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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 塔のあれこれ(その16)

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(15)焦り

 小さな子狐がじゃれあいながら地面の上を転がっていた。
 そのすぐ傍では母狐らしき大人の狐が子供たちを見守っている。
 母狐が時折視線を別の場所に向けているのは、敵の存在を確認しているためだろう。
 その母狐のそばで先ほどの子狐たちはのびのびと遊び続けている。
 子狐のうちの一匹が虫か何かを見つけたのか、ひょこっと抜け出してきた。
 子狐の兄弟の中でも好奇心が強いのか、そのあともちょこちょこといろんなところで遊びだした。
 それでも、親の警戒範囲から抜け出していないのは、子供とはいえさすがに野生といったところだろう。
 母狐もあまり遠くまで行きすぎないように、注意深く見ているというのもあるのだが。

 
 水鏡の水面に映っている光景を見ていたシルヴィアは、水面を乱さないようにそっとため息をついた。
 いま水面に映っている場面は、塔の階層のどこかで起こっていることだ。
 シルヴィアは、水鏡の神具が手に入ってからいろいろと何ができるのかを試した結果が、いま水面に映っている光景ということになる。
「おお。随分とクリアだな」
 水鏡に映っている光景を横から見ながら、フローリアが感心したような表情でそう言った。
「ええ。さすがに神具ということでしょうか」
 通常の水鏡での遠見だとぼやけて映ることも多くある。
 しかも、限定された条件の下でしか映すことができないなど、いろいろな条件がある。
 ところが、いま神具の水鏡に映っている場面は、シルヴィアが指定した場面になる。
 そのようなあいまいな条件になればなるほど、通常の水鏡ではぼんやりとした情景しか映らないのだが、神具にははっきりと狐の親子が映っていた。

 フローリアにしてみれば、通常の水鏡と比べてはるかに条件よく見えているように思えるのだが、シルヴィアの表情はあまりいいとは言えないものだった。
「なんだ。随分と不満そうだな?」
「・・・・・・そうですね。ピーチの使い方に比べれば、どうしても見劣りする感じがしますから」
 ピーチが水鏡を使った場合は、水鏡に触れた人物の過去の情景を映すことができる。
 それに比べれば、通常の水鏡の延長線上としての使い方でしかない使い方は、シルヴィアにとっては満足できるものではない。
 そんなシルヴィアに、フローリアは難しい顔をして腕を組んだ。
「そなたの言いたいことはわかるが・・・・・・あまり焦るのもよくはないと思うぞ?」
 そのフローリアの言葉に、シルヴィアが困ったような顔になった。
「別に焦っているつもりはないのですが・・・・・・そう見えますか?」
「うむ。私にはそう見えるな」
 確認するように見てきたシルヴィアに、フローリアは頷いた。

 シルヴィアにとってフローリアは、ある意味考助以上に顔を合わせてきた相手になる。
 神事に関して公的に女王を助ける立場で、二十年近くも付き合ってきたのだ。
 そのフローリアが焦っていると言ったということは、シルヴィア自身は自覚していないが、どこかでそう思っている可能性があるということだ。
「そうですか。・・・・・・私としては、そんなつもりは全くなかったのですが・・・・・・」
 自覚がない分、むしろフローリアの推測の方が正しいと思えるくらいの信頼感は持っているからこそ、シルヴィアはそう言いよどんだ。
「そうか? まあ、私もはっきりとそう見えているわけではないので、断言はできないがな」
 フローリアとしても何かはっきりと指摘できるような癖があってそういっているわけではない。
 あくまでも、今までの経験に基づいて話をしているだけなのだ。

 フローリアの言葉を聞いたシルヴィアは、映したままだった水鏡の映像をきっぱりと消し去った。
「む? 消してしまうのか?」
「ええ。このまま続けていてもだめでしょうから。もう一度気分を入れ替えて試してみることにします」
 シルヴィアは、このままで続けても、通常の使い方の延長にしかならないと判断した。
 フローリアの言う通り心のどこかで焦っているのであれば、なおさらそうなるだろう。
 それならば、もう一度仕切り直しをして、初めから考え直そうと思い直したわけである。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦ 

