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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第5章 ソルの変化

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(1)呼び出し

 仕天鬼姫のソルが、身体に違和感を覚えたのは、部下から報告を受けていたときだった。
「・・・・・・順調そうですね」
「ええ。急激な変化ではありませんが、確実に人口は増えて行っています」
「ですな。特にゴブリンどもの変化は顕著にみられます」
 顔を明るくして言ってくるその報告に、ソルは少しだけ考えてからその言葉を口にした。
「いまは大丈夫なようですが、このさき急激に変化を起こす可能性もあります。特にゴブリンは元が元ですから」
「承知しております」
「そうですか。環境が大きく変われば、歪みが出てくることもあります。大変でしょうが、目を離さないようにしてください」
 ソルがそう釘を刺すと、話に参加していた部下たちが揃って頭を下げて来た。

 ソルが管理している里は、以前考助に悩みを打ち明けたときと比べて、大きな変化を見せている。
 なにしろ懸案だった人口は順当に伸びを見せて、進化種も予想よりも多く増えているのだ。
 そのお陰で、里で出来ることも増えて、原始的な営みから脱却をして、それなりの文化的な生活ができるようになっていた。
 ソルにしてみれば、もっと多くの時間が掛かることも覚悟していたので、これは上々の結果だった。
 勿論、その結果に満足しているわけではないが、進むべき道が見えなかったころと比べれば、遥かにまともになっている。
 それもこれも、焦っていたソルをきっちりと諭してくれた考助のお陰だと、彼女は考えている。

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 いつもの定例会を終えて、解散してすぐにソルのもとに童子がひとり部屋を訪ねてきた。
 その童子は、ソルの住む家を警護している隊のひとりだ。
「どうかしましたか?」
 ソルが向けた視線に僅かばかりひるみつつ、その童子ははっきりと答えた。
「はい。同士の狼が一体訪ねてきています」
 ソルたちの間では、考助の眷属たちのことを「同士の~」と呼んで、他のモンスターとは区別をつけている。
 眷属同士であれば、意思の疎通はできずとも感じ取ることができるので、同士討ちの心配もない。
 その狼が特に手を出されずに、ソルの家までたどり着いたのも納得ができることだ。
 真っすぐにソルの家に来たことはそれで説明ができるのだが、他の眷属がソルのもとを訪ねてくる理由には心当たりがない。
 そもそも眷属といっても、考助は狼だけでも多くのモンスターを眷属にしているので、誰が訪ねてきたかもわからない。
 それはここで聞いても意味がないだろうと、ソルは内心で首を傾げつつ、自分が出向くと答えて童子の案内に従って、眷属がいるという場所へと向かった。

 
「ワフッ!」
 ソルは、玄関先で狼がそう鳴いたのを聞いて、案内した童子を叱責しそうになったのをぎりぎりのところでやめた。
 その童子は、ソルが見ても年若い子で、そもそも単独で来ることなどない狼の見分けなどつくわけがないと考えたのだ。
 それに、童子を怒鳴るよりも先に、ソルにはやらなければならないことがあった。
「ナナ殿! 一体どうされたのですか!? いや、それよりも、中にお入りください」
 ソルは、視界の隅で童子が顔を青くするのを見ながら、同時にナナが首を大きく左右に振るのを確認した。
 ある程度の知能を持っている鬼人たちには、考助とその側近と呼ぶべき存在については、周知徹底しているのだ。
「なにか、急ぎの用事でもあるのですか?」
 ナナが言葉を解していることは、ソルもわかっている。
 首を左右に振った意味を即座に理解したソルは、ナナにそう問いかけた。

 するとナナは、そのソルの問いに答えるように、今度は首を縦に振った。
「そうですか。では、私はどうすればよろしいのでしょうか?」
 ソルがそう聞くと、ナナはいつぞやのリクのときのように、数歩歩いて立ち止まった。
 そのナナの動きを見て、ソルはナナがなにを言いたいのかをすぐに理解した。
「一緒について行けばよろしいのですね?」
 その問いにもナナは首を縦に首肯する。
 そして、それを見たソルは、ナナとソルのやり取りを目の前で半ば呆然と見ていた童子に話しかけた。
「そなた。済まないですが、長の誰にでもいいので、私はナナ殿に導かれてしばらく不在にすると伝えておいてください」
 そうソルが言うと、童子は無言のまま首肯した。
 その様子を見て大丈夫だと判断したソルは、さらにナナの傍へと近付いた。
 ソルのその動きを見ていたナナは、もう大丈夫だと言わんばかりに、後ろを振り返らずにてくてくと歩を進めていくのであった。

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 ソルを連れたナナは、そのまま転移門を使って百合之神宮の南東側にある神社へと案内した。
 その神社で祀られているのは、三大神のうちの月神であり、考助にとってはジャルの名で知っている神である。
 そんなことを知らないままソルは、ナナのあとを付いて行き、関係者が出入りする扉の前まで来ていた。
 そして、ナナがその扉を右の前足でカリカリすると、中に誰もいないのに勝手に扉が開いた。
 ナナがひょいと中に入ってからソルも続くが、そのときにも誰もいる気配はない。

 どうやってナナは扉を開けたんだろうと内心で首をかしげていたソルだったが、次の瞬間にその答えが現れた。
「よく来てくれましたね、ソル。突然呼び出してすみません」
 突然ソルの目の前に現れたユリは、近寄ってきたナナの頭を撫でながらそう言った。
「いいえ。それは構わないのですが、なにかご用でしょうか。力のあるお方」
 ソルはユリとの面識はほとんどない。
 ただ、目の前に立っている存在が、かなりの力を持っていることは、肌で感じることができている。
 だからこその「力のあるお方」という表現だった。

 ただ、そう呼ばれたユリは、否定するわけでもなく小さく笑った。
「ふふ。力のあるお方、ですか。そう呼ばれることは否定できないのですが、あのお方のそばにいる身としては、まったくもって実感がわきませんね」
「それは、確かに」
 ユリの言葉に、ソルも思わず笑みを返した。
 ユリが言う「あのお方」というのが誰であるかは言うまでもない。
 ナナと繋がりのある時点で、想像するに難くないのだ。
 それを考えれば、ユリの言った言葉が実感を伴っていることもわかる。
 なにしろ「あのお方」の傍には、ソルを歯牙にもかけない実力の持ち主がいるのだから。
 ソルの笑みを見て、ますます自信の笑みを深くしたユリだったが、小さく首を左右に振った。
「いけませんね。この話は、いくら時間があっても足りそうにありません。先に用事を済ませてしまいましょうか」
「かしこまりました」
 ユリの言葉に完全に同意したソルは、そう返答しながら頭を下げるのであった。

 
 目的の部屋に着くまでの間に、ユリは自身の自己紹介を済ませていた。
 ついでに、わざわざワンリではなくナナを使ってこの場に呼び出した理由も簡単に説明する。
 すなわち、「ナナを通してとあるお方の依頼を受けたので、わざわざこちらまで来ていただいたのです。あのお方にとっては、こちらの神社が一番やりやすいようで」と。
 そう言われた時点では、ソルもその言葉がどういう意味を持つのかはまったくわからなかったが、部屋に通された数分後にはしっかりと理解できた。
 本来は直接対面できるはずのない存在が、ソルの目の前に現れていたのである。
新章スタート!
といってもいつもと変わらず「塔のあれこれ」ですがw

まずはソルを焦点に何話か続く予定です。
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