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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第6章 塔の地脈の力を使ってみよう

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閑話 とある商人の話

クラウン結成前の話です。
 リュウセンへ向かう道中。
 ここまでは特に大きな問題もおきず、モンスターに襲われることもなく来れた。
 リュウセンまでは、後半日ほどで到着できる。
 だが、今までの長い行商人としての経験上、大抵は町に入れる間際に何かが起こるのが常である。
 当然、気を緩めることなく周辺に気を配る。
 とはいっても、商人である自分よりは、自分の馬車を守っている護衛達の方が遥かに早く異変を見つけることが出来る。
 自分が気を配るのは、モンスターではなく荷馬車の中の商品たちだ。
 多少の振動では、崩れないような積み方にはなっているが、荷馬車自体が引っくり返るような事故が起こっては、それも意味がない。
 長い経験の中では、そう言ったことも何度か起こっている。
 それ故に、常に荷馬車が通る場所は、不測の事態が起こった時のために、チェックは怠ることが出来ない。

 リック・クリプトン。
 十二歳の時にこの世界に飛び込んだ。
 というとかっこよく思われるが、孤児だった自分を師匠が拾い上げてくれた。
 当時の自分は計算なども全くできなかったのにだ。
 師匠が、自分のどこかを気に入ったのか、あるいはただの気まぐれだったのか、最後まで拾い上げてくれた理由は、師匠から聞くことは出来なかった。
 十二歳で師匠の下に弟子入りと言う形で下働きを重ねて、十七歳の時には一人前と認めてくれた。
 師匠とは、二十歳になる前に死に別れた。
 行商の移動中による事故だった。
 この大陸ではよくあるモンスターによる襲撃を受けたのである。
 この時リックは、たまたま別の町で待機中だった。
 仕入れようとしていた商品が手に入らず、師匠だけ先に目的の町に向かったのだ。
 リックは、商品を手に入れた後、後追いで師匠を追いかけたのだが、街に到着した時に師匠の馬車が襲われたことを聞いた。
 師匠の運んでいた荷物は、ほぼ全壊状態で商品になるようなものは無かったとのことだった。
 実際のところは、確認していない。
 襲われた荷馬車を見つけた場合は、その荷馬車を見つけた者にいくらかの権利がもらえる。
 とは言え、全てもらえるわけではない。
 襲撃で自分の身に何かが起こった時のために、大抵の行商人たちはその荷物の権利を他の者に託すようにしている。
 襲われた荷馬車を見つけた者がもらえる者は、その荷物の中のごく一部なのだ。
 それならば、見つけた物を全部もらってしまおうと考える輩が出るのも珍しい話ではないのだ。

 師匠を失ったリックであったが、師匠は自分の持っていた販路などの権利をすべてリックに託すように手配していた。
 この時の感情は、そこまで認めてくれていたのかと言う嬉しさよりも、師匠を失った悲しさの方が大きかった。
 そして、そう言う感情を持った自分を意外に思った。
 リックは、こと商売に関しては、師匠から褒めてもらったという記憶がほとんどなかった。
 記憶に残っている師匠の顔のほとんどが、怒った顔だった。
 そんな生活だったので、いつかは自分は独り立ちして、師匠と別れることになるのだろうと思っていた。
 師匠が何故そのような手配をしていたのか、結局いまでも分かっていない。
 それでも、今まで師匠が築いてきた販路を失うわけにはいかないと、がむしゃらに働いた。

 師匠が亡くなってから約十五年。
 いまだこうしてリックは行商人を続けている。
 何度か事故が起こって荷物の大半を失ったりをしたこともあったが、幸いにも命だけは失わずにすんでいた。
 荷物を失っても信用を失わずに、行商人として続けてこれたのも、師匠が開拓した販路のおかげだと思っている。
 そういう事が起こるたびに、リックは行商人は金勘定だけでなく、信用と言った物が大切なんだと思わされてきたのだった。

 結局、リュウセンまではモンスターの襲撃は起こらずに、無事に着くことが出来た。
 行商人によっては、襲撃がないのなら、護衛など雇わなければよかったと言う者達もいる。
 だが、リックはそうは思わない。
 護衛を雇うこともまた、信用の一つだと思っているからだ。
 今回も無事に着いたため残りの賃金を、護衛の冒険者たちに支払い、今回は解散となった。
 行商人にとっては町に着いてからが勝負となる。
 町に運んだ商品を売りさばかないといけないから。
 とはいっても、運んできた荷物の大半が、元々注文が入っていた商品だ。
 それ以外の商品が、リックが新しい販路を開拓しようと別の町で購入してきた物になる。
 そういった物を店などに持ち込んで、売れるかどうかの感触を確かめていくのだ。
 そうそう簡単には、新しい販路は見つからないのだが。

