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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第1章 古い契約と新しい(?)アイテム

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(2)大地母神の抱擁

 自分の目の前に現れたクラーラに、シュレインは丁寧に頭を下げた。
 ヴァンパイアが、もっとも重要視する神の一柱である。粗雑に扱うわけにはいかない。
 ただ、ほかの神が出て来たとしても、シュレインは同じような態度を取っただろうが。
「吾らが崇める神にお会いできたこと、恐悦至極に存じます」
 普段からはあり得ないほど丁寧な態度を取るシュレインに、クラーラは眉をひそめた。
「なによ、その言葉使い。私も考助と同じ神なんだから、そこまで畏まる必要はないわよ」
 そのクラーラの台詞に、一瞬だけ言葉を詰まらせたシュレインは、なんとか絞り出すようにして返答した。
「そ、そういうわけには・・・・・・」
「あら。そういうことなら、事細かく考助に報告しようかしら」
「そ、それは・・・・・・」
 普段使っている言葉使いからすれば、いまのシュレインはかけ離れたものなっている。
 公私で言葉を使い分ける人をいくらでも見て来た考助にとっては大したことではないのだが、シュレインにとってはできれば隠しておきたい事実だった。
 シュレインもまた、恋する乙女のひとりなのだ。

 苦悩するシュレインに、クラーラがここぞとばかりに追い打ちをかけてきた。
「それに、いまは良いだろうけれど、そのうち考助がいるところでも姿を見せるようになると思うわよ? そのときはどうするのかしら?」
 まったくもって反論できないその事実に、シュレインは言葉を詰まらせたのち、
「・・・・・・普段通り話せるよう、努力いたします」
「ハア。まあ、いまはそれが限界かしらね」
 諦めたようにそう言ったクラーラは、これまでのからかいの表情から一転してまじめな表情になった。
「それよりも、貴方の身体は大丈夫かしら? かなりの負担だったでしょう?」
「なんとか大丈夫で・・・・・・じゃ」
「ププッ」
 慌てて言い直したシュレインに、クラーラは直前の雰囲気も忘れて、噴き出すのを抑えるように口を自分の右手で塞ぐのであった。

 
 シュレインが行った儀式は、考助が過去に何度か行ったことがある神威召喚とは、まったく別のものだ。
 その姿は、神威召喚や降臨のときとは違ってはっきりしたものではなく、ぼんやりとした幽霊のようなものが浮かんでいるだけである。
 それでも神の力である神威ははっきりと感じることができるし、表情も読み取ることができるほどに、顔ははっきりと見えている。
 普通に考えれば恐怖を感じてしまうような姿にも見えるが、相手が神ということと、そもそも普段から塔で霊体に接しているシュレインは、特にそれには気にすることなく接していた。
 ちなみに、見えている仕草はすべてシュレインが、位置と動きで脳内補完していたりする。

 クラーラの反応に若干涙目になったシュレインは、それでもなんとか疑問に思ったことを口にした。
「先ほどの儀式でなにか体に変調でもきたすことがあったのでしょうか?」
 すでに口調は、開き直って敬語に戻している。
「んー。そういうことではないのだけれど、初めてのことだったでしょう? だから、一応確認しておきたくてね」
「そういうことでしたら、特におかしなところは感じておりません」
「そう。それならいいわ」
 シュレインの返答を聞いたクラーラは、あっさりと納得したように頷いた。
 クラーラもなにか確信があって聞いたわけではないのだ。

