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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6章 塔のあれこれ(その22)

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(4)設計図

 現物がほしいのでなければなにが欲しいのか、考助にはまったく見当が付かなった。
 その考助の顔を見て、シュミットは完全に呆れた表情になって続けた。
「それが、あの馬車の設計図がほしいそうで」
「・・・・・・はい?」
 あまりにも不可思議なことを聞いたという顔になった考助に、シュミットは大きくため息をついた。
「最初は我々もただの冗談だと思っていたのですが、どうやら本気で要求してきているようです」
 げんなりとした表情になるシュミットを見て、考助はさらに嫌な予感がした。
「まさかと思うけれど、その要求がシュミットのところまで通ったってことは・・・・・・あるんだ」
 無いよね、と言おうとした考助だったが、シュミットの顔を見てガクリと肩を落とした。
 まさかそんな要求を部門長にまで通すような組織になっているとは、考助も考えていなかったのだ。

 考助が作った自走式馬車は、文字通り走るお宝である。
 それは使っている素材そのものもそうだし、自走式馬車を自走できるようにするための数々の魔法陣もそうだ。
 はっきりいえば、各種研究機関を筆頭に国家そのものまで、自走式馬車を欲しがる者たちを上げればきりがないだろう。
 表に見えるように使っている素材の加工技術や中に仕込んである魔法陣は、そのほとんどが考助とイスナーニが考え出したもので、どれひとつとっても利用価値が高すぎる。
 研究機関を抱える組織が、自走式馬車を喉から手がでるほどに欲しがるのは、当然といえば当然だった。

 だが、だからといって設計図そのものがほしいという要求が来るとは考えていなかった。
 なぜなら、特に魔法陣は、開発者が秘匿するのが当然と考えられているためだ。
 特許という考え方がほとんどないに等しいこの世界では、利用価値のある技術は師から弟子へと受け継がれていくのが当然なのだ。
 当然、そうした技術は他者には伝わらないように教えられることになる。
 それもそのはずで、そういった技術そのものが、技術者たちにとっての飯の種になっているからである。
 特許制度がなければ、当然特許料なんてものは入ってくるはずもない。
 ラゼクアマミヤの協力のもと制度そのものを作ったとして、その技術が他国に流れてしまえばまったく意味がない。
 そもそも特許という考え方が根付いていないところで、いきなりそれを守らせようというのが間違いなのだ。

 そんな感じで魔法陣の作りや技術は秘匿されているので、まさかその元になる設計図を要求されるとは、考助は欠片も考えていなかったのである。
 しかも、そんな要求がシュミットのところまで上がってくるとは、想像だにしていなかった。
「なんというか、本当に大丈夫?」
 思わず本心からそう問いかけた考助に、シュミットはもう一度ため息をついた。
「今回に限っては、大丈夫じゃないと言えないところが困ったことですね」
「ん? どういうこと?」
 シュミットの言葉通りだと、設計図の要求はそれなりに筋が通っていることになる。
 それは、クラウン相手に無理が通る組織なりが要求しているとも考えられるのだ。

 首を傾げる考助に、シュミットは困ったような困惑したような表情になった。
「他大陸の国もそうですが、今回は、ラゼクアマミヤからも要求があるようです」
 その思ってもいなかった言葉に、考助は思わず口をポカンと開けてしまった。
「それは、また・・・・・・ようやく影響力が薄まってきたと喜ぶべきか、なぜそんな馬鹿なことをと嘆くべきか、判断が悩ましいね」
「そう、ですかね?」
 考助の反応に、シュミットはなんと言っていいのかわからないという顔になって、そう返答した。

 少なくとも考助は、トワから直接自走式馬車についての話を聞いたことはない。
 それが、国としてクラウンに設計図を手に入れるように要求されたということは、国王であるトワは知らないところで動いているということだ。
 ここでトワが知らないと断言できるのは、そもそもトワにそんな話が行っていれば、考助のところに困った顔をして直接聞きに来ることが目に見えているからだ。
 勿論、トワのところで話が止まることはあるだろうが、それにしても後付けで考助に話をしに来たりはするだろう。
 基本的にトワは、考助が関わっていることは、隠すことをせずに話をしに来る。
 なぜなら、下手に隠せばそれが余計大げさなことになりかねないということを、トワは経験から知っているからである。

 そのトワが知らずに、クラウンに直接話が行っているということは、そもそも自走式馬車に考助が関わっていることを知らない可能性が大きい。
 もっといえば、考助=コウということを知らない部署あるいは人材が動いているということだ。
 個人が作った物を国の指示で設計図を出せといえるのは、それなりに権限がある役職についていないと駄目なはずだ。
 少なくともどのあたりからその指示が出ているか程度は、クラウンが調べていると理解しているからこその考助の台詞なのである。

「さて、どうしたものかな」
 困った表情のシュレインを見た考助は、そのままその視線をルカへと向けた。
「まあ、わざわざこの場にルカを連れてきているということは、答えは決まっているか」
 ルカがこの場にいるということは、魔法陣を確認するために連れてきているためだ。
 そうでなければ、わざわざ同席したりはしないだろう。
 ということは、ルカが同席することを決めたのが誰かは知らないが、少なくとも考助が魔法陣を出すことを見越しているということになる。

 
 だが、考助にとっては逆に、それがちょうどいい隠れ蓑になると考えた。
 ちょっと待ってねと一声かけてから考助は席を立ち、会議室から出て行った。
 なにをしに行ったのかといぶかるルカとシュミットだったが、数分も待たずに考助は戻ってきた。
「これが理解できるんだったら、全部出してもいいよと伝えてくれればいいんじゃないかな?」
 考助はそう言って、笑いながら一枚の紙を差し出した。

 考助からそう言われたシュミットは、あからさまにホッとした表情を見せた。
 最悪、完ぺきに断られることも予想したうえでの面会だったのだ。
 それに、怒っているようには見えないこともシュミットを安堵させている。
 考助から紙を受け取ったシュミットは、それを一瞥だけしてすぐにルカへと渡した。
 紙に書かれているのが魔法陣だったので、自分が見るよりもルカに渡した方がいいと判断したためだ。
 事実、紙を渡されたルカは、それを食い入るように見ている。

 考助にしてみれば、そもそも自走式馬車で儲けを出すつもりはないので、魔法陣を表に出すくらい問題ない。
 それよりも、他に改善点などが無いかを複数の切り口から検証してもらったほうが得なくらいだ。
 ただし、少なくともいまの状態で、ルカが持っている魔法陣が理解できるとも考えていなかった。
 なぜならその魔法陣には、神力を基本とした技術が使われているからである。

 ジッと魔法陣を見ているルカを見ながら、考助は誰に言うでもなく呟いた。
「もし本当に理解できる人が現れたら、この世界もいろいろと変わるだろうにねえ」
 それは、独り言に近い雰囲気でのつぶやきだったので、しっかりとその言葉を耳に捉えていたシュミットだったが、敢えて答えを返したりはしなかった。
 ただ、心の中では、考助(様)はいったいどこまで先を進んでいるのだろうと考えているのであった。
ちなみに、渡した設計図は自走式馬車の動力に関わる部分で、割と重要なものです。
おそらく管理層のメンバーを除けば、一番神力(の魔法陣)について詳しいルカが見ても、理解できるのは当分かかると考助は考えています。
当然、それが一般に流出したところで、そもそも神力の存在すらまともに考えられていない場所では、理解するのは不可能だということもわかっています。
それは別に、いじわるではなく、それくらいは理解できるようになってほしいという考えを考助は持っていたりします。
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