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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 塔のあれこれ(その20)

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(2)専門家

 シュミットが定期訪問(?)で管理層に来ていたときのこと。
 ふと思い出したようにシュミットが聞いてきた。
「そういえば、荷運び車の改良はされないのでしょうか?」
 荷運び車というのは、以前考助が作った荷物運搬用の台車のことだ。
 狭い路地を通れるように作ってある小さな台車で、簡素なつくりのために非常に安く作れるのが特徴となっている。
「改良? なんのために?」
 シュミットから聞かれるまで、まったくそんなことを考えていなかった考助は、逆にそう問いかけた。
「いえ。単に面白い道具なので、別に作る物もあるのかと考えただけです」
 さらりとそう答えたシュミットだが、目の奥ではなにかを期待していることは、考助にもすぐにわかった。
 ただし、考助にしてみれば、あまり興味の引く話題ではない。
「うーん。いくつか思いつく物はあるけれど・・・・・・まあ、その辺りは開発部に期待するくらいでいいんじゃないかな?」
 以前に作ったのは、あくまでも手押し車のような物だった。
 あの魔道具の魔法陣を参考にすれば、トロッコのような物だって作ることはできるだろう。
 究極に研究を進めれば、それこそ考助たちが旅に使った馬なし馬車の基礎を作ることも可能になる。
 だが、考助としては、ひとつの魔道具にそこまで手を加えるつもりはない。

 それらの道具はあくまでも前世(?)の記憶をもとに作ることができるのであって、わざわざ考助の側からそうした知識を与えるつもりはないのである。
 いままでさんざんやらかしている部分はあるが、そこはそれ。
 考助自身が必要だから作ったのであって、自分が使うわけでもない道具のために時間を使うつもりはないのだ。
 わがままといえばわがままなのだが、そう言われても仕方ないと考助自身、割り切っていた。
 そうしなければ、いつまでたっても好きな研究ができなくなってしまう。
 いままでさんざん作りたい物だけを作ってきた考助だが、他にもやりたいことはたくさんあるのだ。

 考助の言葉に、シュミットもそれ以上はなにも言わなかった。
 いつものことだが、考助には好きに動いてもらったほうがいいと理解しているのだ。
「そうですか。開発部と工芸部門には、発破をかけておきます」
「まあ、ほどほどにね」
 ニヤリと商人らしい笑みを浮かべるシュミットに、考助は苦笑を返す。
 ある程度のプレッシャーはいいのだが、それに押しつぶされてしまっては意味がない。
「勿論、わかっております」
「どうだか。ときに商人は、金を得るために鬼に変わるからねえ」
「そうでなければ、商人とはいえませんから」
 混ぜっ返した考助に、逆にシュミットは胸を張ってそう返してきた。

 気安いやり取りに、ふたりは小さく笑った。
 そんなシュミットに、これまで黙って話を聞いていたシュレインが、なにかを思い出したように尋ねた。
「そういえば、そっちで作っているゴーレムはどうなっておるのじゃ?」
 管理層ではバリバリに活躍しているメイドゴーレムだが、あまりの技術の高さに全てを再現(?)することはできていないはずだった。
 それでもコウヒとミツキが初期に作り上げた初期のゴーレムは作れるようになっている。
「こちらで言っているゴーレムは、魔人形と名前を変えて、各国の王族を中心に広がっていますよ」
「ほう? もうそこまで行けたのか」
 以前に聞いた話では、まだまだ技術を習得している者が少ないので、広く売るまでは行っていないということだった。
 だが、いまのシュミットの言葉では、それなりの数が売りに出されているように感じた。

