102.口座残高とHP
ニホニウム、地下一階。
相変わらず無人のダンジョン、次々と現われたスケルトンを雷弾で倒して行く。
撃った弾が当たった瞬間鍾乳洞の天井から雷がおちてきて、骨のモンスターは一撃でばらばらに打ち砕かれた。
威力は充分、単体の特殊弾の中で一番威力が高い。
「コストが高いからな、元々の」
雷弾、アウルムダンジョンのモンスターがドロップした砂金が孵ったハグレモノがドロップする特殊弾だ。
砂金だから、本来のコストは一発あたり3000ピロ位する。
野菜とかでドロップする通常弾とか、ゴミでドロップする追尾弾に比べればコストは遥かに高い。
それを、俺は何の気がねもなく撃ちまくった。
スケルトンとエンカウントするなり雷弾で瞬殺。
出会うなり適当に撃つ、当たらなくても連射で押し切る。
その間リロードとかしなかった、とにかく撃ち続けた。
無限弾。
アウルムの地下四階を更におりた、本来なら存在してない空間で倒したモンスターがドロップしたアイテム、どれか一種類の弾丸を無限化したもの。
つまり、無限雷弾。
それを惜しげもなく――惜しむ必要もなく撃ちまくった。
地下一階を一周すると、ポーチの中にHPの種がたまった。
それをもってダンジョンの外に出た。
いつもの人気のないところにやってきて、地面に種をばらまいて距離をとる。
しばらくすると種がスケルトンのハグレモノに孵った。
それを同じように雷弾を使って瞬殺、全部を冷凍弾にした。
これで、アウルム出張で使い切った冷凍弾の補充が出来た。
しかも、ノーコストで。
弾の補充はハグレモノを倒して行う、今までは時間をかけてコスト無しの肉弾戦で倒すか、コストをかけて時間短縮の射撃戦で倒すかの二択だった。
「両方のいいとこ取りか……」
無限雷弾を装填した銃を見つめた。
こいつのおかげで、ノーコスト、かつ時間短縮しての弾丸補充が出来るようになった。
ますます便利になった。
冷凍弾を回収して、今度は地下二階に潜った。
モンスターはゾンビ、スケルトンとほとんど変わらない強さで、無限雷弾を使ってポーチいっぱいの種を回収して、外にでてハグレモノにして、火炎弾にかえた。
地下三階も同じ、モンスターのマミーを無限雷弾で大量の回復弾を回収した。
ここまでやって、まだ二・三時間しかたってない。朝一でやってきてまだ昼にもなってない。
無限雷弾さえあればなんでも出来るんじゃないかと思った。
「……そうだった、そんなに甘くなかった」
ニホニウム地下四階、体力の種と拘束弾をドロップするマミー。
三階と同じ見た目のマミー、しかし決定的な違いが一つある。
ドロップするため、完全に消滅させるためにはトドメに回復弾を撃ち込まないといけない。
エンカウントしたマミーに無限雷弾を撃った。
マミーは倒れて肉体が消滅したが、包帯が残った。
包帯に無限雷弾を連射した。
無限である事をいいことにトリガーを引きまくった。
雷の連打、地面がえぐれて地形が変わる。
その跡地に包帯が残っていた、全くの無傷の、まっさらな包帯が。
もう一丁の銃を取り出し、補充したばかりの回復弾を込めて撃った。
百発の雷でもびくともしなかった包帯が一瞬でとけてなくなった。
特定攻撃じゃないとトドメをさせないタイプのモンスター。
「次の無限弾は回復の方にしよう」
無限雷弾で大半の特殊弾の回収効率が上がって、かつその次の目標が見つかったのだった。
☆
昼になって、弾丸の補充を一通りすませた後、ニホニウムを出て帰宅した。
魔力嵐ガード付きの、三階建の我が家。
中に入ると、エミリーとエルザがなにかをしているのが見えた。
ガレージのようになっている一階、ドロップ転送の機能をつけたから、燕の恩返しからエルザが出向してここの専属になった。
燕の恩返し出張所、とも言うべき場所だ。
そこでエルザとエミリーの二人が何かをしている。
「ただいま」
「ヨーダさん! お帰りなのです!」
「お久しぶりですリョータさん、戻ってきてたんですね」
「ああ」
久しぶりにあったエルザは笑顔を見せてくれた。
昨日、久しぶりにインドールから戻ってきて、今朝早くニホニウムに出かけたから、戻ってからエルザと会うのはこれが初めてだ。
「ありがとうございますリョータさん、あっちの事を真っ先にうちに話を持ってきてくれて。マスターすごく喜んでました」
「いつもお世話になってるからな。儲けになればいいんだが」
「なればところじゃないです! ものすごい大きい商売です。専属のスタッフを雇ってあっちにおくるってマスター言ってました」
「イーナは?」
「イーナの知識は植物専門ですから、やっぱり黄金に詳しい人とか、今後の事を考えたらそういう人を派遣した方がいいって」
「なるほど、そりゃそうだ」
シクロの買い取り屋の人間だから、鉱物が専門外なのはある意味当然か。
「それより何をしてたんだ?」
「エミリーさんの買い取りを通帳に記入していたところです」
「通帳?」
初めて聞く言葉だ。
向こうの言葉通りなら銀行通帳って事なんだろうが……。
エミリーをみた、130センチの彼女は手に文字通り通帳らしきものを持ってる。
貯金箱をもって郵便局帰りの小学生みたいな見た目だ。
俺の視線に気づいて、エミリーが説明をしてくれた。
「エルザさんが出向してきたですけど、ここに現金をおくのあまりよくないです、だから査定した分をそのまま振り込みにする事にしたです」
「振り込みに通帳か」
そのままだな、説明を聞いても別の何かを想像する余地はゼロだ。
こっちにも銀行のシステムがあったんだな。
「ヨーダさんヨーダさん」
「どうした?」
俺を呼ぶエミリー、下から見あげてくる目はいつになく輝いている。
「これをみるです」
「みるって通帳を? ――おお、百万ピロ超えてるじゃないか」
「はいです、今朝のドロップで超えたのです」
「すごいな。こんなに桁がおおい貯金の通帳をはじめてみた」
「そうなのです?」
エミリーはものすごく驚いた顔をする。
「自分の通帳しかみた事ないからな、そして俺は最後まで手取りが月12万程度だった。貯金なんてできる収入じゃなかったよ。あの頃はいつも死にかけてた感じだ、月末になると口座残高がHPに見えて来るんだよ」
思い出すと悲しくなって、腹立たしくなってくる過去の自分。
ブラック企業でサービス残業の毎日、搾取されっぱなしで、HPが常に赤く瀕死だった頃の毎日。
「赤点滅してるのに超必はつかえなかったな」
「?」
エミリーがキョトン、と首をかしげる。
「それならヨーダさんも通帳作るです」
「作る?」
「いまのヨーダさんならすぐにでも一千万――ううん、一億行くです。私のよりもっとすごくなるです!」
「……そうだな」
頷く俺、確かにそうだ。
今まで稼いだそばから使ってきたけど、エミリーのすすめで、ちょっとだけ貯金の楽しさを味わってみるのも悪くないな、と思ったのだった。