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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第5章 ソルの変化

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(9)お願い

 管理層での話し合いを終えたソルは、里に戻ってからすぐに主だった者を集めた。
 ソルの生活の場が移ることになる以上、いままで通りに逐一報告を受け取るようにはできない。
 里を管理できる者や管理層にいるソルに報告に来る者を、きっちりと決めておかなければならないのだ。
「――――というわけで、今後私はあの方の住む地に移ることとなった。というわけで、里をどう管理していくかを決めていきます」
 突然のソルの宣言に一度は騒めいた一同だったが、それはすぐに収まった。
 その代わりに、今後はどうするのだという視線をソルへと向けて来た。
 それを見たソルは、一息置いてから里の運営をどうしていくのか、管理者を含めて次々に指名をしていく。
 ゴブリンの里の新体制の始まりである。

 新体制といってもいままでと担当が大きく変わるわけではない。
 もともとの担当はそのままに、ソルが引き受けていた部分を合議制で決めることにしたのだ。
 とはいえ、完全にすべてを議会(もどき)で決めて行くわけではない。
 意見が割れたときは管理層にいるソルのもとに報告を入れて、ソルが決断を下すことになる。
 そのため、新しい役職を決めることとなった。
 誰かが管理層へと連絡に来なければならなくなるため、それを誰にするのかを決めたのだ。
 といっても、これに関しては、話し合いではなくソルの指名で決定した。

 ソルへの連絡役に指名されたのは、リムという仕天童子だ。
 性別が女性なのは偶然ではなく、ソルが考助のため(?)に敢えてそうした。
 考助が聞けばただの偶然だと言うだろうが、常に管理層にいるのは考助を除けば女性だけになるので、そのほうがいいと考えたためだ。
 そんなソルの思惑には気づかずに、指名されたリムは顔をわずかに引きつらせていた。
 大役に指名されたこと自体は非常に光栄で誇らしいことなのだが、周囲からの視線が痛くて、思わずそうなってしまったのだ。

 もっともそれらの視線は、次のソルの言葉ですぐに収まることになった。
「ああ。もしリムにくだらないことをすれば、私が制裁を直接加えることになりますからね」
 里の中には、戦闘を専門とする強者もいるが、ソルには足元にも及ばない。
 里の運営は恐怖政治が行われているわけではないが、少なくとも表立ってソルに逆らおうとする者はひとりもいないのである。

 
 今後の体制や人員を決めたところで、ソルは一同を見回した。
「これで終わりになりますが、なにか質問はありますか?」
 そのソルの問いかけに、スッと手を上げる者がひとりいた。
「ここの里はよろしいでしょうが、新たに作ることになる里はどうなりますか?」
 それを聞いてきたのは、先日その話をしていた者だった。
 色々と動き回っていたので、ソルの決定を聞いて今後どうなるのか不安に思うのは当然のことだろう。

 だが、それを聞いたソルは、残念そうに首を左右に振った。
「申し訳ないですが、その件は一旦保留で。私の戦力を見込んでいるところもありましたからね」
 そのソルの返答を聞いた一同の反応は三つに分かれた。
 ひとつは、ソルと同じように残念そうな表情を浮かべる者。
 ひとつは、安堵の表情を浮かべる者。
 最後のひとつは、特に変わらなかった者だ。

 それらの顔を見れば、別拠点を設けることをどう考えているのか丸わかりなのだが、ソルはあえてなにも言わなかった。
 そもそも一度決定を下したのはソルなので、ぶれたと言われればそれまでだ。
 たとえ数日前とは状況が変わったとはいえ、一度決めたことを覆すのはあまりいいことではない。
 とはいえソルもそこまで頻繁に意見を変えているわけではないので、この場で批判をするような者はひとりもいなかった。
 それに、次のソルの言葉が、新しい拠点に期待を寄せていた者たちにとっては、反発を抑えるものとなっていた。
「ただ、あの方に新しい土地を用意して貰っていることもありますから、いずれは拠点が増えることを前提に考えておいてください」
「いずれ・・・・・・ですか。それはいつになるので?」
 そう問いかけてきたのは、賛成派の者ではなく、反対派の者からだった。
 そもそも反対派も完全に反対している者は少なく、時期尚早だと考えている者たちもいるのだ。