 新しい商品の売り込みをかけていたリックだが、その最中にとある噂話を聞いた。
 リュウセンと塔をつなぐ転移門を展開している組織が、新たな街とつなぐ門を作ったという話だ。
 それを聞いたリックは、思わず耳を疑った。
 もちろん、塔とリュウセンをつなぐ転移門があるという話は聞いていた。
 その転移門を通って、塔の中から様々な素材などが持ち込まれているということもだ。
 とはいえ、そう言った素材は、残念ながらリックの専門ではなかったので、今までは、関係ないと思い込んでいた。
 だが、今回の話は全く別物だ。
 塔と別の町が繋がる門が新たに出来るということは、塔を経由して町から町へすぐに移動できるということになる。
 この話に食いつかない行商人はいないだろうと、その噂話を聞いたリックは思ったのだ。
 当然リックもその噂話の真偽を確認しに、各所へと向かうのだった。

 結局町ではまともな話を入手できなかったので、直接塔へと向かうことにした。
 転移門を通った先では、新たな空と大地が広がっていた。
 なんとも不思議な感じだが、ここが塔の中と言う事らしい。
 新しい転移門に関しては、神殿の商人用窓口とやらで聞けるという事だったので、リックもすぐに向かった。
 当然と言うべきか、恐らく同業者のだろうという者たちが、そこには集まっていた。
 一人ひとり説明する時間が取れないので、一度にまとめて説明するとのことだった。
 説明開始まで時間があるとのことで、それまでは時間を潰していてほしいと言われた。
 せっかくの空いた時間である。
 この村にある商店を覗いてみることにした。
 店の中は、冒険者が中心になっている品揃えになっていた。
 これはまあ当然だろう。そもそもこの村に集まっているのは、塔の中で活動する冒険者たちなのだから。
 それに、どちらかと言うと、素材の買取のカウンターの方が人員を取っている。
 リックが見ている限りでも、次から次へと冒険者から素材が持ち込まれているので、一日全体で見れば、かなりの取引がされている事がわかった。

 そんなことをしながら時間を潰して、いよいよ説明が始まる時間になった。
 だが、その内容は残念ながらリックにとっては、期待外れのものになった。
 今後クラウンと言う組織が立ち上がり、そのクラウンに属さない商人は、一つの門しか使えないと説明があったのだ。
 例えば、リュウセンから来た商人は、リュウセンに戻ることしかできないということだった。
 ついでに言えば、冒険者として門を通る者は、今後は大量の荷物を持って塔の出入りをすることが、できなくなるそうだ。
 と言うわけで、冒険者を仲介して商品を取り扱うことも不可能と言うことが分かった。
 まあ、当然と言えば当然の塔側の対応に、リックも納得するしかなかった。
 塔側にしてみれば、この村がただの通過点となってしまうのを防ぐ意図があることは、少し考えればわかることだ。
 当然ながら不正をしようとする者も出てくるだろうが、発覚した場合は今後一切塔への出入りが出来なくなるとの説明があった。
 転移門は、個人個人の魔力や聖力を識別しているため、一度出入り不可と登録されれば、門自体が反応しなくなり、門が使えなくなる。
 利に聡い商人たちが、そのようなリスクを冒すようなことは無いだろう。
 少なくともリックとしては、そんな冒険をするつもりはなかった。
 そんなことをするよりは、いつでも転移門を使えるほうが得なのだ。
 商品自体の移動は出来なくても、自分自身が移動できるだけでもメリットは大きいのだから。
 門についての話が終わった後は、クラウンとしての商人部門がどういったものになるのかと言った話があった。
 むしろこちらの話の方が、リックにとっては実りのある話だった。
 通常ギルドに所属すれば、行商人に比べて、商人として自由に活動できることが少なくなる。
 そう言った縛りが、一般的なギルドの物よりも少なかったのである。
 そして何より、クラウンに所属している商人は、門は自由に使えるという。
 これも当たり前と言えば、当たり前である。
 組織に所属している商人まで移動を制限してしまっては、そもそも門を設置する意味がなくなってしまう。
 最後に、説明担当の者が、クラウンに所属を希望する者はいつでも歓迎する、といった言葉で締められた。

 塔からリュウセンへ戻ったリックは、本気で塔の組織に所属するかどうか、本格的に悩むことになる。
 とは言え、今までの取引のこともあるので、すぐに塔の組織に所属する、と言うわけにはいかないので、しばらくの間は行商人として活動することになるだろう。
 その間に、今後の身の振り方を決めていくことにしたのである。
 結局リックは、正式にリラアマミヤとして活動を始めた頃に、クラウンに所属することになるのであった。
ここらできちんと商売関係の説明をしておきたかったので、第三者の商人視点で書いてみました。
商人にとっては、当時のギルドカードはさほど重要ではないので、省いています。

2014/6/14 誤字修正
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