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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第5章 塔のあれこれ(その17)

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(2)錫杖

 久しぶりに管理層の研究室に籠っていた考助が、くつろぎスペースで休んでいたシュレインのところにひょっこり顔を見せた。
「ああ、ここにいたんだ。ちょっと来てもらっていい?」
「なんじゃ。吾か?」
 他にもシルヴィアがいたので一応確認したシュレインだったが、すぐに考助が頷いた。
「うん、そう。ちょっとシュレイン用の道具を作ってみたんだ」
「なんじゃと?」
 わずかに驚きつつ首を傾げたシュレインに、考助がニッコリと笑った。
「何を作ったのかは見てからのお楽しみということで。とりあえず、来て」
「う、うむ」
 一瞬シルヴィアと視線を合わせたシュレインだったが、考助に促されて椅子から立ち上がり、考助と一緒に研究室へと向かう。
 そして、ふたりの話を聞いて興味を持ったシルヴィアも一緒についてきたのは、ご愛敬だろう。

 研究室に入ったシュレインは、そこで考助から一本の杖を渡された。
「・・・・・・これは?」
「錫杖だけれど?」
「いや、さすがにそれは見れば分かる。そうではなく、これをどう使えばいいのじゃ?」
 これまでシュレインは、錫杖など使ったことはない。
 そのため、いきなり渡されても使い方などまったく分からないのである。
 ところが、そんなシュレインに対して、考助はさらに斜め上の答えを返した。
「好きなように使えばいいと思うよ?」
「・・・・・・おい?」
 そう言いながら剣呑な表情になったシュレインに、考助は慌てて両手を上げた。
「いや、冗談じゃなくて、本気で言っているんだよ!」
「であれば、なおさら意味がわからんのじゃが?」

 考助に対してさらに問い詰めたシュレインだったが、それに対して、別のところから考助への助け舟が来た。
「それは、もしかしなくても、神具でしょうか?」
 興味深げにシュレインの持つ錫杖を見ながらそう言ったのが、一緒についてきていたシルヴィアだ。
「うん。もしかしなくてもそうだね」
「・・・・・・作れたのですね」
 感嘆するような顔になったシルヴィアに、考助がちょっとだけ笑いながら頷く。
「まあ、満足にほど遠いけれどね。一応、それっぽいのはできたと思うよ」
「そうですか」
 考助の言葉に頷いたシルヴィアだったが、考助が道具作りに関しては妥協を許さない職人だということは承知している。
 そのため、いまシュレインが持っている錫杖も十分に実用に耐えうるとシルヴィアは確信していた。

 納得して頷くシルヴィアを見ながら、シュレインが戸惑った表情になっていた。
「シュレイン、そんなに不思議そうな顔にならないでください。コウスケさんの作った物が神具だと分かれば、具体的にどんな使い方をするのか分からなくでも不思議ではないですよね?」
 アスラの屋敷から落ちて来た三つの神具は、未だにはっきりとした使い方が確立できずにいる。
 それを考えれば、考助の作った神具も同じように使い方がわからなくても不思議ではない。
 シルヴィアはそういうことを言いたいのだ。
 ようやくそのことに気付いたシュレインは、納得して頷きかけてから驚いた顔になった。
「いや、ちょっと待て。ということは、つまりコウスケは、正真正銘の神具を作ったということかの?」
「正真正銘というのが、どういう意味かにもよるけれど、まあ、そういうことかな?」
 シュレインの言い草に苦笑を浮かべながらも、考助は肯定した。
「シルヴィアに言った通り、完ぺきとは言い難いけれどね」
「それは、まあ、いや、そうではなく。そもそも神具はそう簡単に作れるはずがないじゃろう?」

