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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第5章 塔のあれこれ(その17)

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(1)ちょっとした誤解

 考助は、ミアが機嫌よく自分の目の前で横切るのを見ながら、ふとその手に持っている魔道具に気が付いた。
「ああ、ミア。その魔道具は役に立っているのかい?」
 ミアが手にしているのは、ステータスを見ることができる魔道具だ。
 以前、女性陣を含めて増やすように請われてから、どうやって使われているのかは全く確認していなかった。
「勿論です。父上は、自前で見ることができるから気付きにくいでしょうが、相手のステータスが見えるのと見えないのでは、大違いなのですよ?」
「それはまあ、そうだろうねえ」
 ミアは忘れているが、そもそも考助はステータスがない世界から来ているのだ。
 ステータスがあること、ステータスが見えることの便利さは言われなくともよくわかっている。
 それでも先ほどのようなことを聞いたのは、自分が作った道具がきちんと喜ばれながら使われているのかを知りたかったからである。
 相手のステータスが見ることが出来る魔道具が役に立っていないとは考えてもいないが、それでもなんの反応もないと不安になってくるのは製作者としての性だ。

 考助はそんな思いを口にはしなかったが、顔を見て何となく察したのかミアがまじまじと考助を見て来た。
「・・・・・・これほど便利な道具なのに、それでも心配になるのですね?」
「それは、まあ・・・・・・いや、むしろだからこそ、かな」
 娘に心を読まれてしまったことに恥ずかしさを覚えつつ、ごまかすように言い訳を言おうとした考助だったが、それをやめてはっきりとその理由を言うことにした。
「便利だからと言われて作ってはいても、自信を持って作った道具が使われずにいたら、やっぱり悲しいからね」
 自信があればあるほど、使われていないと分かったときの寂しさは大きくなる。
 ましてや、自分の身近にいる人が使わないと分かると、さらにそれは倍増する。
「父上の心配は、杞憂というものです。私も含めて、使えないと思ったら、間違いなくすぐに報告していると思いますよ?」
 作ってもらったあとに何も言わないということは、きちんと使っている証拠だというミアに、考助も笑顔になった。
「まあ、それは確かにそうだろうね」
 考助もその点についてはそうだろうと考えている。
 ただ、それでも何かを言ってほしいと思うのは、製作者としてのわがままなのだ。

 そんな父娘おやこの会話に、フローリアが混ざってきた。
「なんだ。そんなことを心配していたのか。そもそも駄目だと思う道具は、皆すぐにダメ出しをしているだろう?」
「それもそうなんだけれどね」
 考助が作った道具に関しては、大抵最初に見るのが管理層のメンバーになるので、使えないと判断された道具は速攻でダメ出しされている。
 逆にいえば、その時点でダメ出しが無ければ、問題はないということだ。
 もちろん、使っている間に出てくる不満や改善点などはいくらでも出てくる。
 そうした場合は、ちゃんと報告されているのだ。
 それを考えれば、何の報告もなく使われ続けている道具というのは、問題がないからこそ使われているのだ。

 それでも微妙に納得が行かない顔をしている考助に、フローリアが呆れたように続けた。
「そもそもコウスケは、これでもかとばかりに新しい道具を作っているだろう? そちらの批評に忙しくて、使うことが当たり前になっている道具に関しては、わざわざ言葉に出すこともないと思うぞ?」
 フローリアのその説明に、ミアも同意するように大きく頷いていた。
 そもそも、使えない、あるいは使いにくい道具に関しては、使いやすくなるまで改良してもらえるように、改善点を話すことになる。
 ただし、改善が終わって、違和感なく使えるようになれば、ごく自然に使えることになるので、意識に上ってこないことのほうが多いのだ。
 それだけ改良の終わった道具が使いやすくなっているということになるのだが、考助にとっては忘れ去られてしまっているのかとやきもきしてしまうことになる。
 報告のないことが一番いいことなのだというのは、頭の中で分かってはいてもやはり寂しいという思いは感じてしまうものである。
「そうだろうねえ」
 ため息とともに吐き出されたその考助の言葉に、フローリアとミアは顔を見合わせた。
 ここにきて、どこか考助の様子がおかしいと気が付いたのだ。

 視線を合わせたふたりは、その一瞬の間に考助の身に何か起こったのかと考えたが、特に思い当たることはなにもない。
 お互いに視線と表情だけでそれを確認したフローリアとミアは、今度は傍で話を聞いていたコウヒに目を向けた。
 ふたりから見られたコウヒにも、特に思い当たることはなにもなく、首を左右に振った。
 この間、ほんの数秒の出来事だ。
 考助には気づかれることなく交わされたやり取りだったが、芳しい収穫はなかった。

 内心で諦めたフローリアは、直接考助に聞くことにした。
「・・・・・・なにかあったのか?」
 気遣うようにそう聞いてきたフローリアを見て、今度は逆に考助が驚きで目をぱちくりとさせた。
「いや、特に何もないけれど?」
 考助にしてみれば、なんとなく感じたことを話しただけのつもりだったのだ。
 だが、少なくとも魔道具に関して、考助からここまで弱気(?)な発言を聞いたことはなかった。
 だからこそ、フローリアとミアは、考助に何かあったのではないかと考えてしまったのだ。

 ふたりの表情からようやく何か誤解を与えていると察した考助は、照れたような顔になって鼻の頭をかいた。
「あ~、何か誤解させるような言い方になっていたみたいだけれど、本当になにもないから安心して」
 そういった考助をフローリアがジッと見つめた。
 そして、その言葉に嘘はないと分かったフローリアが、安心したような表情になった。
「それならいいのだが・・・・・・それならなぜあんなに弱気に?」
 考助の弱気の発言が気になったフローリアは、首を小さく傾げた。
 だが、そのフローリアの言葉を聞いた考助は、逆に驚いた。
「弱気? いや、そんなつもりはまったくなかったんだけれど!?」
 考助からすれば、なんとなく感じていたことを言葉に出していただけで、弱気な発言だと取られているとは全く考えていなかったのである。

 その考助の様子を見て、フローリアとミアが反省したような顔になった。
「ごめんなさい。元はといえば、私が余計なことを聞いたから・・・・・・」
「いや、この場合は、私も悪いだろう・・・・・・」
 ふたり揃って反省しているその態度に、考助が焦ったように手を振った。
「いや、ゴメン。驚いただけで、別に怒ってはいないよ。だから、別に誰が悪いとかはないから」
 考助がそういうと、フローリアとミアはあからさまに安心したような顔になった。
 それを見た考助は内心で首を傾げた。
 いままでの自分の言葉と態度で、ふたりをそこまでさせるような言動があったとは思えない。

 ウーンと少しだけ考えた考助だったが、後ろに立つコウヒの顔を見て、ふと気が付いた。
「・・・・・・・・・・・・芝居?」
 考助がそうポツリと呟くと、フローリアとミアがそっと考助から視線を外した。
 どこまでが本気でどこからかそうであったのかは分からない。
 だが、少なくとも最後の反省のところは芝居であったことは考助にもわかった。
「まったく・・・・・・」
 わざとらしく視線を外しているふたりを見ながら、考助はため息をついた。
 そして、こんなときに母子の絆を見せつけなくてもいいだろうと思ったが、それを口にすることはなかったのである。
久しぶり(?)に、日常系のお話でした。
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