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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 塔のあれこれ(その20)

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閑話 対面の舞台裏

 ダシャは、自身の上司となるココロの言葉に顔を青ざめさせた。
「あの、ココロ様。それは、これから現人神様とお会いするということでしょうか?」
 嘘だと言ってくれというダシャの願いも虚しく、年若いにもかかわらず素晴らしい能力を持っているココロは小さく頷いた。
「そうです。タイミング的にいまがちょうどよいのです。なにより、現人神様との対面を果たさないと本来の業務が果たせませんから」
 そんなに気軽にいわないでくださいと考えたダシャだが、ココロの表情を見る限りでは、その意見を変えるつもりはなさそうだった。
 ダシャは「そうですか」と答えつつ、自分の隣に立つふたりの同僚をそっと見た。
 ヴィオラもネラもダシャと似たような表情になっている。
 巫女である自分の主神に直接対面するというのだから、そうなってしまうのも無理はない。
 だが、残念ながらココロがこうと言い出したらまったく意見を変えることが無いのもよくわかっている。
 もしそれを変えられるとすれば、先ほどからダシャたちの様子を離れた場所で見守っているリリカだけだが、ニコニコ笑っているだけなので期待はできない。
 結局三人は、ココロの意見を受け入れて、その日のうちに現人神との対面を果たすことになるのであった。

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 ダシャたち三人は、緊張した面持ちで会議室と説明された一室の椅子に座っていた。
 ココロに案内されて、普段は決して入ることのない王城の一室にある転移門を使って、管理層(ココロから説明された)に来たのはつい先ほどだ。
 塔に現人神が住まう場所があることは、すでに周知の事実となっていたが、詳細までは一般に広まっていない。
 転移門が他の塔と比べて多くあるアマミヤの塔だが、まさかその場所まで転移門で向かうことになるとはダシャは思っていなかった。
 ココロに案内されたときに使った転移門が、管理層に向かうための専用のものなのか、それともココロが特殊な操作をしてきたのかはわからない。
 それでも確かにダシャが知らない場所に、転移門を使ってきたということは間違いない。

 そして案内された会議室だが、そこも普通では考えられないような場所だった。
 勧められた椅子もそうだが、置かれている事務用品やら調度品があり得ないほどの素材でできている品だったのである。
 これだけの材料の物をそろえられるのは、各国の王室を含めたごく一部でしかないだろう。
 それだけでもダシャたちの緊張を誘うのには十分だったのだが、それ以上だったのが、周囲を漂う神の気配だった。

 そもそもダシャたちは、現人神を主神とするために修行をしてきた巫女たちだ。
 高い倍率を潜り抜けて合格した三人の実力は、それなり以上である。
 そのためしっかりとあたりに漂う考助の神威を感じ取ることができたのだが、今回に限ってはそれがアダとなっていた。
 普通ではありえないほどの濃密な神威に彼女たちが気付かないはずもなく、否応なく今いる場所が、現人神が住まう場所だと認識させられたのだ。

 そんな三人の様子を見て、ココロは内心でしまったかなと考えていた。
 部屋に漂う神威だけでこれだけ緊張するのであれば、本人を目の前にすればどれほどのことになるのかは想像に難くない。
 今日は考助と直接対面することはなしにして、会議室に来るだけにとどめておけば良かったとも思ったが、すでに考助には伝えてあるので今更どうしようもない。
 いまから会うのは中止でと言ったとしても考助自身は気にはしないだろうが、自分たちの都合で神の予定を変えたとなっては、三人が色々と葛藤することになるだろう。
 仕方ないと諦めて、これから先のことを考えるココロなのであった。

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 考助が出て行った会議室で、シルヴィアとココロが同時にため息をついた。
「神の巫女。申し訳ありませんでした」
 シルヴィアは、一般的には現人神の巫女として知られている。
 普段はそれを縮めて神の巫女、もしくは巫女と呼ばれている。
 ただし、この場にいるのは全員が巫女なので、紛らわしくならないように「神の」と付けるのが通例なのだ。
 ココロに頭を下げられたシルヴィアは、首を左右に振った。
「貴方が謝ることではないでしょう。私が一般的な感覚を忘れて、簡単に許可を出したのも原因のひとつです」
 いまの考助が、神威のコントロールができずに周囲にまき散らしていることは、シルヴィアもよくわかっている。
 管理層にいるメンバーが、それに慣れてしまっているので、つい一般の者たちがどういう反応を示すかを忘れてしまっていた。
 シルヴィアにしては珍しいポカだが、今更どうしようもない。

 それよりもと前置きをしたシルヴィアは、三人に視線を向けた。
「あなたたちはどうしますか? 業務の内容を考えれば、これから先いくらでも現人神と対面する機会はあります。そのたびに今のような態度はできませんよ? というよりも、私が許しません」
 シルヴィアは、いまの対面で考助が表には出していなかったが、多少傷ついていたことに気付いていた。
 だからこそ、もし同じような態度を取るようであれば、考助のためにも彼女たちが百合之神宮の管理者になることは許さないだろう。
 たとえ考助が許可を出したとしても、シルヴィア自身が認めない。

 考助の神気にてられて顔を青ざめていたダシャは、シルヴィアの言葉に一度大きく深呼吸をしてから、強い意志を持ってシルヴィアを見た。
「私自身の未熟で、ご迷惑をおかけいたしました。ですが、これでも一定の修行を修めたという自負はあります。もしお許しを頂けるのでしたら、もう一度機会を頂けないでしょうか?」
 虫がいいことを言っているのは自分でもわかっている。
 それでも、これまで辛い修行に耐えて来たという思いが、ダシャを突き動かしていた。
 なによりも、直接現人神と対面したことで、室内に漂っている神威に慣れて来たというのが大きい。
 このときには、ある程度の平常心を取り戻すことができていたのである。

 シルヴィアが他のふたり――ヴィオラとネラに視線を向けると、ふたりとも同じような表情になっている。
 それを見たシルヴィアは、これなら大丈夫だと判断して頷いた。
「わかりました。では、もう一度現人神に来てもらうようにしましょう。でも、その前に、私がきちんと必要なことを伺っておきます」
 先ほど別れてから、シルヴィアは一度も考助とあっていない。
 長時間三人と合わせて大丈夫なのかわからないので、まずは自分自身が三人と面談することにした。
 なんだかんだでシルヴィアは、考助に対して甘々なのである。

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 現人神と二度目の対面を果たしたあとで、ダシャは大きくため息をついた。
「あれでよろしかったのでしょうか?」
 本人(神?)から直接謝罪はいらないと言われてしまったために、あれ以上の謝罪をすることはできない。
 だが、ダシャを含めて三人は、あれでよかったとも考えていなかった。
 シルヴィアはすでに部屋を出て行ったので、答えたのはココロだ。
「いいのですよ。もしあれ以上続けていれば、その場であなたたちを切り捨てなければなりませんでしたから」
 考助の性格上、あそこでとどまれたのは、最善だったとココロは考えていた。
 三人には納得できないところもあるだろうが、それに慣れなければ、今後も考助の傍で働き続けることなどできるはずもない。

 最初はどうなることかと危ぶんでいた考助との対面だったが、どうにかぎりぎり合格点を出せる結果を残せたのは、ココロとしてもダシャたち三人にとってもまずまずの結果なのであった。
考助と対面したときの巫女側のお話でした。
緊張しまくりです。それでも結果を残したのは、万々歳といったところでしょうか。
考助には負担かけまくりでしたが。
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