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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2章 塔のあれこれ(その19)

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(8)順調な中でのちょっとした問題

 新たに人員を加えてから半月後。
 人が増えたために生産と販売量が増えたのと、目新しさが無くなったのが相まって、屋台に並ぶ人数は落ち着きを取り戻していた。
 勿論、絶対数は増えているので、人気が落ちたわけではない。
 そして、このころになると、当然のようにその人気に目をつけてどうにか同じようなものを作れないかと尋ねてくるような者も増えてきていた。
 ただし、落ち着いているとはいっても、人がいなくなっているわけではないので、隙を見て聞きに来る程度だ。
 さすがに、忙しいさなか無理やり聞き出そうとしに来る者は、まだ出ていない。
 というよりも、販売の邪魔をしようものなら、買いに来ている人たちからブーイングが出てくるので、控えていると思われる。
 とにかく、屋台での販売は、フローリアたちが想定している第一段階を順調にクリアしようとしていた。

 サラサからの報告書を読み終えたフローリアは、目の前に立っていたサラサに視線を向けた。
「さすが受付をやっていたことだけはあるな。報告書が読みやすい」
「あ、ありがとうございます」
 既に報告書は何度か上げているのだが、初めて褒められた事実に、サラサは虚を突かれたような顔になってから頭を下げた。
 そして、すぐにハッとした表情になる。
「あ、いえ。そうではなくて、ですね」
 報告書には、今後の方針についての問い合わせも合わせて書いてある。
 その回答がどうなのかを知りたいがために、サラサは報告書を渡すだけではなく、その場で待っていたのだ。

 言い淀むサラサに、フローリアは笑みをこぼした。
「フ、フフッ。冗談だ。いや、報告書がきれいなのは、冗談ではないのだが」
 そう、どうでもいい前置きをしてから、フローリアは本題に入った。
「確かに報告書を見る限りでは、条件は整っているように見えるな」
「では?」
「まあ、待て。元々の予定では、ひと月くらいは様子を見るつもりでいたからな。まずは他の者たちとも相談してみるさ。ただ、反対されることはないだろうから、進めるつもりでいてくれ」
「畏まりました」
 フローリアの答えに、サラサは丁寧に頭を下げた。

 そもそものフローリアたちの目的は、屋台をやること自体ではなく、考助の故郷の料理を広めることだ。
 最初の計画では、ひと月ほど考助たちのことを知る人材だけで屋台を続けてから、意欲のある者たちに作り方を教えて行くつもりだった。
 街の人々に十分にカレーと揚げ物が広まっていなければ、新しく店を出すことを希望している者に教えても意味がないのである。
 その認識が浸透するまでを、フローリアたちは一カ月と見越していたのだ。
 だが、いまのサラサの報告書を見る限りでは、現状でも十分に浸透してきているような感じだ。
 だからこそ、先ほどのフローリアの台詞に繋がるのである。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 サラサからの報告書を持って管理層に戻ったフローリアは、考助に相談するために、会議室へと向かった。
 フローリアが扉を開けて会議室に入ると、そこには考助以外に、シルヴィアとシュミットがいた。
「フローリア、どうしたの。少し急いでいるみたいだけれど?」
 いきなり考助からそんなことを言われて、フローリアは少し驚いてその場に立ち止まってしまった。
 フローリアとしては、確かに心の中では急いでいたが、それを表に出しているつもりはなかったのである。
 シルヴィアとシュミットを見れば、きょとんとした表情をしているので、フローリアが急いているとは思っていなかったのだ。
「む。いや、済まない。別に悪いことが起こったわけではないのだ」
 フローリアは、そう前置きをして考助を安心させてからすぐに本題に入ることにした。

