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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4章 スライム!

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(8)スライム相撲

 ちょうど相撲の土俵くらいの大きさの円の中に、二匹のスライムが向かい合っていた。
 一方はスーラで、もう一方はスライム島から適当に連れてきたスライムである。
 円の中でにらみ合っていた両者は、考助の「始め!」という掛け声とともに相手に向かって飛び上がった。
 丁度タイミングを合わせたためか、空中で衝突した両者はお互いにはじかれて別の場所へと飛ばされる。
 実際には音はほとんど聞こえないのだが、ぶつかったときの音がバチンではなく、プヨンと聞こえてきそうなのは、やはり粘性生物らしい体のせいだろう。
 そんな周囲の感想はともかくとして、二匹のスライムは何度か体当たりを繰り返していた。
 ときには倒れこんだ相手をさらに追い打ちをかけて、地面に描かれている円の外に追い出そうとしている。
 何とかそんなことを繰り返しているうちに、ついにスーラが対峙していた相手を円の外に追い出すことに成功した。
「それまで! 勝者、スーラ!」
 考助がそう宣言すると、スーラが嬉しそうにその場で飛び跳ねて、相手をしていたスライムは、その場で溶けたアイスのように落ち込んでみせた。

 その一部始終を円の外で見ていたトワが、戸惑ったように隣に立っていたフローリアに問いかけた。
「・・・・・・えーと、父上は結局何がしたかったのでしょうか?」
 期待のパーティである『烈火の狼』の様子が最近おかしいという噂を聞いたトワが、弟であるリクから直接理由を聞いて、その原因を知ったのが昨日のことだ。
 さすがに忙しいトワが同日に管理層に来ることはできず、次の日になって訪ねてきたのである。
 目的はもちろん、リクたちがみたというスライムを見るためだ。
 別に考助としても隠すつもりはないのだが、かといって希望する全員に見せるつもりもない。
 そのため、トワだけを連れてリンのところに行ってきたのだ。
 そして、その帰りに、考助が突然スーラ以外のスライムを捕まえて、管理層に戻るなり先ほどのスライム同士の戦いを見せた。
 ただ見ているようにとだけ言われたトワには、よく意味が分からなかったのである。

 戸惑うトワに、フローリアが目をぱちくりとさせた。
「なんだ? 見ていて分からなかったのか?」
「ちょっと・・・・・・ではなく、まったく分かりませんでした」
 そのトワの答えに、フローリアは腕を組んで残念そうな顔になりながらちょうどふたりのところに向かって歩いてきた考助に言った。
「残念だな、コウスケ。トワには、まったく通じなかったぞ?」
「あれ? そうなの? ・・・・・・うーん、もう少し派手さが必要なのかな?」
 フローリアの言葉に、考助は同じように腕を組んで首を傾げた。
 考助の頭の上では、ここが定位置といわんばかりに、スーラが収まっている。
 ちなみに、もう一匹のスライムは、同じように彼らの戦いを見ていたシルヴィアが回収済みだ。

「えーと・・・・・・父上、母上?」
 ふたり揃って腕を組んで何事かを考え始めた考助とフローリアに、その息子であるトワは置いてきぼりになった。
 そんなトワを見て、シュレインが苦笑しながら口を挟んできた。
「其方は難しく考えすぎではないか?」
「・・・・・・と、いいますと?」
「今の戦いを見ていて、面白くなかったかの?」
「いや、それは面白かったですが・・・・・・ってまさか?」
 ようやくトワにも先ほどの二匹のスライムの戦いの意味がわかって、目を見開いた。
 それを見たシュレインは、大真面目な顔で頷いた。
「そうじゃ。考助は今のスライム同士の戦いを、民衆の娯楽にできないかと提案しておるのじゃ」
 改めてシュレインにそう言われたトワは、一度二匹のスライムが戦った場所を見て、さらにそれぞれのスライムへと視線を向けた。