「そうですね。・・・・・・少なくとも童子となる者が二十名以上余らないと難しいでしょうね」
 本来であればソルが担うつもりだった戦闘能力のことを考えれば、最低でもそれくらいの戦力はいる。
 そう考えてのソルの言葉に、これまた一同の反応はわかれた。
 ただし、今回は好意的な反応のほうが多かった。
 童子クラスの者が増えれば、里の運営も楽になるのだ。

 これで終わりかとソルは一同を見回したが、それ以上の質問は出てこなかった。
「では、これで今後の里についての話し合いは終わります。最初のうちはいろいろと戸惑うこともあるでしょうが、上手くいくように各々が動いてくれるようお願いします」
 最後にソルがそう締めると、一同が揃ってその場で頭を下げた。
 今回の話し合いにより、ゴブリンの里は大きくその体制を変えていくことになるのであった。

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 ソルが里で方針決定をしていたそのころ。
 フローリアは珍しく第五層の街に行っていた。
 正確には、リクが拠点にしている家を訪ねていたのだ。
「というわけで、しばらくソルを引き受けてもらいたいのだが、どうだ? 勿論、依頼という形になる」
 フローリアがリクのところを訪ねてきたのは、先ほど決まった件をお願いするためだ。
 突然フローリアが訪ねてくるという事態にメンバーは驚いていたが、さすがに一流パーティということで、話を聞くときは真面目な表情になっていた。

 ソルがどういった素性の者であるかは、リクを除けばメンバーは誰も知らない。
 だからこそ次のエディの問いかけも当然のものだった。
「俺たちが一般常識を教えるという者は、どういったやつなんだ?」
 基本的に冒険者は、人の過去を問いかけるようなことはしない。
 それは、冒険者となる者が様々な過去を背負っていることが多いためである。
 とはいえ、過去はともかくとして、ある程度の人となりは知っておかないと、冒険者としては失格である。
 今回は一般常識を教えてほしいという変則的な依頼だが、護衛するにしろ何にしろ、それを知ることが生き延びることに繋がるからだ。
 それに、リクにしてもソルとはほとんど接触がなかったため、さほど詳しいとはいえない。

 エディの問いかけに腕を組んで考えていたフローリアだったが、やがてポンと手を打った。
「そうだな。性格でいえば、コウヒ殿やミツキ殿を思い浮かべればいい」
 考助を第一に考えているということを言いたかったフローリアだったが、残念ながら約一名を除いてあまり上手くは伝わらなかったらしい。
 各々首を傾げていたが、約一名であるリクは口元を引きつらせた。
「それは、どの程度?」
「そうだな・・・・・・一般常識を知らない分、その逆鱗に触れればあっという間にこれだな」
 これ、といいつつ右手で首を切る仕草をしたフローリアに、リクは大きくため息をついた。

 未だ意味がわからずに首を傾げているリク以外のメンバーに、フローリアはちょっとしたエサになるものを投げ込んだ。
「言っておくが、ソルの戦闘能力は、シュレインやピーチを超えるからな?」
 その言葉に、メンバーたちの顔色が変わった。
 シュレインやピーチの戦闘能力は、良く知っている。
 それを超える力となれば、『烈火の狼』にとっても大きなメリットが出てくる。
 仲間たちのその顔を見たリクは、フローリアの思い通りにいっている状況に、内心で大きくため息をつくのであった。
ソルが管理層に移ることになったので、新しい拠点に関しては保留です。
あと、ソルが一般常識を身に着けている間は、フローリアに報告するようにしています。
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