 右手に持っているサラサからの報告書をピラピラさせながら、フローリアは話し始める。
「屋台のことだがな。当初の予定よりも早いが、計画を進めてはどうかと考えての相談だ。数値を見てもサラサの感触でも、十分に浸透しているそうだ」
 そう言いながらフローリアは、報告書を考助へと手渡した。
 さっくりと報告書に目を通した考助は、それをそのままシルヴィアに渡してから頷いた。
「たしかに、中々いい感じで広まっているみたいだね」
 シルヴィア、シュミットの順に報告書が回すようにして、フローリアも頷いた。
「最初の予定でも、物珍しさと美味しさから早く広がると計算していたのだがな。それ以上だった。・・・・・・正直、舐めていたというのが本音だな」
「ほんとにね」
 呆れたような、嬉しいような複雑な表情を見せるフローリアに、考助は苦笑を返した。

 見終わった報告書をフローリアに返したシュミットは、期待するような眼差しをフローリアへと向ける。
「これを見る限りでは、十分すぎるほどだと思いますが、なにか懸念することでもあるのでしょうか?」
 シュミットとしては、できるだけ早くクラウンに所属する料理人を派遣して、カレーのレシピを覚えさせたいのだ。
 いままで手を出していなかったのは、考助たちに気をつかってというのもあるが、そもそもの計画に賛同していたからだ。
 考助が、というよりも、ミツキが持っているレシピは、クラウンだけで独占していいものではないと、シュミットも考えているのである。
「いや、時期を早めることもそうなのだが、それ以上に、ここまで一気に広まってしまうと、どの程度の人を受け入れればいいかと悩むところでな。是非ともその辺は、シュミットの意見も聞いてみたい」
 カレーのレシピを他に広めること自体はもともとの計画なので、大きな問題はない。
 だが、いま出している屋台に来ているお客の中には、明らかに位が高い人間の使いのような者も混じっていた。
 そもそも普通では消費できないような大量買いを何度もしているのだから、わからないはずがない。
 それも、ひとりふたりではなく何人も、なのだから、あとのことを考えると頭が痛いと言わざるを得ない。

 金を持つ人間がカレーのレシピを欲しがれば、せっかくエリたちが教えたとしても、その人間自体を囲い込まれてしまう。
 実際に、エリたちには、そうした勧誘の手が伸びている。
 逆に特許のような制度を作って保護するのは、今回の場合に関しては悪手といえる。
 なぜなら、せっかくレシピを保護してもらっても、結局レシピを知るためには金が必要になってしまうからだ。
「・・・・・・・・・・・・いっそのこと、クラウンを含めて大手の料理処のギルドに教えてしまってはいかがでしょうか?」
 少し考えていたシュミットが、考助たちに向かってそう言ってきた。
「それでは、当初の目的とは外れてしまうのでは?」
「いえ。少なくともクラウンでは、レシピを秘匿するつもりはありません。逆に多くのギルドに教えてしまえば、その意味も薄れてしまいます。その上で、そうした大手以外の個人にもレシピを教えてしまえば・・・・・・」
「ますます秘匿する意味を失うというわけか」
 シュミットの目的を知って、フローリアが言葉を先取りした。
「はい。レシピさえ広まってしまえば、大手に知られてしまっても目的は達成されているのではないのでしょうか」
「なるほど。確かに一理あるな」
 シュミットの台詞に頷いたフローリアにたいして、話を聞いていた考助は、ニヤリとした表情を浮かべてシュミットを見た。
「どうせ、シュミットが考えているのは、それだけじゃないよね?」
「おや。なんのことでございましょうか」
 考助の言葉に、シュミットは商人らしい表情を浮かべた。
「まあ、いいけれどね。どうせ、そもそもの僕たちの目的にも合致しているだろうし」
 何度も繰り返すが、考助たちの目的は、カレー(その他)を広めることであってレシピそのものを広めることではない。
 シュミットが恐らく考えているであろうことは、その目的に沿っているのだ。
 それならば敢えて止める必要もないと、考助それ以上シュミットにそれ以上の追及をするのを止めるのであった。
シュミットがなにを考えているのかは次話で。
といっても大したことではありません。日本社会の中ではごく普通に行われていることです。
単純に文字数がオーバーしたので分けただけです><
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