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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2章 東~南方面

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(9)広まる噂

 ミクセンを出発してからいくつかの町や村を抜けた考助たちは、その日の野営地を探し求めて街道を進んでいた。
 考助たちがいま進んでいる場所は、新しい入植が上手くいっていないところで、村と村の間に距離があり、自走式馬車で爆走しても二度ほどは野営をしなければならない。
 前日に一度野営をしているので、計算上は翌日に次の村に着くはずだ。
 そう予定を立てての移動の最中だったのだが、気分転換のため御者台に座っていたシュレインが、あることに気付いて他のメンバーに注意を促してきた。
「む。どうやらこの先で戦闘が起こっておるようじゃな」
 その一言で、それまでだらけていた車内の空気が一変して緊張したものになる。
 とはいっても、もし車内に第三者がいたとすれば、わずかな変化しか感じられなかっただろう。
 この辺りのモンスターでは、考助たちを脅かすようなことはほぼあり得ない。
 それでも一応、警戒をするといった変化でしかなかったのだ。
 もっとも、考助たちにとっては、そのわずかな違いが重要なのだが。

 
 考助たちが戦闘発生場所に着いたときは、まだ戦闘は行われていた。
 ただ、考助が見ても切迫した状況には見えなかった。
「お~い! 手助けは必要ですか~?」
 前もって声をかけずに乱入した場合に、あとで素材の配分で揉めたりすることがある。
 そのため、余裕がありそうなときは、こうして声をかけるのが冒険者同士のマナーなのだ。
 勿論、それどころでない場合は、問答無用で戦闘に加わることになる。
 そのあたりのさじ加減は、あくまでも後発組の判断による。
 結果として揉める原因ともなるのだが、少なくとも今回はそんなことは起こらなかった。
 というのも、戦闘を行っている冒険者のひとりからしっかりと返事が返ってきたからだ。
「頼む! さっさと終わらせたい!」
 戦闘の目的が素材であれば、他のパーティの乱入によるもめ事を避けたいと考えるのだが、単に早く戦闘を終わらせたい場合は力を借りたほうが圧倒的に早く終わる。
 見た感じでは、商隊の護衛依頼のようなので、素材よりも護衛の依頼を優先したようだった。
 この返答を受けて、考助たちは自走式馬車を護衛するコウヒとシルヴィアを残して、戦闘に参加するのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 もともと冒険者側が優位に立っていた戦闘だったので、考助たちが参加したことによりあっという間に終わった。
「いやー。助かったぜ」
 冒険者側のリーダーの男が、ニカリと笑いながら考助に向かって頭を下げて来た。
「まあ、困ったときはお互い様でしょう」
「そう言ってくれるとありがたいが、お前さんらかなりの高ランクパーティだろ?」
 同じように笑顔をみせながら答えた考助に、リーダーは確信したような顔でそう聞いていた。
 リーダーは、なにもあてずっぽうで聞いているわけではない。
 戦闘に混ざってからの一瞬の判断や、あっという間にモンスターの襲撃を終わらせてしまったときの手際などをきちんと見ていたのだ。
 それ以外にも倒したモンスターはすべて譲ってくれたという、色眼鏡も多少は入っていたりする。

 ランクが高いことをわざわざ否定するつもりはない考助は、素直に頷いた。
「まあ、そうかな?」
「ハハハ、謙遜するな。あれだけの状況判断がとっさにできるんだ。相当なものなんだろ?」
 自分よりも上だと確信しているようなリーダーに、考助は苦笑を返した。
 それをみてランクを具体的に言うつもりがないと理解したのか、単にこれ以上その話題を続けても仕方ないと判断したのか、リーダーはそれ以上ランクについては触れてこなかった。

