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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第9部 第1章 塔のあれこれ(その18)

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(2)スピカの降臨

 フローリアの舞は、十五分ほど続いた。
 それだけの間、ずっと踊りっぱなしだったわけで、体力の消費が凄いことになっているはずだが、最後まで全く乱れた様子は見られなかった。
 塔に来る以前から剣の腕を磨くために体力をつけていたとはいえ、それでも疲れを感じさせずに踊り続ける体力は、さすがといえるだろう。
 さらにいえば、フローリアは勿論のこと、そのフローリアの舞にずっと付き合って音を出し続けていたミアも同じことが言える。
 ずっと座って弦をはじいているだけと考える素人もいるのだが、ストリープの演奏はそんなに甘いものではない。
 ストリープを弾くための技術はもちろんのこと、何気に弾き続けるための体力も必要なのだ。

 踊り終えたフローリアは、疲労を感じさせることなく最後に一礼をしてから、見学者たちへと視線を向けてニコリと笑った。
 それを受けて、他の面々は盛大な拍手を送る。
 それに対して、右手を上げて答えようとしたフローリアだったが、上げようとした手を半端なところで止めて、いきなり練習場の天井を見た。
 勿論、実際には天井を見たわけではなく、上空に現れた存在を見たのだ。
 そして、すぐに跪いて現れた相手に向かって敬意を現した。
「・・・・・・ご降臨を歓迎いたします」
 フローリアが現れた相手に向かってそういうのとほぼ同時に、考助と子供たちを除いた他の面々もそれが誰であるかに気付いて跪いた。
 子供たちは母親たちに促されて、そのあとに跪いていた。

 その様子を苦笑しながら見ていた考助は、右手を上げながらフローリアたちが跪いた相手に向かって近付いて行った。
「やあ。スピカがこんなタイミングで来るなんて、珍しいね」
「フローリアが条件を満たした」
 いつものように簡潔な言葉で返してきたスピカに、考助は首を傾げる。
「条件って、いまの舞?」
「そう。私の加護持ちだから来られた」
 その微妙なスピカの言い回しに、考助は違和感を覚えた。
「ん? 加護持ちだから・・・・・・? ということは、他の女神たちも来ることができる可能性があるってこと?」
「そう」
 スピカは、小さく頷きながらチロリと視線をミクへと向けた。
 その仕草を見れば、スピカがなにを言いたいのか、考助にも理解できた。
「・・・・・・なるほどね」
 要するにスピカは、ミクがストリープの腕を上げてフローリアの舞の演奏をできるようになれば、いまのスピカと同じようなことができると言っているのだ。
 ついでにいえば、いずれはミクの演奏単独で神の降臨をすることができるようになるかもしれない。
 もっとも、それはあくまでも可能性の話なので、ふたりとも敢えてそれを言葉に出したりはしてないのだが。

 時間にして数分程度だったが、スピカと話していた考助がはたと気付いた。
「あ。ごめんごめん。フローリアに会いに来たんだよね。余計な時間だったか」
 両手を合わせて頭を下げた考助に、スピカはフルリと首を振った。
「気にしない。コウスケとも話したかった」
「そう? まあ、いいや。とりあえず、降臨した用事を先に済ませる?」
「そうする」

 コクンと頷いたスピカは、改めてフローリアへと向き直った。
「フローリア」
「はっ!」
 降臨したスピカから直接声をかけられて、フローリアは珍しく緊張気味に返答する。
 滅多に見ることのないフローリアの姿に、考助は内心で喜んでいたりする。勿論、それを口に出すような愚を犯すことはしない。
 ちなみに、フローリアも当然のように考助作の交神具を持っているので、それなりにスピカと交神していたりする。
 ただし、いまのように直接お目にかかることはないので、フローリアの緊張はうなぎのぼりに高まっているのだ。