 気分転換がてらくつろぎスペースに入ったシルヴィアとフローリアは、そこで考助とばったりと会った。
「うん? 階層の様子見に行っていたのではないか?」
「ああ。取りあえず必要最低限のところは見てきたからね。あとは気が向けば、また行くつもり」
 考助の説明に、フローリアとシルヴィアが同時にうなずいた。
「そうか(ですか)」
「それで? なんか、シルヴィアが浮かない顔をしているけれど、何かあった?」
 スパッとそう聞いてきた考助に、思わずシルヴィアは右手をほほに当てた。
「・・・・・・そんな顔をしていますか?」
 まったくそんなつもりのなかったシルヴィアは、フローリアに引き続いて考助にまで見抜かれてしまい、驚きで両目を大きく見開いた。

 そのシルヴィアを横目で見ながら苦笑をしたフローリアが、簡単に考助に説明をした。
「何。たいしたことではない。神具の使い方がうまくいかなかっただけだ」
「・・・・・・ああ、なるほど」
 階層の見回りに出る前に、シルヴィアが神具を持ち出して何やらやっていたことを確認していた考助が、納得したように頷いた。
 そのあとに考助はシルヴィアの顔を覗き込んで、少しだけ顔をしかめた。
「な、なんですか?」
「・・・・・・前にも言ったと思うけれど、別に焦る必要はないんだからね?」
 フローリアに引き続いて考助にまで同じようなことを言われたシルヴィアは、ガクリと肩を落とした。
「・・・・・・そこまでわかりやすいですか」

 落ち込んだ表情になったシルヴィアを見て目をぱちくりとさせた考助は、チロリと視線をフローリアへと向けた。
 考助からの視線を受けたフローリアは、少しだけ苦笑しながら頷く。
 それを見て、なんとなく事情を察した考助は、小さく首を左右に振った。
「わかりやすいというよりも、前のやり取りでわかりやすくなったというほうが正しいかな?」
「え?」
 顔を上げて小さく首を傾げたシルヴィアに、フローリアが加勢した。
「私が指摘したことによってよりわかりやすくなったということだろうな。実際、いまはメンバーの誰が見てもわかるようになっていると思うぞ?」
 フローリアが無自覚の焦りを指摘したことによって、シルヴィアが自覚したことにより、それが表面化してわかりやすくなったということだ。
 考助以外に見抜けたかどうかは実際には微妙なところだが、あえてそう押し切ることによって、落ち込んでいるシルヴィアの気持ちを浮上させる目的もある。

 考助とフローリアの顔を交互に見たシルヴィアは、小さくため息をついた。
「・・・・・・私もまだまだですね」
 巫女として行う修行のひとつに、常に平静を保つというものがある。
 勿論それは、努力目標ではあるのだが、こうも簡単に乱れるのを自覚すれば、いろいろと思うところはある。
 そんなシルヴィアに、考助とフローリアが今度ははっきりと笑いながら言った。
「伊達に二十年以上、一緒に過ごしているわけではない、というわけだね」
「うむ。むしろ、だからこそ油断しているともいえる」
 誰が、とはフローリアもはっきりとは言わなかったが、それはシルヴィアにもしっかりと通じた。
 ふたりのその言葉は、別に修行不足を責めるものではないことは、シルヴィアにもわかっている。
 だからこそ、考助とフローリアに不満を持つでもなく、次の言葉が言えた。
「まったく・・・・・・敵いませんね」
「それはお互い様だからね」
「うむ。その通りだな」
 考助とフローリアの言葉に、今度こそシルヴィアはさっぱりと晴れた気分で、ふたりに笑顔を見せるのであった。
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