挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第5章 塔のあれこれ(その17)

862/1217

(5)神具との同調

 皆に旅に出ることは話をしたが、別に今すぐというわけではない。
 長旅をするとなれば準備もあるし、なによりもどこに行くかも決めていないのだ。
 それに、誰が一緒に行くのかという話もある。
 それらが整うまでは、普段通りの生活をすることになる。
 そもそも旅に出るのも急いでいるわけではないので、考助はのんびりと準備を整えていく予定である。

 そんなある日、考助はシュレインからとある相談を受けていた。
 相談というのは、先日考助が渡した錫杖の神具についてである。
「・・・・・・というわけで、儀式を行うときに魔力の扱いが非常に楽になるということはわかった。じゃが、いまのところそれくらいしか使い道がないの」
「ふ~ん。なるほどね。それはいいんだけれど、というか、それじゃあ駄目なの?」
 不満というよりも不安そうな表情を浮かべるシュレインを見ながら、考助は首を傾げた。
「駄目というわけじゃないがの。逆に、それでいいのかと聞きたいのじゃ」
 シュレインにしてみれば、神具という御大層な道具が、他の一般的な道具と同じような効果しかないとのがおかしいのだ。
 折角作ってもらった神具が、自分ではその程度でしか使えていないのかと不安になっているのである。

 そのシュレインの不安を察した考助は、安心させるようにニッコリと笑った。
「その辺は気にしなくてもいいよ。シルヴィアたちを見ていれば分かるだろうけれど、そもそも神具の能力を最高まで引き出すなんてことは、できないとは言わないけれど、時間が掛かることだから」
 神具の使用者が、道具になじむまでに時間がかかるのか、それとも使い方がわかっていないのか、単に能力が足りていないのか、どれが理由かは分からない。
 それでも、シルヴィアたちが苦労しているのは紛れもない事実だ。
 考助が作った神具もそれは同じである。
 それは、神具というものが神力を使っている限り逃れられないことなのだ。
 そういう意味で、考助はシュレインが自分の作った神具を使いこなせていなくともまったく気にすることはない。
 これは口にすることはないが、神具の能力を一瞬で把握して使いこなすことができるのは、アスラくらいしかいないだろうとさえ考えている。

 そんな考助の考えを読んだわけではないが、シュレインは小さくため息をついた。
「それは良かったと言いたいところじゃが、何とももどかしいの」
 もし十分に能力を発揮させることができれば、大きな力を出すことはわかっているのだ。
 それにもかかわらず、普通の魔道具と変わらないような能力しか発揮させることができないのは、シュレインにとっては歯がゆい。
「気持ちはわからないでもないけれどね」
 シュレインに向かってそう言いながら頷いた考助だったが、さらに付け加えた。
「そもそも神具は、名前の通り神力を使う物だからね。考えてみれば、しっかりと神力を扱えないと上手く能力を引き出せないのかもしれないね」
「神力をか。・・・・・・なるほどの」
 考助の説明に、シュレインも大いに納得した表情になった。

 シュレインが神力を意識して扱うようになってからすでに二十年以上経っているが、未だに満足に使えるようになっているとは言い難い。
 同時期に使い始めたシルヴィアたちと比べればどっこいどっこいだが、考助と比較すれば足元にも及ばないと、シュレインはそう認識している。
 考助が聞けばまた別の意見が出てくるだろうが、少なくとも他の女性陣はシュレインと同じような意見を言うだろう。
「・・・・・・ん? ということは、コウスケが神具を使えば、能力を十分に発揮させることができるということかの?」
 ふと湧いてきた疑問を口にしたシュレインだったが、考助は難しい顔になって腕を組んだ。
「うーん。それはどうかな? シュレインに渡したその錫杖もそうだけれど、相性というものがあるからね」
 シュレインに渡した錫杖は、完全にシュレインだけが使えるように作ってある。
 そのため、どんなに神力を扱うのに長けていたとしても、考助にも使うことはできない。
 考助は一言で相性といっているが、意思のある神具は大なり小なり似たような性質を持っているので、神具自体に気にいられなければ、十分に使いこなすことなどできない。

 神具の扱いの難しさに顔をゆがめたシュレインだったが、あることに気付いて真顔になった。
「うん? ・・・・・・ということは、この錫杖は吾が上手く使わないと、ずっと能力を発揮できないままというわけか」
「だから、そんなに難しく考える必要はないって」
 また最初のときと同じような硬い表情になったシュレインに、考助は苦笑しながらそう言った。
 こういうときのシュレインは真面目さが前面に出てくるために、折角ほぐした緊張がまた出てきてしまいそうになっている。
「そうは言ってもな・・・・・・」
 気になるものは気になる、と続けたそうな顔になったシュレインに、考助はふと何かを思いついたようにポンと手を打った。
「そうかっ! だったらこう考えたらどう? 神具は、使い手だけが成長するものじゃなく、道具の側も一緒に成長していくものだって」
「な、なに? それは、どういうことじゃ?」
 意味が分からない考助の言葉に、シュレインは目を白黒させた。

 考助のそのセリフに興味をひかれたのはシュレインだけではなく、傍でふたりのやり取りを聞いていたシルヴィアも同じだった。
「・・・・・・それは、私も気になります」
 そう言いながら興味深げに考助へと視線を向けて来た。
「あれ? シルヴィアも気付いていなかったのか。神具には意思があるのだから、使い手に合わせて変わることだってあるんだよ」
 他人と会話するときだって同じだよねと続けた考助に、シュレインとシルヴィアが納得の表情を浮かべた。
 どんな人でも、付き合う相手や付き合いの深さによって態度が変わってくるものだ、
 それは、意思の宿る神具であっても変わらない。
 それを成長と取るかただの変化と取るかは人それぞれだが、考助は少なくとも神具に関しては成長だと考えている。

「使い手に合わせて神具も変わっているのであれば、私たちに合わせて能力を変化させているということでしょうか?」
 シルヴィアの疑問に、考助がちょっとだけ首をひねった。
「うーん。厳密に言うとちょっと違うかな?」
「というと?」
「変わっているのは能力じゃなくて、あくまでも使い手との同調」
 考助は小難しく同調と言ったが、要は使い手とのコミュニケーションのことだ。
 例えば、考助たちは飛龍に乗って空を飛ぶときに、同調を行ってある程度の感情のやり取りをしている。
 それと同じことが神具でも言えるということだ。

 神具はあくまでも道具であることには違いないため、つい感情があることを忘れてしまいがちになるが、使いこなすうえでは重要な要素のひとつだ。
 考助がそれぞれを見ている限りでは、そのことがわかっていて一番使いこなせているのはワンリなのだ。
「ワンリは、どちらかといえば狐としての性質が強いからかな? そういった面では常識には囚われていないからね」
「なるほどの。今度その辺りをワンリに聞いてみるかの」
 シュレインがそう言うと、シルヴィアも同意するように頷いた。
「そうだね。ただ、ワンリの場合は、意識的にやっているわけじゃないだろうから変に聞き出そうとしても答えられないかもしれないけれど」
「そうだな。そこは気をつけて聞くとしようかの」
 考助の注意にシュレインはが頷いた。

 後日、シュレインとシルヴィアは、ワンリの元に赴いて神具との同調について話を聞きに行ったが、結局はっきりとした答えをワンリが持っていなかったのは致し方のないことなのであった。
道具と会話をするのは難しいという話でした。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