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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4章 スライム!

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(10)神としての常識

 考助が指を突き出すと、スーラがそれに向かってひょいっと飛びかかってきた。
 突き出た指に当たったスーラは、一瞬だけ身体をへこませてから跳ね返るよう飛ばされた。
 考助の指に当たって飛ばされたスーラは、コロコロと転がっていった。
 そして、それに飽き足らず、再び突き出したままの考助の指に飛び込んでいって・・・・・・以下、ループ。

 先ほどからスーラは、なにが楽しいのか、ずっと同じことを繰り返している。
 その姿を見ているのが面白いので、考助も付き合ってやっていた。
 そして、そのひとりと一匹の様子を久しぶりに管理層にやってきたココロが少しだけ呆れた様子で見ていた。
「・・・・・・なにが楽しいんでしょうね?」
「うーん。そもそもスライムに、普通の思考を求めても駄目なんじゃないかな?」
 何かを考えてやっていると思うとドツボにはまる。
 そうではなく、単純にいまが楽しいのでやっているだけじゃないのか、というのが考助のスライム論(?)だった。
 ちなみに、スライム論というのは、考助が勝手に作った造語であり、アースガルドの世界にある言葉というわけではない。

 様々な眷属たちと長い間触れ合ってきた、いかにも考助らしい返答に、ココロは納得の表情を浮かべた。
「確かにそうかもしれませんね」
「それで?」
「はい?」
 突然の考助の問いかけに、ココロは思わず首をかしげてしまった。
 考助は未だに突進してくるスーラと戯れており、なぜ自分にそんな問いかけをしてきたのか分からなかったのだ。
「いや、忙しいのにわざわざ時間を作ってまでここに来たのは、スーラを見に来ただけじゃないよね?」
 トワやミアから話を聞いてスーラを見に来たということもあり得るが、それだけでは忙しいココロが管理層にまで足を伸ばしてきたとは考えにくい。
 そう考えての考助の言葉だったが、ココロは微妙に表情をゆがませた。
「・・・・・・間違ってはいないのですが、そう言われると、なにか用事がないと来てはいけないように聞こえますね」
「い、いや。別にそんなつもりは・・・・・・」
 ココロの言葉に焦って言い訳しようとした考助だったが、その弁明にかぶせるように別の人物の声が割り込んできた。
「そう思うのだったら、もう少しこちらにも顔を見せればいいのでは?」
 笑みを浮かべながらココロに向かってそう言ったのは、彼女の実母であるシルヴィアだった。

 シルヴィアの言葉を聞いたココロは、若干頬を膨らませて反論した。
「私が忙しいということは、お母様にもお判りでしょう?」
「あら。それでも私のときは、なんとか時間を作って会いに来たものですよ」
 恥ずかしげもなくそう言ったシルヴィアに、考助は思わず目を見開き、ココロはご馳走さまと言いたげな顔になる。
「・・・・・・私もお母様には負けていませんよ」
 敢えてなにが、とは特定せずにそう言ったココロに、シルヴィアはホホと笑った。
「いくらあなたがそう思っていても、顔を見せなければ忘れられるものですわよ。それから、コウスケさんはいつまで驚いているのですか」
 娘の反撃をさらりとかわしたシルヴィアは、驚いたままの考助の肩をポンと軽く叩いた。
「いや・・・・・・シルヴィアからそういったことを直接言われることなんて、ほとんどないよね? だから、少し驚いた」
「少しという驚き方ではなかったような気がしますが? それに、私だって、たまにはそういうことを言いたくなることだってありますわよ」
 考助は、シルヴィアの言葉に二重の意味で「うぐっ」とうめき声を上げた。

 そんなふたりに対して、ココロが半目になって呟いた。
「私は、お父様とお母様ののろけを聞きに来たわけではないのですが・・・・・・」
 小さく呟かれたその言葉は、しっかりとシルヴィアの耳に入ったのか、
「でしたら早く要件を済ませてしまってはどうですか。それこそ、わざわざ時間を作ってきたのでしょう?」
 言外に空いた時間は管理層でゆっくりしていけばいいと言ったシルヴィアに、ココロはやっぱり敵わないなあと思いつつ、先に用事を済ませることにした。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦ 

