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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第5章 塔のあれこれ(その17)

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(8)大事な建前

いつもよりも長めです。
 くつろぎスペースでゆっくりと休んでいた考助は、珍しい組み合わせで部屋に入ってきたトワとココロを見て、目をぱちくりとさせた。
「どうしたの?」
 考助のその第一声に、トワが小さく笑いながら答えた。
「最初の言葉がそれですか。まあ、珍しいのは認めますが」
 トワとココロは異母兄弟であるが、ラゼクアマミヤの王と神事を支えている巫女という関係でもある。
 公的にはふたり揃って姿を現すことも多いが、管理層に揃ってくることは少ない。
 それは別に仲が悪いというわけではなく、お互いに忙しいためだ。
 いまのトワとココロは、以前のシルヴィアとフローリアが管理層になかなか揃うことがなかったのと同じ状態なのだ。

 考助は、トワの笑顔を見ながらその隣に立つココロを見て、内心で首を傾げた。
 いつもとは、どことなく様子が違っている感じがしたのだ。
「うーん? もしかしなくても、ココロの元気が無いのと関係している?」
 その言葉に、ココロは驚いた表情を考助へと向けた。
「えっ? なに、その顔? まさか気付かないとでも思っていた? そんなに親として信用が無いの?」
 思わずがっくりとうなだれてしまった考助に、トワがクスクスと笑い、ココロが慌てて首を左右に振った。
「ち、違います! そうではなく、隠していたつもりだったので・・・・・・」
「だから言っただろう、ココロ。他人はわからなくとも、父上たちには絶対にばれると」
 隣に立つココロの肩をポンと軽く叩きながらトワがそう言う。

 そのふたりのやり取りを見ていた考助は、なにか事情があると察してトワを見た。
「それで、ふたり揃ってこっちに来たんだ?」
「ええ、そうです。どちらかといえば、今回は父上よりも母上たちに意見を聞きたかいのです」
「なるほどね。まあ、そんな気はしていたよ」
 トワとココロが揃って管理層に来たということは、政治が絡む問題が発生したのだということは、考助にもわかる。
 それであれば、自分があまり役に立たないことは重々承知しているのである。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦ 

 それぞれに任された塔の管理をしていたシルヴィアとフローリアを呼んできた考助は、そのままトワとココロの話を聞く体勢になった。
 別に自分がいなくてもいいのは分かっているが、折角なので一緒にいることにしたのだ。
「それで? 相談したいというのはなんだ?」
 最初に口を開いたのはフローリアだ。
 トワとココロがシルヴィアとフローリアに用があってきていることは、呼ぶときに話してある。
「ココロの様子を見ればなんとなく想像はつきますが、一応聞きましょうか」
 実の母親であるシルヴィアは、ココロの様子を見るだけで、要件を察しているようだった。
 まったくわかっていない考助は、シルヴィアの言葉を聞いて、内心で冷や汗を流した。

 小さく肩をすくめたトワが、一瞬だけココロに視線を向けてからフローリアとシルヴィアを交互に見た。
「話というのは、ココロの婚約に関してです」
 そのたった一言でフローリアはトワが何を言いたいのか察した顔になり、シルヴィアはやはりと言いたげに頷いた。
 リリカの補佐があるとはいえ、若くしてラゼクアマミヤの神事を引き受けていて、さらには考助の実の娘であるココロに国の内外から婚約の申し込みがあることはすぐに分かる。
 ただし、今回問題になっているのは婚約の申し込み自体ではなく、その量と質だ。
 同じような問題はミアにも発生しているが、こちらはココロほどではない。
 それがなぜかといえば、そもそもミアは一時的に表舞台から姿を消していたこともあって、その高い能力を知る者が少ないためだ。
 勿論中には、女性に能力を求めていない者もいるが、そんな輩が女性をどんな扱いをするのかは容易に察することができるので、最初から考慮の外にある。
 問題なのは、家柄も本人の能力も性格も、ついでに見目も全く問題がない相手の場合である。
 なにを贅沢なと言われそうだが、そもそもココロにその気がないものを無理やり押し付けるつもりは、トワを含めて、この場にいる全員にない。
 それがひとりふたりなら、まだ丁寧に断ったうえで対処のしようもあったのだが、多くなればなるほど対処は難しくなってくる。
 トワとココロが揃って相談に来たのは、そうした事情が重なったためなのだ。
 ミアとはまた別の意味で、頭の痛い状態になってしまったというわけだ。

 トワからすべての事情を聞いたフローリアは、ため息をついた。
「それで私たちを頼ってきた・・・・・・というのはわかるが、残念ながらあまりお前たちの力にはなれないぞ?」
「えっ!?」
 突き放したようなフローリアの言葉に、トワが目を瞠り、ココロが驚いたような声を上げた。
 そんなふたりに右手を上げて落ち着かせるような仕草を見せたフローリアは、さらに説明を続けた。
「ふたりとも気付いていないようだが、シルヴィアのときとはそもそもの前提が違っているからな」
 トワとココロが管理層にきたのは、シルヴィアのときと同じ対処ができるのではないかと考えたためだ。
 だが、フローリアの言葉で、それが崩れてしまった。
「それは、どういうことですか?」
「どうもこうも、ラゼクアマミヤができたときには、すでにシルヴィアはコウスケとできていたからな。実際にはそれを公表することはなかったが、それから数年も経たずしてココロが生まれた。そこからはぱたりと求婚はなくなったぞ? 無論、私もだ」