 それよりもと、チロリと自走式馬車に視線を向けたリーダーは、半分驚き半分呆れといった顔になった。
「・・・・・・噂では聞いていたが、本当にあったとはな。馬もなしに走る馬車か」
「アハハ。せっかく作りましたからね。便利に使っていますよ」
 特に口止めするでもなく堂々と人目に晒して使っていたため、しっかりと自走式馬車に関する噂が広まっているようだった。
「聞いた話では、走る速さも普通のより速いらしいじゃねえか?」
「まあ、それだけ経費も掛かっていますから」
 言外にかなりの金をつぎ込んでいると言った考助に、リーダーがやっぱりかと言いたげに頷いた。
「だろうな。話で聞いただけの能力があれば、相当なもんだろう」
 具体的にどんな機能が積まれているかはわからないが、馬もなしに走るというだけでかなりの機能が積まれていることがわかる。
 それだけの魔道具となれば、相当な金額を積まなければ作れないことは、容易に想像することができる。
「まあ、それなりには?」
 ここで否定しても仕方ないので、考助は曖昧に答えておいた。
 相手に怪しい感じを与えてしまうことはわかっているが、本当のことはもっと言えない。
 適当に流しておくのが一番いい対処方法だと考えているのである。

 
 考助が冒険者のリーダーと話をしていたその頃。
 フローリアは、商隊の商人のひとりに話かけられていた。
「いやいや、お強いですな」
「その分、きちんとランクも高いからな」
 フローリアは頷きつつ、正規に雇うと高くつくぞと匂わせながらそう答えた。
 しっかりとフローリアの裏の意図を読んだその商人は、苦笑をしながら頷く。
「まあ、そうでしょうな。そうでなければ、あのような魔道具は持てますまい」
 商人がそう言いながらちらりと視線を向けたのは、自走式馬車であった。

 冒険者もそうだが、商人もまた商人同士で情報のやり取りは行っている。
 特に、野営地なので一緒になった場合は、様々な情報を交換するのが常となっている。
 当然それらの情報の中に、自走式馬車に関しての話もあったのである。
 その話を聞いていた商人は、話半分で聞いていたのだが、実際に目の当たりにしたことによって、その噂が本当のことだと理解したのだ。
 そして同時に、なんとかこの馬車に関しての詳しい話が聞けないかと考えていた。
 なにしろ、馬なしで走ることができる馬車だ。
 もし、取り扱うことができれば、一攫千金を手にすることも夢ではない。

 なんとか情報を手にしようと表情に出さないように頭を働かせる商人だったが、残念ながらフローリアには筒抜けだった。
「どうにか手に入れたいと思う気持ちはわからないではないが、まず無理だぞ?」
「・・・・・・ほほう? その理由は教えてもらっても・・・・・・?」
 内心の動揺を隠しつつそう聞いてきた商人に、フローリアは頷きながら簡潔に答えた。
「なに。単純な話だ。一台作るのに一国の国家予算級の値段がするような馬車を買うもの好きが、他にいると思うか?」
「・・・・・・はい?」
 聞き間違いかと思わず呆然としてしまった商人に、フローリアは苦笑を返した。
「あの馬車にはな。それくらいの予算をかけてある。別に秘密にしているわけではないが、大方噂でその部分が広まっていないのは、同業者があえて隠しているのではないか?」
 自分と同じように引っかかって、とんでもない物をつかませればいいという、悔しさやいたずら心などを混ぜ込んで、敢えて黙って噂を広めているのではというフローリアの推測に、目の前の商人はフローリアと同じように苦笑した。
「・・・・・・なるほど。それは大いにあり得ますな」
 確かに、とてもではないが自分には扱えないと判断した商人は、それ以上馬車についてフローリアに聞くことはなかった。

 
 このように自走式馬車については、大陸中に噂が広まっている状態なのだが、実際に話を聞いた者がとても自分には手に負えないと判断されたためこれまでは大事に至るようなことにはなっていない。
 ちなみに、考助たちが使っている物を直接盗ろうとしても、最高の防犯設備を前にして無駄な努力で終わることだろう。
 高い防犯設備と広まる噂のお陰で、おかしなことにはならずに旅を進めることができている考助たちなのであった。
自走式馬車に関してでした。
ちなみに、登録がない者が不用意に触れようとすると、びりびりとやられます。
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