 そんなフローリアの様子を気にすることなく、スピカはいつもの調子で話しかけていた。
「あなたは、もっと舞ってもいいと思う。そして、私と私の周囲を喜ばせて」
「それは・・・・・・」
「勿論、強制じゃない。あなたの好きなときに踊ればいい」
 矛盾していることを言っているようだが、スピカとしては最大の譲歩だろう。
 スピカがフローリアに舞うようにと言えば、それは神託となり強制されることになってしまう。
 そんな状態で舞われても、スピカとしても楽しめないのだ。
 だからこその後半の台詞なのだ。
「・・・・・・ありがとうございます」
 丁寧に頭を下げたフローリアに、スピカは珍しく表情を変えて言った。
「それに、せっかくなのだから、旦那様をもっともっと惚れさせないと」
「ブフッ!?」
「コウスケ?」
 突然向いてきた矛先に、考助が噴き出し、フローリアがそちらを見てこれまた珍しく少しだけ頬を赤くした。

 なんとか矛先を躱そうとする考助よりも前に、スピカがさらに言葉を重ねて来た。
「考助は、あなたの舞を見るたびに惚れ直している。これであなたも他に先んじて一歩リード」
「ス、スピカ!」
 スピカの言葉に、フローリアを除いた嫁さんズの視線が鋭くなる。
 それを感じたフローリアは、クスリと小さく笑った。
「一歩リードはともかく、今後はいろいろと趣向を変えて舞ってみます」
「うん。そうするといい」
 晴れやかな笑顔で言ったフローリアに、スピカは相変わらず淡々とした調子で頷いた。
 フローリアの横で慌てている考助のことは当然のように、無視している。

 いまのやり取りを見れば、神の一柱がひとりのヒューマンに肩入れするのは良いのかという意見も出てきそうだが、そもそもフローリアはスピカが加護を与えているので大した問題にはならない。
 なによりも、この場にいる者たちで、そんな無粋なことを言う者はひとりとしていない。
 最初のときの緊張も取れて穏やかにフローリアと会話をするスピカに、考助がため息をつきながら問いかけた。
「それで、わざわざ降臨してきたのは、フローリアをダシに僕を揶揄からかうため?」
「まさか。もうひとつ用事がある」
 スピカはそう言って視線をミクへと向けた。
「ミクに加護を授ける」
 確認ではなく断言したスピカに、考助は思わず驚きの表情になった。
 そして、その理由を察した考助は、今度は別の意味でため息をついた。
「スピカが直接動かなければならないほどなんだ?」
「そう。今回のフローリアの舞で、さらに精霊が騒いでいる」
 もともと精霊は、ミクの音が好きで集まりやすい傾向があった。
 それが、今回ミアがフローリアの伴奏をすることで、ミクの意識がただ自分ひとりだけで演奏するのではなく、他者と合わせて演奏することを学んだ。
 たった一度の鑑賞だったが、それだけでもミクには多大な影響を与えていた。
 精霊は、そのミクの変化を敏感に感じ取ったのだ。

 スピカの短い説明で、このままだとミクが多量の精霊に飲み込まれる可能性もあると理解した考助は、視線を母親ピーチへと向けた。
「どうする? 僕は、スピカの言う通り加護を与えた方がいいと思う」
「スピカ神の御心のままに」
 考助の確認に、ピーチはそう言いながらスピカへと深々と頭を下げた。
 もともと選択の余地はない。というよりも、わざわざスピカが動いてくれているだけでも僥倖である。
 ほぼ即答に近いピーチの返答に、スピカは小さく頷いた。
 スピカがその場で右手の人差し指をミクへと向けると、その指先から小さな光が出てきて、フヨフヨとミクの額へ近付いて行き、そのまま吸い込まれていった。
「・・・・・・いまはこれだけで。もう少し成長して、道理がわかるようになったらきちんと本人の了承を得る」
「そうだね。それがいいね。わざわざありがとう」
「構わない。私にとっても必要なこと」
 頭を下げた考助に、スピカは首を左右に振った。

 こうして、神の一柱(スピカ)の降臨という波乱の(?)展開もありつつ、フローリアの本気の舞は幕を閉じるのであった。
フローリアの舞で降臨したスピカですが、ついでとばかりにミクへの加護の予約をしていきました。
あくまでも予約であって、完全に加護持ちになったわけではありません。
ちなみに、ステータス上では《加護(予定)》となっていますw
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