 ココロが管理層に来たのは、考助とシルヴィアの予想通りスーラを見に来ただけではない。
 スーラの話は、トワから聞いていたのでいつかは見たいと考えていたのだが、それ以外にももっと重要なことがある。
 というよりも、スーラの話を聞いて、折角だから以前から気になっていたことを聞こうと考えたのである。
 その聞きたいことというのが何かといえば、
「お父様・・・・・・いえ、現人神は神獣を決めないのでしょうか?」
 そのココロの問いかけに、考助は目をぱちくりとさせた。
「神獣を決めるって、なんのこと?」
「えっ!?」
 考助の顔を見れば、本気で聞いていることはわかる。
 そして、だからこそココロは驚きの表情になった。
 そして、問いかけるような視線をシルヴィアへと向けた。

 ココロから視線を向けられたシルヴィアは、当然自分の娘が何を言いたいのかわかっている。
「いままでは特に必要がなかったから説明もしていませんよ?」
「・・・・・・それでどうにかなっていたことの方が驚きなのですが・・・・・・」
「コウスケさんですから」
 たった一言ですべての説明を終えてしまったシルヴィアだったが、ココロもなにかを言おうとして口を開こうとしたもののすぐに閉じてしまった。
 そして、二、三秒ほどなにかを考えるように首を傾けたあとに考助へと向き直った。
「お父様、この世界の神々というのは、力のある存在ほど従える神獣がいます。当然、三大神にもそれはいます」
「・・・・・・それで?」
 なんとなくココロの言いたいことがわかってきた考助だったが、間違っている可能性もあるので先を促した。
「いままでお父様・・・・・・いえ、現人神には定まった神獣はいませんでした。ですが、これから先はそういった存在も必要になると思います」
 現人神としての考助は、本当の意味での神殿を持たず、積極的に表に出てこようとはしてこなかった。
 だが、百合之神宮ができて、これから先はそこに訪れる人が増えることも考えられる。
 そうなってくる以上、やはり人々の求める信仰の上でいままで通りの定まった枠組みというのは非常に大事になってくる。

 要するにココロは、他の神々と同じように神獣を定める必要があると言いたいのだ。
「言いたいことはわかったけれど・・・・・・僕のそばにいる神獣なんて、ナナくらいしか思いつかないけれど?」
 神に仕える神獣は、それぞれの神によって数が違っている。
 そういう意味では、考助に従う神獣はナナだけでも構わないのだが、ココロやシルヴィアの顔を見る限りでは、そういうわけにもいかないのだろうということは考助も察していた。
 だが、そんな考助に対して、ココロはため息をついた。
「・・・・・・この辺りの常識のなさは、やはりお母様のせいだと思うのですが」
 そう言いながら非難の視線を向けてきた娘に、シルヴィアは苦笑を返した。
「そうね。それは認めます」

 そもそも考助は、流れに任せて現人神になっただけで、自ら望んでなったわけではない。
 そのため、世界に対するありようも他の神々とは、一線を画した存在になっている。
 そうしたことを踏まえて、シルヴィアもなるべく他の神々と同じような枠組みにあてはめることのないように、当然こうあるべきという常識は敢えて教えてこなかったのだ。
 これに関してはココロの言う通り、考助のせいというよりもシルヴィアが悪いことだ。
 シルヴィアは、教えるべきことはきっちりと教えて、あとの判断は考助に任せるべきだったと反省した。
 もっともこれはあくまでも結果論で、シルヴィアが悪いとも言い難いところがある。
 だがやはり、こうしたことをきちんと教えられる考助に一番近しい存在はシルヴィアであったのも間違いない事実なのであった。
思ったよりも長くなったので次話に続きます。
次は神獣の選定!
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