 自分の言葉を聞いて安心した表情を浮かべるシュレインに、クラーラは右手を差し出してきた。
「さて、そろそろ時間のようだから、本来の役目を果たすわね」
 クラーラがそう言うと、右手からふわりと小さな光が発生して、そのままシュレインの右胸へと飛び込んできた。
 特に痛みなどは感じなかったシュレインは、小さく首を傾げる。
「これは?」
「一種の加護みたいなものよ。正しい名前は考助から聞くのがいいわ」
「わかりま・・・・・・ったのじゃ」
 敢えてそう言い直したシュレインに、クラーラは今度は笑わずに笑みだけ浮かべた。
「そうそう。その調子よ。それじゃあ、私は行くわね」
「ハイ」
 シュレインが頭を下げながら短くそう答えて、次に頭を上げたときには、クラーラの姿と力の気配はその場から消えていた。
 それを確認したシュレインは、地面に突き立てたままだった錫杖を持ち直して、その場をあとにするのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 管理層に戻ったシュレインは、早速先ほど起こったことを考助に報告した。
 クラーラから貰った加護(?)が、どんなものかを左目の力で確認してもらうためだ。
「ふーん。クラーラがそんなことを言っていたんだ」
「そういうことじゃの。というわけで、早速確認してほしいのじゃ」
「それは勿論。・・・・・・へー。これは初めて見たな」
 シュレインに仕草で断ってから左目の力を発動した考助は、初めて見た称号を確認した。
 その称号は《大地母神の抱擁》と記されている。

 考助は、見たままの名前をシュレインに告げた。
「なんか、大地母神の抱擁という称号が付いているみたいだよ?」
 初めて見た称号のため考助はなんとはなしに告げたが、それを聞いたシュレインは、虚を突かれたような顔になった。
「そうか。・・・・・・まさか、あの儀式で得られるとは思っていなかったの」
「ん? 僕は初めて聞いた名前だけれど、シュレインは知っていたの?」
「いや。称号としては初めて聞いたのだがの。ヴァンパイアの言い伝えには、大地の神から大地母神の抱擁が与えられるというものがあるのじゃ。まさか、そのままの名前だとは思っていなかったのじゃが」
 ヴァンパイアの古い言い伝えに、神との契約を果たすことができれば様々なものが与えられる、というものがある。
 そのうちのひとつに、《大地母神の抱擁》も含まれているのだ。

 シュレインの話に興味を持ったのか、それまで黙ってふたりの話を聞いていたシルヴィアが口をはさんできた。
「それは、ヴァンパイアだけに伝わる話ですか?」
「さて、どうじゃろな? 少なくとも私は、他の種族で伝わっているということを聞いたことはないの」
「そうですか」
 神に関わる話なのだが、神殿で育ったシルヴィアは聞いたことが無い話だった。
 だからこそ、ヴァンパイアだけに伝わっていると考えての問いかけだったのだが、明確な答えは得られなかった。
 そもそもヴァンパイアに伝わっている話としても、すでに伝説に片足を突っ込んでいるような言い伝えなのだ。
 他種族にまでその話があるかどうか、検証したこともないので、シュレインに応えられるはずもない。

「もし、私がシュレインの行った儀式を行えば、同じ結果が得られるのでしょうか?」
「さて、それはどうじゃろうな。やってみなければわからないが、少なくともさっき吾が行った儀式は無理だと思うがの?」
 自分の力が足りないと言われたと勘違いしたシルヴィアは、若干平坦な声でそのシュレインの言葉に返答した。
「それは、なぜですか?」
「ヴァンパイアだけが交わすことができる契約じゃからの」
「え?」
 思ってもみなかったシュレインの答えに、シルヴィアは思わずきょとんとした顔になってしまった。

 そのシルヴィアの顔を見て笑みを浮かべたシュレインは、なにかを思い出すような顔になって続けた。
「あの儀式は、遥か昔にヴァンパイアが行ったクラーラ神との契約に基づいていると伝わっておる。同じような契約が、ヒューマンとクラーラ神の間にあるかどうかは吾にはわからないが、少なくともまったく同じというわけではないはずじゃ」
「・・・・・・なるほど、そういうことでしたか」
 シュレインの説明に、シルヴィアは納得して頷いた。
 いまシュレインが言ったことは、ヴァンパイアが契約を守り伝える種としての立場を貫いているということは、こういった事実があるからなのではと、改めて思わされる話なのであった。
シュレインが加護ゲット!
名前は《抱擁》となっていますが、中身は似たような物です。
加護は一方的に神から与えられるものになりますが、《大地母神の抱擁》は双方の契約に基づいて送られる物になります。
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