 シルヴィアやフローリアの場合、周囲に分かり易いように結婚式を挙げたりをすることはなかった。
 ふたりに対する求婚はその立場からすれば、それでもかなり少なかった。
 それもそのはずで、表だって考助との付き合いを話したりはしていなかったが、そもそも神の意思を受けて国を任されていたふたりなのだ。
 既に相手がいると断っていれば、それが誰なのかはどんなに鈍い者でも察することができるだろう。
 もしできなかったとしても、周囲の者が止めていたというのが真相だ。
 あらゆる意味で、フローリアやシルヴィアのときとは事情が違っているのである。

「そう、ですか」
 シルヴィアのときの事情が分かり沈んだ声で返答してきたココロに、フローリアがニヤッと笑った。
「だが、まあ、別に手が無いわけではないぞ? というか、お前たちが思いついていないほうが、不思議だがな。案外自分のことはきちんと見えていないというわけか」
「えっ!?」
「それは?」
 フローリアの言葉に、ココロは慌てて頭を上げて、トワは両目を見開いた。
「表だって活躍しているココロが、求婚を断り難いというのはわかるが、そもそも根本を忘れていないか?」
 そう問いかけたフローリアに、トワとココロが首を傾げた。
 その顔を見れば、ふたりがまったく思いついていないことがよくわかる。
 フローリアはひとつため息をついてからシルヴィアを見て、その視線を受けたシルヴィアが説明を引き継いだ。
「ココロ、あなたは巫女なのですよ。その立場を考えれば、どうすればいいかも分かりますよね?」
 そうシルヴィアから言われたココロは、少しのあいだ訝し気な表情になったあとで、アッと声をあげた。
「そうか。そうでしたね。・・・・・・なぜ思いつかなかったのでしょう」
「ほとんど形骸化していますからね。私も今回の件が無ければ、思い出しもしなかったでしょう」
 光りが見えて顔を輝かせたココロに、シルヴィアも笑いながらそう言った。

 一方で、意味が分からず首をかしげているのはトワだ。
「・・・・・・どういうことですか?」
 トワが三人の会話に置いて行かれているのは、ある意味致し方のない部分もある。
 というのも、シルヴィアが提案しようとしているのは、巫女にとってはすでに形骸化している決まり事を使おうとしているためだ。
「トワ、すっかり忘れているかもしれないが、神に仕える巫女は、本来どういう状態でいるべきだ?」
「どういう・・・・・・? ・・・・・・って、まさか!?」
 フローリアに問われて、トワはようやくそのこと(・・・・)に気付いたような顔になった。
 そのトワの顔を見たフローリアが、一度だけ頷いた。
「そうだ。神の巫女には処女性が求められる。それを利用すればいいだろう?」
「いや、しかし・・・・・・いまさら、ですか?」
 遥か昔には巫女も神官も独り身でいることを求められていたが、いまはそんなことはない。
 結婚をして家庭を持っている巫女や神官も多いのだ。
 それを考えれば、処女性を持ち出して求婚を断れるのか、多少疑問なところはある。

 首を傾げているトワに、フローリアがきっぱりと言い放った。
「なにを言っているんだ。大事なのはあくまでも建前じゃないか」
「それは、まあ、確かに間違いではないですね」
 トワも苦笑しながらフローリアの言い分を認めた。
 国を運営していくうえでなによりも重要なのが建前だということは、トワもよくわかっているのだ。
 そんなトワに対して、シルヴィアがさらに助言をつけ加えた。
「今回はそこまで強引にはならないと思いますよ? なにしろコウスケ様は、男神ですから」
「・・・・・・なるほど。そういえば、そうでした」
 そもそも女神しかいないこの世界で、なぜ巫女に処女性を求めていたのかといえば、お相手のいない神が嫉妬に狂わないようにという、なんとも後ろ向き(?)な理由からだ。
 だが、男神である考助の場合は、それとはまた事情が変わってくるのだ。
 シルヴィアは、それを利用しようと言っているのである。

 トワが納得して頷いたところで、これまで黙って話を聞いていた考助が、困ったような表情になって口をはさんできた。
「いや、別に僕は、巫女にまでそんなことは・・・・・・」
 求めない、と考助は続けようとしたのだが、シルヴィアとフローリアにニッコリと微笑まれて、
「あくまでも建前だ」
「話がややこしくなりますから、そういうことにしておいてください」
 ふたりからそう言われて黙らされてしまうのであった。
つらつらと書いていたら長くなってしまいました。
寿命が長いので、二、三十年ひとりでいて、誰かに役目を引き継いでからゆっくり相手を見つける云々の話も書いて、二話に分けようかとも思いましたが、やめておきました。
わざわざ二話に分けて書くような話でもないですし。

そして、ほとんど空気だった主人公(?)、考助。
・・・・・・は、いつものことですか。
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