挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第5章 塔のあれこれ(その17)

860/1196

(3)錫杖の効果

 ヴァミリニア城にある玉座に座りながら、シュレインは顎に手を当てながら眉を寄せていた。
 彼女の目の前には、先日考助から譲り受けた錫杖が置かれている。
 そんなシュレインに近寄ってきた声をかけてくる者がいた。
「そんなに眉を寄せて如何なさいましたか?」
 シュレインの側近であるゼネットだ。
「ああ、別に大したことではないのじゃ。その錫杖をどうやって使ったものかと思うてな」
「? これを、ですか?」
 ゼネットは、シュレインの言った意味が分からずに首を傾げている。
 錫杖は基本的に、なにかの儀式に使われることがほとんどだ。
 ごく稀に、打撃武器として愛用している者もいないわけではないが、それはごく少数である。
 そんな一般的な理解のもとで考えれば、さほど悩む必要はないためゼネットは首を傾げたのだ。
「・・・・・・そんなに特殊な使い方をする物なのですか?」
 シュレインが悩んでいるということは、それ以外に考えられないとゼネットはそう問いかける。
 そんなゼネットに対して、シュレインが苦笑しながら首を左右に振った。
「いや、そういうわけではないの」
 そう一言いいおいてからシュレインは、事情を説明し始めた。

 シュレインから話を聞いたゼネットは、納得したように頷いた。
「・・・・・・なるほど。そういうわけでしたか」
「というわけで、普通に儀式で使ったとして、ちゃんと道具としての力を発揮するのか不明での。それに、そもそも吾は普段の儀式では、錫杖はもとより道具も使ったことはほとんどないからの」
 ヴァミリニア城では、定期的にヴァンパイアが儀式を行っている。
 当然、城を治めているシュレインが中心で行わなければならないものもあるのだ。
 そういったこれまでの儀式で、シュレインは道具を使わずに、全て呪文や動作だけで行っていた。
 そのため、いきなり道具を使って儀式を行えと言われても、上手くできるかどうかがわからないのである。
 そうした道具は、普通であれば魔力や呪文の詠唱を助ける意味で使われるが、シュレインにはそうした物を使わなくてもこなせてしまう。
 優秀だからこそできることなのだが、今回はそれが裏目に出てしまったというわけだ。

 ゼネットは、シュレインの言葉に首を左右に振った。
「そういうことは考えても仕方ありません。まずは使ってみてはいかがですか? 話を聞いた限りでは、合わなかったからといって、なにか大きな問題が起こるわけではなさそうですし」
「・・・・・・そうじゃの。それが一番か」
「それに、無理に錫杖を持ったまま続ける必要もありません。最初はフォローが効きやすい、皆で行う儀式から使ってみては?」
 シュレインは、ヴァミリニア城の主であるために、ひとりで行う儀式も多い。
 いきなりそうした儀式から使うのではなく、複数人が集まって行う儀式でまずは使ったほうがいいというのがゼネットの意見だった。
「なるほど。確かにその方がよさそうじゃの。・・・・・・一応、皆にもこのことは伝えておいてくれ」
 シュレインとしては失敗したときのことを考えて、フォローのつもりでいった言葉だったが、それを聞いたゼネットはフッと笑みを浮かべて言った。
「そう聞くと、失敗することが前提になっているような気がしますが?」
「・・・・・・そんなつもりはないぞ」
 挑発的(?)なゼネットの言葉に、シュレインはムッとした表情を浮かべるのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 数日後。
 ヴァミリニア城の一室にヴァンパイアの代表者たちが集まっていた。
 月に一度、ヴァミリニア城の維持を行うための儀式を行っているのだが、その儀式を行うために揃っているのだ。
 今では、一族になれないほどの少数のヴァンパイアも増えてきているが、この儀式に参加するのは、ヴァミリニア、タルレガ、プロスト一族の者たちだ。
 儀式を行う部屋にすべてのヴァンバイアを入れることはできないので、必然的に主だった者が集まることになる。
 儀式を行うのは別に固定メンバーではなくてもいいのだが、ヴァミリニア城にとっては重要な儀式のために、能力の高い者が揃っている。

