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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4章 塔のあれこれ(その21)

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閑話 侵入

 第七十二層にできた迷いの森の調査は、その後二日にわたって続けられた。
 そこまで時間がかかったのは、いうまでもなく手掛かりらしい手掛かりがまったく見つけられなかったためだ。
 何度か迷いの森の周辺を調べて、中を進むことができないかを確認していたのだが、いまに至るまで発見にはつながらなかった。
 そして、この二日間で間違いなく一番働いていたアンヘルがついに音を上げた。
「こいつは駄目だな。さっぱり見つけられる気がしねえ」
 こういった幻惑系の罠に関しては、パーティ随一のアンヘルでも駄目となると、『烈火の狼』ではこの森は抜けられないということになる。
 魔法的な問題だとすれば、カーリもかかわることになるのだが、すでに彼女は歯が立たないと宣言している。
 最後の頼みがアンヘルだったのだが、敗北宣言を出したことにより、すでに諦めモードがパーティ内に漂っていた。

 ただし、諦めモードになっていない者がひとりだけいた。
 それは勿論、『烈火の狼』のリーダーであるリクだった。
「そうか。だったら、もっと別の視点から考え直した方がいいな」
「いや、考え直すといっても、これ以上は・・・・・・」
 無理では、と続けようとしたカーリの顔を見て、リクはおやという顔になった。

 そして、他の面々の顔を見回して、ようやく彼らが諦め顔になっていたことに気が付いた。
「なんだ。お前ら、もう諦めたのか。随分と早いな」
「いや、だが、そうは言ってもよ」
 無理なものは無理だと続けようとしたアンヘルを、リクが右手を上げて止めた。
 メンバーの顔を見たリクは、自分と前提を間違っていることに気付いたのだ。
「まあ、待て。確かにいまの俺たちの技術的には無理なのかもしれないが、それとこれとは別問題だ」
「どいうことだ?」
 そう問いかけながらジッと自分を見て来たゲレオンに、リクは視線を返した。
「ちょっと考えてみればわかるだろう? あの(・・)シュレイン母上が、俺たちが諦めざるを得ないような場所の調査を任せると思うか?」
 そのリクの言葉に、一同がハッとした表情になった。

 シュレインを始めとして、管理層のメンバーからいろいろと教えを受けている『烈火の狼』だが、無茶な要求をされることはあっても、絶対に無理と思われるようなことは指示されてことはない。
 わざわざシュレインとフローリアから連名で指名依頼されているということは、いままでの指導の延長として考えることもできる。
 そうであるならば、絶対に無理なことは依頼してくるはずがない、というのがリクの意見だった。
 そして、リクの問いかけに、他の面々が気付いたような表情になったのも、そうした事情を分かっているからである。

 だが、一時納得した表情になっていたアンヘルだったが、すぐにしかめ面になる。
「リクの言いたいことはわかるが、俺の技術ではどう考えてもここは抜けられないぜ?」
「私も同じね。・・・・・・悔しいけれど」
 アンヘルに追随したカーリに、リクは首を左右に振った。
「いや、だからさ。ちょっとばかり考え方を変えたほうがいいんじゃないかなと思ってな」
「考え方を?」
「ああ。だから例えばさ、森の入り口になりそうなところで、もっともらしい呪文を唱えるとか」
 そのリクのあり得ないだろうという意見に、一瞬一同は呆けた表情になったが、すぐに真顔に戻った。

