挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2章 東~南方面

884/1221

(5)紋章

 ラゼクアマミヤの討伐軍は、基本的に八人一組を一小隊として数えている。
 これは別に、ラゼクアマミヤに限ったことではなく、この世界の各国の軍隊がそうなっているのを踏襲している。
 各軍が八人一組を基本としているのには、さまざまな説があるが、一番もっともらしいのが冒険者の一パーティに対抗できる数だから、というものだ。
 六人を上限としている冒険者パーティと当たったときに、ある程度余裕を持って対処できる人数が八人ということになる。
 もちろん、他にもいろいろと理由はあるのだが、どれが正解だということはわかっていない。
 各国の軍は、歴史的な問題よりも、運用をどうしていけばいいのか、ということを考えることの方が重要なのだ。
 考助たちが出会った討伐軍の隊員数は、優に十人を超えている。
 考助がさらりと見た感じでは、偵察の人数も含めると、二個小隊十六人がいるように見える。
 野営するためのテントを設営している者、周囲を警戒している者、今後の予定を立てている指揮官らしき者など、やっていることは幾つかあるが、統率がとれている様子を見れば、やはり軍隊なのだということがわかる。

 考助たちを警戒していた隊員を止めた隊長らしき人物は、いままで検閲していた隊員を下がらせてから考助に向かって頭を下げた。
「わが隊員がご迷惑をお掛けしたことをお詫びいたします」
「いや、別にそれはいいんだけれどね。・・・・・・紋章の意味を知らなかったんでしょう?」
 考助はそう言いながら、隊員に向かって出した布に描かれた紋章を見た。
 一匹の狼と二本の交差した剣で出来ているその紋章は、ラゼクアマミヤ王家の関係者であることを示すものになる。

 ここで重要なのは、ラゼクアマミヤ王国を示す紋章とは違うものだということだ。
 ややこしいことに、王国の紋章は王家のそれとはまた別に存在している。
 一般的に知られているのは、塔と二本の剣で描かれた王国の紋章であり、王家を示す紋章が使われることは滅多にない。
 そのため、最初に考助から紋章を見せられた隊員がわからなかったのは無理もないことなのだ。
 とはいえ、隊長クラスになれば、その辺りの知識はしっかりと教え込まれているようだった。
 隊長の丁寧な態度を見てホッとした考助だったが、それは隊長が出てきたことにより険悪な雰囲気が収まりそうになったからだけではない。
 討伐軍の隊員たちからは見えない場所にいるフローリアの表情が、静まったためだ。
 王国に所属する軍の隊員が王家の紋章も知らないとは何事だと、この場で騒ぎになるのは勘弁してほしいのである。

 隊長が王家の紋章を知っていたのは、偶然ではない。
 隊長への昇格試験の問題の中に、王家の紋章を問われるものがあるのだ。
 逆にいえば、その問題を答えられなければ、隊長にはなれないのだ。
 だからこそ、考助が紋章を出したときに、自分の隊員が詰問を続けようとしたのを見て、慌てて止めに入ったのだ。
 むしろ、なぜ知らんのだ、と隊員たちに問い詰めたかったが、さすがに紋章を出している要人がいる前では止めておいた。

 それよりも、隊長には別に気になることがあった。
「私たちは、要人警護の命令は受けていないのですが、何か命令をお持ちなのでしょうか?」
 馬を使わない馬車というありえないもので追いかけて来た考助たちを見て、隊長は勘違いをしたのだ。
 王家の紋章を見れば、自分が知らない珍しい魔道具を持っていてもおかしくはない相手なので、そのことを不可思議に思うことはない。
 ただ、逆にたった一台だけの馬車で、要人が大陸内を移動するということは考えにくい。
 そのため隊長は、自分たちが護衛の命令を受けるものだと考えたのである。

 隊長の勘違いに気付いた考助は、手を振りながら笑顔を見せた。
「ああ、いやいや。僕らが勝手に旅しているだけだから、国は関係ないよ。だから、護衛もなし。いままでどおりの任務を続けていればいいよ」
「え、いや、しかし・・・・・・」
「むしろ、命令もなしに勝手に僕らの護衛をしたら、怒られるどころの騒ぎじゃなくなると思うよ?」
 軍が命令もなしに勝手に動いてしまえば、それは国家に対する反逆行為だと見られてもおかしくはない。
 それを考えれば、考助の言い分は間違いではないのだ。
「それは、確かに・・・・・・」
 それでもまだ悩む仕草を見せる隊長に、考助は止めを刺すことにした。
「それに、ほら、これ」
 そう言いながら考助は、コウとしてのクラウンカードを出した。
「この馬車には他にもAランクが乗っているから、そうそうやられたりはしないよ。というか、ここだけの話、ここにいる隊員全員に襲われても返り討ちにできるよ?」
 気負うでもなく、他の隊員には聞こえない程度の声でそういった考助を見て、隊長はごくりと喉を鳴らした。
 考助の言葉は、紛れもなく事実だと分かったからだ。
 Aランク冒険者が複数いるだけで、率いている隊など簡単に蹴散らすことが可能なのだ。
 それほどまでに、Aランク冒険者の実力は突き抜けているのである。

 確かに護衛どころか足手まといになりかねないと判断した隊長は、頭を下げてその場を辞して任務に戻ろうとした。
 そのときに、たまたま馬車についていた窓から子供の顔が見えてぎょっとした表情を浮かべた。
「街道を旅するのに、子供・・・・・・!?」
 思わず驚きの声を上げてしまった隊長の声は、しっかりと考助まで届いた。
「あ~、うん。ちょうどいいタイミングだったからね。旅に慣れさせようかと思って」
「・・・・・・そうですか」
 あっさりと言い放った考助を見て、隊長はそう言いながら深々と息を吐いた。
 普通は子供に旅をさせようなんてことを考える親はいない。
 逆にいえば、子供(足手まとい)を抱えたうえで、十分に対処できるだけの実力があるからこそ旅をしているのだということだ。
 要人警護の任務を受けることがある隊長だからこそ、その難しさはよくわかっているのだ。

 
 隊長が離れたあとは、きちんと命令が行き届いたらしく、考助たちに絡んでくる隊員はいなかった。
 ただし、子連れで旅をしていることで注目は浴びているようで、考助は隊員たちから視線を感じてはいた。
 もっとも、それが極端に不快なものであれば注意したのだが、そこまでのものではなかったので無視をしていた。
 それは女性陣も同じだったようで、特に注意を飛ばす者はいなかった。
 子供たちは子供たちで、彼らの視線を感じているのかいないのか、特に気にした様子もなく野営の準備に勤しんでいた。
 子供たちは、最初の野営のときとは見違えるように、ただはしゃぐだけではなく、しっかりと準備の手伝いを行っている。
 それは、間違いなく子供たちの成長をうかがわせる姿だった。
 とはいえ、たった一度だけの姿を見て判断するほど、いくら考助とはいえ甘くはない。
 母親たちも同じように考えているようだが、安心できると断言できるまでには、まだまだ不確定要素が多いのだ。

 この日は討伐軍と同じ場所で野営することになる。
 ここ数日モンスターに出会わなかったのがこの小隊の影響だと考えれば、頼もしいといっていいことだろう。
 勿論、全面的に信頼するわけではないが、モンスターのことを考えれば、いつもよりは楽ができる。
 軍人がたくさんいるせいか、いつもよりも落ち着いた雰囲気で食事をとる子供たちを見ながら、考助はそんなことを考えるのであった。
色々規格外さを認識した隊長でした。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