 僅かに首を傾げるシュレインに、シュミットは頷いてさらに説明を加えた。
「以前、コウスケ様から話のあった分業制を試してみたら上手くいきました」
 ひとりの人間が魔人形を一から十まですべて作るには、かなりの技術の習得が必要となる。
 だが、魔人形の生産を技術ごとの工程にわけて生産をするのであれば、全部を作れるようになるよりは時間がかからない。
 その分業制のお陰で、魔人形もある程度の量産が可能になったのだ。
 勿論、ひとつひとつが高い技術を必要とするので、簡単に値を下げられるわけではないが、それでも王族を中心に広まっているのが現状だ。
 ある程度各国の王族にいきわたれば、次は高位の貴族にわたり始めるとシュミットは考えている。

 とてもいい笑顔を浮かべるシュミットに、考助が釘を刺した。
「それはいいんだけれど、あまりに分業制を突き詰めると、魔人形? を作れる人がいなくなるから気をつけてね」
 その考助の言葉に、シュレインとシュミットが同時に首を傾げた。
「どういうことじゃ?」
「あれ? シュミットはともかく、シュレインはわかると思っていたけれど?」
 逆に考助も首を傾げてシュレインを見たが、相変わらず疑問符を浮かべたままだ。

 さてどうやって説明するかと少しだけ考えた考助だったが、シュレインが相手であれば、ちょうどいい説明の仕方があることを思いついた。
「例えば、魔法陣を作るときに、ある部分だけを永遠に作り続けるとどうなると思う?」
 シュレインは、コウヒ、ミツキ、イスナーニに続いて、魔法陣に詳しい。
 分業制を説明するのにちょうどいいと思ったのだ。
「それは勿論、最後の発動ができなく・・・・・・なるほど。そういうことかの」
 魔法陣も分業して作ることは可能だ。
 例えば六芒星だけを書く専門の人間を作れば、それだけを書いてあとの者に回して最後に発動すればいいのだ。
 問題は、六芒星だけを書いている者が、全体の魔法陣の意味を読み取れずに、発動ができなくなってしまうことにある。
 それと同じようなことが、魔人形の場合でも発生すると理解できたのだ。

 見れば、シュミットも考助が言いたいことが理解できたのか、悩ましい表情になっていた。
「そういうことですか。しかし、分業制を止めるとなると・・・・・・」
 いきなり飛躍したことを言い出したシュミットに、考助は慌てて右手を振った。
「いやいや。なにもいきなり分業制を止めることは、考えなくてもいいんじゃない?」
「と、おっしゃいますと?」
 シュミットが首を傾げてそう聞くと、考助は腕を組んで「ウーン」と唸った。
「シュミットであれば、すぐに気付くと思うけれど・・・・・・別に、ひとりの人間をずっと同じ場所で働かせる必要はないよね? だから、ある程度の期間が経てば、別の場所で作れるようにすればいい」
「それは確かに考えましたが、それではせっかく上がった効率が下がるのでは?」
 眉をしかめてそう聞いてきたシュミットに、考助は内心で嗚呼と納得した。
 そもそもこの世界では、あちこちに部署に移動させて経験を積ませるという概念がないのだ。
 あるとすれば、その部署が必要なくなり、人の移動が必要になったときだけなのである。

 シュミットの問いかけに、考助は簡単な解決方法を答えた。
「さすがに全員をいきなり別の場所に行かせれば駄目になるけれど、ある程度の人数であれば、効率も一定数保てると思うよ」
 その考助の言葉に、シュミットは虚を突かれたような顔になった。
 まさに、鱗が落ちたといいたげな表情だ。
「・・・・・・そんな方法が」
「・・・・・・なるほどのう」
 考助が隣を見れば、シュレインも同じような表情で感心していた。
 ひとつの場所でずっと経験を積むことが当たり前の世界では、ちょっとした人数を持ち回りで別の部署を経験させるという方法は、なかなか思い付きづらいようだった。

 その後はあえて考助も詳しい説明はしなかったが、シュミットもいろいろと考えているようなので、大丈夫だろうと考えることにした。
 結局シュミットは、考助から聞いた話をもとに、工芸部門のダレスに話をして、人材の育成にも力を入れるようになったのである。
分業制に待ったをかけました。
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