 依頼のことを考えれば、今目の前にある迷いの森が、誰が用意したのかは考えるまでもない。
 であれば、通常であれば「あり得ない」というようなことが、突破口になっている可能性は十分にあり得る。
 そんなことを思いつくくらいには、『烈火の狼』のメンバーは、アマミヤの塔の管理メンバーとの面識は持っていた。
 実の親が塔の支配者であるリクにとっては、もちろん言わずもがなである。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 広い森に入り口があるかどうかは不明だが、それらしい場所はすでに見つけてある。
 簡単にいえば、魔法的に区切りになっているようなところがあるのだ。
 その場所に前に言ったリクたちは、先ほどリクが言った通りに、次々と「あり得ない」呪文をその場所で口にした。
「・・・・・・ヒラケゴマ」
 リクがそう口にすると、目の前で一瞬だけ人の高さくらいの光の柱がたった。
「・・・・・・おい。まじかよ」
「ないわー。これはないわー。こんなの気付けるはずがないでしょう!」
 どう考えても成功したと思わせるその現象に、この二日間必死になって周辺を調べたアンヘルとカーリが愕然とした表情になる。
 そのふたりの肩を、呪文(?)を唱えたリクがポンと叩いたが、両人が正常まで復活するにはしばらくかかっていた。

 落ち込むふたりを慰めつつ、リクたちは迷いの森の中へと進んでいった。
 こういった場所の場合、たとえ道が示されたとしても、少しでもルートから外れてしまえばすぐに森の外へと追い出されてしまう。
 迷いの森のことを、とある別の呼び名で「精霊の遊び場」と呼ばれることもあるが、それはそうしたことが起こるからでもある。
 それため、リクたちは慎重に歩を進めているのだが、そもそも迷いの森の中は、どう進めば正解なのか、答えが書かれているわけではない。
 だからこそ慎重に進んでも意味がないという者たちもいるくらいだ。
 リクたちが慎重な態度を取っているのは、不意打ちで森の外に追い出された場合に、モンスターと遭遇しないとも限らないためである。
 勿論、迷いの森とはいえ、モンスターが生息している可能性もあるので、そのための警戒もある。

 迷いの森の中に入ると、一本のけもの道が見つかった。
 リクたちは、その道に沿って進むことに決めて、歩を進めていく。
 罠がある可能性もあるのだが、こういう場合はやみくもに森の中を進んでいくのも危ない。
 どちらも駄目なのであれば、より罠が発見しやすい道を進んだ方がいいのだ。
「カーリ、どうだ?」
「うーん。いまのところ魔法的なものはなし」
「物理的な罠もないぜ」
 カーリに続いてアンヘルが答える。
「・・・・・・おかしいな。なにかは絶対にあると思っていたんだが」
 そう呟いたリクに同調するように、メンバーの何人かが頷いた。

 これは、リクたちが誤解しているのだが、なにもシュレインたちは『烈火の狼』を嵌めるために今回の依頼をしたわけではない。
 ただ、そんなことは、リクたちは知らないので、疑心暗鬼になるのは無理もなかった。
 さらにいえば、本来は不用意に森に入った場合は、多くの結界が仕掛けられていて、その認証を通らなければならない。
 『烈火の狼』の面々は、その認証を自動でパスしているので、気付いていないだけなのだ。
 ちなみに、『烈火の狼』の面々は、結界の存在にまったく気付いていないわけなのだが、他の多くの冒険者パーティも気付けないということになる。
 結界のような魔法的な罠を高い確率で感知できなければ、一流の冒険者にはなれないのである。

 罠らしい罠が無く、戸惑う『烈火の狼』の面々を余所に、ついに彼らは最終目的地(リクを含むメンバーは知らない)に着いた。
 そう。彼らの目の前には、考助が作った家が現れていたのだ。
「・・・・・・どういうことだと思う?」
「おいおい。師匠たちの考えを一番よく知っているのは、リーダーだろう? 俺たちが分かるはずもない」
 肩をすくめながらリク答えたアンヘルに、他のメンバーも頷く。
 迷いの森の中に、あるはずもない家が建っていれば、戸惑うのも無理はないだろう。

 結局、『烈火の狼』の面々は、周辺を散々調べてから家の中に入るという決断を下すのであった。
なんだかんだで三話続いてもまだ終わりませんでした。
次こそお家探索になります。
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