターの三体を戦闘態勢にさせた。
そうして三人で身構えたが、敵は出なかった。
空中に浮かんだ鏡の横にうっすらと、実体のない二つのアイテムが浮かび上がった。
「剣なのです」
「こっちは……なにこれ不思議な形」
「……勾玉だ」
「勾玉?」
首を傾げるアリス、俺は頷きかえす。
俺が持ってきた実体のある鏡、そして実体のないホログラム映像の様な剣と勾玉。
頭に、三種の神器という言葉が浮かび上がった。
それが浮かぶのは、やはりここが「ニホニウム」だからだろうな。
草薙の剣。
八咫の鏡。
八尺瓊の勾玉。
ゲームの中級者くらいならどっかで必ず一度は見てて、その名前を知ってる超メジャーアイテムだ。
鏡の向こうに留め袖の女が現われた。
ニホニウム。そいつがそうだとますます確信する俺だ。
ニホニウムは何もいわなかった、ただにっこりと、大人の様な微笑みを浮かべただけ。
そして、剣や勾玉はもちろん、俺が持ってきた鏡と一緒に消えてしまった。
「き、消えちゃったよ?」
「鏡を持って行かれたのです」
「いや、これでいい。物があるべき場所に戻った、あと二つを持ってくるまで向こうが持ってるってだけの話だ」
「そっかー」
「でも残念なのです、三つ集めないと何も起きないのは残念なのです」
「そうでもないぞ」
「「え?」」
俺の一言に、エミリーとアリスがきょとんとなった。
「アリス、この階のスケルトンの居場所は把握できるか?」
「うん、それは分かるけど……なんで?」
「案内してくれ、さくっと一狩りしたい」
「わかった。ついてきて」
アリスはそう言って、SDサイズに戻したモンスターを肩に戻して、先導して歩き出した。
「ヨーダさん、なにが起きたですか?」
「すぐに分かる」
俺はエミリーににっこりと笑い、銃に無限雷弾を装填してアリスの後をついて行った。
☆
ニホニウムダンジョンの外、夜の野外。
俺たち三人はナウボードの前に立っていた。
「それじゃ、いくぞ」
「うん」
「はいです」
二人が頷いたあと、俺はナウボードに手を伸ばして、慣れた手順で操作した。
―――1/2―――
レベル:1/1
HP SS
MP S
力 S
体力 S
知性 F
精神 F
速さ S
器用 F
運 F
―――――――――
浮かび上がったステータスは前に見たのより一段階進化した物。
HPが、SSになっていた。
「なにこれ、どういうことなのこれ」
「HPがSSに、Sが二つになってるです……今のスケルトンで上がったのです?」
「ああ」
「そっか、それが鏡の効果か」
「厳密には違う」
「え? どういうこと?」
「ステータスは9個あるだろ? で、ニホニウムが俺に――まあおねだりしたアイテムは三つ。つまり――」
「SSになれるのは三つなのです?」
俺との付き合いが一番長いエミリーがアリスよりもはやく意味を理解した。
うなずく俺。
そう、三つだ。
3×3が9になるので、鏡をニホニウムに渡した結果。
HPと、力と、速さ。
ニホニウム地下一階から三階まで上がる三つのステータスの上限がSSになったのだった。