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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2章 東~南方面

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(6)未熟

 深夜。
 考助は、身体を揺さぶられる感覚で目を覚ました。
 すぐに体を起こした考助は、自分を起こしたのがミツキだと気付いた。
「来ているの?」
 こんな夜中に起こされる理由などひとつしかない。
 考助の簡単な問いに、ミツキが頷いた。
「そう。討伐軍は?」
「見張りは立てているけれど、まだ気づいていないみたいね」
 ミツキの探知範囲は、普通と比べてもかなり広い。
 むしろ、比べるのがかわいそうになるほどだ。
 そのため見張りがまだ気づいていなくても、それはむしろ当たり前ともいえるだろう。
「そうか。だったら、こっちは様子見かな? 危なくなったら知らせよう」
「わかったわ」
 考助の言葉に、ミツキが同意して頷いた。

 狭いテント内のため、考助とミツキの会話は他の者たちにも気付かれていた。
「馬車は大丈夫かの?」
「まあ、この辺りに出てくるモンスターとの戦闘の物音だと、きちんと遮音されると思うよ?」
 見た目はともかく、要塞並みに強化されている自走式馬車は、防音性もしっかりしていたりする。
 寝る子が起きるほどの音は、車内にまで伝わらないはずである。
 それに、音はともかくとして、馬車内には母親ふたりに加えて、コウヒもいるのだ。
 子供たちに対して重大な何かが起こるとは考えにくい。
 勿論、シュレインもそのことはわかっているが、子供という不確定要素がいるからこそ、念を入れて確認したのである。

「子供たちはいいとして、軍はどうするのだ?」
「とりあえず、訓練の邪魔にならないように様子を見るよ」
 いまの段階で考助たちが手を出せば、なんのために討伐軍がいるのかわからなくなる。
 あくまでも自分たちが手をだすのは、最後の手段だと考えているのだ。
 考助の考えに、問いかけたフローリアも頷いた。
「それはそれでいいのだが・・・・・・少したるんでないか?」
 軍の見張りが未だに気付いていない様子に、フローリアが少しだけ苛立たし気な顔になった。
 それを見た考助は、アーと一瞬だけ上を見てから頷く。
「まあ、こんなものじゃないかな? それに、そろそろ気付く・・・・・・」
 はず、と続けようとした考助の声にかぶるように、テントの外が騒がしくなってきた。
 立てていた見張りが、モンスターが近寄ってきたことに気が付いたのだ。

 
 テントから出た考助たちは、隊長のいる場所へと歩いて行った。
 そして、考助が近付いてくることに気付いた隊長が、話しかけて来た。
「騒がしくして、申し訳ありません」
「いや、モンスターが出てきているのに、うるさいなどと文句を言うつもりはないよ」
 あくまでも要人を相手にするような態度を崩さない隊長に、考助は苦笑しながらそう答える。
「それよりも、手助けは必要?」
「いや、必要ありませんな。いままでも倒してきた相手ですから。いまは、一個小隊を向かわせております」
「そう。・・・・・・ん? 一個小隊?」
 ラゼクアマミヤの討伐軍における一個小隊は、八人になる。
「ええ。ワイルドドッグの三体ですから、十分すぎるほどでしょう」
 自信ありげにそう言った隊長だったが、考助は首を傾げた。
「いえ。最初はそれで大丈夫でしょうが、あとは大丈夫なのですか?」
「・・・・・・・・・・・・はい?」
 考助は、答えが来るまでに少しの間があったことで、隊長が後続部隊の情報を持っていないことを理解した。
「三体の少しあとから十数体ほどのワイルドドッグが近付いてきていますよ?」
「なっ・・・・・・!?」
 考助から得た追加情報に驚愕の表情になった隊長は、すぐにそばにいた部下に指示を出し始めた。

