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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 南~西方面

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(2)楽器のお店

 辻芸人が一曲弾き終えたあともミクは粘ると思われたのだが、意外にあっさりとその場を離れた。
 それは、ミクが音楽への興味を失ったのではなく、居座ろうとしゃがみこんだミクに、セイヤとシアが子供パワーで引っ張り出したのである。
 セイヤとシアにとっては、辻芸人の曲はさほど興味を引けるものではなかったようである。
 逆にいえば、さほど腕が伴わない音を楽しんでいたミクは、やはりそういった方面で何か気を引くことでもあるのだろう。
 そう考えた考助とピーチだったが、いかんせんふたりとも音楽に通じているわけではない。
 そもそも周囲にそういったものが無かったピーチと、クラシックといえば学校の授業や映画やドラマで聞こえてくるものしか聞いたことがないという考助だ。
 コレットにしても、ピーチほどではないにしろ、エルフの里も音楽が充実しているとは言い難い。
 そろいも揃って、ほぼ音楽とは無縁な生活を過ごしていた三人であった。

 ただし、三人が揃って駄目だとしても、考助たちには頼れる仲間がいる。
 南の街を子供たちと一緒に歩いていた考助は、心当たりに聞いてみることにした。
『あ~・・・・・・ちょっといいかな?』
 そう言いながら神力念話で連絡を取ったのは、仲間の中でも最高水準の教育を受けたフローリアだ。
『うん? なにかあったのか?』
『ああ、いや。大事があったわけじゃないんだよ。ちょっとフローリアに聞きたいことがあってね』
『聞きたいこと?』
『ああ。・・・・・・フローリアって、楽器とかもなにか習っていたりする?』
『突然なんだ? それはまあ、人並み程度には・・・・・・ああ、ミクか』
 フローリアは、すぐに考助がなにを言いたいのかわかったようで、ミクの名前を出してきた。
『確かに私はそなたたちに比べれば、ある程度楽器も扱えるが、一流とは言えないぞ?』
 こういったことに関しては、基準がおかしいフローリアの言葉に、考助は相手には見えていないのをわかっていながら苦笑した。
『最初から一流なんて目指さなくていいよ。とりあえず、ミクの興味を引きそうな楽器とか選んでもらったり、基礎を教えてもらえれば』
『なるほどな。それなら、なんとかなるか』
『それに、そもそも本当にミクがやる気を出すかもわからないしね』
『ふむ・・・・・・まあいいだろう。今すぐ合流するのか?』
 なぜかやる気になっているように感じたフローリアの言葉に、考助は首をひねった。
『うーん。まあ、そっちの都合が良ければ?』
 明日から先の旅の用意は、フローリアたちが行っている。
 先に準備を済ませるようにと言外に告げた考助だったが、あっさりと答えが返ってきた。
『それならば問題ない。買うべきものは、全部用意し終わったからな』
『それはまた、早いね』
 若干驚きを示した考助に、フローリアの呆れたような声が聞こえて来た。
『なにを言っているんだ。そもそも旅の行程速度が速いから、あまり大量買いをしなくても済むんじゃないか。当然、買う時間も短くて済む』
『あ~、そういやそうだった』
 最初の頃はともかく、子供たちと一緒に行動することになってからは、考助は準備の買い物に付き合うことが無くなっていた。
 そのため、すっかりそのことを忘れていたのである。

 考助のうっかりはともかく、フローリアとどこで落ち合うのかを話し合ってから、ふたりは神力念話を打ち切るのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 合流地点でフローリアを先に見つけたのは、ミクだった。
「フローリアかかさま!」
 数人の男たちに囲まれていることを全く気にせず突進してきたミクを、フローリアはがしっと抱き上げた。
「おー、元気いっぱいだな!」
 嬉しそうにミクに頬擦りをしているフローリアを見て、ナンパ師(?)たちはそれまでの表情を一変させた。
「・・・・・・んだよ、子持ちかよ!」
「紛らわしいんだよ、ババア!」
 そんなことを口々に言いながら、フローリアの前から立ち去って行く。
「ふむ。やはりこういうときは、子供がいると楽でいいな」
 口ぎたない男たちの言葉の内容にはまったく触れず、フローリアは笑顔になりながらゆっくりと近寄ってきた考助を見た。
「いや、あのね。・・・・・・まあ、いいか」
 子供を魔除けのように使うな、とか、男たちに対しては何か反論はないのか、とか、考助は色々聞きたいことはあったが、それらを全て飲み込んだ。