 この場合の神具というのは、いままで考助が作ってきた神具のように、魔力や聖力の代わりに神力が使われているといった単純なものではない。
 本当の意味で神々が作った道具であり、神々が使うような力を持っているという意味での神具なのだ。
 両者がどう違うのか、明確に説明しろと言われても考助にも説明は難しいのだが、敢えてあげるなら道具そのものに意思を宿しているか否かといったことになる。
 そういう意味では、今回考助が作った神具は、例の三つの神具ほどではないにしろ、ちょっとした意思が宿っていたりする。
 勿論、はっきりとした意思のようなものがあるわけではなく、楽しいとか悲しいといった簡単な感情だけなのだが。
 それでも神具は神具だ。
 考助が現人神であることを考えれば、神具を作れることは当たり前だと思われがちだが、実はそうではない。
 アスラの神域にいる女神たちも、実際に神具を作ることができるのはほとんどいない。
 本来の神具というのは、意図的に作り出すわけではなく、偶然か長い時間をかけて意思が宿るのがほとんどなのである。

 もっともなシュレインの意見にシルヴィアが頷きつつ答える。
「それは、そうなのですが・・・・・・まあ、コウスケさんですから」
「あ~・・・・・・なるほど」
「えっ!? ちょっと待って、やっぱりその流れになるの?」
 矛先が自分に向いた考助は、慌てた様子で一歩後ろに下がった。
 シュレインとシルヴィアの呆れたような視線が、胸に突き刺さったのだ。

 ふたりからの視線をごまかすように、考助は早口で作った錫杖についての説明を始めた。
「と、とにかく、そういうわけだから、どういう使い方ができるのかとかは、他の神具と同じように使いながら確認してね」
 いつものようにわざとらしい考助のごまかしに、シュレインはジッと視線を向けていたが、やがて諦めたように錫杖へと視線を落とした。
「・・・・・・そういうことならあり難く使わせてもらうがの。あまり期待はするなよ?」
 シルヴィア含め、他のメンバーたちも神具の扱いにはいまでも四苦八苦している。
 考助が作ったからというのを除いたとしても、使いこなせるようになるまでには時間がかかる可能性がある。
 それどころか、使いこなせるかどうかも分からない。
 そう考えてのシュレインの言葉だったが、なぜか考助はニンマリとした笑みを浮かべた。
「それに関しては、たぶん大丈夫だと思うよ?」
「なに、どういうことじゃ?」
 あまりに自信満々な様子の考助に、シュレインが訝し気な表情になった。

 考助が自信を持っているのには、ちゃんとした理由がある。
「その神具は、ほかのやつと違って、シュレイン専用で作ったから」
「な、なんじゃと!?」
 思わず、といった感じで、シュレインは錫杖をまじまじと見つめた。
「その神具をどうやって使うかは、シュレイン自身が考えて、思いついたものを実行していけば、必ず何かには使えるはず。というか、そうじゃないと作るのに失敗したということになる」
 さすがにそれは勘弁してほしいという顔で、考助が説明をした。
 今回考助が作ったのは、交神具などと同じように、使用者を限定して作っている物だ。
 三種の神具のように不特定多数が使えるようになっていない分、シュレインにとっては扱いやすくなっているはずなのだ。
 ・・・・・・少なくとも考助の目論見通りに行けば、だが。
「というわけで、シュレインがどうあがいても使えないとなったら、それは僕が作るのを失敗したということになるので、きちんと報告お願い」
「それはわかったが・・・・・・本当に大丈夫かの?」
 シュレインは、首を傾げてそう言ったが、これは別に考助のことを疑っているわけではなく、自分がきちんと使いこなせるかどうかを不安に思っているのだ。
 考助もすぐにそれがわかったので、落ち込むわけでもなく、真顔でシュレインに言った。
「うん。だから、できるだけ細かく使ったときの状況を教えてほしいと思ってね。そうしないと、どっちが原因かもわからないし」
「なるほど。・・・・・・まあ、できる限りのことはしようかの」
「そうだね。変に気負う必要はないよ」
 のんびりとしたシュレインの言葉に、考助も頷きを返した。

 どういう結果になるにせよ、今回の神具に関しては、考助にとっても実験的な意味あいが大きいのだ。
 最初から失敗すると分かっているものを他人に渡したりはしないが、それでも実際には使ってみないと分からないことはいくらでもある。
 考助からそう説明を受けたシュレインは、受け取った錫杖を手にして気合の入った表情を浮かべるのであった。
シュレインに錫杖・・・・・・・。
特に深い意味はありませんが、なんとなく気分で決めました。
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