 考助がトワに見せたのは、以前から考えていたスライム相撲だ。
 といっても内容は普通の相撲よりも多少過激で、どちらかが円の外に追い出されるか、戦闘不能になるまで続けられる。
 スライムには足がないので、体や手が付いたと判断できないためそうなるのは仕方がない。
 そもそもこの世界に相撲という競技はないので、そこまでこだわる必要もない。
 それよりも、どうやって観客たちを盛り上げさせるか、ということの方が重要なのだ。
 さきほどまでのトワの反応を見て分かる通り、今のままでは地味すぎて娯楽にはなり得ない。
 可愛らしさで攻めるというパターンも考えられなくはないが、それが今の住人たちに受け入れられるかは未知数だ。
 だからこそ、考助とフローリアは真剣に悩んでいるのである。

 ようやく考助とフローリアの意図を理解したトワだったが、今度は別の疑問に首を傾げた。
「先ほどのスライムの戦いの意味は分かったのですが、なぜスライムなのです?」
 何も最弱のモンスターといわれているスライムを使わなくとも、他のモンスターを使役して戦わせた方が見ごたえがあるのではというトワの疑問に、首をひねって考えていた考助とフローリアが勢いよく反応した。
「何を言っているんだよ、トワ。スライムだからいいんじゃないか」
「そうだとも。トワには、この可愛いらしさがわからないのか!?」
「あ~・・・・・・はい。ごめんなさい?」
 トワにとってはどうでもいいことを力説してきたふたりに、微妙な顔になってそう答える。

 そんなトワに対して、今度はフローリアが真顔になって言った。
「まあ、スライムが可愛いと感じるかどうかは、個人差があるから横に置いておこう。それよりも、敢えてスライムにしているのには、ちゃんとした理由がある」
「それは?」
 トワには、その理由というのがまったくもって思い浮かばない。
 ただ単にふたりの趣味じゃないのかと突っ込むのを堪えて、トワは一応そう問いかけた。
「クラウンはスライムの繁殖に成功しているのだろう? それであれば、テイマーだけでなく普通の者にも参加できるチャンスがあるのではないかと考えた」
 以外にきちんとした答えだったことに内心で驚いたトワは、腕を組みながら唸り声を上げた。
「・・・・・・なるほど。それは確かに、一般に広まるという意味では重要ですね」
「それこそペットを飼う感覚でスライムを飼えれば、それだけすそ野も広がるからね。闘技場みたいに戦闘が好きな人以外にも広められないかなと」
 派手な戦いを見るだけならば、それこそテイマーがそれぞれのモンスターを使役して戦わせればいい。
 ただ、それだとやはり数が限られてしまうので、マニアはともかく、一般に広まるのは厳しい。
 そうしたことを考えたうえでのスライムというわけだ。
 何も、最近になってスーラが管理層に来たから考えたわけではないのである。

 言い訳のように付け加えた考助に、少しだけジト目を向けたトワだったが、それには何も言わず現時点で思いついたことを言うことにした。
「なるほど、確かに言わんとすることはわかりました。ただ、やはりというべきか、父上も母上も一気にことを進めようとするのは、やめた方がよろしいかと思います」
「ほう? というと?」
 トワの言い分にフローリアが目をきらりと光らせた。
「もし、本当にすそ野広く一般の者から広めようとするのであれば、上からではなく、自然発生的に広めたほうがいいのではないでしょうか?」
「「あっ・・・・・・」」
 その当たり前といえば当たり前すぎるトワの意見に、思わず考助とフローリアは顔を見合わせた。

 考助たちが作ろうとしているのは、あくまでも娯楽としてのスライム相撲だ。
 そう考えれば、トワが言ったことは、一理あるどころか正論といってもいい。
 無理に上から広めようとしても、こういったことはうまくいかないことのほうが多い。
 であれば、それとなくこういった遊びがあるということを伝えて、あとは勝手に広まるのを待った方がいいのだ。
 まったく抜け落ちていたその視点をトワから指摘されて、考助とフローリアは早速シュミットに話を持っていくべく動き出すのであった。
今のところスライム相撲が一般に広まるかは、神のみぞ知る、といったところですw
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