 そんな考助から視線をずらしたフローリアは、今度はそれをピーチへ向けた。
「それで? ピーチから話を聞いていないが、本当にいいのか?」
「え~? そんなに覚悟を決める必要があるものでしょうか? 私としては、ミクが良ければそれでいいのですが」
 なにやらフローリアの言葉から覚悟が必要な感じを受けたピーチが、首を傾げた。
 ピーチにとっては、あくまでも子供が興味を示したもの、という認識しかないのだ。
 そんなピーチにフローリアは、苦笑を返した。
「ああ、いや、済まない。そんなつもりではない。本格的にミクがのめりこんだら、それに時間が盗られるという意味での確認だ」
「そういうことでしたか~。それなら心配はいりませんよ」
 心配そうな顔になっているフローリアに、ピーチは笑顔を見せた。

 いまのミクは、サキュバスの裏の仕事のための訓練も受け始めている。
 ただ、ピーチとしては、別にミクが自分の持つ技術のすべてを学ばなくてはならないとは、まったく考えていない。
 里の者たちは期待しているようだが、ピーチはミクに押し付けるつもりはない。
 もっとも、ミク本人が楽しんで他の里の子供たちと一緒に学んでいるので、好きにさせているだけだ。
 今回の音楽も、ピーチにとってはその延長のひとつでしかないのである。

 ピーチの顔をみてそうした考えを察したフローリアは、それ以上は確認せずに、今度は抱き上げているミクを見た。
「よーし、それじゃあ、いまから私と楽しいところへ行こうか!」
「たのしいところ? どこ!?」
「フッフッフ。それはな。・・・・・・秘密だ!」
 ワクワク顔になっているミクに、フローリアはしたり顔になってそう答える。
「えー、ずるいよう!」
 抱かれたままのミクは抗議の声を上げたが、フローリアはどこ吹く風でそのままスタスタと目的地に向かって歩き始めた。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 フローリアがミクを抱いて連れてきたのは、アマミヤの塔の街にある楽器店だった。
 いくら大陸広しといえど、これだけの種類の楽器を取り扱っている店は、ここにしかないのだ。
 ちなみに、考助は転移門を使って儀式に影響があると困るので、一緒には来ていない。
「わー、なにここ!?」
 ミクはそう言いながら、店の中にならぶたくさんの楽器に目を輝かせた。
 もっとも、楽器を見たことすらほとんどないミクは、ここに並んでいるのがすべて音を出すための道具だということはわかっていない。
「ここはな。さきほど広場でミクが見ていたような音を出す楽器を売っている店だ」
 フローリアはそう言ってから、ひとつひとつミクに音を鳴らしてみせる。

 最初はたくさんある楽器に驚いていたミクだったが、それに慣れるとフローリアが鳴らす音を楽し気に聞いていた。
「ミクが気に入った楽器があれば、言うんだぞ? ミクにひとつプレゼントだ」
「えっ!? ぷれぜんと? ほんと!?」
 フローリアの言葉に、ミクは両目をまん丸に見開いてから母親ピーチを見た。
 そのピーチが、小さく頷くのを見たミクは、今度は真剣な表情で音を聞き始めた。
 その顔は、いつぞやの風鈴を選んでいたときとまったく同じなのであった。
ミクは風鈴を夏の風物詩として楽しむだけではなく、楽器として聞いていたというお話でしたw
ミクがなんの楽器を選んだかは、次の話で書きます。
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