 ワイルドドッグは、初級モンスターであるために、十二体程度であれば一個小隊の戦力でも十分に対処できる。
 とはいえ、余裕をもって応じることができるかどうかといえば疑問だ。
 今後のことを考えれば、余計なけが人なども出さない方がいい。
 そのため、全部隊を投入した方がいいと判断したのである。
 そもそも今夜見張りについていた隊員は、訓練も兼ねて初めて実戦投入されてきた新人で、単純にモンスターが出て来たことだけで報告を入れて、そのあとの確認を怠っていた。
 だからこそ、隊長のところに上がってきた情報も半端なものでしかなかったのである。
 見張りについていた新人は、戦闘後にこってり絞られることになるだろう。
 それはともかく、考助からの情報により、討伐軍は大したけが人を出すこともなく、無事にワイルドドッグの襲撃をやり過ごすことができたのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 翌朝。
 朝食の準備をしている考助のところに、隊長がふたりの部下を伴ってやってきた。
「朝のお忙しいところに、申し訳ございません。よろしいでしょうか?」
 考助は、周囲に視線を巡らせて大丈夫かどうかを確認したあとに、コクリと頷いた。
「ええ。構わないよ。それよりも、なにかあった?」
「いえ。緊急の事態が起こったわけではありません。いまを逃すと、昨夜の礼も言えなくなりそうですから、伺いました」
 討伐軍も考助たちも今日、この場を発つことはお互いに話してある。
 ただし、自走式馬車一台で移動できる考助たちは、身軽なこともあって、すぐに討伐軍を離してしまうだろう。
 そうなってしまえば、お礼を言うこともできない。
 それならば、忙しいのはわかっていても、朝のいましかタイミングが無かったというのが隊長の説明だった。

「昨夜のご助言が無ければ、間違いなく何らかの被害を受けていました。大した被害もなく対処できたのは、貴方からの情報のお陰です」
 最大限の感謝をと言って、胸に右手を上げる仕草をした隊長に続いて、後ろのふたりも同じような体勢になった。
 この仕草は、ラゼクアマミヤの討伐軍における敬礼のひとつなのだ。
「いや、こっちがたまたま気付いていただけだからね。役に立ったのなら良かった」
 本当はたまたまではなく、ミツキがしっかりと偵察した結果なのだが、とりあえず考助はそう答えておいた。
 だが、そう答えた考助に、隊長は苦笑をしながら首を左右に振った。
「いえ。Aランクの貴方が、たまたま見抜いたとは考えておりません」
 まさしくその通りなので、ここで隊長の言葉を否定すると謙遜を通り過ぎて嫌味になりかねない。
 考助は、隊長に短く「そう」とだけ答えておいた。

 話がここだけで終われば簡単に済んだのだが、このタイミングでフローリアが口を挟んできた。
「第二陣の発見が遅れた原因は? ちゃんとわかっているのか?」
 その問いかけに隊長は、厳しい表情になってから答えた。
「・・・・・・はい。端的に言えば、油断、でしょう。勿論、見張りに立っていた隊員だけではなく、私も含めてです」
「ほう?」
「我々が、街道の巡回に出てからすでに一週間以上たっていますが、ちょうど新入隊員が慣れて油断してくるころです。にもかかわらず、新入隊員だけで見張りを立ててしまいました。・・・・・・不徳の致す限りです」
 無念そうに言った隊長を見なたら、フローリアは一度だけ頷いた。
「そうか。まあ、原因がわかって、きちんと対策がとられるのであればいいのではないか?」
「えっ? あ、はい。ありがとうございます」
 フローリアの口調からてっきり自分の油断を責められると考えていた隊長は、あっさりとした言葉に拍子抜けした顔になっている。
「討伐軍の街道巡回は、別に新入隊員だけの訓練の場ではない。そなたら管理職だって同じだろう? であれば、実際に経験して己のものにしていけばいいだろう」

 教えるというよりも、自分に言い聞かせるようにそう言ったフローリアに、隊長は先ほどの考助のときと同じように、右手を胸に当てて敬礼を返すのであった。
隊員だけではなく、隊長さんも未熟でした。
今まで順調すぎるほど順調に進んだゆえの油断、ということにしておいてください。
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