 そんな中で錫杖を使って初めて儀式を行うのはどうかと思ったが、タイミング的にはちょうど良かったのだ。
 シュレインひとりが失敗しても大きな事故にはつながらないというのも間違いではない。
 今回の儀式は、だれかが引っ張って行う儀式ではなく、あくまでも共同作業なのである。
 一応、事前にシュレインが錫杖を使って儀式を行うことも参加者に伝えてある。

 十数人いる参加者たちが、興味深げにシュレインの持つ錫杖をちらちらとみていたが、一番大きな反応を見せたのがプロスト一族のイネスだった。
 長い時を生きて来ただけあって、普段はあまり表情を変えることのないイネスだが、そのときは大きく表情を変えて驚きを示したのだ。
「・・・・・・イネス殿?」
 シュレインは、その反応に首を傾げたが、イネスは一度シュレインと錫杖を見比べてから首を左右に振った。
「いや、何。珍しい形に驚いたのよ」
「ああ、なるほど」
 一口に錫杖といっても様々な形がある。
 基本は棒の先に輪があってそこに複数のリングがついているのだが、飾り輪だったり、棒の部分が仕込み杖のように武器が隠されていたりする。
 シュレインの持っている錫杖は、先に付いている輪が一般の物よりも大きく、豪華な飾り輪になっている。
 それ以外にも様々なところで豪華な飾りが付いているので、普通はシンプルな形が多い錫杖としては珍しい部類だろう。
「これを作ったコウスケ曰く、結果的にそうなっただけ、らしいがの」
「そうでしたか。かの方が作られたのですね」
 シュレインの説明に、イネスは納得したように頷いた。
 イネスが考助のことをことさら丁寧に扱うのはいつものことだ。
 そのためシュレインは、特に疑問に思うこともなく、儀式の準備に取り掛かるのであった。

 
 今回行う儀式は、集まった者たちの力を集めてそれを城の力として分け与える儀式だ。
 全員がひとつの呪を唱えながら部屋の中央にある呪具に、各々の魔力を捧げるのである。
 いま集まっているメンバーは、すでに何度も同じ儀式を行っているので、慣れた様子で儀式が進行していく。
 そんな中で、錫杖を持って儀式に参加していたシュレインは、内心で驚いていた。
 杖を通して魔力を送っているのだが、その消費量がいままでとは比べ物にならないほど少ないのだ。
 勿論、そうした道具を使えば楽になるというのは知識として知っているし、参加者の中には実際に使っている者もいる。
 ただし、シュレインには、あまりその効果が感じられなかったので、いままでは使っていなかったのだ。
 だが、この錫杖に関しては、その認識が一発で吹き飛んでしまった。
(なんというか・・・・・・さすがコウスケといったところかの)
 それだけ自分のことを理解してくれているともいえるので、なんとなく面映ゆくも感じられるが、それ以上に嬉しいという気持ちが強く沸き上がってきていた。
 そんな何ともいえない感情を抱きながら、シュレインはいつもよりも楽に儀式を終えることができたのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 儀式のあと。
 イネスは自宅への帰路の途中で、シュレインが持っていた錫杖のことを思い出していた。
「まさか、いまここであれを見ることになるとは思っていなかったわ」
 思わずそう口に出して呟いてしまったが、幸いにしてそれを聞く者は傍にはいなかった。
 また、だからこそ、安心して口に出しているのだ。
「でも、かの方と主がそのことに気付くのは、もう少し先といったところかしらね」
 そんなことを言いながらイネスは、嬉しそうに微笑を浮かべるのであった。
珍しく(?)あからさまにフラグを立ててみましたw
錫杖についての詳しい話は、もう少し先になります。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