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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6章 塔のあれこれ(その22)

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(2)技術の話

「・・・・・・疲れました」
 そんなことを言いながら、くつろぎスペースのソファに、豪奢なドレスで着飾った女性がコテンと横たわった。
 くつろぎスペースでそんな格好で横になる人間などひとりしかいない。
「そんなところでそんな格好で横になっていたら、せっかくのドレスが皺になるんじゃないか?」
「間違いなくなるだろうな」
 呆れた表情になる考助に同調して、フローリアが頷いている。

 最近のミアは、トワに引っ張り出されて、王家主催のパーティに出るようになっていた。
 女性の場合、そういった場ではドレス着用となるのだが、基本的には城で着替えを行っている。
 ただし、今日に限っては、珍しくドレス姿のまま帰ってきて、そのままいまの状態になったのだ。
 ミアが着ているドレスは、王族の一員として恥ずかしくないようにトワが用意した物だ。
 お値段も当たり前のように、普通では手が出ないほどになっている。
 考助が、ドレスの皺のことを気にするのも当然だろう。
 ミアが着ているドレスの一着や二着が無駄になっても揺るがないほどの財産がある考助だが、そういうところは未だに一般的な金銭感覚を持っているので、もったいないと思ってしまうのだ。

 そんな考助に、ソファに顔を押し付けていたミアは、くるりと顔を向けてきて言った。
「そんなことはどうでもいいです。どうせ同じものは続けて着られないのですから」
 高位の家に属する人間ほど、パーティでまったく同じ格好で出てくることなどありえない。
 それがたとえ、どんなに高価な装いであったとしても、だ。
 人の上に立つ者としての見栄というのもあるが、女性の場合は特に、常に新しい流行を追っているという大事な建前もあるのだ。

 そんな事情は考助もわかっているのだが、やはり根は庶民なので、つい思っていることを口に出してしまった。
「それはまた、勿体ないね」
「まあ、そう言うな。ドレスそのもので見れば確かにそうだが、作っている針子の技術といった面では、大いに役に立っているのだぞ?」
 新しいドレスを作るということは、作っている針子たちが常に新しいことに挑戦しなくてはならないということだ。
 それは、間違いなく技術の向上に役立っているのである。
 もし、高位貴族や豪商の娘たちが見栄を張らなくなれば、そう言った面では間違いなくマイナスになってしまう。
 それは、庶民が新しい服を買うことは年に一度、あるいは数年に一度で、ほとんどが中古で済ませてしまう世界ならではの事情でもある。

 ため息をついた考助に、フローリアが笑って言った。
「そんな顔をするな。散財する姫とかになると、毎日着る物も一度しか袖を通さないということもあるのだぞ?」
「うげっ!? なに、その無駄遣い。そのせいで国が傾いたりしたら、馬鹿としか言いようがないね」
「まあな。だが・・・・・・そうだな。こんな有名な逸話がある」
 そんな前置きをしてからフローリアがとある物語を話し始めた。

 
 それは、とある王家にいた姫の物語。
 その姫は、その代の国王としては唯一の女の子で、それはたいそう大事に育てられていた。
 その可愛がりようは、姫がなにをいっても笑って許可を出すほどだった。
 ここまでであれば、猫かわいがりの親バカとして笑って済ませられるような話で済むのだが、側近の一部は国王の姫の可愛がりように次第に眉を顰めるようになっていた。
 というのも、姫は大変な服好きで、食事のたびに着ているドレスを変えるほどだったのだ。
 しかも、姫は着る服を一度袖を通しただけで、侍女や仲の良くなった友人たちに譲ってしまう。
 どう考えても国にとっては散財でしかなく、側近たちが眉を顰めるのは当然だと思われていた。

 ある日、ついに側近のひとりが国王に進言することになった。
 その側近は武に属する者で、姫のドレスなどにこれ以上の無駄な資金の投入をすることは我慢がならなかったのだ。
 姫のドレスに金をかけるくらいなら、国防のために金を使ってはどうかと。
 その側近の話を聞いた国王は、怒るでもなく笑いながらその側近に言ったという。
 なるほど、確かに国防のために軍の拡張は大事だ。だが、そのための予算を其方は生み出すことができるのか、と。
 軍はあくまでも戦うための組織であって、金を生み出すことなどできない。
 直情なところがあったその側近は、素直に軍ではそんなことはできないと答える。
 そして、同時に姫もそれは同じではないかと言った。

 ところが、その側近に国王は他の側近に問いかけつつ、姫の行っていることの「意味」を教え始めた。
 姫は決してひとつの贔屓の店を作ることはせず、複数の服飾の店にドレスの発注を出していた。
 そして、その店の中から特に気に入った物を買っては、次の注文を出すということをしていたのだ。
 姫が気に入らなければ、買うことはしない。
 当然注文を受けた服飾の店は、自分たちが作った服が選ばれるように腕を競っていき、中の技術者たちはどんどん腕を上げていった。
 そうなれば、姫が着る物は流行の中心になると社交の場では言われるようになり、それは国内にとどまらず国外にまで広まるようになっていく。
 そして、姫が成人してその側近が進言をするようになるころには、その国が流行の中心とまで言われるようになっていた。
 武力一辺倒だったその側近は、そのことがまったくわかっていなかったのだという話である。

 
「――――というわけで、上に立つ者が散財をすることは、悪いことではないという話があるのだよ」
 笑いながらそう締めたフローリアに、考助はため息をついてから答えた。
「それはまた随分と都合のいい話だね」
 その国が流行の中心になる前に、他国が同じようなことをしないわけがないし、そもそもそれまで黙って指をくわえているようなことをするはずもない。
 そんな考助の心の声が聞こえたのか、フローリアはクスクスと笑った。
「まあ、実際にそんな国があったかどうかはわかっていないがな。ただし、この話のモデルになった国はあると言われておるぞ? なによりも、この話の本質は散財することではなく、技術を育てることの意味を教えるためだと言われているからな」
「そういうことなら、まあ、わからないでもないかな」
 多かれ少なかれ先端技術を育てるためには、資金は絶対に必要になる。
 そのための投資として、上に立つ者が資金を援助するのは、この世界では当然のことなのだ。
 上の人間が投資をしなければ、技術の革新もなかなか難しい。
 それを教えるための話として伝わっているのだとフローリアは続けた。

 微妙に納得したようなできていないような表情で頷いた考助は、ふと視線を未だ寝転がったままのミアに向けた。
「ということは、ミアは王族としては失格ということかな?」
「それは今更いうことでもないだろう?」
 サクッと答えたフローリアに反応して、ミアがガバッと上半身を起こした。
「ちょっと!! 父上、母上、それはひどすぎませんか!?」
 抗議の声を上げたミアだったが、しかしフローリアにあっさりと反論を許した。
「そう思うのだったら、塔の管理にうつつを抜かさず、しっかりと社交に出るのだな」
「うぐっ!?」
 結局ミアは、そのフローリアの言葉には応じず、ただ視線を逸らして再びソファに身を沈めるのであった。
なんとなくちょっとした小話を書いてみたくなってしまいました。
あとから読めば、穴だらけw
まあ、ちょっとした心構えを教えるための話だということで勘弁してください><
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